船舶無線は『国際VHF』と『漁業無線』が主流の受信対象

日本の漁船や旅客船、プレジャーボートなど各種船舶および海岸局が行う海上無線通信には国際VHF、国内VHF(マリンVHF)、漁業無線など複数の系統がある。これらをまとめて本稿では「船舶無線」と呼称する。

国際VHF……VHFの飛びのよさとFMで手軽に受信できる

手っ取り早く「船の無線」を聞きたいのなら、船舶無線で最も手軽に受信できる国際VHFの16chをワッチしよう。


大海原を航行する大型タンカー、貨物船、豪華客船、海上保安庁や海上自衛隊、各国海軍の各種船舶。これらは150MHzから160MHzを使う世界共通の周波数で合計57チャンネルを使う「国際VHF」にて、互いに航行安全上の相互交信をすることが定まっており、航行中は常に呼び出し兼非常用チャンネルでもある16ch(156.800MHz)を聴取するよう定まっている。

だから、16chを聞いていれば、即座に大海原を行く船の無線、航行案内を行う陸上局からの送信をワッチできるのが魅力だ。チャンネルによっては海上保安庁の船舶局、海岸局、航空機局との通信に使用するものもある。

総務省による国際VHFの説明(pdfファイル)を参考にしてほしい。

アイコム 国際VHFトランシーバー IC-M73J

ICOM IC-M73J 国際VHFトランシーバー

前述したとおり、これは世界共通の通信システムで大型船舶には設置が義務付けられている。その名のとおりVHF帯を使う無線で150MHzから160MHzに割り当てられる。

国際VHF用の無線機各種。画像引用元 https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/life/technique/navigation/vhf.html

すべての周波数にはチャンネル番号が指定されており、その中でも156.800MHzは16チャンネルと呼ばれ、必ず聴取が義務付けられているのと同時に、呼び出しと応答専用ともなっており、緊急用にも使用されるのだ。ここで呼び出して、他のチャンネルに移って交信をするのはアマチュア無線やデジ簡と同様。

2018年に発生した日本の自衛隊機に対する韓国駆逐艦レーダー照射事件でも、日本のP1哨戒機側は国際VHFの16ch、それにVHFとUHFの二つの国際緊急周波数を使って、韓国艦艇側にレーダーによるロックオンの意図を繰り返し問い合わせたが、国際的に取り決められた安全航行のための周波数や緊急事態用の周波数による問い合わせを一方的に無視した韓国海軍は国際ルールから反れていると非難されても仕方ないだろう。

航空自衛隊のGCIと深く関わる国際緊急周波数とは?

というわけで、手っ取り早く「船の無線」を聞きたいのであれば、国際VHFの16chをワッチしてみよう。

毎朝、メインチャンネルで航空無線とはまた違うハッキリした英語で「プリーズ、チャンネル、ワン、フォー」などと、海岸局と各船舶との交信を聴取できるはずだ。

余談だが、これらの通信に携わる業務局の職員が国際VHFを使用するためには第一級から第三級総合無線通信士、第一級から第四級海上無線通信士、第一級から第三級海上特殊無線技士のいずれかの無線従事者資格を取得していなければならない。

また、この国際VHFのシステムの中には、我が国の沿岸海域のみを航行する国際VHFや、漁業無線なども設置していないレジャー船、プレジャーボート用として、日本独自の「マリンVHF」という制度がある。1988年(昭和63年)に発生した自衛隊潜水艦と釣り船との衝突事故「なだしお事件」が導入契機となっており、緊急時の連絡体制をいかに確保するかということであるが、マリンVHFには国際VHFと違い、聴取義務はないのが特徴だ。ただし、マリンVHFも国際VHFを使用する大型船舶や海上保安庁との直接通信が可能だ。

漁業無線

一方、漁船は1.7MHz帯、2MHz帯、4MHz帯、8MHz帯、27MHz帯、39MHz帯といったHF各帯域で交信を行なっている。8MHzは韓国の海岸局も使用している。電波モードはAMのDSBおよびSSBを使うため、SSB対応の受信機(短波帯対応のオールバンド機など)や、HFアマチュア無線機が必要なので、やや敷居が高いかもしれない。受信機を選ぶ点については、同じくHFかつSSBモードを使う航空無線の『洋上管制』に通じる部分がある。

残念ながら当サイトでおすすめしているIC-R6や同価格帯のハンディ型のライバル機では最小ステップ幅(周波数と周波数の間隔)が5kHzごとなので、漁業無線のステップ幅に完全対応できず、例えば呼び出し周波数の27.524MHzにぴったり合わない。

したがって、価格はIC-R6の2倍はするが、ハンディ機で漁業無線を”できるだけ安価に”受信したい場合は、アルインコのDJ-X11が適しているかもしれない(ただし、ポップノイズが酷い機種であることに留意)。筆者はIC-R30で傍受している。

漁業無線の使う27MHz帯では27.524MHzが呼び出し周波数となっている。ただし、早朝の定時放送を除けば、交信頻度自体は少ない。

また、日本の民間プロ無線からは廃れてしまったモールス(電信/CW)が漁業無線では今なお生き残ってもいる。

基本的には各地の漁協ごとに割り当てられており、陸上局である漁協無線局と、漁協所属の各漁船との交信が主なもの。

交信内容は主に海水温、気象情報など。当然、漁獲高や良好な漁場などの情報をやり取りすることもあるため、平文のほか暗号を使った交信がなされたり、FURUNO社の製品といった後付けの秘話装置を使った秘話通信を使うこともあり、非常に興味深い交信と言えそうだ。

ただし、常に交信されてはおらず、陸上局からの定時放送のほかは、閑散としたものだ。

ところが、北朝鮮からミサイルが発射された場合などは自動音声でセキュリティが発報され、安否確認も行われることもある。

北朝鮮がミサイル発射 太平洋で操業中の県内漁船に被害なし

4日朝、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを受け、日南市にある油津漁業無線局では、東北沖など太平洋で操業中の県内の漁船に対して情報を伝えるとともに、安否の確認を行いました。

引用元 https://www3.nhk.or.jp/lnews/miyazaki/20221004/5060013826.html

27MHzはCB無線(市民ラジオ)の帯域としても割り当てられていて、ご存知の通り、夏ごろにダクト現象やEスポが出れば、遠距離でも受信可能。

無線局の免許は漁協か漁業無線組合に交付されるのが通例。各漁協に割り当てられている周波数一覧は総務省で公開されているのでチェック。なお、J3E、H3EはSSB、A1Aはモールス、A3EならAMだ。

総務省公式サイト https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/material/dwn/06.pdf

上述のEスポ発生時はモービルホイップでもいけるが、やはりHF用アンテナを立てられる環境が最高だ。ワイヤーアンテナも可。大掛かりなアンテナがだめならば、いっその事、早起きして海へ出かけ海岸で聞いてみるのもいい。

知床遊覧船事故に見るアマチュア無線の不正な業務利用について

船舶無線のまとめ

航空無線に比べて、複雑な日本の海上通信の現状だが、航空無線や一般の業務無線受信に飽きたら、これら船舶無線にチャレンジしてみよう。

「ボクんちの近所に海なんかないよ!」なんて嘆くなかれ。海から離れた内陸部に住んでいるから船の無線なんて聞けそうにない……なんて諦めの声も聞こえてきそうだが、大丈夫。国際VHFに関して言えば、海面反射により意外と遠方まで聞こえている。海岸から山を挟んで100キロは離れた内陸部でもコンディションが良ければ、バッチリ聞こえちゃうこともあるので、まずはダメもとで国際VHFの呼び出し周波数である156.800MHzに合わせてみよう。

一方、HF帯の電波も電離層に反射するため、夏場のEスポ発生時には受信のチャンスが多くなる。ただし、HFの場合はIC-R6では対応できないので、ステップ幅や電波モードに対応した受信機が必要で、アンテナもHF専用を用意した方が良い。

なお、フライトレーダー24同様に船舶のリアルタイムな動向がわかるサイト・マリントラフィックドットコムもあるので、日本のほか世界中で漁船や貨物船、旅客船、漁業監視船など、おおまかな船舶のリアルタイムな位置を知ることができる

なお、漁協、各種船会社、さらには国立高専に割り当てられた周波数は総務省で公開されているので、目を通しておこう。

総務省公式サイト https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/material/dwn/06.pdf