【洋上管制解説…No.1】HFの航空無線『洋上管制』と飛行情報区(FIR)とは?

昼間の喧騒が消えた深夜2時。広帯域受信機を5.628MHzにセット。モードはUSB。今夜はフェージングが強いようだ。ノイズ混じりに聞こえる『ピー、ボーッ・・・・・』という、どこか懐かしさを感じさせるセルコール音。それに続く「ゼロ、セブン・・・・・・」「トウキョウ、ラジャー・・・・・・』の声。

これは太平洋上を飛行中の大型旅客機や貨物機と、地上の航空局通信官が絶え間なく交信する航空無線の一種、『洋上管制』です。今回は洋上管制と一般的なVHFの航空無線との違いをご紹介。

洋上管制の特色

航空無線の洋上管制は、地上の管制エリア外の広大な海域における航空機の安全な飛行を確保するために行われる管制業務です。通常、内陸を飛ぶ航空機と地上の航空交通管制はVHF帯の118-137MHzが使用されますが、洋上ではVHF帯の電波が届かないため、遠距離通信に適したHF帯(短波)による通信が行われます。2006年まで東京航空交通管制部が担当していましたが、現在は福岡管制部が担当しています。

洋上管制にはいくつかの特徴と特殊な運用があり、以下にその詳細を説明します。

洋上管制の特徴

  1. 長距離通信:
    • 地上の管制区域と異なり、洋上では地上の通信インフラが限られているため、長距離通信手段が必要です。これには主に高周波(HF)通信や衛星通信が使用されます。
    • HF通信は地上局と航空機の間で長距離の無線通信を可能にしますが、天候や太陽活動の影響を受けやすいため、状況に応じた周波数選択が重要です。
    • 衛星通信(SATCOM)は、より安定した通信手段として使用されますが、設備のコストが高いことがネックです。
  2. 位置報告と飛行計画:
    • 洋上ではレーダー監視が困難なため、航空機は定期的に自分の位置を報告する必要があります。この報告は通常、特定の位置通過時や一定時間ごとに行われます。
    • パイロットは飛行計画に従って飛行し、予定の位置を通過するたびに管制官に報告します。この飛行計画には、経路、速度、高度、予想到達時間などの情報が含まれます。
  3. 飛行情報区(FIR):
    • 洋上の空域は国際的に定められた飛行情報区(FIR: Flight Information Region)に分かれており、それぞれのFIRは特定の国や管制機関が管理しています。
    • 各FIRの境界を越える際には、適切なタイミングで次のFIRの管制機関に通信を引き継ぎます。
  4. 自動依存監視契約(ADS-C)とコントローラー-パイロットデータリンク通信(CPDLC):
    • ADS-C(Automatic Dependent Surveillance-Contract): 航空機が自動的に位置情報や飛行計画の更新情報を管制機関に送信するシステムです。これにより、リアルタイムでの監視が可能となります。
    • CPDLC(Controller-Pilot Data Link Communications): テキストベースの通信手段で、音声通信に代わるものとして使用されます。これにより、誤解を避けつつ効率的な指示や報告が可能となります。
  1. 通信プロトコル:
    • 洋上管制では、特定の通信プロトコルに従って位置報告や指示が行われます。例えば、ポジションレポートには、機体の位置、次の報告ポイントまでの予想到達時間、現在の速度と高度などが含まれます。
  2. 緊急時対応:
    • 緊急時には、パイロットは緊急通信手順に従い、現在の状況や必要な支援を管制官に伝えます。洋上では医療緊急事態、機材の不具合、燃料不足などの問題が発生することがあり、迅速な対応が求められます。
  3. 空域の管理:
    • 洋上空域は混雑度が低いことが多いですが、主要な航路や天候状況によっては交通が集中することがあります。このため、管制官は適切な間隔を保ちつつ、効率的な飛行経路を提供する必要があります。
  4. 運航支援サービス:
    • 洋上管制では、飛行中の航空機に対して気象情報、航路情報、風情報などの運航支援サービスも提供されます。これにより、パイロットはより安全で効率的な飛行を行うことができます。

洋上管制では何が交信されるのか?

航空機側から送信される情報は自機の位置、乱気流などの気象情報、気象変化等によるコース変更要請などです。一方、地上の管制当局側からはコースや高度の指示、他機との間隔保持の指示、飛行中の航空機から提供された気象情報の他機への伝達などです。さらに急患発生など機内で発生した緊急事態における非常要請も行われます。突然起きるトラブルに関する通信が行われるのはVHFの管制や航空会社ごとのカンパニーラジオ同様であり、ときに注意深く聴取したいもの。

洋上管制で『セルコール(SELCAL)』が使用される理由とは

冒頭でも記載した通り、洋上管制では独特の呼び出しブザーが使われています。これは航空機を個別に呼び出すために使用する『セルコール』と呼ばれるもので、セルコールの音色は洋上管制のアイコン的”BGM”と言えます。

HFではフェージングによる雑音が常時発生し、常に聴取しているとパイロットの疲労が大きいため、必要な時のみ”呼び出しベル”を鳴らして個別の機体を呼び出すようにしたものがセルコールの仕組みです。

通常、航空機には個別に4桁のアルファベット(例・ABCD)によるナンバーが発行されており、このナンバーが含まれたトーン信号が個別呼び出しを可能としています。

洋上管制を担う航空局職員は?

通常のVHF航空管制は航空管制官が担いますが、洋上管制は航空管制通信官が担います。具体的には航空管制官からの指示を航空機へ伝えるのが航空管制通信官です。この洋上管制も通信官次第では突然外国便のパイロットから『お疲れ様』とねぎらいの言葉をかけられた際には、通信官もお疲れ様ですと返す、人間味溢れる交信を聞くことができます。

洋上管制ではコンディションで周波数が変わる

当然、アマチュア無線のHF帯がそうであるように、季節や時間帯によってコンディションは刻々と変化。日本が担任するのは大きく分けると、北太平洋エリア(NP)と中西部太平洋エリア(CWP)ですが、洋上管制に使用されるチャンネルは複数あり『東京レディオ』の北太平洋エリア(NP)では2,932MHz, 5,628MHz, 6,655MHz, 8,951MHz, 10,048MHz, 11,330MHz, 13,273MHz, 17,904MHzといった周波数が、コンディションや時間帯に応じて使用されます。

このなかで、比較的通信状況が連日良好なのは5,628MHzです。

洋上管制の飛行情報区(FIR)とは

空の区分け

洋上管制は、地上の管制とは異なる挑戦と技術を伴う重要な業務です。安全で効率的な航空運航を維持するために、通信技術、管制手順、国際協力が不可欠です。海の上の空は国ごとに管理する範囲が決まっています。この範囲を「飛行情報区(FIR)」と言います。飛行機がこの範囲を超えるときは、新しい範囲の管制官と連絡を取ります。

洋上管制のまとめ

このように洋上管制はHFを使っているのが特色です。したがって、当サイトで推奨しているIC-R6では残念ながら受信ができません。その詳しい理由と、安価にHF無線を受信できる代受信機をご紹介しています。

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