※記事のバナー画像は佐賀新聞社の報道『民間人守る「身辺警戒員」を指定 佐賀県警【佐賀新聞】』から引用したもの。
2012年2月、警視庁を含む全国の警察本部に新たな任務として導入された「身辺警戒員(Protection Officer=PO)」という存在は、警察官の職務の中でも比較的新しいカテゴリーである。その性質から、しばしば「SP(セキュリティポリス)」と混同されがちだが、POとSPでは任務の範囲も対象も大きく異なっている。
今回は警察官の新しい任務『PO』について考察する。Contents
SPとPOの違いは明確
SPの任務は明確である。彼らは主に国賓や内閣総理大臣、大臣級の政治家、政党代表、さらには東京都知事、特に必要と認められた重職に就く民間人など、ごく一部の上級国民に限定された専属の警護官である。彼らの警護は公的なセレモニーや選挙期間中の遊説活動など、国家的関心が高い場面で展開されることが多い。
POが警護するのは「一般市民」である
ただし、ここでいう一般市民とは、単なる市井の人ではない。POの警護対象となるのは、主に暴力団から報復を受ける可能性がある者たちだ。たとえば、暴力団からの違法な要求に毅然と立ち向かった商店主、みかじめ料の支払いを拒否した中小企業経営者、地域の暴排活動に協力する町内会長や商店会のリーダーなどがこれに該当する。
彼らは、法に則って正しい行動を取った結果として、逆に暴力団の報復の標的になる危険性を背負っている。
加えて、暴力団の活動に関与していた元構成員で、警察に情報を提供した人物や、公判で証言に立つ予定の証人、さらにはかつて暴力団捜査に携わった退職警察官までもが襲撃され、命の危険に晒されるケースもある。
こうした市民の身辺を警戒し、物理的・心理的な安全を確保するのがPOの使命となっている。SPのようなメディアに映る華やかさはない。護るのは、スポットライトの当たらない“正しく生きようとする市民”たちである。
すなわち、POの任務とは、「国家の顔」を護るSPとは別の意味で、社会の秩序と倫理の根幹を護ることにほかならない。
その存在は、暴力団の理不尽な暴力に屈しないという市民の勇気と、それを支える国家の覚悟を象徴している。
POの所属は(警視庁の)SPと同じ警備部ではない?
SPは警視庁警備部警護課に所属する専従の警察官であり、組織としての一部署を構成しているのに対し、POは全国の都道府県警察で導入されている“制度”であり、特定の部署やセクションに組み込まれた「チーム」ではない。
言い換えれば、POというのは「身辺警戒任務の従事指定を受けた警察官」という個別指定の役割であり、組織として固定化された所属があるわけではない。
たとえば、青森県警が公表している『青森県警察身辺警戒員運用要領』によれば、POの指定や運用に関する事務は刑事部の組織犯罪対策課が主管しているが、実際にPOとして任務にあたる警察官は、捜査第一課・第二課、機動捜査隊、さらには所轄の警察署勤務員など、広範囲にわたる。つまり、刑事部門の中でも多様な現場から、個別に選抜される形式が取られている。
また同様に、千葉県警では、千葉日報の報道によれば約200人の警察官がPOとして指定されているが、その所属先は刑事部のみならず、警備部(機動隊員を含む)、さらに各警察署の通常業務に従事する署員などにもおよび、いわゆる“組対”(暴力団対策課)の専従捜査員に限られていないことがわかる。
これは、POという任務が特定の専門部門に限定されず、「暴力団からの報復の恐れがある市民を適切に守る能力を持つ警察官」であれば、その部署を問わず任務にあたるという柔軟な制度であることを意味していると言える。
都道府県によっては、刑事部以外の所属、たとえば生活安全部や地域部門の職員がPOに任命されるケースも存在するなど、その実態は一様ではない。つまり、POとは組織的な「部署」ではなく、能力と適性に応じて個別に任務を付与された警察官の“役割”であり、現場の状況に応じた機動的な運用が重視されている制度なのだ。
POの実力は?最高峰とも言われるSPの警護とのレベル差はどうか?
共同通信の報道により、彼らの任務の一部が判明しているが、同報道ではまさに「暴対版SP」と呼んでいる。POはSPのように専用のバッジを襟に着用するとしている。
上記の動画は東京都内の施設で行われた「身辺警戒員」に指定された警視庁警察官らによる公開訓練の様子。
警護対象者役に襲い掛かる襲撃者役をねじ伏せるPOの男性警察官ら。
また別のPOはそのまま警察車両の後部座席へ警護対象者役を乗せて現場から離脱する様子がわかる。その警護の手法はSPのそれを踏襲しているようだが、あくまで普段の訓練を公開したものであり、自ら手の内を明かすことなど当然しないだろう。
別の場面では女性POの存在も確認できるほか、警視庁POの警察官が手にするけん銃は回転式のほか、自動式大型けん銃も確認できる。
お伝えしているとおり、警視庁のSPにはベレッタ社の大型軍用けん銃シリーズ『92FS』系統のモデルが配備されていると見られる。
こちらは佐賀新聞社の報道した佐賀県警POの公開訓練の動画だが、こちらのPOは回転式けん銃を手に、セダン型警察車両から身を乗り出して周辺を警戒している様子がわかる。SPと同様、防弾アタッシュケースを手にするPOも確認できる。
この警護車両は反転式赤色灯を備え、SPや警護員用に配備されるエスコートカー(警護車)のようだ。警護車は一部防弾施工が行われており、けん銃程度の銃撃には充分耐えうる防護性を持つ。
“暴対版SP”ことPO発足は警察の新たな暴力団対策の一環
そもそもPOの発足が全国で進んだのは暴力団への利益供与などを禁じた暴排条例が全国で施行された2011年10月とほぼ同時期。つまり、警察が社会全体の暴力団排除を支えるために打ち出した新たな実践的対策である。
したがって、SPに比べると歴史は浅く、専従のSPとは異なる性格を持ちながらも、目的は同じく「警護対象者の命を守る」ことにあり、その対象を要人から地域の市民へと広げたという点において、現代の治安政策の一断面を象徴する制度と言えるのかもしれない。
【動画】安倍元首相の国葬にて首相SPが現場警備責任者の不手際を見かねて指示出し→責任者が『うるさい!黙れ!口出すな!』と市民の前でSPを罵倒→大炎上!