刑事ドラマに警察はパトカーなどの撮影協力をしてくれるの?

刑事ドラマには、パトカーはもちろんのこと、消防車や救急車、さらには警備会社の現金輸送車のような特別な車両が欠かせないもの。こうした車両が用意されてはじめて、臨場感のあるシーンが成立し、ドラマとしてのリアリティも確保されます。

しかしながら、緊迫感を出すためにサイレン音やヘリコプターの音だけを効果音として入れる──そういった日本のドラマ特有の頼りない演出だけでは限界も。

現実味を持たせるためには、やはり実車両の登場が不可欠です。

ところで、警察はパトカーの撮影協力に応じてくれるのでしょうか。

実は、ドラマと実際の警察との協力関係を語る上で、どうしても外せない作品があります。それが、テレビ朝日がまだ「NET/日本教育テレビ」であった時代──昭和36年から16年間にわたって放映されていた名作ドラマ『特別機動捜査隊』です。

この作品では、警視庁が公式に協力しており、番組制作にあたって各種事件に関する資料を提供するなど、全面的な支援が行われていました。その結果、かつてないほどのリアリティを備えた刑事ドラマが誕生したのです。

このような警察との協力体制はその後も続き、1980年代に入ってからも、映画作品においてニューナンブ拳銃の撮影に警察当局が協力した事例が確認されています。実在の装備が映像作品に登場することで、刑事ドラマのリアリズムはさらに深まっていきました。

実銃ニューナンブが高倉健主演の有名映画に登場していた!?現代映像作品に欠かせないプロップガン(ステージガン)とは

しかし、昨今のドラマにおいて、警察の協力はほとんど見込めないようです。

ただ、トヨタ自動車さんの公式サイトでは『ごくまれに実際の警察に協力を仰いで車両をお借りすることもある』と記載されという一文が。

テレビなどに登場する警察車両は、ごくまれに実際の警察に協力を仰いで車両をお借りすることもあるそうです(略)

典拠・引用元 トヨタ自動車公式サイト GAZOO.com http://gazoo.com/car/pickup/Pages/daily_150225.aspx

たとえば、映画『もっとあぶない刑事』では北海道警察が警察署外観の撮影に協力した例があり、またNHK名古屋放送局制作のドラマ『リミット・刑事の現場』では、愛知県警察が考証などの制作協力を行っています。こうした実績がある一方で、警察車両そのものの撮影協力については、トヨタ自動車によると「極めて稀なケース」とされているようです。

一方で、自衛隊においては広報の一環として映画の撮影に積極的に協力し、車両や装備品を提供することがあります。また近年では、消防関係を主人公としたドラマも増えており、たとえばフジテレビの『119 エマージェンシーコール』では、横浜市消防局が車両等の撮影協力を行った例があります。

さらに、神奈川県警察が警察学校を舞台としたフジテレビ開局60周年特別企画『教場』において撮影協力を行ったことも話題となりました。

しかしながら、全国的に見ると、警察によるドラマや映画への撮影協力、特に車両に関しては、かなり慎重的な様子。これは、車両がその組織および権威の象徴とされているため、安易に民間の映像作品に使用させることが難しいという事情もあるのかもしれません。

とはいえ、警察が車両の撮影協力に応じないという状況で、ドラマに出ているパトカーは一体…?

パトカーなどの『劇用車』のレンタル会社がある

「劇用車」という言葉をご存知でしょうか。つまり、ドラマや映画などの『劇』に登場する「働く街の車」のレプリカ車両のこと。世の中には特殊な撮影用車両「劇用車」を貸し出してくれる便利な会社があります。

再びトヨタ自動車さんの公式サイトを引用。

ほとんどは劇用車を扱う業者が用意します。

典拠・引用元 トヨタ自動車公式サイト GAZOO.com
http://gazoo.com/car/pickup/Pages/daily_150225.aspx

そう、私たちがドラマで見ている『パトカー』は、このような撮影用の『劇用車』と呼ばれる車両。

警察庁丁規発第19号(2004年3月18日付け)によると、以下に明記されている。

劇用車とは道路運送車両法第4条の規定による自動車登録ファイルへの登録を受けていない自動車等であって劇中において使用するためのものをいう。

出典 警察庁丁規発第19号(2004年3月18日付け)

劇用車を扱う会社はインペリアル、芝山タクシー、フィールドサービス、LA Company(敬称略)など多数。

トヨタ自動車公式サイトさんによれば、最近の視聴者は詳しくなってきており、視聴者のしらけを防ぐため、劇用のパトカーには実際に警察に採用されている車種が使われるそうです。

『劇用車』のパトカーはホンモノのパトカーベースなの?トヨタは警察専用パッケージを劇用車リース会社に”特別販売”しているの?

こちらもトヨタ自動車さんの公式サイトによると、警察ドラマに登場する警察車両(パトカー)は「1から作っている」とのこと。

警察車両の劇用車は1から作る

警察車両は一般には市販も払い下げもされないため、普通のクルマをベースにレプリカを作成するという手法がとられています。

典拠・引用元 トヨタ自動車公式サイト GAZOO.com
http://gazoo.com/car/pickup/Pages/daily_150225.aspx

なるほど、当然といえば当然の話ですが、パトカーは一般に市販されることはありません。そのため、たとえ劇用車専門のレンタル会社であっても、本物のパトカーをトヨタから直接購入することはできないようです。実際にトヨタ自動車自身がそのように述べているのですから、それが現実のようです。

やはり、天下のトヨタが、クラウンの警察専用パッケージ仕様車を劇用車会社向けに「特別販売」しているといったことはないようです。

そうなると、劇用車として使われるパトカーは、最初から製作する必要があるということになります。製作に際しては、実際に全国の警察に導入された実績のあるクラウンなどの車種が選ばれることが多く、見た目や仕様にも徹底したリアリティが追求されているようです。

その劇用車パトカーの車内には、サイレンアンプやデジタル警察無線のモックアップ(マイク付き)に加え、速度を測定するストップメーターまで装備されていることがあります。ただし、実際のサイレン音については、撮影現場では鳴らさず、後から番組編集の過程で音を加えるのが一般的です。

もっとも、ドラマの中でパトカーの車内が細部まで映り込む場面はそれほど多くないため、せっかく作り込まれた装備の数々が画面に映る機会は意外と少なく、一部のマニアにはやきもきする原因ともなっているようです。

なお、このような劇用車のパトカーが撮影のためにロケ地まで自走で公道を走行する場合には、きちんとした手続きと慣例があります。

具体的には、「警察」の表記を一時的に剥がす(多くはステッカー仕様になっています)ほか、赤色灯に専用のカバーをかけ、「劇用車」「撮影用車両」などの表記を掲げて走行するのが業界の常識です。

このような劇用車と実際の警察車両との違いや運用事情については、警察庁が公開している資料にも興味深い情報が掲載されていますので、一読されることをおすすめいたします。

ロケ撮影と道路交通法について (警察庁資料)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/location_renrakukaigi/dai1/siryou3.pdf

まとめ

このように、大多数のドラマでは本物の警察車両ではなく、専門業者からリースされた劇用車が使用されて撮影が行われます。

筆者自身はパトカーに関しては素人で、細かいところまで理解しているわけではありませんが、警察マニアの方々が見たら、「よくぞここまで……」と感動してしまうのではないでしょうか。

ところで、昨今ではこれらの劇用車が、承認欲求の強いYouTuberたちによって悪用されるケースもあるようです。こうした問題に対して、業界全体での対応や監視が必要な時代になってきているのかもしれません。

【第2報】札幌の偽パトカー事件、YouTuberと劇用車会社従業員を書類送検