撃たれても走れるランフラットタイヤとは
高機動車・トラック類

撃たれても走れるランフラットタイヤとは

高機動車・トラック類
この記事は約5分で読めます。

ランフラットタイヤ(Run-Flat Tire)とは、タイヤの空気が抜けても一定距離を走行できるように設計されたタイヤのことです。

軍用車両の世界では装甲車、特殊車両などで採用されており、たとえタイヤが銃撃などで損傷しても一定距離・速度で走行可能なのです。自衛隊では高機動車などに装備されています。

簡単に言えば「撃たれてもすぐ止まらない機能を持つ戦闘車両向けタイヤの一種」です。

ランフラットタイヤの基本構造

では、ランフラットタイヤはどのような仕組みになっているのでしょうか?

簡単に言うと、タイヤの内部に硬いサポートリングを入れたり、タイヤ側面(サイドウォール)を強化したりすることで、空気圧ゼロの状態でもリムが地面に当たらずに走行できるようになっています。

陸上自衛隊の高機動車のランフラットタイヤ

ランフラットタイヤには2種類があります。

  1. サイドウォール補強型
    タイヤの側面(サイドウォール)を強化し、空気圧が失われても車両の重量を支えられる構造。タイヤがパンクしても、ある程度の距離(一般的に50~80km程度)を低速で走行可能です。
  2. インサート型(補助リング)
    タイヤ内部に金属またはゴムのリング(インサート)を入れ、空気が抜けてもこのリングが車体を支える構造。走行可能距離はサイドウォール補強型より長めのものもあります。

ランフラットタイヤであれば、被弾や破片によるパンクの後でも、車両は数十キロメートルの距離を自走して安全地帯に退避することが可能です。

戦闘車両での利点

  • 戦場での機動性維持
    敵の小火器や破片でタイヤが撃たれても、即座に停止せず安全地帯まで移動できる。
  • 兵員や装備の保護
    車両が止まることによる戦術的な脆弱性を減らし、乗員の安全を確保。
  • 迅速な退避・補給行動
    パンク後も数十キロ走行できるため、戦闘地域から安全地帯までの退避や整備拠点への移動が可能。

注意点

  • 走行速度制限
    空気圧がなくなると高速走行は危険で、通常は50~80km/h以下での走行が推奨されます。
  • 寿命への影響
    パンク状態で走行するとタイヤやホイールの損傷リスクが高まり、補修や交換が必要になる場合があります。
  • 重量・コスト増
    補強構造のため、通常のタイヤより重く、高価です。

陸上自衛隊の軽装甲車や高機動車でも採用されており、戦闘環境や災害派遣での移動にも役立っています。

コンバットタイヤとランフラットタイヤは同じ?

軍用車両のタイヤには、「コンバットタイヤ」や「ランフラットタイヤ」といった、同じ特徴を持つものがあります。

どちらも“パンクしても走れる”という印象を持たれがちですが、厳密には同じものではありません。

「ランフラットタイヤ(Run-Flat Tire)」とは、本来は民間車両でも使用される技術です。

構造的にサイドウォールを強化したり、内部に補助リングを備えたりすることで、空気圧がゼロになっても一定距離を安全に走行できるように設計されており、例えばBMWなどの乗用車でも採用例があります。

タイヤが損傷しても直ちに停止せず、安全な場所まで自走できる点が特徴です。

米国の自動車情報サイト「CarGurus」も、ランフラットタイヤの目的を「パンク後も走行を維持するための技術」として紹介しています。

「コンバットタイヤ(Combat Tire)」は、明確な国際規格が存在するわけではない

コンバットタイヤ(Combat Tire)は、軍用車両向けに設計された高耐久タイヤ全般を指す総称です。想定されるのは、悪路走行、砲弾破片、地雷の爆風、銃撃など、極めて過酷な環境です。

日本の陸上自衛隊の装甲車両でも基本的にコンバットタイヤを装備していますが、軍用車両では「コンバットタイヤ」の中にランフラット性能を組み込んでいる場合も珍しくありません。

96式装輪装甲車
96式装輪装甲車(Type 96 Wheeled Armored Personnel Carrier)は、陸上自衛隊の装輪式の装甲兵員輸送車(APC)であり、各師団・旅団に配備され、普通科部隊の機動力向上を目的に運用されています。歩兵戦闘車...
87式偵察警戒車の任務とは
陸上自衛隊が運用する「87式偵察警戒車(Type 87 RCV)」は、戦車や装甲車の陰で静かに動きながらも、部隊全体の作戦を左右する“情報収集の要”を担う車両です。1980年代後半に導入されて以来、偵察部隊の中核装備として全国の師団・旅団に...

そのため、単にパンクに強いだけではなく、耐熱性、耐摩耗性、荷重性能、そして時には「ランフラットシステム」を含む複合的な防御性能を備えています。

米国防関連サイト「GM Defensive」では、軍用タイヤの多くが「Run-Flat System(ランフラットシステム)」を採用していると紹介しており、コンバットタイヤの中にはランフラット機構を持つものが多いことがうかがえます。

つまり、ランフラットタイヤは“パンクしても走れる技術”であり、コンバットタイヤは“戦闘環境でも車両の走行を維持するための総合設計”と言えます。

両者は目的の一部を共有していますが、意味としてはコンバットタイヤの方が広く、より過酷な条件を前提にしているといえるでしょう。

つまり、すべてのランフラットタイヤがコンバットタイヤではなく、またすべてのコンバットタイヤがランフラット構造を持つとも限らないと言えます。

まとめ

つまり、ランフラットタイヤは「パンクしても走れる機能」、コンバットタイヤは「戦闘用車両向けに設計された高耐久タイヤの総称」を指します。

ランフラット機構を持たないコンバットタイヤも存在しますが、近年ではほとんどの軍用車両がランフラット構造を組み込んでおり、両者の差は実質的に曖昧になりつつあります。

万能ではありませんが、機動性と生存性を高める実効的な手段として、軍・警察・一部救援部隊で実運用されています。

運用には速度・距離の制約や整備体制が不可欠で、これを前提にした戦術運用(CTIS併用や退避ルール)が行われます。

陸上自衛隊の高機動車が「独特の乗り心地」と言われる理由は?
陸上自衛隊の高機動車は、演習や災害派遣などで部隊の機動力を支える多用途車両です。悪路や積載状況に左右されず、陸上自衛隊の多様な任務を遂行できるその強靭な車両の秘密を詳しく見ていきましょう。高機動車の概要陸上自衛隊の高機動車は、1993年から...

参考資料

タイトルとURLをコピーしました