あなたは「SERENA(セレナ)」と聞いて、何を思い浮かべますか?おそらく多くの方にとって、それは日産自動車の人気ミニバンではないでしょうか。
では、この曲のタイトルに「SERENA」とつけたアーティストの意図は、セレナに乗って出かける幸せな家族の風景を描きたかったからでしょうか。そんな微笑ましいイメージを思い浮かべた筆者は、せめてこれは日産との公式コラボ曲であってほしいと、どこかで願っていました。
しかし、その期待は不穏な旋律とともに、あっけなく崩れ去ってしまいました。
「エルグランド、アリオン、スカイライン、セレナ、キザシ……」
セレナどころか、メーカーの垣根すら越えて、次々と車名が読み上げられていきます。まるで秩序のない自動車名の連呼。
この曲が本当に意味しているものは、いったいどこにあるのでしょうか。
実は『SERENA』というこの曲、タイトルからは想像もつかないような、非常に風変わりな背景を持っています。
この楽曲は、なんと歌手自身が捜査当局から内偵捜査を受けた際の体験をもとに制作された、世にも奇妙な一曲なのです。
歌詞中に列挙される車名――セレナをはじめ、スカイライン、アリオン、キザシなど――それらはすべて、全国で捜査用に使用されている覆面パトカーの代表車種ばかり。
つまり、セレナはその中の一台に過ぎなかったのです。
アニメソングの世界では、トランスフォーマーやポケモンのように、登場キャラクターをリズムに乗せて紹介していく手法が古くから親しまれています。
しかし、ラップの世界でこの手法を本格的に用いたのは、おそらく本作が初めてではないでしょうか。
いったい何を意図して作られたのか――そんな疑問が浮かびます。
『SERENA』曲中に出てくる覆面パトカーは実に25種類
MV(ミュージックビデオ)では、刑事車両に見立てた“わ”ナンバーのセレナが2台登場し、それを運転する男性は、マスクにクールビズ、短髪という出で立ち。
無表情で冷たい目をしたその風貌は、まさに刑事をほのめかす演出にされています。
この演出は、作者がすでに日常の中に“刑事の存在”を感じていたことを示唆しており、楽曲自体が「ずっと見られていた」という心情の吐露としても読み取れます。
そのような精神的圧迫を受けた状態で生まれたこの曲は、自己投影の極みであり、“見られる側”が“見る側”を逆に歌い返すという反転構造を持っています。
さて、ではこの楽曲の中で紹介されている車種はいったい何台あるのでしょうか?
歌詞に沿って拾っていくと、その数は実に25台にも及びます。
エルグランド、アリオン、スカイライン、セレナ、キザシ、レガシィ、キャラバン、ティーダ、ノア、カローラフィルダー、ボクシー、エクストレイル、カペラ、セドリック、キャバリエ、パルサー、ディアマンテ、プレミオ、オデッセイ、グランディス、エスティマ、ハイエース、ボンゴ、ステップワゴン、クラウン、ブルーバード。
『SERENA』の曲中に出てくる”車両”は実にマニアックでした。
アリオンやスカイラインといったおなじみの車種に加えて、トヨタがかつて展開していた“アメ車”ことキャバリエ、そして近年注目を集めたスズキ・キザシなど、旧車から現行車までがずらりと登場。さらに、なぜか「レンタカー」を示す“わ”ナンバーまで挙げられています。
とはいえ、ただ単に車名を羅列しただけでは、独創的な楽曲とは言えません。しかし『SERENA』は、その一点において他と一線を画していました。
列挙される車種名の合間には、光る捜査員の目を皮肉るようなフレーズや、捜査当局を挑発するような表現が織り交ぜられています。
その結果、歌手自身の高ぶった情感と、得体の知れない緊張感が交錯する、稀有な楽曲となっているのです。
そして最後には、歌手本人がまるで“犯罪フラグ”を自ら立てたかのように、大阪府警捜査第四課によって実際に逮捕されるという皮肉な結末が待ち構えており、単なる車名のカタログでは終わっていません。
ラッパーREAL-T、拉致・集団暴行で逮捕
ラッパーのREAL-Tこと金拓也容疑者が、生命身体加害略取、逮捕監禁、傷害の疑いで逮捕された。
大阪府警捜査4課によると、今年4月、半グレ集団「リアルグループ」のメンバーとみられるREAL-Tとグループリーダーの山崎宏人被告らは、山崎被告と口論になった20代男性を公園に呼び出し……
なお、警察のみならず、「キンマ(近麻)の犬(密告者)」として関西の反社会勢力から広く認知されている『厚生労働省近畿厚生局麻薬取締部』も登場。
このように、曲『SERENA』は、タイトルとは裏腹に、覆面パトカー・警察の内偵捜査・自己投影といったモチーフが詰め込まれた異色のラップです。
※この記事は筆者の個人的な見解です。