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自衛隊さん、無線などからシギント (Signals Intelligence:SIGINT)してしまう

世界各国では政府機関や軍事組織の中に情報機関(Intelligence services)が設置され、自国の国益を守るために防諜や諜報といった映画さながらのスパイ活動を繰り広げています。

インテリジェンス (Intelligence)と一言で言っても、各政府機関ではとらえ方や手法は様々。

この項目では各国の諜報機関が行う一般的な情報収集の種別と軍事組織における防諜とを併せて取り上げています。

日本政府が設置している情報機関

日本には内閣情報調査室、公安調査庁、警視庁公安部ならびに各道府県警察本部の警備部公安課、外事課、そして、防衛省自衛隊情報本部といった情報機関があります。

このうち、内閣情報調査室(通称・内調)は官邸直属の機関として内閣情報官の指揮の元、内閣の重要政策に関する情報を収集・分析して官邸に報告し、官邸の政策決定に関する事務並びに特定秘密の保護に関する事務を担っています。

職員は警察や自衛隊など他省庁からの出向者で構成さており、外国のスパイから日本の公務員と機密情報を保護する任務を帯びた『カウンター・インテリジェンス・センター』も設けられています。

また、内調では外部のシンクタンク(財団法人や社団法人)や報道機関(NHK、共同通信社)、オシント機関(ラヂオプレス)などに活動費を支給して調査活動の一部を委託する例もあります。

さらに外務省の外交官も海外で多くの情報収集活動を行っています。外交官のほか、都道府県警察の警察官が外務省に派遣され、日本の在外公館に勤務して現地の情報収集を行うケースも見られます。

これら国家およびその政府のインテリジェンス機能を果たす機関の総称をインテリジェンス・コミュニティ (Intelligence Community)と呼びます。

インテリジェンスとインフォメーション

一般的に公的な情報機関が収集および選別、分析などをしているインテリジェンスとインフォメーションとは具体的に以下のようなものです。

インテリジェンス

収集されたインフォメーションを加工、統合、分析、評価及び解釈して生産されるプロダクト。分析されたインテリジェンスは国家が安全保障政策を企画立案・執行するために必要なデータとなります。広義におけるインテリジェンスとは、生産されるプロセス、工作活動、防諜活動、そして情報機関そのものまで含めて呼称する場合もあります。

インフォメーション

インテリジェンスのもととなる、ソースそのものです。報告、画像、録音された会話等のソースで、加工、統合、分析、評価及び解釈のプロセスを経ていないものを指します。

諜報や防諜活動を支える各種手法

上記のような情報を入手するため、各国の情報機関は以下のような活動を行っています。

ヒュミント (Human Intelligence : HUMINT)

人的な情報源(ソース)から情報を入手する手法です。自組織内の職員や民間人には聴取、そして敵対組織の人間や捕虜には尋問を行います。ヒュミントのすべてが合法のもとで行われるとは限らず、金銭、異性による懐柔、またはそれを理由に強請ることによって機密を要求する所謂『ハニートラップ』もヒュミントの一例とされています。

実際に日本で確認された事例では上海総領事館員が中国当局者から謀られた上で脅迫を受けた事件、海上自衛隊対馬防備隊内部情報持ち出し事件があります。

2013年には自衛隊情報本部で外国文献の翻訳を担当する60歳代の再任用女性事務官が中国人留学生のスーパー店員に引っかかり、部内資料を渡そうとしていた疑惑があると週刊誌2誌が報じています。二人の出会いは雨降りのスーパーの店先。留学生が自衛隊女性事務官に雨傘を差し出すなどロマンチックな出会い。

女性事務官は相手の正体を知ってか知らでか、その後2回飲食。気づいたときには手篭め状態で自身のリュックサックに防衛省部内限りの資料を入れて部外へ持ち出そうと画策。

結局は未遂に終わり、女性事務官は注意処分を受け依願退職。週刊文春の報道では情報本部の調査担当官が女性事務官のパソコンを調べたところ「彼に中国やアメリカの最高の分析を届けたい」という文書が残されており、中国人留学生と親しく交流していた事実が発覚。

シギント (Signals Intelligence:SIGINT)

通信などの信号を傍受解読および分析する諜報活動の総称です。シギントにはレーダー波の傍受解析を行うエリント(ELINT:Electronic intelligence)のほか、海中に設置されたセンサーおよびソナー等を用いて相手国の潜水艦などが発する音響を収集するアシント(ACINT:Acoustic intelligence)などがあります。

そして主に無線や電話などによる会話・信号(Signals)の傍受による諜報活動を「コミント」(COMINT:Communication intelligence)と呼びます。

主に短波帯の無線通信が使われています。

HF無線の世界はアングラだった・・・やべえ通信まとめ(傍受の際は当該工作機関から十分に適切な社会的距離を保つ必要あり)

シグナルとはすなわち有線電話・無線通信の信号であり、それらを傍受して解読することが任務。暗号を解読せずとも、防衛省が運用している全国六箇所の通信所(シギント施設)による三角測量方式により発信源を特定し、過去のデータと付き合わせれば、相手側の意図をほぼ特定できます。

ただし、発信源や内容を偽装されることもあります。鳥取県にある自衛隊美保通信所は巨大な円形状のアンテナ、いわゆる象の檻を設置しており、工作船事件当時、北朝鮮当局と工作船との短波無線による交信を傍受しています。北朝鮮当局が国外の工作員へ指令を出す場合、新人工作員へはA3放送による音声読み上げによる指令、ベテランに対してはモールス(CW)が多いという。

【陰謀論とラヂオ】日本人拉致との関連性を指摘されている北朝鮮によるA3放送とは?

なお、警察庁でも情報通信局の通信所が、主にロシア・中国・北朝鮮関連の無線通信を傍受、解読、発信源を特定するなどのシギント活動に普段従事しています。なお、日本に頻繁にやってくるロシアの偵察機も、日本列島付近で自衛隊機を挑発しながら飛行することで、自衛隊や米軍等の無線交信を収集するシギント活動を行っています。

イミント (Imagery Intelligence:IMINT)

軍事衛星や偵察機、ドローンなどで撮影された写真画像(イメージ)のソースから情報を得る活動です。またそれらを分析するインテリジェンスも含まれます。「イマジント(IMAGINT)」と呼ぶこともある。自衛隊は偵察機や無人機を使ってイミントを行います。

また、内閣衛星情報センターでは情報収集衛星を使用してイミントを行っています。アメリカでは政府機関のほか、北朝鮮によるミサイル打ち上げ準備や核実験を民間商用衛星で常時監視しているシンクタンク・38ノース(38 North)が行っていることで有名です。

弾道ミサイル迎撃のための日本の防備とは

オシント (Open Source Intelligence:OSINT)

一般的に公開されているテレビのニュース、雑誌、インターネットといったメディア等のオープンソースから情報を入手する手法です。公開資料からのソース入手であれば、あくまで合法な手法です。内閣情報調査室から調査委託を受け、中国や北朝鮮国内のラジオ放送やテレビ放送を聴取し、翻訳および分析のうえで政府に情報を提供している一般財団法人ラヂオプレスのモニタリング業務がこれにあたります。ラヂオプレスの新卒向け採用情報によれば『ラヂオプレスは、海外ニュースを扱う日本で唯一のオシント機関(モニタリング・サービス)として、70年以上にわたり諸外国の公開情報をモニターしています』とのことです。

ラヂオプレスはもともと、外務省ラヂオ室という一部門であり、その後に同省所管の外郭団体を経て、現在は内閣府の所管となっています。新宿区内にある事務所ビルの屋上に展張させたワイヤーアンテナやログペリアンテナ、そして日本無線のNRD-535受信機などでモニターと呼ばれる職員が北朝鮮の国営放送などを日々傍受しているようです。

無論、北朝鮮にも国営の海外向けラジオ放送局・平壌放送の中に同様のオシント部門があり、アメリカや日本のラジオ、テレビ放送をも視聴して分析しています。

セキュリティ・クリアランス(Security Clearance)

機密情報を扱う公的機関職員に対して、その適格性を検証する作業です。すなわち、その者が組織にとって信用するに値するか見極めるための身元調査です。

日本では平成21年(2009)から各行政機関に秘密取扱者適格性確認制度が導入されており、各官庁職員である本人をはじめ、その親族も調査対象となっています。

親戚筋に警察や自衛隊の『人に言えない部署』に勤める者がいれば、ある日突然、公安警察に監視されたり、国に自らの調査票提出を求められることもあります。

調査の結果、親族に日本政府を暴力で破壊することを標榜する団体や破防法適用団体等の構成員等がいるなどした場合、不適格と判定され、さらなる重要任務に就くことは許されなません。

日本の主な情報収集活動はシギントとエリントの二つ

このように諸外国ではさまざまな手法を駆使して情報収集活動を支えています。しかし、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が発表した2003年度のコラム「岡っ引国家にはなるな」によると、当時の日本のインテリジェンス・コミュニティでは人的情報集活動であるヒュミントのみは存在しなかったとのこと。

櫻井氏はエリントやシギント、イミント、オシントなど、常に受け身の情報活動は日本が得意とするところですが、米軍に比べればレベルが低く、また能動的な手法たるヒュミントによる情報収集なくしては諜報活動は成り立たないと言及。

前述の通り、ヒュミントのすべてが合法のもとで行われるとは限りません。

スパイ防止のための法的根拠が無い現状では、各諜報機関の職員が人間を媒介として情報の収集を行うヒュミントを行った場合、手段によっては詐欺、恐喝、私文書偽造、迷惑防止条例違反などの違法行為に問われかねません。国民の私権の制限など人権侵害にもなりかねません。

自衛隊の諜報・防諜機関

敵対する諜報機関や諜報活動、破壊活動またはテロに従事する個人・グループによりもたらされる安全に対する脅威を発見し、それに対抗するインテリジェンス活動を防諜(Counter Intelligence)と呼びます。我が国の自衛隊にも、オペレーションに関する情報を収集することを目的とした情報部隊と、部内情報の漏洩を防止するための防諜部隊の二つがあります。

防衛省情報本部(Defense Intelligence Headquarters)

非戦闘員の事務官と戦闘職の自衛官の混成組織で、2000人以上もの人員を抱える防衛省情報本部は日本最大の情報機関です。画像・地理部、電波部など6つの部門がイミント、シギントならびにほかの省庁からもたらされる内外のインフォメーションを収集および分析し、情報に付加価値を与えていく作業を日々実施しています。また通称『ゾウの檻』で知られる巨大な円形状のアンテナや、巨大なレドーム型のアンテナを配備した全国六箇所の自衛隊通信所も情報本部電波部の直轄で、北朝鮮や中国、ロシアの電波情報を傍受解析しています。

陸上自衛隊「情報科」職種と中央/方面情報隊

陸上自衛隊には「情報科」という新職種が創設されていますが、市ヶ谷駐屯地には約600名の隊員で構成される「中央情報隊」が編成。主に、陸自の作戦遂行に必要な情報の収集と分析を日々行っています。

過去、陸上自衛隊の情報セクションは「混成職種部隊」として編成されており、さまざまな職種の自衛官や事務官、技官が混在していました。

3自衛隊の共同の部隊「自衛隊情報保全隊」

また、2003年に3自衛隊ごとに編成された「情報保全隊」は、2009年に3自衛隊の共同の部隊「自衛隊情報保全隊」として再編成され、こちらは主に防諜が任務です。すなわち、自衛隊の部内情報が外部流出することを防ぐための部隊です。

陸海空混成の部隊で、人員約1,000名規模。諸外国の防諜機関と同様、一般的なインテリジェンスのセクション、それに自衛官とその家族に裏切者、内通者がいないか、その身上調査(差別的なので適格性調査と呼びます)を行い、思想信条などを調査するセクションで構成されています。

とくに、情報保全隊は隊員が結婚する場合、結婚相手本人やその家族の身上調査を部隊長要請で実施しています。

https://jieitaisaiyou.com/%e8%87%aa%e8%a1%9b%e5%ae%98%e3%81%ae%e7%b5%90%e5%a9%9a%e3%81%ab%e5%88%b6%e9%99%90%e3%81%af%e3%81%82%e3%82%8b%ef%bc%9f/

警備警察(いわゆる公安警察)は自衛隊保全隊へ情報の提供をするなど協力関係にあります。

自衛隊の諜報・防諜機関のまとめ

自衛隊の諜報や防諜活動が表に出ることはないため、普段具体的にどのような活動をしているのか憶測の域を出ません。

参考文献様

https://thinktank.php.co.jp/wp-content/uploads/2016/07/seisaku01_teigen33_00.pdf
https://dailynk.jp/archives/60171
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/53618?page=2

【朗報】七人のおたく(1992年)で描かれる無線傍受おたく女子中学生。脚本家曰く「アマチュア無線は冒険アイテム」

ミリタリーオタクの主人公・星(演・南原清隆)にスカウトされた格闘技おたくの近藤(演・内村光良)、Macintoshを愛するIT会社の社長・田川(演・江口洋介)、その恋人のりさ(演・山口智子)、アイドルおたくの国城(演・武田真治)、そして無線傍受おたくの女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子)ら。

それぞれの分野に秀でた彼らおたく(スペシャリスト)たちに課せられる任務とは。

さらにはおたくを封印しつつも正義の心を忘れない特撮ガガガ(!?)な丹波(益岡徹)など、いずれ劣らぬ濃いやつらが、それぞれの知識を武器に所狭しと暴れまわる!

92年公開のアクションコメディ映画・七人のおたく

画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

当サイトが推すのは、やはり無線傍受オタクの水上令子の活躍。

そんな令子の”消防無線傍受”にドン引きする、もう一人のヒロイン「りさ」を演じる山口智子。

山口智子といえば、アニメ映画「崖の上のポニョ」で演じたのも「リサ」で、同作では颯爽とアマチュア無線の運用を行なっていたのも、今となっては面白い偶然です。

『崖の上のポニョ』でリサのアマチュア無線運用と崖の上の自宅が災害時に果たす役割とは

※以降、物語のネタバレにご注意ください

「七人のおたく」…物語の導入部

常に迷彩服の主人公、星亨は世間一般で言うミリタリーオタク。アパートの自室には軍事専門書、エアガン、ガス缶、軍装品が転がる中、本棚にはミリタリー本に混じって「友だちの作り方」という本が。

そう、人からは嫌悪されそうな趣味を持つ星は、決して悪い人間ではないにもかかわらず、同好の士以外は友達ゼロ。

一方、不良漁師集団のボス・高松は他の漁場を荒らす密漁行為で財を成した静岡某島の網元。

どうやら島に警察機能は働いておらず、海上保安庁がかろうじて島の周辺で密漁船取締りを行っていますが、毎度空振り。

そんな高松は外国人女性・ティナとの間に子・喜一をもうけますが、ティナは高松のDVに嫌気が差して島を去り、子供と共に東京のアパートで静かに暮らす日々。

しかし、それも束の間。ある日、ティナの元へ乗り込んできた高松はティナに札束を叩きつけ、喜一を奪い去ります。

たまたまティナと同じアパートに住んでいた星に待ち望んでいた瞬間がやってきます。

『俺ぐらいになるとただのサバイバルゲームでは満足できないんだ』と、正義心ではなく、自身の満足感のために子供を奪還すべく、まずは各方面の分野に精通したそれぞれのオタク系男女たちのスカウトを開始。

かくして、それぞれのオタクが自身の知識と技術を使って”任務”を達成すべく、静岡の旅館に集結します。

「無線傍受おたく」の水上令子の一連の見どころ

本作では主人公の星から、おたくたちが各種の方法と様々な場所でスカウトされていく過程が見もの。

「無線傍受おたく」の女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子) 画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

どのオタクたちもキャラが立っており、星によるそれぞれのスカウト方法も面白いのですが、そのスカウト方法はぜひ本編を視聴していただくとして、当サイトとして注目したいのはやはり「無線傍受おたく」の女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子)です。

彼女のスカウトから訓練、実戦までの活躍をご紹介。

「無線傍受オタク」をスカウトせよ!

水上令子は都内の学校に通う中学生。男の子や流行には興味なし。

昼休みは学校の屋上で同級生がダンスなどに興じる中、一人静かにアマチュア無線機で今日も空を飛び交う様々な電波を傍受しつつ、テレホンカード削りに没頭中。

彼女の興味の対象は消防無線やコードレスホンなどまで幅広いようです。

彼女はそれら電波の傍受中、ただ住所を読み上げる男の不気味な声と時報だけが繰り返される奇怪な微弱電波をキャッチ。

『渋谷区松涛3の2の5……渋谷区松涛3の2の5……』

コードレスフォン?自衛隊のGCI?どうやら違うようです。ポシェットにハンディ機を入れ、放課後一人で松涛へ向かう彼女。

松涛と言えば政界の要人も邸宅を構える閑静な住宅街。

当該の住所を尋ねた制服姿の少女は草木に覆われ、朽ちた洋館のような廃墟の前に立ちます。

恐る恐る、ほの暗い建物内に足を踏み入れ階段を上る令子。微弱な電波は次第に大きくなり、ついには電波ではなく肉声となります。

すると突然、迷彩服の男が通路の奥から飛び出してきます。

悲鳴を上げて逃げる令子ですが、迷彩男に微弱な電波の探査能力を称賛され、戸惑いながらも悪くない気分です。

脚本は一色伸幸さん

本サイトで以前取り上げた1985年放映のテレビアニメ「ミームいろいろ夢の旅」の中で、アマチュア無線を扱った一編がありましたが、驚くことに当該の回の脚本と「七人のおたく」の原作・脚本は同じ一色伸幸氏。

「ミーム」で描かれたフォックスハントの一場面。7年後、「七人のおたく」でも”無線オタク少女”に同じ活躍をさせるのは脚本家の一色伸幸氏。「ミームいろいろ夢の旅」より(C)日本アニメーション

1984年放映のテレビアニメで登場したアマチュア無線の驚きの描写とは?

 

その一色伸幸氏、やはりアマチュア無線には思い入れがおありのようで、アマチュア無線を冒険アイテムと定義。

ともかく、『キミ(の能力)が欲しい』という星の怪しい言葉に令子はドン引き。

令子は顔をしかめつつ、なりゆきで星のスカウトを受け入れ、メンバーに。

りさ(山口智子)『(消防無線なんか聞いて)楽しい?』→令子「○○○」

令子を含め、星は様々な能力に長けた「おたく」たちを集め、いざ、熱海へ。

彼らはある旅館をベースキャンプに作戦実行前の打ち合わせを行うのですが、そのわずかばかりの時間ですら、当然それぞれの趣味に没頭。

格闘技オタクの近藤は肉体鍛錬に汗を流し、隣の部屋ではアイドルオタクの国城(武田真治)がアイドルもの同人誌の編集作業に没頭している最中、静岡ローカルのTVCMに”推し”のアイドルグループが出ていることを見逃さず、間髪を入れずに録画ボタン。

『まさかCoCoが静岡でコンビニ、パブ(宣伝)ってるとは思わなかったな……おっまだ瀬能あづさがいるもんな。まったく……ローカルは宝箱だ』

本作では彼、国城こそ最も”ステレオタイプ的なおたく”を表現。

武田真治の怪演は鳥肌が立つほどですが、それを唖然として見ていたのが、PCオタクの彼氏・田川(江口洋介)にバカンス気分でついてきた同じ会社のOLのりさ。

りさは国城にドルオタ同人誌を980円で売りつけられた直後、星のエアガンの射撃練習に巻き込まれ、目の前をBB弾がかすめます。

ウンザリとした顔で「私だけはオタクじゃない。この場で私だけが唯一、ふ・つ・う!」と言いたげな彼女。

公式設定で、りさは「レジャーおたく」と銘打っていますが、映画の広告でのテロップでは「ふ・つ・う」になっております。

確かに、このメンバーの中では彼女は至ってノーマルで、唯一の常識人かも。

田川に早く東京に帰ろうよと縋るりさですが、彼も彼でIT会社社長。レッキとした”パソコンオタク”。星から指示され、Macintoshによる偽造音源製作に没頭中。

そして、令子は……。もちろん、彼女も自分の趣味である無線の傍受に没頭中。

なお、田川の偽音源のソース元は令子が受信したコードレスフォンの音声。

ともかく、礼子は今、一人テーブルに向かい、分厚い周波数帳を開いてメモを取り、静岡県内のアクションバンド(※この映画に協力したのはラジオライフではなく、ライバル誌のアクションバンド電波のようで、スタッフロールにクレジットが入っていました)傍受に夢中。

画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

令子のハンディ型アマチュア無線機の広帯域受信機能により、浜松市消防局の消防無線が入感中。

救急隊が搬送する患者の容態が刻々と通話コードで浜松市消防局へと伝えられ、緊迫した状況を伺わせます。

『これ・・・?』

「消防無線…955は怪我した人」

『(救急浜松1)955、944に移行』

『きゅーよんよんって?』

りさは浜松市消防局の無線通話コード「944」の数字の意味を令子に尋ねると、令子はノートに「倒れた人」と「天使の輪っか」を描き、りさは絶句。

山口智子が演じるのはオタクとは正反対の旅行好きでジュリアナ東京が似合いそうな快活な女性。消防無線の傍受なんてまるきり理解できないはず。

なお、ジュリアナ東京で踊りまくってたりさ(山口智子)もあれから15年、「崖の上のポニョ」では介護施設に勤務するなどしっかりと落ち着き、一人息子の宗助の前で、アマチュア無線機(しかもHF機)を華麗に運用していたのはハムの皆さんが知る通りです(笑)

ともかく、りさは呆れつつ、令子に「楽しい……?」と尋ねると、少女は「とても」と、さも当たり前のことのように答えるシーンには一色伸幸さあああああん。・゜・(ノД`)・゜・。てなりました。

そして作戦決行は深夜。高松邸へ斥候の令子がアマチュア無線のハンディ機で旅館の星に状況を報告。『高松、151、151』

知っている方にはご説明不要と思いますが、151は「出動」を意味する東京消防庁の通話コード。

しかし、ミリタリーおたくの星でも、さすがに消防無線には疎かった様子(笑)。当然、アマチュア無線での暗号使用はNG。

それに加えてのメリット交換なしの目的外通信。かなりグレーな運用です。

ところで、令子はともかく、ベースで思いっきり軍用無線機のような無線機を扱う星。従事者免許はあるの?

令子の報告で星らは敵である密漁団のボス・高松の邸宅へ浸透作戦を展開します。

星はエアガンで電灯を撃ち抜き(ということは3ジュールくらいある改造品でしょうか?当時からマルイの電動ガンは1J超えないレベルでした)、近藤が門戸を見事に蹴破り突入。『まさかこのために俺を呼んだのか……?』と近藤。

しかも、門戸を破らなくても入れた衝撃の事実が発覚。星に対する近藤の不信感が露になります。

そして星は目的である幼児・喜一を”奪還”。パソコンオタクの田川は星に「これは誘拐なのか?」と真意を問います。

おたく、失意の撤収。そして輝く

しかし、時はまさに世紀末。高松やその手下ら不良漁師集団の追っ手が淀んだ夜の漁港に迫ります。絶体絶命のその瞬間、港に海上保安庁の巡視艇が滑り込み、拡声器で漁師らに呼びかけます。

『また出たんだ。密漁船が……』しかし、不良漁師たちはいつものように海保をあしらってしまいます。『本土のやつらでしょう?ご苦労様です』星は『本土まで乗せてくださーい!』と、事情を知らない海保に助けを求めますが拒否され、もはや退路無し。

じわじわとヒャハーッ集団に追い詰められ、高松に喜一を奪い返され、アジトに連行されそうに……。

しかし、りさの機転で形勢逆転。星からエアガンを奪ったりさは海上保安庁の巡視艇にBB弾を叩き込み、船の照明設備を損壊させて海保を介入させ、からくも窮地から脱出(罰金とエアガン没収で済んだ)。

りさの機転と度胸、『ふ・つ・う』どころか、ただの女性会社員とは思えません。

しかし、国城の車の中でメンバーが安堵しつつ作戦の継続可否を話し合うのも束の間、再び漁師らから今度は本気の襲撃を受けます。

角材で国城のクルマを襲撃しようとする漁師の一人は運転席に飾られたアイドルのフィギアを見つけると、なぜか戸惑って襲撃せず、結果、国城はクルマを急発進させて逃れることに成功。

しかし、メンバーは漁師たちの恫喝と暴力で、ついに戦意喪失。作戦継続が不可能に。

星と近藤のみは感傷に浸りながらも反撃、奪還の機会をうかがうため、現地に残留するも、他のメンバーは東京へいったん撤収します。

すっかり自信を失ったクセの強いオタクたちは実生活でもトラブルが待っていました。

田川は利益より趣味を優先したがために、会社は経営難。

ドルオタの国城は同人仲間に全国183人の読者の定期購読料を持ち逃げされた挙句、高橋由美子の写真集ロケにネパールまで追っかけるために使い込まれて回収不能となり、次の同人誌が出せなくなってしまったとしてアイドルの京野ことみのイベント会場で仲間と揉めています。この部分が後半の伏線となります。

なお、一色氏によると京野ことみさんについて、以下のような回想を述べています。

もしかして、無線オタク少女は京野ことみになる可能性もあったのかもしれません。時の輝き。

ともかくとして、令子はサバゲーフィールドを訪ね、星のサバゲー仲間兼上司からパワーアップしたスタンガンを貸してくれるように頼むなど、一度は散りながらも…少女は星のために奔走。

画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

サバゲー協力はホビージャパンの月刊アームズマガジンが担当していますが、たぶんこのゲーマーの皆さんは編集部員かな。

無関係の親子がフィールドを通り過ぎてるのにゲームを中断しなかったり、ゴーグルしてない令子をゲーム中に入場させたり(そこはそもそも専用のフィールド?)、今だと炎上する可能性も。実際、近年でも映画「世界は今日から君のもの」のサバゲーシーンで俳優がゴーグルを外してスマホで通話したため、炎上が起きています。

ともかく、令子は星がサバゲー仲間から『あいつはビビリで、チームに入ると必ず負ける。だからアイツはいつも一人チーム。負けボシ』と愚痴を聞かされます。

もちろん、スタンガンは『貸せないねえ』と一蹴。そこで、電子回路に精通する彼女は結局……。

不良漁師集団でただ一人の正義漢で隠れオタクの丹波さん登場

一方、星と近藤は反撃の機会を得るべく、再び島へとバナナボートと遠泳でネイビーシールのように隠密上陸を開始。

山中の廃屋を発見した二人は前進基地として篭りつつ、星は夜間に暗視スコープで敵情視察を行いますが、番屋で魚を焼いていたため、あっさり発見されてしまいます。

『こんなところじゃ、すぐ見つかるぞ』番屋に入ってきた男に星と近藤は身構えます。

しかし、男の顔を見た星と近藤は驚きます。

『タンバさん……!?あのホビージャパンのジオラマの』と星。近藤も『フィギアの神様だ……コミケで買いました。ウルトラマン、ゴレンジャー……』と驚愕を隠せません。

丹波達夫。特撮フィギアに造詣が深い伝説の原型師。彼は島の漁師で高松の手下ですが、実は今でこそ妻子ある彼も5年前まで元おたく。

僻地の30男が嫁を獲得するべく、オタ趣味を封印していたことが彼の口から語られます。

先日の漁港での襲撃で国城の車に飾られたフィギアに目を奪われ、襲えなかった漁師は実は彼。しかも原型製作者が丹波自身だったのです。

この番屋は丹波の隠れ作業小屋。

隠し棚には丹波の秘蔵品である特撮ものやミンキーモモなど各種フィギアが飾られています。

『ジオラマは愛だ。作るぞ……きっちり!』

丹波は二人の作戦を支援するため、ジオラマによって島の全景を作成。3人は明け方までジオラマつくりに没頭します。

丹波は(丹波達夫として)自分のできる協力はここまでだ……もう帰れと言い、高松は予想以上に凶悪で強敵だと二人に言い残し、去ります。

『第二次作戦開始だー!』

さすがにガガガの丹波さんに帰れと言われれば、帰るしかありません。星と近藤はついに撤退を決め、浜津駅にて東京行きの電車を待っていました。

しかし、彼らの想いとは裏腹に、散っていたオタクたちはそれぞれの理由から静岡に戻ってきたのです。

オタクではないため戦力外だったりさも、星が行おうとしている”人道的救出ミッション”に賛同し、手を貸します。

しかし、令子が戻ってきた理由はいまいち不明なのです。スタンガンを借りられなかった令子は、自分が自作するからと、星に再参加を懇願しますが、星自身が『おまえ……なんで !?』と不思議そう。

この、令子と星の微妙な関係の描き方は逸品です。ここは視聴者が妄想を膨らませましょう。どうも令子のほうは星にまんざらでもない様子。『キミが欲しい』が効いたんでしょうか。

星当人はオタクのくせに当初から”普通の女性会社員”であるりさにぞっこんで(電車男みたいなフィーリング)、”女としての令子”は眼中にありません。彼はおそらく、令子のことをサバイバルゲーム仲間くらいにしか思っていません。

無線傍受おたくとミリタリーおたくってやっぱり波長が合うんでしょうかねえ。二人が将来的に結婚すれば、ラジオライフのペディに参加していた可能性もあったでしょうねぇ。

そんなこんなで第二次作戦開始です。敵にハニートラップを仕掛けるため、高松らのたまり場であるスナックに化粧をして向かう令子。

しかし、彼女には役不足でした。

しょせんは女子中学生。ハニトラは痛々しく失敗に終わります。代わりにりさが参戦し、歌と踊りで高松ら荒くれどもを魅了します(先日のM16乱射事件で高松らに顔割れてるはずですが……?)。令子はりさに魅力で負けた嫉妬からハイヒールを軽トラのフロントガラスに無言で投げつけて割る演出が笑えます。

後半ではまたもアマチュア無線の出番がありますが、この無線機の使い方もかなりグレーです。令子は用意しておいた遠隔操作式発煙筒をハンディ無線機からの電波送信によって作動させます。

『誰でも空が飛べるシミュレーションソフト』が映画ラストの伏線

こうして、星は満足感達成のため、近藤は本当の正義のために、田川は自身が開発したシミュレーションソフトの実証実験のため、国城は同人誌を刷るお金のため、令子は星のため(!?)、仮面男ダン(丹波)は……なんだろう、日ごろの高松への不満か、心に眠る正義が目覚めたのか。りさはティナへの同情心かな?それとも単にレジャーを楽しんだだけ?

まとめ

日本では珍しい最後にほろりとさせるバランスの取れたアクションコメディの金字塔です。92年と言えば、まだまだバブルの余韻が残っており、日本の街並みや人々に痛々しさや寒々しさがなく、貧乏臭くないのがいいですね。これが94年以降になると、途端に世の中はブルセラとリストラで痛々しくなるわけで…。

ラストのスタッフロールではそれぞれの趣味を象徴するアイテムと共に彼らオタクのフィギュアが登場(笑)当然ながら星はエアガン、近藤は太極拳ウェア、国城は同人誌、田川はMac、令子はアマチュア無線機です。ところが、りさだけは”パスポートと海外旅行のパンフレット”。うーん、やはり彼女はオタクではなく『ふ・つ・う』のOLのようです。なんだ普通って(笑)

ところで、『七人のおたく』から13年目となる2005年、フジテレビは『電車男』を放映し、社会現象となりました。原作は「2ちゃんねる」のあるスレッドで綴られた実際のやりとりが着想で、フジテレビが一から作った原作ではないということになっていますが、もしこれが、フジの仕込みではないとしたら、うまい題材を見つけたなと思います。

ドラマ化にあたっては、七人それぞれのおたくが持つ知識を結集させて人助け(?)をする『七人のおたく』のコンセプトと、気弱なオタク青年の主人公がインターネット掲示板を介してオタクたちの手を借り、目標に進むという『電車男』のプロットと本質的に通じており、13年前に伊豆諸島で散った(散ってない)彼ら先代のオタク戦士たちの活躍を筆者にしみじみ思い起こさせたのです。

フジテレビは『七人のおたく』から13年目にしてどのようにおたくへ問い掛けるのか興味深く見ていましたが、予想以上に初回から面白く、実際に放映時間帯はドラマの舞台である「2ちゃんねる」の実況スレッドがあるサーバーが落ちる寸前だったほどです。

なお、フジテレビ出版(扶桑社)が1992年に出した映画「七人のおたく」の解説本にはこのようにオタクに対する見解が肯定的に書いてあります。

「おたく」とは、心の中に自分だけの小さなパラダイスを持っている人たちのこと。自分にとって、大切にしているものや、自分の好きなジャンルは誰にでもある。その中で時間の感覚を失うほど没頭できる何かひとつのことを持っているのが「おたく」。 そしてそのパラダイスを大切にしながらそれを最大限に楽しめる人こそがおたくなのだ。

出典 「七人のおたく」フジテレビ出版(現・扶桑社)1992年

一方、こちらは一色氏がフジテレビに企画を持ち込んだ際に言われた言葉です。

気持ち悪いからやめようよ(笑)宮崎事件が影響したとはいえ、あまり乗り気ではなかったようです。なお、「七人のおたく」は2022年に「七人のおたく THE STAGE」として舞台化もされており、根強い人気を誇っている作品です。

CB無線で女性を装う悪ふざけの代償は予想以上…?驚愕スリラー映画『ロードキラー』解説

画像の引用元『ロードキラー (原題・Joy Ride)』配給:20世紀フォックス映画

インターネット黎明期、男性が女性のフリをして、ある特定の趣向に好奇心の強い男性を掲示板上で”釣る”行為『ネカマ』が流行ったことをご存知だろうか。

顔が見えない匿名性を利用した、ある種のネット文化とも言えるが、現在でもSNSなどで、騙される(騙す)例があるようだ。

また、とくに最近では中年男性がバーチャル美少女のアバターになりきってしまう『バ美肉』というカルチャーも登場。

そんな今時のネットのノリをCB無線でやろうと考えた浅はかな兄弟が、騙した相手から粘着的に仕返しされる恐怖を描いた作品が2001年の映画『ロードキラー (原題・Joy Ride)』である。

CB無線を使った悪ふざけが相手を激高させ、取り返しのつかない凶悪事件へと発展していくというサスペンス・スリラー映画。

だが、アメリカの広大なハイウェイを背景に展開される追跡劇は、古典的なロードムービーでもあり、単なる閉所的なサイコスリラーとは異なる開放感とスリルを同時に楽しめるのだ。

当然、無線趣味を嗜む我々にも興味深い。

米国のCB無線の文化とは?

CB無線といえば、日本でもお馴染みのフリーライセンス無線。

国内におけるCB無線制度の解説は以下の記事にて。

CB無線は資格免許不要でHFの電波伝搬特性が気軽に楽しめる!違法CBと合法CBの違いとは

 

では、アメリカのCB無線の概要を含め、映画『ロードキラー』のストーリーを解説していこう。

アメリカにおけるCB無線、いわゆる市民無線は1958年からCitizens Band Radio Serviceとして制定され、道路情報の交換や、事件事故、災害時における緊急通報のために使われている。

とくに70年から80年代にかけては爆発的に利用者が増加し、大衆に親しまれてきた。

送信機がFCC(連邦通信委員会)から保証認定を受け、またFCCの提示するルールでの運用ならば、アマチュア無線のように免許や資格がいらないライセンスフリーラジオであることが、多くの人々に親しまれている理由のひとつ。

米国の自動車旅行ではCB無線機は必須?

アメリカ国内ではドライブツーリストが道路状況、(警察による)交通取り締まり、その他の旅行情報、基本的な社交や友好的なラグチュー(おしゃべり)まで、スマホ全盛の現代でもCB無線を頻繁に使用することは珍しくない。

モーターツーリズムとCB無線はアメリカにおいて、もはや文化と言える。

とくに州間高速道路を東西南北に横断するようなトラックドライバーなどはその道中、人っ子一人いない砂漠や森林地帯のルートを走ることも日常茶飯事。

当然、スマホは圏外となれば事故発生時に危うい。

そのため、彼らトラッカーの無線家が多く、お互いの身の安全(つまり、速度取り締まりや武装強盗出没の情報、事故や急病時のSOSなど)のため、常に相互にリポートを送ったり中継をしている。

アメリカのテレビドラマ『Xファイル』では、トラッカーらしき人々がCB無線でUFO目撃の情報交換をしていたシーンがある。

また、彼らトラック野郎たちがCB無線を駆使して団結し、権力に抗う様を描いたのが1978年公開の映画『コンボイ』だ。

州によっては保安官事務所や警察機関も常にCB無線を傍受している。

非常時に使う緊急通報用チャンネルはもっぱら9ch。

それほどまでにアメリカ社会でCB無線は緊急通報手段として確立されているのだ。

映画『ロードキラー』の劇中では兄のフラーがCB無線の交信可能距離は8キロ程度と答えているが、一般的に遮蔽物が全くない見通し距離なら数十kmでも余裕で交信ができてしまう。

さらに夏場に突発的に発生するEスポの利用によっては、2000キロもの距離を越えるDXも可能。

日本国内であれば、北海道から沖縄まで交信できてしまう距離。これは27MHzという短波無線の特性と利点である。

なお、米国で販売される米国仕様のCB無線は周波数の違いがあり、日本国内では電波法上、使用不可。

ただし、周波数は近似であり、その特性はそっくり。

米国のCB無線で使用が許されているのは26.965〜27.405MHzの周波数にそれぞれ10kHz間隔で割り当てられた番号付きチャネルで、合計40ch。短波帯でAM/SSB変調を使用する。

短波(HF:High Frequency)と電離層を利用すれば外国との交信も可能!

ただし、米国ではCBは依然として人気があるものの、昨今ではFMモードかつUHF帯を使うGMRS(General Mobile Radio Service)に急速に押されつつある。

GMRSはFRS同様の無線機(出力5W又は50W、FRSの14CHを含む30CH)で、米国、カナダ国内で使用が認められている米国規格の無線機である。

なお、日本国内では使用できない。

GMRSは約0.5 ~ 3マイルの交信範囲と予測できる。

CB無線機を使ってトラック運転手相手に悪ふざけ・・・彼らが払った代償とは?

この便利なCB無線を馬鹿な行為に使った兄弟が払う代償。これが本作の見どころだ。

少しの悪戯心が震え上がる大事件に発展させるとは誰が予期しえたであろうか。

酔っ払って騒ぎを起こして収監された兄のフラー(スティーブ・ザーン)を引き取りに行くよう、母親から頼まれた弟のルイス(故・ポール・ウォーカー)。

彼女であるヴェナとドライブのため、ビンテージカーを購入したルイスは乗り気ではないが、兄の身元を引き取りに行くため、コロラドへ向かった。

しばらくぶりの再開に兄弟は感激に浸り、オンボロのビンテージカーで走り出した彼ら。

旅の途中、立ち寄った給油所のメカニックに、フラーは車内のコンソールにCB無線機を取り付けてもらう。40ドルだ。

彼の目的は自動車ツーリストがそうであるように、道路情報を入手するためなのか、果たしてそれ以外の目的があるのか・・・。

一方、弟のルイスはCB無線にあまり興味はないどころか、自分の車の後部にホイップアンテナを取り付けるための”穴”を開けられて苦笑。

さっそくフラーはCB無線のおにぎりマイクを握り締め、州内を走る不特定の運転手らにステートトルーパー(州警察のハイウェイパトロール)による交通取締り情報の提供を願い出た。

『交信求む。西に向かう車はいないか?こちらはブラックシープとマザコン坊や(ルイス)。高速80号を東向きだ!パトがいたら教えてくれ!』

“ブラックシープ(厄介者、鼻つまみ者を意味する)”を名乗るフラーに誰かが応答する。

『ジェームズタウンに一台いるぜ』

2人のオンボロ・ビンテージカーに取り付けられたCB無線機Cherokee Nightrider 150。なお、チャンネル表示は19ch。これは実際に非公式の「高速道路情報」チャンネルとして米国で一般的。州間高速道路を走るトラックの運転手や旅行者が主に使用するのだ。Copyright © 2001 21st Century Fox Inc. All Rights Reserved.

CB無線と親切な運転手の道路情報アドバイザリーにより、しばらくは快適な車の旅になる予定だったフラーとルイスの兄弟2人。

しかし、今となってはバカ兄貴フラーがガソリンスタンドでCB無線を車につけた本当の目的は道路情報の交換なのか、それとも別のところにあったのか不明だ。

直後、雨を気取って語る”レインマン”の交信を耳にしたフラーは彼の気取ったしゃべり方が気に食わない。

そこで、弟のルイスに女のフリをさせ、レインマンをCB無線でからかおうと画策。

レインマン、いや、トラック運転手のラスティ・ネイル。

兄の恫喝に嫌々ながらも裏声で女を装うルイス。

ところが、乗り気ではなかったこの悪戯に最初は戸惑いながらも、だんだんと快感を感じていくルイス。

彼も幼少時代、女の声音で男子をからかっていた経験があり、まんざらではないのだ。

立派な”共犯”となったルイスが名乗るコールサインはcandy cane(キャンディ・ケイン)。アメリカで親しまれている硬い杖(ステッキ)の形のキャンディである。

身長は175センチ、碧眼で肩までのブロンド。麗しき白人美女という設定までつけた。

女の声音を駆使し、ラスティを騙すキャンディこと、ルイス。

ラスティが下ネタに乗っかって来たころを見計らって『バーカ!俺は男だ青葉俊介、ザ・根性!』と、ネタばらしをしてぎゃははと笑って早々に終わりにする他愛のない暇つぶしのジョークのつもりだった。

そう考えていたであろう馬鹿な兄弟。だが、運命の神はかぼちゃワインを許さなかったようだ。

無線機の不調か、はたまたお空の調子か、何らかの混信妨害により、ラスティとの交信が途絶したキャンディ・ケイン、いやルイス。

結果としてラスティはルイスをマブイ女と思い込んだまま、ストーカーに変化。CB無線で『誰か、キャンディ・ケインを知らないか?』と探し始めた。悪夢の始まりである。

フラー主導のこの冗談半分の悪ふざけが、本気で悪意を持った『罠』に変わるのは、彼らが泊まるために訪れたモーテルの受付で、先客の初老の男がフラーを小突いたときだ。

そして運悪く、このときラスティがキャンディケインを呼ぶ声が無線機から聞こえ、車内のルイスは戦慄する。

フラーはこのチャンスを逃すまいと、先ほどの初老の男への仕返しのため、彼の泊まる部屋へ、ラスティを押しかけさせようと画策。

兄に言われるまま、キャンディケインことルイスは、昼間の女の声音でラスティに応答し、モーテルの(初老の男が泊まる)17号室へと誘うのだ。

ラスティを罠にかけて憂さ晴らしをしたつもりのフラー。

だが、完全にラスティの怒りを買ったことにいまだ気がついていない。

その結果、初老の男はラスティに何処かへ連れ去られた挙句『顎を持ち去られる』という大変な悲劇を招いてしまう。

翌朝、当然警察沙汰になり、後悔する彼ら。CB無線での悪ふざけの顛末を正直に保安官に告げたことで直接的な容疑者とはならなかった2人。

だが、厳重注意され、早々に州外へ出て行くように命じられる。

二人もラスティがガチのサイコパスであることを確信し、足早にこの地を立ち去ろうと決意。

しかし、この驚愕の事態を皮切りに、彼らはさらなる恐怖体験へと向かう……。

まとめ…というか、教訓

今回は偶然、相手がガチのサイコパスだったとはいえ、便利で頼れるアイテムも悪意のある使い方をすれば、途端に『インスタントカルマ』の代償が待つ。

とはいえ、20代の男性が無線で女性を偽ることが可能なのだろうか。

これが声変わり期の男子中学生なら、同年代か、やや上の女子として偽ることもできるであろう。

実際にアマチュア無線のレピーター妨害が華やかなりし80年代、声変わり期の思春期男子中学生が、その手の愛好家のおじさんに勝手にYLと思い込まれてハァハァされていたらしい。

先日などは7MHzの交信を途中から聞いていると、「あと、僕は男の子です」と、何かツンとしながら応えている少年ハムがいた。

おそらく全国のおじ局に勘違いされて自身の持つ繊細な「声のアイデンティティ」を傷つけられた経験が何度もあるがゆえ、念のため性別を明言しておきたかったのだと思う。

筆者が聞いても彼の声は少女のそれに聞こえたし、彼が明言しなければ、筆者も彼を高校か大学のアマチュア無線同好会のYLかと思い込み、珍しいなと感心したかもしれない。

ただでさえ、女性が少ない無線趣味。興奮した男性無線家が先入観で声の主を「YL」と決めつけてしまうケースは古今東西なきにしもあらずか。ハァハァ。

CB無線に男が女を偽れる余地はあるのか、正直わからない。

とはいえ、このあと、2作、3作とこのシリーズは続き、変態のラスティは悪の限りを尽くすわけなのだが、楽しむために知ってて馬鹿兄弟をハメた背景もあるのではないだろうか。

余談だが、当初は『スクェルチ(Squelch)』という題だったという。

ご存知、無線通信において信号を選択するためのノイズ遮断技術で、普段はノイズを遮断しておき、音声を受信したときに解放するのがスケルチ。

悪意まで解放させないよう、くれぐれも出来心には御用心。ハァハァ。

【地球終了のお知らせ】「スカイキング、応答するな」米軍が核攻撃を指令する短波無線HF-GCS

「認証コード、アルファ・チャーリー・エコー、ロミオ・セブン・ナイン」

これを聞いたとき、我々は何が起きているのか深く想像します。そしてその想像が、往々にして最悪のシナリオへと向かいます。

アメリカ空軍で配備される『高周波グローバル通信システム・HF-GCS (High Frequency Global Communications System)』。

それは原子力艦隊を含む世界中の米軍航空機に対する米国空軍の管轄するHF系指揮統制通信です。その歴史は古く1950年代に遡ります。

日本の防衛省防衛研究所によれば以下の通りです。

短波(HF)帯を使用して飛行中の戦略爆撃機などに核攻撃命令を送信するための地上固定通信施設として、米空軍の HF-GCS(High Frequency Global Communications System)がある

出典 https://www.nids.mod.go.jp/publication/security/pdf/2022/202203_07.pdf

米国メリーランド州にあるアンドリュース空軍基地(メインステーション)にHF-GCS管制センターが置かれ、日本の横田基地を含む世界13カ所の米軍基地(サブステーション)から送信され、米空軍基地、米海軍航空基地、米海兵隊航空基地、米陸軍飛行場、民間空港の空軍予備隊または空軍州兵施設、陸軍予備隊または陸軍州兵の航空支援施設間の世界規模での通信を担っています。

ロシアの「UVB-76」もナンバーステーションまたはHF-GCSと似た用途の軍用無線局と推測されています。

ちなみにUVB-76はその占有する周波数で美少女アニメの歌や、君が代を流されて妨害されてます。

【陰謀論とラヂオ】ロシア軍の短波無線局『UVB-76』が電波ジャックされ日本の美少女アニメの主題歌が流れた?

HF、つまり短波無線の世界はときに非合法や陰謀論めいたアングラでミステリアスな世界観を醸し出すもの。

「何か隠されている」という要素が人々の興味を引くとともに陰謀論的な見方を助長します。

HF無線の世界はアングラだった・・・やべえ通信まとめ(傍受の際は当該工作機関から十分に適切な社会的距離を保つ必要あり)

ただし、日本の自衛隊が開かれた公式サイトで言及している通り、HF-GCSは米国政府ならびに軍が指揮命令システムとして公表しており、非公然ではありません。

HF-GCSはこれら究極命令の伝達が目的ですが、実際には日常的に気象状況、給油手配、基地に航空機の搭乗者の人員数、機内の不具合報告といった業務無線として利用が普段の顔。

しかし、いったん世界情勢の緊張が高まれば、その本来の目的に回帰。

核戦争が起きる前段階では緊急行動メッセージ(EAM)や、EAMを遮るほど優先度の高い通称「Skyking(スカイキング)」と呼ばれるメッセージが送信され、恐ろしい指揮統制通信の面目躍如です。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件の際には、HF-GCS通信がかつてないほど増加したとされています。

当然ながら、HF-GCSで行われる通信のうち、重要度の高い交信や命令はNATOフォネティック・コードで暗号化されており、解読コードを持たない外部の傍受者による解読(答え合わせ)は不可。

しかし、冷静かつ機械的な声で「認証コード」を繰り返し読み上げる米軍コマンドの一方的な指令を受信すると、映画の世界にいるような感覚に没入できます。

主な目的は三つ

HF-GCSはホワイトハウス通信局 (WHCA)、統合参謀本部 (JCS)、航空機動コマンド (AMC)、航空戦闘コマンド (ACC)、空軍航空情報局 (AIA)、空軍資材コマンド (AFMC)、空軍宇宙コマンド (AFSPC)、米国欧州空軍 (USAFE)、太平洋空軍 (PACAF)、航空気象局 (AWS) といった部隊間で円滑に命令を伝達するためのシステムです。

米軍の地上軍事基地から戦略爆撃機、空中給油機、および他の航空機に指示を送るために使用されます。

EAM (Emergency Action Messages)

緊急行動メッセージ(Emergency Action Messages)は核攻撃の作戦指示を含む可能性がある重要な暗号指令で、繰り返し送信されることがあります。空中指揮所が飛行中に発令します。

航空機からの非機密電話

航空機に搭乗している操縦士や搭乗員が地上へ公務として非機密の電話をする際にもこのネットワークが利用されます。通常はDSNに接続されます。

周波数と変調方式

アマチュア無線によるHF通信がそうであるように、HF-GCSも低い周波数、単側波帯(Single Sideband, SSB)変調方式のうちのUSBモード、電離層を利用して地球の裏側まで電波を届かせることができます。

短波(HF:High Frequency)と電離層を利用すれば外国との交信も可能!

ただし、デジタルのALE送信モードも使用されています。

主な HF-GCS 周波数

HF-GCSは4.721kHzから15.016kHzまでの間に主要周波数が複数あります。以下はよく知られる周波数の例です。運用状況により変更される可能性があります。

  • 4721 kHz
  • 6739 kHz
  • 8992 kHz
  • 11175 kHz
  • 13200 kHz
  • 15016 kHz

上記のうち、主要な周波数は11175 kHz(昼間)と4721kHz(夜間)で24時間、365日送信しています。

日本国内某所で筆者が受信した際は、日本時間で平日の15時30分すぎ。周波数は11175kHzでした。受信機材はいつものD-808。

XHDATA D-808がすごかった!HF帯SSBモードの洋上管制や海上自衛隊アツギオーシャニック、7MHzも!

ノイズが酷いながらも、航空特殊無線技士の送話試験で自信なさげな受験生のような抑揚のない男性の声で「ゴルフ、アルファ、フォクストロット……」と読み上げる声が、とても不気味。

一回の送信時間は2分弱で送信間隔は15分でした。

これが1日の間、完結的に送信されているはずです。

世界の終わりは緊急行動メッセージ「EAM」とともに…

「緊急行動メッセージ(Emergency Action Message)」は米軍の核攻撃命令、すなわち核攻撃部隊への指揮・コントロールのための通信です(米国公文書である「米統合参謀本部議長指示に記載)。

アメリカ大統領が直接指令する軍事行動、すなわち核攻撃命令です。

不幸にして核戦争が開始される前段階、合衆国大統領の核ミサイル発射命令に関して、長距離パトロール飛行中の戦略爆撃機などにHFGCSを通じて、ミサイルの発射のための暗号コードがこの周波数で伝えられるのです。

世界の終わりに飛ぶ飛行機・・E-4BやE-6Aから発せられる最後の緊急行動メッセージ

アメリカ合衆国の国家空中作戦センター(NAOC)として運用される航空機E-4B(ナイトウォッチ)はボーイング747-200Bを核戦争時の作戦司令用航空機(空中指揮所)として改修した機体。「緊急行動メッセージ(Emergency Action Message)」は最終的に同機から発令されます。

[aside type=”normal”]国家空中作戦センター(NAOC)

地上の指揮統制施設が破壊された場合でもアメリカ政府の指導層(大統領、国防長官、参謀長など)が、空中から指揮をとれるよう設計された四種類の航空機を「国家空中作戦センター」(NAOC)と呼びます。特に核攻撃で地上インフラが破壊された際に戦略的決定を行い、軍隊を指揮することができます。

[/aside]

最終的に、というのは本来、EAMはペンタゴンの国家軍事指揮センター(NMCC)から発せられますが、敵の先制攻撃によって破壊された場合は、ペンシルベニア州レイヴンロックの代替国家軍事指揮センター(地下核ミサイル防護基地)サイトRがその機能を代替し、最終的に空軍のE-4B ナイトウォッチ、または海軍のE-6A (TACAMO)からEAMが発令されるのです。

E-6Bマーキュリーの飛行経路をFR24で追ったもの。平時はトランスポンダーを入れているので追跡が可能ですが、有事はもちろん不可能。翼端のフェアリングにESMアンテナやHFアンテナを装備している一方、同機が超長波(VLF)通信を行う場合、胴体後部より長大なアンテナを機外に展開。

超長波(VLF)は深海にいる海軍の戦略核ミサイル原潜とも確実に連絡を取ることができます。

いずれも真っ白な機体が不気味ですが、これらの任務が「世界の終わりに飛ぶ飛行機」と呼ばれる理由です。

EAMは6文字のヘッダーで始まります。このプリアンブルにはいくつかの異なる用途がありますが、NPSはミニットマン ミサイル発射について、「プリアンブルは、乗組員に非封印認証のどの版とページ番号を使用するかを伝えます。正しいページに移動すると、乗組員はどのメッセージ チェックリストを使用するかがわかります。」と述べています。

受信乗組員は、メッセージと指示がコピーされた緊急アクション チェックリスト バインダーにアクセスします。その後、メッセージが続き、繰り返されます。

EAMメッセージは基本的に30文字。しかし、以前は200文字を超える冗長なEAMもありました。メッセージは通常「Mainsail Out」で終わり、送信元に基づいて変更されることがあります (例: Offutt out)。Mainsail は、ネットワーク内のすべての地上局の集合的なコールサインです。2013 年から 2015 年 4 月まで、「Mainsail Out」は発信元よりも一般的に使用されていました。

それ以来、送信者/受信者にはコールサインが使用されることがほとんどです。

もう一つのユニークなコールサインはスカイマスターです。これはUSSTRATCOMの全ての空挺指揮ユニットの集合コールサインです。

発令された場合は横田を含む世界各国の複数のHF-GCS局から同時に同じメッセージが放送されているため、特異なエコーが聞こえます。

「スカイキング、スカイキング… 答えるな」これは何を意味するのでしょうか?

深く息を吸い、抑揚のない声で話し始める米空軍女性兵士。

「Skyking,Skyking,   do not answer」

「アルファ・チャーリー・エコー、ロミオ・セブン・ナイン、認証」
(少し間を空け、メッセージを再確認する)

通称「Skyking message(スカイキング・メッセージ)」は米国戦略軍から発信される指令のメッセージです。”スカイキング”は現在、HFGCS上にネットワークされている全ての軍部隊を意味するコールサインとされています。

上述のEAMの派生と考えられますが、EAMを含む他のすべてのトラフィックを中断するほど重要な位置づけです。研究者によれば、EAMで指示された作戦(核攻撃)の最終指令(”go” or “do not go”)とされています。

[aside type=”normal”]“DO NOT ANSWER”

  • 意味: このメッセージに対する返答は不要、または禁止されている。
    • 受信側が応答すると、その位置や存在が敵に暴露されるリスクがある場合に使用。
    • また、極めて重要な一方通行の指令であることを強調。

[/aside]

通常、通信オペレーターの「Skyking,Skyking, do not answer(応答するな)」という発言で始まる怖い極秘指令です。航空機側に応答させないのは、航空機の位置を秘匿するため。命令に背いて応答し、自分の位置を敵勢力に晒す航空機はいません。

スカイキングの不気味なメッセージは「答えるな」に続き、特定の指令コード(例: NATOフォネティックコードを用いた暗号化メッセージ)で行います。コードワード、時刻を表す2つの数字が続き、2文字の認証文字列で終わります。

分単位の時間 (0932 Z の場合は「32」と発音されます)、および「チャーリー ジュリエット」などの2つのNATOフォネティックからなる認証文字列で構成されます。スカイキングは1回繰り返され、受信状態が悪いことがよくあります。

「スカイキング」メッセージは「フォックストロット ブロードキャスト」とも呼ばれ、EAM とは異なる形式で送信されます。

The Air Force Space Command (Blazers: U.S. Armed Forces)
The Air Force Space Command (Blazers)

スカイキングメッセージは優先度が最も高いため、進行中のEAMを中断することもあります。「スカイキング」は、戦略爆撃機、偵察機、およびさまざまな支援機の配備も担当するすべての単一統合作戦計画 (SIOP) 航空機およびミサイル作戦にメッセージを送信するためのグループ的なコールサインです。

指揮官から受け取った命令は暗号形式のため、傍受する者の想像をかき立て、特に「核戦争の準備」と関連付けられると、恐怖を感じる人もいるでしょう。

しかし、実際にはスカイキングが送信されたとしても、必ずしも核戦争など、暗い未来の暗示ではありません。また、スカイキングやEAMは敵性国家に指令の頻度を探られぬように意図的に通信頻度を増加させています。

HF-GCSによるEAMやスカイキングメッセージは映画に登場することもあります。『ウォー・ゲーム』(原題: WarGames)や『First Strike』では米合衆国大統領から核ミサイルの発射命令をNATOフォネティック・コードで下達した米国戦略ミサイル空軍の兵士たちが冷静に手際良くコードの答え合わせをして発射準備を行う場面が描かれています。

アメリカ空軍女性士官が今日も米軍基地から謎のコールサインで行うスカイキング・メッセージ。それがSSBモードの場合は安くて高性能の上側波帯 (USB)対応短波ラジオと少しの忍耐力があれば、「何か地球が終わるような重大な事態が起きているのではないか」という精神不安を呼び起こす通信を聞くことができます。

XHDATA D-808がすごかった!HF帯SSBモードの洋上管制や海上自衛隊アツギオーシャニック、7MHzも!

出典 wikipedia https://www.numbers-stations.com/usa/hfgcs/

まとめ

アマチュア無線家がEAMやスカイキング ・メッセージを聞いたとしても、できることは発信された時間と周波数を記録し、フォーラムで同好の士と考察することのみ。

何の通信が行われたかなど、答え合わせは不可能。これが演習であることと平和をただ祈るのみです。

しかしながら、冷戦時代から現在に至るまで、核戦争の危機が何度も語られてきた歴史において、このような通信が実際に行われ、「究極命令を冷静に遂行しようとしている存在」がいた可能性があると考えると、これが持つ重みをアマチュア無線家個人としても無視できないものがあります。

怖いけど…聞き逃せない。これも無線家の性(さが)…?邪気眼全開で、触れるべきでない秘密の扉を開いてしまったような「世界の影」を垣間見た者だけが持つ感覚。スカイキング、それが・・世界の選択なのか。

余談ですが、1996年に公開されたアメリカのSF映画『インデペンデンス・デイ』(Independence Day)では、米軍統合司令部が地球外生命体への反撃を日本の自衛隊含む世界各国の軍隊に呼びかける際、その通信はまさにHF帯でのモールス通信でした。

通常の衛星通信などが不能になるなか、世界各国と連絡がつき、宇宙人に一矢報いるチャンスをHF無線で得たことに「よくこんな方法で連絡が」と感心する米国大統領に「こんな古臭いモールスでね」と米海兵隊の将軍は自嘲気味に答えています。

また、同作では『ニューヨークのハム無線愛好者たちが日本へ流した噂によりますと、軍隊は反撃による全滅を恐れ云々』と、ニュース番組のアナウンサーが読み上げるシーンもあります。

古臭いどころか、2025年現在も米軍の第一線で使われているのが短波無線であり、このHF-GCSなのです。

HF無線の世界はアングラだった・・・やべえ通信まとめ(傍受の際は当該工作機関から十分に適切な社会的距離を保つ必要あり)

深夜のHF帯チューニングにはご用心。

何者かによって淡々と読み上げられる数字やNATOフォネティックコード、解読不能の奇妙な通信が聞こえてきたなら、すでにあなたはかつてのスパイ映画の世界に身を置いています。

それは世界各地に散らばる各国の工作員に対する秘密の指令かもしれないからです。

HFの概要解説で説明の通り、電離層反射によって世界の裏側まで電波が届く短波無線(HF)。

その特性から、各国の航空管制当局、海事機関、海運業者、アマチュア無線局など正規かつ合法な通信が大多数の一方、非合法な使用者が存在します。

そして、諜報機関が工作員との連絡に使用する場合も。

XHDATA D-808でHF帯SSBモードの洋上管制や海上自衛隊アツギオーシャニック、7MHz受信可能

その際はアマチュア無線の帯域が利用された上で、アマチュア局同士の交信として偽装されたり、アマチュア局に許可されていない帯域で交信(オフバンド)される場合も。

日本では7MHzのオフバンド帯(アマチュア曲に許可されていない帯域)にて、グリコ・森永事件の犯人と推定される者たちが犯行の打ち合わせのやり取りらしき交信をしていたことも。

このような通信は非公然かつ非合法です。

古くは1940年代の『ゾルゲ事件』が有名ですが、その隆盛はやはり冷戦時代。

当時の東西両陣営はこのようなスパイ映画まがいの”秘密指令”とも言うべき機密性の高い軍事通信や機密情報の伝達をHF帯で頻繁に行っていました。

現代ではSNS上において、ロシアやウクライナの情報戦を垣間見ることがあります。

第二次世界大戦中、敵対国の国民に向け、地下放送とも呼ばれる謀略めいたプロバガンダ放送を各国は行いました。

我が国もデマとプロバガンダばかりの放送を行いました。

不定期に周波数を変更する局、同じ周波数を長期にわたって使用する局がありますが、現代においては復調困難なデジタルモードによる秘話化で通信の機密性を保護しています。

これがHF帯の無線通信は何とはっきりとは言えない、他とは違ったミステリアスで一種独特のアンダーグラウンドの雰囲気を強調する原因の一つです。

不明な通信や放送の種類

不明な通信にはアマチュアバンドとそのオフバンドによる『アンカバー』、音楽愛好家による不法な『海賊放送』があります。

さらに、敵国の一般民衆に自国の主張を伝えるための『地下放送』、ある国の工作員や諜報員(スパイ)へ、指令などを暗号で伝えるための『乱数放送』など、世界的に大がかりな謀略めいたものも。

これら、理解し難い奇妙な内容の一方的放送または秘密通信を行い、自局のコールサインを明示しない不明な無線局、あるいは偽装する無線局を逃すまいと、耳をそばだてているのは世界中の短波ラジヲを愛好するBCLマニア、それにアマチュア無線家たちです。

アンカバー

アマチュア無線におけるアンカバーについて、以下の記事で解説しています。

https://amateurmusenshikaku.com/%e3%82%a2%e3%83%9e%e3%83%81%e3%83%a5%e3%82%a2%e3%83%90%e3%83%b3%e3%83%89%e3%80%81%e3%81%9d%e3%81%ae%e3%82%aa%e3%83%95%e3%83%90%e3%83%b3%e3%83%89%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e4%b8%8d%e6%98%8e%e3%81%aa/

海賊放送

東西対立と民衆のフラストレーションが生んだ歴史

不正規の放送という事象をオーバーシーで俯瞰した場合、その時代の国際情勢に注意を払う必要があります。

通常、ラジオ放送は国から正規に免許されたラジオ局が行いますが、それ以外の個人や団体が行う非正規の放送が『海賊放送』です。

東西対立の激しかった当時のソ連型社会主義圏であった東欧の国々。

それらの国の人々にもアメリカのポップスを好む人は多くいました。

しかし、民主主義陣営である西側の文化に東側陣営諸国の人民が感化されることを東側当局者が恐れ、厳しく規制。

当然、国営放送のような正規のラジオ番組では西側の曲は検閲により放送不可。

したがって、それらの人々のフラストレーションが海賊放送を発生させた理由の一つと考えられます。

日本では東西対立はあまり関係がないものの、音楽やディスクジョッキーを好む個人が、正規に放送免許を得ずに無許可でFM局を模倣した形態で行う不法無線局の例があります。

1979年の八王子市の『FM西東京(JONT-FM)』、1985年の東京都港区の『KYFM』、2011年の日野市の『JOUT-FM百草』の摘発例はいずれも国内の海賊放送の代表例。

地下放送

謀略放送とも。陰謀めいた大掛かりな心理戦の一環

『地下放送』も東西対立の激しかった過去、東西陣営で顕著に見られ、特定の社会的、政治的、文化的なメッセージを伝える対外宣伝目的で運営されました。

多くの場合、放送団体や送信所の所在地を偽装し、あたかも正規の放送のように見せかけた上で、ある国が敵対国の国民へ一方的な主張を伝えるためのプロパガンダを目的として放送されます。その目的から謀略放送とも呼ばれます。

戦時中に多く見られ、敵対国政府の検閲を回避しやすいことから、敵対国の戦況劣勢を伝えたり、自国の強大性や発展を誇示するなどして敵対国の国民や兵士を欺き、その情緒に訴えて心を挫き、厭戦ムードに持ち込む情報戦でした。

例として戦時中の日本政府が行った『ゼロ・アワー』があります。

戦時中、日本軍が行った対外宣伝ラジオ放送『ゼロ・アワー(The Zero Hour)』とは

乱数放送

一般に、解読不可能な乱数を読み上げる無線局をナンバーステーションと呼びます。

もちろん、世界各国へ潜入中の工作員への指令が目的です。

世界にはナンバーステーションの事例がいくつかあります。

『リンカーンシャー・ポーチャー』

イギリスの諜報組織・MI6がキプロスから運用していたとされる『ナンバー局(Numbers Station)』です。

『UVB-76』

ロシアのモスクワ近郊の村から4625kHzまたは6998kHzにてブザー音が発信されるUVB-76″ザ・ブザー”も、『ナンバー局(Numbers Station)』とされています。

【陰謀論とラヂオ】ロシア軍の短波無線局『UVB-76』が電波ジャックされ日本の美少女アニメの主題歌が流れた?

おそらく、世界で最も短波放送受信マニアから注目度が高い無線局です。それゆえに妨害が行われることもあるようです。

『A3放送』

日本人拉致との関連性を指摘されているのが北朝鮮のA3放送です。

【陰謀論とラヂオ】日本人拉致との関連性を指摘されている北朝鮮によるA3放送とは?

この乱数放送は北朝鮮国営の放送局から放送されるものでした。

現在は形を変え、品を変え、あらゆる方法で伝達を試みているようです。

軍事目的と推測される無線局

上述のナンバーステーションによる乱数放送などは工作員への指令という明確な目的があり、非公然の無線局ですが、軍隊が行う暗号通信も、実に奇妙です。

『米空軍のHF-GCS』

【地球終了のお知らせ】「スカイキング、応答するな」米軍が核攻撃を指令する短波無線HF-GCS

米空軍が頻繁にHFで運用する『HF-GCS』は明確な軍事通信です。『スカイキング』なる謎のコールサインで「答えるな」と命令するやいなや、不明なコードを日本を含む世界の米軍基地から同時かつ一方的に発令します。人類終了という暗い未来を感じさせる「終末通信」と言えます。

『Japanese Slot Machine(ジャパニーズスロットマシン)』

一方、我が国にも千葉県内などの自衛隊施設から3MHz-10MHzの海上移動通信に割り振られた周波数を使い、USBモードで送信されているPSK変調のデジタル信号がHF無線受信家の間で知られています。

これは千葉県内にある海上自衛隊の通信施設から送信される、通称『ジャパニーズスロットマシン』と呼ばれる奇妙な電波。

その名称の由来はずばり、デジタル変調の音がパチスロ台の電子音と似ているから。

言われてみれば、あのパチンコ店のパチスロ台が出す、聞いてると妙に引き込まれる“キュンキュン”という洗脳にも似た特有の音とそっくりで、やってないのにパチンコ依存症になりそうです。

しかし、その通信内容については高度なデジタル変調のために復調は不可能。

海上自衛隊の施設から送信される海上移動通信用周波数であることから、通常は艦艇への指令と見られていますが、この海自施設を利用して、国外にいる陸上自衛隊・別班員への工作指令の可能性も指摘されています。

自衛隊無線の各帯域(HF、ローVHF、UHF)ごとの受信方法解説

電波妨害・電波ジャック

とくに軍事やテロなどにおいて、敵軍や警察など治安機関の無線局が使う周波数に同じ周波数を大出力で送信し、その無線通信、ミサイルの誘導などを意図的に妨げる行為を電波妨害と呼び、軍事の分野では電子戦とも呼ばれます。

前述のロシアの軍用無線局に対して日本の美少女アニメの主題歌を流しかけられた事案はまさに本来の無線通信や放送が第三者に乗っ取られた電波妨害の例ですが、一般的な軍用の妨害装置から送出される妨害電波自体は意味のない信号であるため、この記事における『傍受』とはあまり関連がありません。

ただし、電波ジャックの場合はなんらかの政治的メッセージ性が含まれる場合があります。

軍用無線局・警察無線局への電波妨害・電波ジャック

各国では陸海空軍に電子戦に対応した妨害電波送信装置が配備されており、日本でも航空自衛隊および海上自衛隊に電子戦機が配備されています。また、日本の治安情勢に関しては昭和59年7月、滋賀、京都、奈良、和歌山の各府県警察無線が日を変え時間を変えて電波妨害を受けたほか、同年9月19日、自民党本部が中核派の非公然組織である「人民革命軍」に襲撃された『自由民主党本部放火襲撃事件』において、ほぼ同時に警視庁の複数の警察無線の電波が約40分間の電波妨害を受けて警察活動が混乱する騒動も発生。

また、警察無線への妨害のうち、何者かがその電波を乗っ取った上で警察活動への不満を表明したり、日本警察と直接関係のない世界平和への祈り、さらに偽の指令を出す事例が過去にあり、これは電波ジャックと言えます。

放送局や防災無線への電波ジャック

メッセージ性のある電波ジャックという観点では、何者かが政治的主張を含ませた電波により、テレビ局などの放送局による正規の放送を不法に奪取し、乗っ取る事例も。

日本国内では85年に杉並区の防災無線が何者かにより電波ジャックされ、特定の選挙候補者が20分以上にわたって誹謗中傷される『杉並区防災無線電波ジャック事件』が発生しています。無線の起動用周波数にトーンスケルチ(制御信号トーン)を含ませた重畳(ちょうじょう)方式であった当時の防災行政無線は第三者による電波ジャックに無防備であったことから起きた事件です。

また、87年には米国イリノイ州シカゴで地元テレビ局のニュース番組「The Nine O’Clock News」の放送中、仮面を被った男が、奇妙な空間の中で意味不明の言葉を喋り続けたり、自らの尻を女性にムチで叩かせる不可解な映像が流れる『マックス・ヘッドルーム事件』が発生しています。あまりにも内容が意図不明であり、政治的主張があるのかは不明です。

2022年、ロシアウクライナ戦争では、ウクライナ支援を表明しているハッカー集団がロシア国営テレビ局のシステムをハッキングし、放送をのっとっています。

なお、日本では放送局に対する電波ジャックを「放送信号割り込み」と呼びます。

わが国の情報機関による傍受体制

このように外国政府工作機関、工作員等による非公然な通信や放送は日本国内の工作員への指令に使われている可能性があるため、国家の安全保障を担う情報機関(諜報・防諜を担う公的機関)や捜査機関による傍受体制が行われています。

我が国政府において非公然な通信や放送の監視を担う機関には自衛隊情報本部、警察庁警備局があり、それらを統括するのが前述の組織から出向した職員で構成された内閣情報調査室の国際部と考えられます。

また、このような外国の無線通信などを傍受、分析する作業をシギント(SIGINT; Signal Intelligence)と呼びますが、 日本各地にあるそれぞれの機関の傍受施設で諜報や防諜スペシャリストらが、戦後から現在まで長年にわたって傍受、分析しており、その詳細なプロトコルやアルゴリズムに関する知見も有しているとされます。

日本とソ連・北朝鮮との間の情報交換を無線でやり取りしているのでは、との疑いを当時の公安警察は厳しく監視していた。

引用元 アイコム株式会社公式サイト https://www.icom.co.jp/personal/beacon/ham_life/ja3ig/5035/

また一方では、国際的な無線愛好者グループや民間のシギント専門家などもHFアマチュア無線機や通信型受信機を用いてA3放送を受信し、その解読や解釈を試みてきましたが、生成された乱数や文字列がランダムであること、そもそもとして乱数表の入手が極めて困難である事情から暗号の解読、複合が難しく、外部のアマチュア無線愛好者や興味本位の解読者がこれらの放送をモニタリングして解読しようと試みても、内容を正確に復号することは困難と言え、一般にはこれら北朝鮮政府の行う非公然通信の全容は依然として不明です。

まとめ

HFにおける非公然の通信をご紹介いたしました。このようにHFの世界は一種独特のアンダーグラウンドの側面もあり、人を惹きつける要素があります。全世界を支配する巨大な意志の断片にHFを通して触れてしまった者に忍び寄る恐怖と魅惑。どこまで追うか、戻れるうちにやめるべきか。

しかし、アマチュア無線家としてHF通信の重要性を考えると、非合法なものや陰謀論的な見方ではなく、アンテナやDXなど技術的な視点から正しく理解したいもの。

したがって、これら非公然の放送や軍事通信の傍受に関しては是認されるべき個人の趣味の範疇と考えられますが、その目的はあくまでHF帯通信における電波伝搬の技術的研究にとどめたいもの。

傍受者自身と当該工作機関の間には十分に適切な社会的距離を保ち、特定国政府の主義主張、思想に感化されたり、安易に共感しない姿勢が必要です。

とくに北朝鮮等、対日有害活動を行う外国政府への親疎の態度によっては警察のみならず、自衛隊による監視対象となる可能性があります。

市民の監視は陰謀論ではなく、我が国の治安政策において実際に行われている情報保全および情報収集活動の一環と考えられています。

【陰謀論とラヂオ】日本人拉致との関連性を指摘されている北朝鮮によるA3放送とは?

80年代の冷戦期に比べれば鳴りをひそめていますが、いまだ一部の国では脈々と行われている短波や中波帯を利用した乱数放送。

これは世界各国で暗躍している、それぞれの国の工作員への秘密指令に他なりません。

我が国の周辺では、かつて北朝鮮の国営放送局である平壌放送(Voice of Korea)が行ったとされる乱数放送『A3放送』があります。

AMモード(ダブル・サイドバンド)の表記が”A3”であることからその名称がついたこの放送。

正規の番組放送の所々に暗号文を入れて放送され、北朝鮮政府による同国工作員または協力者への暗号通信手段として長年にわたって行われたとされています。

画像の出典 警視庁が押収した北朝鮮スパイが情報収集に使っていたスパイの道具 写真特集:時事ドットコム

A3放送は、長年公然と行われてきたスパイへの指令ではあるものの、その実態は不明。

実際の元工作員への取材によれば、A3放送による指示の一つには対日有害活動の中でも最も被害が深刻と言える拉致の指示があったと指摘されています。

それに関連し、我が国領海内で発生した工作船事件の直前、A3放送が活発化したという話もあります。

なお、工作船事件の際、北朝鮮本国と工作船との短波無線による交信を自衛隊の通信施設が傍受しています。

北朝鮮の乱数放送を警察や自衛隊は知っている?

北朝鮮当局からの乱数放送による指令は工作員による日本人拉致に深く関与している疑いがあります。

したがって、国家の安全保障から、これらに関連する通信手段等の情報は我が国の警察や自衛隊、そして情報機関が把握し、それぞれの機関が協力して電波を傍受、暗号を解読して情報収集や分析を行っていると考えられます。

具体的な情報は公にされませんが、一般にはこのような活動はいわゆる「シギント (Signals Intelligence:SIGINT)」と呼ばれる諜報活動の一環で、政府機関が他国の工作機関の電波を傍受、暗号を解読して通信を解析することは諸外国同様、いわゆる「シギント」と推定されます。

一般に各国および日本の自衛隊で行われている諜報活動については下記サイトで詳しく解説しています。

https://jieitaisaiyou.com/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E3%81%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%83%A8%E9%96%80%E3%81%A3%E3%81%A6%EF%BC%9F/

自衛隊情報本部は陸海空それぞれの情報部門を統合し、情報収集と分析活動を総合的に行い、政府首脳に国家の安全保障に関する情報を提供しています。

一方、警察庁でも同様に情報収集や国家の安全保障に関するシギント活動を行います。

対朝鮮半島防諜の大元は警察庁警備局ですが、国内外の治安に関する情報収集やテロリズム、スパイ活動、組織犯罪などに関する情報を収集分析しています。

また、都道府県警察本部も各地域における治安情報の収集や対処に関与しています。

北海道北広島市の郊外には巨大な対数周期アンテナやワイヤーアンテナが展張された施設があります。

畑の真ん中にひっそりと聳え立つこの謎の建造物は警察庁情報通信局の直轄である「千歳通信所」と呼ばれる施設。

北朝鮮当局と在日工作員やそのシンパとのHF通信による乱数放送の傍受がその主な任務とされています。

千歳通信所は実際に外国の電波を傍受するシギント活動の主体となる警察庁警備局外事情報課が運営する日本全国に10ヶ所以上設けられた通信所の一つ。

庁舎に警察施設との表記はなく、過去には関東のある通信所が市販の地図に掲載された際、警察当局が削除依頼を行ったことも。

TBSテレビの報道局記者である竹内明氏のレポートによれば、実際の傍受作業は情報通信局の技官の任務ですが、通信所自体は警察庁警備局外事情報課の直接指揮下にあるとしています。

また、★阿修羅♪掲示板の「No Such Agency(そんな機関はない)」、「Never Say Anything(何も喋るな)」と揶揄されるという記事では「警備局採用の通信職員と情報通信局採用の通信職員らが24時間体制で勤務」としています。

とくに北朝鮮では2000年以前、国外で活動する工作員に対して本国の放送局から短波や中波帯で乱数放送を行っていたことは有名です。

ラジオライフ誌や辺真一コリア・レポート編集長によれば、現在では当時ほどの活発さはないとされますが、近年では大学の通信教育の課題放送を装って指令を出しているとされます。

https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20160721-00060202/

このようなアナログな手段で今もスパイに指令が出される理由は、インターネットが比較的簡単に遮断および検閲できる(中国を見よ)のに対して、低い周波数を電離層に反射させ、国境に関係なく地球の裏側まで飛んでゆく電波に壁を立てて遮断することは難しいからに他なりません。

また、簡便かつ自作のアマチュア無線設備(無線機および空中線)を利用することで、どのような国でも比較的容易に受信環境を構築できます(ただし、北朝鮮国内を除く)。

良き社会人であるアマチュア無線家がスパイの隠れ蓑にされることも珍しくありません。

警察当局側がアマチュア無線家に対して先入観にとらわれた偏見を持つ理由は、過去に自分たちのアナログ無線が傍受されたこと以外にも、ここにあると言えます。

国内の北朝鮮工作員が使うHFアンテナは、独立系のぱちんこ屋さんの屋上によく展張されており、警視庁では所轄署の地域警察官が日々の地域警察活動で発見次第、本署警備課外事係に報告しています。

すると挙がった情報を元に本庁公安部外事二課(ソトニ)の捜査員が情通技官または警備局採用の技官を引き連れて電波発信の有無など現地調査を実施し、波の発信が確認出来れば、捜査員らはぱちんこ屋さんの近くに視察拠点を設け「行確(行動確認)」という第2ステージへ移行。

波が確認出来なければ、二課員と技官らは近くの富士そばで静かにソバをすすって帰るとされます。そっちの2課かよ。押井守かよ。おいちゃん、コロッケ追加!くすくす・・(笑)

海上保安庁の『海上保安資料館北朝鮮工作船展示』では、2001年の九州南西海域工作船事件で実際に同工作船が搭載していたアイコム製のハンディ機やHF受信機、モールス用の電鍵が展示されています。

A3放送の特徴

A3放送は通常、数学的なランダムのパターン、つまり乱数を読み上げることで本来の受信者以外の受信者にとっては理解しがたい情報を送出することが目的。

また、A3放送はときに北朝鮮政府が主に西側の敵対国や、韓国、日本の諜報機関を欺くため、偽りの政治的なメッセージや指示をも含ませていた可能性も指摘されています。

外部の敵対的監視者に傍受されていることを逆に利用し、無用な混乱を引き起こす欺瞞工作は軍事通信の常套手段と言えるでしょう。

A3放送は『乱数放送』

A3放送の基本スタイルは一般的な番組放送の合間、数分の間に行われる『乱数放送』です。

最もよく知られた手法に『乱数表』があり、北朝鮮の日本国内工作員には事前に乱数表が渡され、ランダムな数字の暗号電文を読み上げるA3放送を短波ラジオなどで受信した工作員は手元の乱数表と数字とを照らし合わせ、暗号を解読します。

  1. 特定の周波数帯域: A3放送は通常、平壌放送の周波数を使います。例として657kHzと3320kHzが確認されています。
  2. 短い放送時間: 通常、数分間の放送です。
  3. 乱数表による暗号化: A3放送はランダムな数字を利用した暗号電文であり、受信する工作員は事前に配布された乱数表と照らし合わせて復号します。
  4. 理解し難い内容: 内容そのものも暗喩が使われているとされ、部外者が具体的なメッセージの内容や目的を理解するのは困難です。

したがって、このような放送を受信するため、短波ラジオ類を所持する工作員が多く、警察に摘発された北朝鮮工作員の所持品リストに短波無線機や受信機が含まれることも珍しくありません。

高氏は小さいときにある親戚の家に行った際、屋根裏に入ろうとしたところ激怒されたことがあり、その数年後に工作員をその親戚の家で匿っていたことが判明。乱数放送を受信するラジオなどが没収されたことも明かしていた。

出典 北朝鮮からラジオで日本の工作員に指示? 夜中に流れる「乱数放送」をスタジオで公開 https://times.abema.tv/articles/-/8671495

ただ、657kHzや3320kHzで放送される平壌放送のAM放送に限って言えば、通常のAMラジオ放送かつ日本国内の放送局と近似の周波数であり、また非常に送信出力が強力であるため、市販の安価なAMラジオまたはSSBモードのない短波ラジオで難なく受信できます。

A3放送のように、国営放送局からの一方的な暗号電文の送信のみ(双方向ではない)以外にも専用の周波数があるとされます。

この『日本国内で活動する工作員=短波無線』という図式は、かつてのフィクション作品でもよく描かれたトレンドで、例えばかわぐちかいじ作『黒い太陽』のほか、釋英勝作『ハッピーピープル I LOVE JAPAN』などにおいて『工作員の自宅押し入れに隠された短波無線機』が登場します。

A3放送は表向きには2000年に終了したとされますが、形を変えつつも、その本来の目的のために継続運用されているようです。

現在は通常のラジオ放送を装って歌謡曲を放送するなどしていますが、実は曲および選曲の順序が工作員への暗号になっている可能性が指摘されており、北朝鮮国内で知られた『反日曲』を流すことで、なんらかの指令に代える例もあるとされています。

また、同じ偽装手法として通信制大学の課題放送を装う例も指摘されています。

この場合、テキストのページ数を淡々と読み上げるなど、古典的な乱数表に準じた手法が用いられます。

どのように北朝鮮の無線通信は傍受される?

日本の政府機関による北朝鮮のA3放送の傍受方法は非公開となっています。

  1. 傍受施設:
    • 自衛隊が公表している無線通信では東千歳通信所、小舟渡通信所、大井通信所、美保通信所、太刀洗通信所、喜界島通信所の6カ所で主にシギントを行っています。警察では北海道北広島市の通信所や東京都日野市の第二通信所(ヤマ)で行っています。
  2. アンテナと受信機材:
    • 前述した北海道北広島市に所在する警察庁通信所のアンテナは鋭い指向性と多数のエレメントを持つログペリオディックアンテナが主力となっています。これにより、通信の発信地点および受信地点をより正確に絞り込むことができます。また、自衛隊の6のシギント施設のうち、東千歳通信所や美保通信所では「像の檻」と呼ばれる円形状の巨大なWullenweberアンテナを配備しています。また、太刀洗通信所ではレーダードーム型のアンテナを配備しています。これらの通信所は他の通信所と連携し、三角測量で発信源を突き止めることができます。主にあらゆる方向からの30MHzまでの周波数に対応します。
    • 特定の周波数帯域で無線通信が行われている場合、その周波数帯域を傍受できるレシーバー(広帯域受信機)を使用して通信を傍受するでしょう。一般的には市販の受信機それも通信型受信機と呼ばれる製品で傍受をしていると考えられますが、70年代から80年代にかけての自衛隊では、米国製軍用高性能受信機「ハマーランド社SP-600」の国産品を配備していました。通信型受信機とは送信機と組にする無線設備としての性能を重視したデスクトップ型で、感度や選択度を可変できるつまみ、大型のチューニング・ダイヤルを備えています。北朝鮮情報専門収集民間団体である『一般財団法人ラヂオプレス』でも通信型受信機の使用実績があります。おそらく現在の警察や自衛隊では各メーカーに特注品を発注したと考えられますが、旧式の通信型受信機ではなく、SDR受信機が利用され、ほぼ自動化されているのかもしれません。
  3. 周波数掃引:
    • 周波数帯域全体をスキャンすることで、無線通信の存在や特定の周波数を特定する手法です。これにより、使用されている周波数帯域や通信のパターンを把握することができます。
  4. 解読技術:
    • もっともインテリジェンス性が高いと思われるのが解読です。当然これらの無線通信は暗号であるため、暗号キーの解析、暗号化アルゴリズムの弱点を利用する技術などを使い、ベテランの解析官が解読に当たるでしょう。ただし、過去には北朝鮮のミサイル予報を2ちゃんねらーが解読した事例があります。

 

んなあほな 出典 https://www.sankei.com/article/20170514-7ZYNUXBMXRPKLBX3JGVWPWLTUI/

気になるのは警察や自衛隊の無線傍受施設と総合通信局のDURASとの共助や協力体制ですが、不明です。

まとめ

近代の北朝鮮もインターネットによる連絡を利用することも珍しくないとされていますが、インターネットは政府情報機関による監視をすり抜けることは困難です。したがって、現在でも一定程度、アナログの短波無線が併用されています。

  1. 『A3放送』は、北朝鮮政府による工作員や協力者への暗号通信手段として使用された
  2. 日本の警察や自衛隊もそれを把握している
  3. AMモード(ダブル・サイドバンド)の表記が”A3″であることからその名前がついた
  4. 通常、乱数や特定のパターンで放送され、受信者は予め共有された鍵や情報を用いてメッセージを解読
  5. 通信制大学の課題放送を装う例もある
  6. 一般のリスナーには理解できないような特殊な手法
  7. 北朝鮮による日本人拉致事件とも関連しているとされる国家的な陰謀の一環

さらに以下の記事では、不明な通信の傍受に関して記載しています。

HF無線の世界はアングラだった・・・やべえ通信まとめ(傍受の際は当該工作機関から十分に適切な社会的距離を保つ必要あり)