近年配備が始まった20式小銃はレールシステムを持ち、アンダーマウント式のグレネードランチャー装着を容易にしました。これはM4小銃に装備するM203や多くのUBGLが使う標準的な歩兵用榴弾のカテゴリです。
陸自はベレッタGLX160 A1を20式のアドオンとして採用しており、個々の小銃手に即応の榴弾支援能力を付与する狙いがあります。
単発式(単発・後装填)グレネードランチャーの特徴
単発式(単発・後装填)グレネードランチャーは世界中の軍隊で広く使われており、「歩兵個人に即応の榴弾火力を与える」というシンプルな役割から、現代の分隊戦術の重要な一要素になっています。
主に都市戦や近接戦、遮蔽物越しの制圧、照明・煙幕など多用途に使われます。
家屋突入前に窓や扉に榴弾を投射し、敵の頭上・遮蔽物の外に火力をかけることで突入小隊の安全性を上げることもできます。
遮蔽物に隠れた敵を直接殲滅するのではなく、破片での抑止や煙幕で退去を促す運用もあります。
弾種にはHE(高爆)、HEDP(高爆徹甲)、フラグメンテーション(榴弾)、照明、煙幕、クラスター/燃焼弾があるほか、警察任務用として非致死(ラバー、CS)など多様です。用途に応じて弾種を選択できるのが一般的です。
また、夜間の作戦において、照明弾を発射できるものもあります。
※世界での運用事例であり、自衛隊が対人榴弾以外の弾種をしているかは不明です。
単発式グレネードランチャーの世界的な使い方 列挙
ここでは代表的運用例(国別・状況別)と実務的な使い方・弾薬・射法・訓練上の留意点を、事例を交えて詳しくまとめます。
1. 分隊・小隊レベルでの即応火力(最も一般的な用法)
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概要:分隊編制の一部にグレネードランチャー装備者(grenadier)を置き、敵の遮蔽後方や建物の窓・扉、小群を遠隔で制圧する。
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典型的な場面:都市戦や近接交戦、遮蔽物越しの敵制圧、進入前のクリアリング支援。
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実例:多くの国でアサルトライフルにアンダーマウント装着(UBGL)して運用。米軍は歴史的にM203を使用し、近年は単体/アンダーマウント両用のM320や同等品が採用されています。
2. 戦術的多用途使用(閉所戦闘・山岳・ジャングル)
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都市戦:部隊が建物の奥にいる敵を相手にする場合、少量の榴弾で部屋内の制圧・致命的でない威嚇が可能。
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ジャングル/森林:遮蔽が多い環境で、視界外にいる敵の位置を揺さぶったり追い出したりするのに有効。
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特殊部隊:個別の即応火力・非致死弾の選択肢として持たせることが多い。
3. 立体的支援(照明/煙幕/信号)
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照明弾・煙幕弾を用いて夜間照明や視界操作、味方の進入路確保に使います。徒歩部隊が簡易な照明・目くらましを自前で行える点が有用です。
4. 非致死・治安維持用途
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警察・治安部隊や国連PKOでは、ラバ―バットン弾・CSガス弾など非致死弾薬を装填して群集制御や暴徒制圧で使用される例があります。軍の平時任務での柔軟性が高まります。
5. 車両・ボートでの補助火力
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単発式ラウンチャーを車載・ボート搭載で使うこともあります(ハッチ位置などに簡易マウント)。小型舟艇の即応火力やチェックポイントの制圧に活用可能です。
国別・機種別の代表例
以下は広く知られている代表的機種とその使われ方です。機種名は例示で、すべての運用細部は各国の部隊・期により差があります。
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アメリカ(M203 → M320)
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M203はM16/M4系の下に取り付けられるUBGLとして長年運用され、M320はスタンドアローン兼アンダーマウント仕様で改良版。小隊内の即応榴弾手が主に使用。
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ロシア(GP-25 / GP-30)
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AK系小銃の下に装着するグレネードランチャーが典型。短銃身で近接戦に適し、歩兵分隊の標準火器として広く採用。
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ドイツ・多国(AG36 / HK69A1)
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ドイツのAG36(アンダーバレル)やHK69(スタンドアローン)は高品質で欧州を中心に採用例あり。AG36は分隊支援、HK69は単体携行での利用に向く。
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イタリア・採用例(GLX160など)
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ベレッタGLX160は20式小銃との組合せで日本でも注目。軽量で単体+UB両用が可能。
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その他:各国は地形や任務に応じてUBGLや単体型を混在させるのが一般的です。
GLX160の詳しい製品仕様
イタリアの老舗銃器メーカー、ベレッタが開発したGLX160は、近年各国で注目されるモジュール式の40mmグレネードランチャーです。イタリア軍などで採用実績があり、単発ながら軽量で使い勝手が良い点が評価されています。
近年は歩兵装備のモジュール化が進み、小銃+アンダーバレル榴弾という組み合わせが再評価されています。
日本でも陸上自衛隊が配備を進める新小銃「20式5.56mm小銃」と運用を合わせる形で、GLX160 A1が配備され、普通科個人レベルでの榴弾投射能力強化に対応した装備です。
以下、仕様・派生型・日本での位置づけ・運用上の意義を整理します。
NATO標準の40×46mm(低初速)てき弾を使用
GLX160シリーズは、NATO標準の40×46mm(低初速)てき弾を使用する単発式グレネードランチャーです。単発式であるため連射はしませんが、携行性と射撃の確度を両立する設計になっています。
アンダーバレル(小銃下装着)としての運用と、グリップや銃床を付けてスタンドアローン(単体携行)で使える両用設計が特徴です。
製造元の公表する仕様では、40×46mm弾を射撃すること、照準は50m〜400m程度を想定した段階式の照準構造です。
こうした仕様から、GLX160は個々の普通科小銃手に即応的な榴弾支援能力を付与するための装備です。
運用上のポイントは次の通りです。
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小隊長や特定携行者に装備させることで、火力の即応性を高める。
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車載・96式40mm自動てき弾銃とは別レイヤーの火力を担う。 すなわち、GLX160は個々の小銃手レベルの短距離即応弾、96式は車載での連続支援という棲み分けです。
また、GLX160が使うのは40×46mm(低初速弾)で、これは歩兵用グレネードランチャーの国際標準です。
一方、96式40mm自動てき弾銃が用いる弾薬は「40mm」でも別規格のため、互換性がありません。
これは、96式40mm自動てき弾銃のような車載支援火器と棲み分ける設計です(近接支援=個人、広域・継続支援=車載)。

対人榴弾は人体に大きな威力があるが、戦車には?
手榴弾にせよ、バレルアンダーマウント式グレネードランチャーの榴弾にせよ、「対人榴弾」は、戦車に対してほとんど効果がありません。
「対人榴弾」は破片を撒き散らす
その理由は、対人榴弾が「破片」と「爆風」で人やソフトスキン車両(装甲のない車両)無力化を目標とするように設計されているのに対し、戦車はそれらに耐えるよう頑丈な装甲で覆われているためです。
対人榴弾(fragmentation/HE)は破片(フラグメント)を大量に撒き散らして人員を無力化するために作られています。その有効性は負傷半径があり、遮蔽物の少ない環境や建物内部・陣地の制圧で威力を発揮します。
手榴弾の効果半径は数メートル〜十数メートル、破片による負傷半径はさらに広がります。
戦車は炸薬量の少ない手榴弾の爆風や破片で貫通しない非常に厚い装甲である
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現代の戦車は厚い装甲(正面数百mm相当のRHA換算)や傾斜装甲、複合装甲、反応装甲(ERA)、アクティブ防護システム(APS)など複層的な防護を備えています。
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そのため、榴弾の「破片でのダメージ」や小口径の爆風は戦車の主装甲を貫通できず、致命的な損傷を与えられません(エンジンや光学機器、外部装備を狙うことはあっても戦闘不能化まで持っていくのは難しい)。
例外として、銃眼から投げ入れられた手榴弾が車内で爆発した場合、乗員は致命傷となります。
- 狭い車内空間で手榴弾が爆発すると、爆風のエネルギーが外へ逃げ場を失い、増幅されて車内全体を襲います。

対戦車装備として適切なのは
戦車の装甲を効果的に破壊・無力化する個人装備として優れているのは、成形炸薬弾(HEAT)を使った無誘導のロケット弾や、誘導式の対戦車ミサイル(ATGM/ATGW:例、Javelin、Spike 等)です。
これらは長射程・高い貫徹力を持っています。ミサイルは誘導式で高い命中率を持っています。
すなわち、対戦車攻撃=貫徹力(成形炸薬・高速徹甲弾)では、誘導ミサイルが必要で、対人榴弾は使用されません。
よって、部隊編成や火器配備は「普通科小銃手用の小銃アドオングレネード(GLX160等)による対人榴弾+96式自動てき弾銃」で対人支援を行い、戦車対策は別にAT装備や対戦車班を組む、というのが実務的な棲み分けです。
まとめ
自衛隊としては、小銃のアンダーマウント方式のグレネードランチャーの大規模導入は今回が初となります。分隊戦術を変える小型榴弾GLX160は20式小銃との組合せにより、陸上自衛隊の小隊戦術における即応火力が強化されます。

