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デジタル簡易無線(登録局)は仕事と遊びの両方に使えるので、一般企業や警備業務、町内会のイベントや地域防犯活動などでもニーズが増えている一方、不特定多数の人や遠距離での交信実験などを楽しみたい若い世代にも注目されている無線です。
デジタル簡易無線制度誕生は2022年までのアナログ無線廃止計画がきっかけ
2008年の電波法改正によって、総務省による電波資源の有効活用による周波数の再編が決められ、企業などが現在使っているアナログ簡易無線機(400MHz帯)は2022年11月30日までの期限となりました。
このため、2022年以降も引き続き簡易無線局を利用する場合、アナログよりも狭い(つまり省資源で)帯域幅で通信できる「デジタル方式」のデジタル簡易無線機に移行しなければなりません。
こうした経緯によって平成20年8月、デジタル簡易無線制度がスタートしたのです。
デジタル簡易無線の『免許局』と『登録局』の違いとは?
デジタル簡易無線制度の発足により、従来の『免許局』のほかに『登録局』という区分が新たに設けられました。私たちホビー局が楽しむためのデジタル簡易無線は『登録局』です。では『登録局』は従来の『免許局』と、どのように違うのかじっくり見てみましょう。

2017年にアルインコから発売された人気の5W デジタル簡易無線(351MHz) モービル機『DR-DPM60』はそれまで高かったモービル機の敷居をググっと下げてくれた!画像引用元https://www.alinco.co.jp/product/prod_item.html?itemId=I20170531001
デジタル簡易無線の登録局はアマチュア無線のような従事者免許、つまり資格が不要で、局免も不要です。総務省への登録届け出のみで業務にも遊びにも使える無線局です。一方、デジタル簡易無線の免許局制度は通信の相手方として「免許人所属の局」のみとの交信を免許された、一般業務向けの無線局です。
周波数帳を読んだ方であれば、簡易無線の同じ周波数を別々のいろいろな会社が使っていることを知っていると思いますが、簡易無線局は会社が違っても、同じ周波数を使っていれば、同じ周波数で交信もできます(これを防ぐためにトーンスケルチ機能があります)。ただし、免許で指定された「交信の相手方」以外の相手と交信することは異免許人間通信の認可を受けていない限り、違法です。
総務省北海道総合通信局によれば、デジタル簡易無線の免許局および登録局の大きな違いは「キャリアセンス機能」の有無とのことです。
デジタル簡易無線は、平成20年8月に制度化され、従来の「免許制度」の他に「登録制度」が導入されたことにより利用しやすくなりました。 申請には「免許局」と「登録局」の2種類あり、使用する無線機によって分かれます。 「免許局」と「登録局」の大きな違いは「キャリアセンス(通信が行われている場合は送信ボタンを押しても電波が送信されない)機能」の有無です。
さらに、下記の同局の資料では免許局および登録局の違いとして、使う周波数やチャンネル数、不特定の者との通信の可否、レンタル使用とレジャー使用の可否などがあります。

引用元 北海道総合通信局公式サイトhttp://www.soumu.go.jp/soutsu/hokkaido/E/cr/dwn11.htm
なにより、デジ簡の登録局の魅力は仕事と遊びの両方に使えて、免許局には許可されない『不特定の者との交信』が許可されていることです。
アマチュア無線と同様に不特定多数の局へCQを出せる呼出チャネル(15チャンネル)があり、アマチュア無線と同様の楽しみ方ができるのです。
CQを出せる(不特定の人との交信が合法)という根拠は総務省総合通信局公式サイトのデジタル簡易無線登録局の説明のページにもきちんと明記されています。
登録局は、レンタルやレジャー使用、不特定の者との通信も合法としたほか、技術的には、「キャリアセンス(通信が行われている場合は送信ボタンを押しても電波が送信されない)機能」があります。
引用元 総務省 信越総合通信局 公式サイト
http://www.soumu.go.jp/soutsu/shinetsu/sbt/denpa/kani/digitalkani.html
このため、2015年に廃止されたパーソナル無線の乗り換え組や、長々と目的の無いおしゃべりをしたり、マニアック過ぎて技術的な会話、あるいはローカルとダラダラだべることに付いていけずにアマチュア無線になじめなかった若い人や、何かもっとスマートで良い無線を探している人にとっては、レジャーやホビー向けの無線として新しい魅力を秘めていると言えるでしょう。
なお、念のために書きますと、デジタル簡易無線機で受信できるのはデジタル簡易無線の電波のみであり、それ以外のアマチュア無線などとの交信はできません。広帯域受信機能もありません。
以降、当記事内では単に『デジ簡』と記載している場合、デジタル簡易無線の『登録局』を指していますのでご了承ください。
ただ、申請手数料と電波利用料がかかる点はアマチュア無線と同様ですが、デジ簡には総合通信局からはコールサインが付与されません。そのため、現状ではレジャー目的で使用する方は各自で好きなコールサインを名乗る慣習になっています。
コールサインの決め方には、とくに総務省からテンプレートが公表されているわけでもなく、法的な拘束力もありません。ただし、公的機関や企業と紛らわしいコールサインを名乗ってはいけません。
なおホビー局で主流のコールサインは地名、アルファベット、数字の3種類を組み合わせたものが多いようです。これはかつて、電監がCB無線局に発給していたコールサインにちなんでいます。
その名の通りデジタル化されたシステムが売りで、無線機からは固有のコードが送信され、電波がどの無線機から発射されたものなのかが総合通信局ではわかるようになっているほか、ユーザーコード、秘話の実装など、高機能でビジネスユースにも対応します。
周波数帯域は351MHz帯域で、警察の外勤員が本署との交信に使う署活系無線(361MHz/347MHzなど)と近似の帯域であり、同じくデジタルですので、似ていなくもありません(変調方式はそれぞれ全く違います)。
なお、デジ簡のデコード方式にはAMBE方式とRALCWI方式の2種類があります。どちらの方式も、同一方式の無線機としか通話ができません。
デジ簡の秘話コードとユーザーコードとは?
秘話コードとは簡単に言うと、ほかの人に交信内容を聞かれたくない場合に使用する暗号コードです。秘話コードはそれぞれの無線機で一致しなければ、音声として聞こえないので、交信内容に秘匿が必要な場合に心強い機能です。また、混信を防ぐ目的で使用することもできます。ホビー局ユーザーも秘話コードを設定することで、業務で使用している局との混信を防止できます。秘話コードについては以下のページで解説しています。
また、ユーザーコードとは数時三桁で設定する複数の特定の相手のみと限定して通話をする際に便利な機能です。とくに会社の部署ごとなどグループ別で交信する場合などに重宝します。
デジ簡の「キャリアセンス」ってなに?
キャリアセンスとは少ないチャンネル数の混信を防止するために設けられている機能で、近い局が交信を行っている場合、同じチャンネルで送信できなくするというものです。
このため、災害時での利便性が懸念されています。
アイコムのデジタル簡易無線機は5分経ってないのにタイマーが作動して送信が切れる場合あり
デジ簡の一回の最大送信時間は5分ですが、アイコムのデジタル簡易無線機は5分経ってないのにタイマーが作動して送信が切れる場合があります。
これは相手局の送信時間も合計してタイマーがカウントされるというアイコム社の設計思想であり、故障や不具合ではありません 。
そのため、自分が3分、相手が2分送信した場合などでも5分のタイマーが発動します。
これを回避するためには了解のあとに3秒間のブレーキングタイムを取るのがベストです。 ブレーキングタイムは本来、ほかの人からのブレイクを受け入れるために行いますが、アイコム製品の場合ですと、ブレーキングタイムを行うことで、タイマーがリセットされます。
デジ簡は自動的に無線機から、個別の識別信号をキャリアに載せて送信する
前述のとおり、デジ簡には総務省から付与されないのでコールサインはありませんが、実は自動的に無線機から、機種固有の識別信号をキャリアに載せて送信しており、総務省の電波監視では登録をした誰が電波を出したのか丸わかり。このような機能はかつてのパーソナル無線でも採用されていました。
アマチュア無線と同様に、違法な使い方をしている人は監視対象になり、最終的には警告や摘発などがなされるはずですが、技術的にアマチュア無線よりも特定は容易というわけです。
デジ簡のアンテナは技適許可されたものしか使用不可
デジ簡機のアンテナは技適許可されたものしか使用できません。自作のアンテナ、アマチュア無線のアンテナなどは使用できないので、デジタル簡易無線機用として販売されているものを必ず使用してください。現在販売されている各種アンテナは以下のページにて解説しています。
全国の消防では消防団員用としてデジタル簡易無線を配備する実例が増えています。
札幌市消防局をはじめとして全国の消防団では、消防無線とは別に消防団員用としてデジタル簡易無線を配備する実例が急増しています。
消防署員のほか、消防団員もまた466MHzの署活系消防無線を使うことがありますが、消防関係では消防団員のみが使用している無線として一部の消防団では「デジタル簡易無線(登録局)」の配備と使用も確認されています。
追記 近年ではデジタル消防無線にもデジタル簡易無線(登録局)の送受信機能を併せ持った機種が登場しており、消防署員もデジ簡を使用するように合理的な運用がとられています。
ただ、消防の業務で関係者がこれを使うことについては、なかなか法的根拠の判断が分かれるようで、東日本通商株式会社さんのサイトでは以下のように説明がなされています。
なお、最近、消防団がデジタル簡易無線を消防活動で導入運用された実例やお問い合わせが増えていますが、この簡易無線局免許の運用目的は「簡易な業務用」であって「消防用」や「防災用」としては免許運用は認められません。
と記載されています。
一方で株式会社エクセリの吉田さんは
デジタル簡易無線機は消防団で使用できます。電波法で消火活動にデジタル簡易無線免許局を使用することは禁じられていますが、見回りや消火活動以外の通信には使用できます。
とおっしゃっています。
消防団の業務と言っても、消火活動以外に行方不明者捜索などもありますから、人命救助、防災業務、見回り……どこで区切りをつけていいのか、なかなか判断の分かれるところでしょうか。
とはいえ、現在では全国的に見てみると、それぞれの消防団で数百台規模のデジタル簡易無線方式(登録局)が配備されている実例は多数です。
2011年に発生した東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では翌年の2012年、団員約700人用としてデジタル簡易無線機を配備しています。
疲弊する消防団、わずかな訓練・装備と報酬で危険な任務–震災が突きつけた、日本の課題《1》/吉田典史・ジャーナリスト
市では、消防団に配備されている車両に無線を備え付けていた。だが、車を離れると無線からの情報を得ることはできなかった。結局、団員51人が犠牲となった。
市は12年度から、団員約700人にデジタル簡易無線機を配備することにした。津波の到達時間や高さなどをすべての団員に連絡できるようにする。
また、札幌市でも200台近いデジタル簡易無線機を消防団用に配備していますが、公開されている無線運用マニュアルのなかで秘話コードに言及しており、以下のように説明しています。
デジタル簡易無線機には、秘話コードを設定しているので、一般の方が保有する無線機では、消防団の無線交信を傍受できません。
参照 札幌市消防団 無線運用マニュアル https://www.city.sapporo.jp/shobo/saiyo/documents/musen.pdf
鹿屋市でも平成29年にデジタル簡易無線機(消防団用)を配備しています。
市では、平成29年度特定防衛施設周辺整備調整交付金を活用し、消防団へ「デジタル簡易無線機」を配備しました。これにより、火災現場等において、これまで以上にスムーズな連携・伝令が可能となり、迅速な活動が期待されます。
出典 http://www.e-kanoya.net/htmbox/anzenanshin/syouboudan_seibi_4.html
新潟県の魚沼市消防本部は魚沼市消防団が使用するデジタル無線装置の発注仕様書を公開していますが、方式としてデジタル簡易無線方式(登録局)を求めています。
デジタル簡易無線機 17台 魚沼市消防団に配置しているデジタル簡易無線機(IC-D60)と互換性があるもの
酒田市消防団用無線システム概要として公表されているこちらの資料ではチャンネルとともに秘話も設定済みです。
運 用 要 領
1 運用チャンネル
①②③のデジタル簡易登録局は、メイン21CHとし、22・23CHは予備とする。(21~23CHは秘話を設定済)
出典 https://www.city.sakata.lg.jp/bousai/bousai/bousaisoshiki/dan-top.files/dan-musen.pdf
デジタル簡易無線機の交信の傍受はIC-R6などの一般的なアナログの広帯域受信機ではできませんから、デジタル簡易無線機を購入し、きちんと届け出をして登録を行った上で傍受するか、デジタル対応の受信機で傍受することが前提ですが、上の資料で言及されているとおり、デジタル簡易無線機には秘話を設定できるため、各消防団で秘話を設定している場合、秘話コードが一致しなければ第三者は傍受できません。
一方、重大災害時に消防本部や団本部などが開局し、関係者が呼び出しチャンネルを傍受していれば、被災者が救助を求める場合に消防関係との連絡もスムーズに取れる可能性もあります。
消防団が業務で使う場合は秘話コードを使用していますが、 呼び出しチャンネルでは秘話設定が無効になるので交信は可能です。
もちろん、その場合は消防の本来業務に支障のないように関係者の指示に従って交信をするのが前提と言えます。
なお、アルインコが製造販売しているデジタル消防無線機には260MHz帯域の消防無線に加えて、特定小電力無線、そしてデジ簡の351MHz帯も送受信可能な機種もラインナップされています。
https://www.alinco.co.jp/product/prod_item.html?itemId=I20140226001
今後、デジ簡は消防・防災機関と切っても切れない関係になっていくものとみられます。
デジタル簡易無線のまとめ
- デジ簡の登録局は業務やレジャー、どちらでも使用できる
- 免許や資格不要で登録のみで使用できる
- 不特定の人との交信も可能
- 秘話機能の搭載で業務にも安心して利用できる
- 15チャンネルは呼び出し専用になっており、アマチュア無線のメインチャンネルと同じ使い方をする
- 震災以降、消防団での配備実例が増えている
以上です。
デジタル簡易無線の登録の詳しい申請方法は以下のページにてまとめています。
このように遊びと仕事どちらにも使えて便利で頼りになるデジタル簡易無線の登録局。昨今では専門書籍が発行されると、ますます人気が高まり、登録者が増えてきているようです。
アマチュア無線では氏名のみならず、詳しい住所、さらには職業まで、まるで職務質問のように初交信で聞いてくる局もいますから、この個人情報保護時代、それにわずらわしさを感じるという方はどんどんデジ簡に流れていくことでしょう。
ただ、現状のデジ簡ユーザーではビジネスユースの業務局が大半で、レジャー目的や不特定多数と交信を楽しみたいフリーライセンス局はまだ多くはないと見られています。
現在のところ、デジ簡のチャンネル数は陸上用で30チャンネル、それに上空用として5チャンネルとなっており、地方都市では混雑が起きませんが、やはり東京などの首都圏ではチャンネル数不足が懸念され、場合によっては業務局と趣味的な局の混在するこのデジタル簡易無線では、お互いの利用目的の違いからトラブルが起きかねないので、不特定局と交信を楽しみたい方は、できるだけ業務局の邪魔にならないように充分にチャンネルチェックをしたうえで運用を心がけている方が多いようです。なお、前述したように、秘話コードを使うことで、混信をある程度防ぐことができます。
東京方面でビジネス利用者の合間を縫って、空きチャンネルを確保し、メインで平日の真昼間っから大胆にCQを出す……なんていうのは、アマチュア無線のレピーターでCQを出すよりもチョット勇気がいるかもしれませんね。でも交信ができると、とても楽しいのはアマチュア無線同様。
遊びと仕事も一台でコナセる上に、アマチュア無線同様、地震や災害など非常時でも役に立つデジタル簡易無線をはじめてみませんか。