通常の交通取締りに使用されるパトカーには、レーダー式の速度測定器が搭載されており、停止状態から対象車両に向けて電波を照射して速度を測定する方式が採られています。

しかし、交通取締り用の覆面パトカーに関しては、事情がまったく異なります。
覆面パトカーによる速度取締りの基本原則は「追尾式」です。
これは、あくまで追尾によって対象車両の速度を測定する方法であり、絶対的な原則。
その理由は明快で、覆面パトカーに搭載されている速度測定器が「ストップメーター」のみであり、レーダーやレーザーによる速度測定器が基本的に搭載されていないからです。
とはいえ、レーダーやレーザーのような飛び道具を使用できるのは、赤色灯と一体化した測定機器をルーフに搭載できる、いわゆる白黒パトカーに限られます。
一般的に、全国で運用されている交通用の覆面パトカーには、こうしたレーダーは搭載されないもの。
しかしながら、その常識を打ち破るようなイレギュラーな存在が、過去に一切存在しなかったわけではありません。
実際、「レーダーを搭載した覆面パトカー」が一部で確認されていたのです。
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北海道警察の『レーダー搭載型覆面パトカー』
このような“イレギュラー”の最たる存在が、いわゆる「レーダー搭載型覆面パトカー」です。その代表例として挙げられるのが、2000年前後に北海道警察に配備されていた、150系クラウンをベースとした交通覆面パトカー。
この話の出典は、『ラジオライフ』誌2000年12月号および2001年4月号に掲載された連載『師匠大井松田吾郎のパトカー必撮指南塾』です。そこに「パンダリア」さんという読者が、2回にわたり投稿した内容によって明らかになりました。
この車両は、リアトレイ中央部にレーダーアンテナを後方に向けて搭載していたという、信じがたい仕様でした。
投稿された写真を見る限り、当時は交通覆面パトカーにスモークフィルムが標準装備される以前の時代であり、車内の様子も外からはっきりと確認できます。そして写っていたのは、まさしく設置式レーダー測定装置のアンテナ部分と見られる装備でした。
北海道警察が使用していたこの「レーダー覆面」は、地元ではある程度知られた存在であったのかもしれません。
実際に、北海道内をツーリングするライダー向けに交通情報を提供している以下のサイト様——
北海道のスピード取り締まりって?http://nirinbenri.boo.jp/10soudan/soudannaiyou/speed.htm
でも、まさにこの北海道警察の「レーダー覆面」について言及された一文が記載されています。
このことからも、北海道内の一部地域では、かねてより「道警のレーダー覆面」が認知されていたことが伺えます。
しかし、投稿を検証した大井松田吾郎師匠も当初、疑いの目を向けなかったわけではなかったようです。
これが“レーダー覆面”であるとされる根拠は二つ
北海道警察に実在したとされる「レーダー搭載型覆面パトカー」──通称“レーダー覆面”。その存在を裏付ける決定的な根拠は、二つあります。
1. レーダー測定装置のアンテナ部が、白黒パトカーやネズミ捕りで使用されるレーダーと酷似している
まず第一の根拠は、投稿写真に写るレーダーアンテナの外観です。
2000年代初頭に配備されていた白黒パトカー(いわゆる「白黒PC」)に架装されていたレーダー測定器と、形状やサイズが非常によく似ていることに加え、皆さんも一度は見かけたことがあるであろう、所轄の地域課や交通課の警察官が路肩で三脚に設置して使用する“ネズミ捕り”用のレーダー装置──そのアンテナ部とそっくりなのです。
投稿写真に写るアンテナは、リアトレイの中央に固定されており、その角度や向きも後方照射を想定した取り付けと見て間違いありません。
形状的に設置式レーダー測定器のものと酷似している以上、これがレーダーである可能性は極めて高いと考えられます。
2. 車内にレーダー操作盤が確認されている
第二の根拠として挙げられるのが、投稿者が撮影した当外覆面パトカーの車内の写真です。
レーダー測定器の操作盤がダッシュボード付近に設置されている様子がしっかりと写り込んでいました。
しかしながら、投稿を検証した大井松田吾郎師匠自身も、一見して白黒PCの室内と見まがうような印象を持ったのか、「これは白黒パトカーの車内ではないのか?」という疑念が、あったようです。
ところが、師匠は驚きをもって写真を精査し、ある決定的な装備に目を留めました。
それが、サイレンアンプのコンソール横に設けられていた「回転灯起立スイッチ」です。
このスイッチは、白黒PCには不要な装備であり、赤色回転灯をふだんは格納し、必要時にルーフ上へせり出させる「覆面パトカー」特有の機構です。
このスイッチの存在こそが“これは白黒PCではなく、正真正銘の覆面パトカーである”という確定的な証拠となりました。
こうした検証を経て、大井松田吾郎師匠は「ホンモノのレーダー覆面」であることを断言。そして、北海道ならではの訛りを交えつつ、次のように結んでいます。
「なーまらおっかねぇべやぁ~!」
まさに、道民ライダーたちの背筋を凍らせる一言でした。
覆面パトカーがレーダーを搭載することに問題はないのか?
この“前代未聞”とも言えるレーダー搭載型覆面パトカーですが、果たしてその運用に支障はなかったのでしょうか。
当然のごとく、大井松田吾郎師匠も『このような取り付け方で、正確に測定できるのだろうか』と疑問を呈しています。
その主な理由として挙げられているのが、レーダーアンテナとトランクリッドとの距離の近さ、そしてトランクリッドに設置された基幹系警察無線用のTLアンテナとの干渉です。
これらがレーダー測定に支障をきたす可能性がある、というのが師匠の見解でした。
当時の2000年代初頭における交通覆面パトカーのアンテナ事情といえば、まだまだトランクサイドに堂々と立てられたTLアンテナが主流であり、次いでTAアンテナが続くという時代背景がありました。
今でこそ“車内に秘匿設置されたユーロアンテナ”が一般的になっていますが、それはまさに「夢のまた夢」だった時代において、車内へレーダー測定器を秘匿していた北海道警察本部の先進性には驚かされます。
もっとも、投稿された写真は、何らかの違反車両を実際に取り締まった直後に撮影されたものと見られており、現実的にレーダーによる速度測定が正常に機能していた可能性も十分に考えられます。
北海道警察のレーダー覆面パトカーまとめ
覆面パトカーにレーダーを搭載するという発想自体が、あまりにも“常識破り”です。
結局のところ、2000年前後に北海道内で目撃されたこの謎のレーダー搭載型覆面パトカーについては、近年になって目撃情報が再び上がるようなことは確認されていません。
なお、北海道以外でも、熊本県警において“後方照射型”のレーダーを搭載した覆面パトカーが運用されているという情報もあります。
このような“イレギュラーな運用”をされている覆面パトカーの存在は、いつの時代も我々マニアたちの心を熱くさせてくれます。
もし、北海道の150系クラウン・レーダー覆面パトカーの実際の姿を見てみたいという方は、『ラジオライフ』誌の2000年12月号および2001年4月号を手に取ってみることをおすすめいたします。
それにしても、覆面パトカーって“都市伝説”が発生しやすいネタだと思うのは筆者だけでしょうか。その理由はモドキの生息もさることながら、このようにイレギュラーな都道府県ごとに異なる運用が原因のひとつかもしれませんね。
また、北海道警察の交通覆面パトカーに関する“都市伝説”については、かつて「千歳付近で“トラック型覆面”が速度取り締まりを行っていた」といった伝聞も、ネット上に出回ったことがありました。
おそらくこれは、千歳のSAT(特殊急襲部隊)秘密訓練施設に向かう機動隊車両が、たまたま著しい速度違反をしていた“わナンバー”の旅行者を見かけ、マイクで注意を呼びかけたという程度の出来事だったのかもしれませんが、今となっては真相は定かではありません。
ともあれ、“レーダー覆面”については都市伝説ではなく、かつて事実だったわけです。今現在、全国のどこかでひっそりと運用されていてもおかしくありません。
覆面パトカーの世界には、我々の常識が通用しない“例外”が存在するということは紛れもない事実。
だからこそ、ドライバーである私たちは、いついかなる場面においても法定速度を遵守し、安全運転を心がけることが何よりも大切と言えそうです。