「ある日の航空自衛隊パイロット』
C-130H輸送機のランプが開き、海風が機内に吹き込む。F-2戦闘機のパイロットは最後の装備チェックを終え、深呼吸した。「自機が撃墜された脱出後の生存戦闘」を想定した訓練だ。
今回は無人島へパラシュート降下し、そこから24時間、仮想敵である陸自の追撃部隊から逃げながら救助を待つ。
胸元の装備を確認する。フライトスーツの上から着用したサバイバルベストには一通りの救命装備品。
さらに、戦闘機からの脱出時、機外へ飛び出す射出座席のシート下にはアルミケースがあり、非常食や医薬品、海水脱塩材、救命保温具、携帯用の特殊毛布、無線機、拳銃、ナイフ、方位磁石、マッチ、ワイヤー、鋸、釣り具、ゴムボートと補修用品、救難用鏡や海面着色材などサバイバルキット一式が収納されている。
今回はそれらの装備も一部携行して降下する。
航空自衛隊のパイロット用拳銃は3部隊共通の9mm拳銃で、現在は旧式のP220に替わり、H&K SFP9である。
しかし、今回の演習では「9mm機関けん銃」が収められていた。——もちろん、訓練用の空包だが、それでも実戦さながらの緊張感はある。
コンパクトながらフルオート射撃が可能なこの日本製サブマシンガンは、万が一の脱出時に備えた最後の頼みの綱だった。
「降下!」
空中輸送員(ロードマスター)の指示と同時に、機体から飛び出す。視界いっぱいに広がる青い海、そして目の前には無人島。
数秒後、パラシュートが開き、体がふわりと持ち上がる。だが、降下中に油断は禁物。陸自の追撃部隊も別の地点から上陸しており、地上に降りた瞬間から戦いが始まる。
ただ、『PUBG』と違うのは、地上のそこらに武器が無造作に散らばっていないことだ。“復活”もなし。
輸送機からパラシュートダイブした彼は島内の茂みの中に降り立った。まずは身を低くし、周囲の状況を確認。すぐにパラシュートを回収し、身を低くする。遠くで爆竹の音——敵役の陸自隊員が接近している証拠だ。 こちらの位置を知られる前に、密林の奥へと進む。
敵部隊の捜索ヘリが接近しているとすれば、隠密行動が最優先だ。足元には体長1メートルは超える蛇が舌を出して睨んでいた。
「足のない奴は苦手だな」
しかし、今度は肩の上にヤンバルオオムカデが這っていた。体色はF-2の洋上迷彩にも似たブルー色だったが、航空手袋ですぐに払いのけた。
「足のいっぱいある奴も嫌いだ」
彼は友人のメディックから陸自のレンジャー訓練で蛇や虫を喰った話をよく聞かされたことがある。
「そんなもの、食えるかよ」と彼は苦笑いしたが、極限状況では虫まで食って生き延びることも想定しなければならない。
サバイバルキットから無線を取り出し、位置情報を発信。だが、もしも敵に発見され、逃走もままならない状況になれば、「9mm機関けん銃」が命を守る最後の盾となる。グリップ内蔵式マガジンを確認し、25発の訓練弾が装填されていることを確認。コンパクトなサイズゆえに携行性は抜群だが、ストックがないため、フルオート射撃時の制御には注意が必要だ。
「…こんなおもちゃかよ…」
思わず口をついて出た呟きに、自分でも苦笑する。もちろん、これは単なる護身用だ。本職の地上戦闘員ではないパイロットにとって、地上で撃ち合うのは最悪の状況でしかない。だが、それでも「万が一」がある以上、頼れる装備であってほしい。
もし、これが陸自の特殊作戦群で使われているMP7だったら——そう思わずにはいられなかった。4.6×30mm弾を使用し、ボディアーマーを貫通する高い貫通力を誇るMP7。しかも、ストックとフォアグリップが標準装備されており、制御もしやすい。
対して、この「9mm機関けん銃」はストックなし、弾も9mmパラベラム。精々、拳銃よりマシ程度の性能しか期待できない。
2時間ほど移動を続け、岩陰に身を潜める。耳を澄ますと、草むらをかき分ける微かな音——仮想敵の陸自隊員だ。気づかれたか?それともまだ探しているだけか?
パイロットは「9mm機関けん銃」をそっと構えた。実弾なら慎重に撃つべきだが、今回は空包。見つかった場合は発砲して「反撃意志あり」と示せば、敵役もそれに応じた行動を取る。
「ガサッ!」
茂みが揺れる。敵がこちらを発見した——
「バン!ババババン!」
咄嗟にトリガーを引く。銃口から白煙が上がり、カートが足元に落ちる。敵役の陸自隊員もすぐに応戦、空砲の乾いた音が響く。
「くそっ…!」
パイロットはすぐに伏せ、銃を抱えながら低姿勢で逃走を図る。9mm機関けん銃はストックがないため、フルオートで撃つと銃口が暴れる。 精度を保つにはバーストかセミオートが無難だ。
逃げるか、再び戦うか——判断の時間はない。
無線で救助信号を送るが、回収地点までまだ数時間ある。敵役の陸自隊員は確実に包囲網を狭めている。パイロットは岩場の陰に身を隠し、敵が通り過ぎるのを待つことにした。
「…生き残ることが最優先」
自らに言い聞かせ、深く息を吸う。これは訓練だが、実戦なら一つの判断ミスが命取りになる。9mm機関けん銃を手に、次の行動を考える。
戦うか、逃げるか——パイロットの地上決戦は、ここからが本番だった。
自衛隊パイロットの装備と携行品は?
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つまんないラノベはともかく、自衛隊の配備する航空機には固定翼機、回転翼機のほか、ティルト・ローター機のオスプレイがあり、これらの航空機操縦士はフライトスーツを着用し、ハーネスをつけた上から必要な装備品を収納したベストを着用します。
航空自衛隊の戦闘機パイロットでは、離陸時間が近づくと救命装備室で浮き袋の機能がある救命胴衣、パラシュートにつなぐトルソハーネス、さらに重力で血が身体の下方へ下がるのを防ぐ耐Gスーツなど、必要な装備品を身に付けます。
戦闘機パイロットは非常事態に対処するため、生存用入組品と呼ばれるサバイバルグッズを携行(多くの救命装備はまとめられて射出座席の下にコンテナ組み込み)します。これらの各種生存用入組品を見ていきましょう。
サバイバルナイフ
まずはサバイバル用品の基本とも言える「サバイバルナイフ」。航空自衛隊では複数の種類のナイフを配備しているようです。

航空自衛隊のサバイバルイフ 出典 株式会社セイワ
こちらは株式会社セイワさんが航空自衛隊に納入しているT-6300型サバイバルナイフです。釣具(釣り針、疑似針、かみつぶし、テグス)、火打石、サバイバルカード、コンパス、防水型LEDライトなどがシステマチックに収納。救命筏あるいは無人島で、非常食あるいはヤシガニを食べつくしたあとは、やはり付属の釣具セットを使って魚を釣り、ナイフで捌いて食べるのでしょうか。釣りのテクニックも普段から身に着けたいものです。まさに生存自活への第一歩を踏み出すためのアイテムがサバイバルナイフというわけです。
救命保温具
耐寒用の保温装備品として60度の発熱を70時間維持する救命保温具とレスキューシートも組み入れられます。

航空自衛隊の救命保温具 出典 株式会社セイワ
こちらの救命保温具も株式会社セイワさんが納入しており、最大温度80度、平均温度50度、持続時間60時間を維持する高性能なタイプです。
医薬品
医薬品として救急医療キットと野外用救急包帯を組み入れています。国内法では医官を除き、止血剤を携行できませんので、一般的な家庭用救急箱の中身に準じています。ちなみにリップクリームまで入っています。
海水脱塩剤
海水から真水を作る栗田工業製「海水脱塩剤」。ポリ容器入りの「救命水」も入ってますが、使いきれば雨が降らない限り、海水を飲まなければなりません。当然そのままでは飲めませんから、脱塩処理をして塩分濃度を0.05%以下にします。
その他
ほかにも「艦艇や上空の航空機に発見を促すための装備」として、煙と閃光が出る信号筒(昼/夜各別)、打ち上げ花火のようなペンシルガンと弾薬、防水携帯灯、太陽を反射させて使うシグナル・ミラー、さらに海面着色剤もあります。
また面白いものとしては捜索機のレーダーを反射するためにガスボンベで膨らませ、上空へ上げる風船キットが入っています。
操縦士の命を守るために必要な資機材、それが自衛隊の「生存用入組品」です。
いま助けに行くぞ!それまで食って待て!万が一の救命糧食は『ガンバレ食』だ!
忘れてはいけません。もちろん、救命糧食も携行します。自衛隊では食堂の食事をはじめとして、さまざまな飯が隊員に配給されますが、救命糧食とはどんなメシでしょうか。
その名のとおり、救命を目的としたもので、主に艦艇や航空機に通常搭載されている非常食なのです。航空自衛隊では紙ケースに真空パックされた6食分のビスケット・タイプの「A食品」と、ゼリータイプの「B食品」で構成されています。日本人の嗜好に合うよう和菓子風味で食べやすく工夫されています。
ところでこの救命糧食、別名「ガンバレ食」とも呼ばれています。
なぜかというと、箱の中に「頑張れ、救助は必ずやってくる!」というメッセージが書かれた防水紙が入っているためです。脱出した乗員たちはこの紙を見て元気を出すわけです。
海難救助では救難捜索機が救命糧食や生存支援用キットを応急的に空中投下することもある。実は一般販売もされていますので、興味があればご試食を。
ゼリー&クッキーセットタイプとクッキーのみタイプがあります。賞味期限は製造日より5年間とのことで、長期保管も当然大丈夫。自宅や車などに常備しておくと万が一の災害時にも安心。
このような航空機の非常事態においては、パイロットや乗員を救助するために24時間の即応体制をとっているのが、同じ航空自衛隊に編成された「航空救難団」です。
航空自衛隊の戦闘機パイロットが着る耐Gスーツとは?
戦闘機のパイロットが飛行中、体に受ける加速度(G)は、ときにブラックアウトやレッドアウトなどを引き起こして、操縦に深刻な影響を与えます。
このうち、血液が脳へ充分に巡らずに虚血状態となり、足へ集中することで起きる『ブラックアウト』と呼ばれる失神状態は、四肢を締めつける耐Gスーツを着用することで防げます。
現代の戦闘機はこの耐Gスーツなしで操縦することは極めて困難です。
自衛隊のパイロットは拳銃を持つの?
『エネミーライン』など戦争映画を見ていると敵の支配勢力内で撃墜され脱出した戦闘機のパイロットは拳銃片手に四方を逃げ回るのがお約束です。また『ブラックホークダウン』では、撃墜されたUH-60ブラックホークのパイロットはサブマシンガンで武装していました。
これら映画に登場する米軍ではパイロットの護身用小型武器の携行が比較的当たり前のように描写されていますよね。
3自衛隊共通のサービスピストル「”9mm拳銃” (licenseによるシグ・ザウアーP220の国内製造品)」
ベトナム戦争時代、米空軍の研究所にてパイロットの自衛用としてブッシュマスターという小銃が開発されたこともあります。実際、アメリカ軍では戦闘機、戦闘ヘリのパイロットは拳銃を携行して訓練を行っています。当然、本国での訓練がそうであるように日本国内でも私たちの頭の上を銃を持った米兵が日本の航空法に縛られず縦横無尽に低く飛んでいます。
では、自衛隊のパイロットも銃を持つのでしょうか。
陸上自衛隊に関していえば、携行して訓練飛行する場合もありますが、航空自衛隊の戦闘機や各種パイロットは訓練やスクランブルでも携行しません。
ただし、海外においては携行すると考えたほうが自然でしょう。
参考文献 プロが教える飛行機のメカニズム ナツメ社