アマチュア無線において、無線設備を通常保管する場所は「常置場所」と呼ばれています。この「常置場所」から運用を行う無線局は「固定局」とされ、固定局に対して「移動局」という対義語があります。
つまり、移動体で運用する場合は、車やバイクにアマチュア無線機を搭載して運用するが「モービル運用」です。
自宅の常置場所から運用するのはもちろん、車やバイクを使って移動しながら行うモービル運用も非常に楽しさがあり、無線愛好者にとっては魅力的な体験です。
CQ ham radio (ハムラジオ) 2009年 08月号 [雑誌]
B002DVBG0M | CQ出版 | 2009-07-18
車に搭載するアマチュア無線機はどのような種類があるか解説いたします。
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モービル運用では『モービル機』が最適
ハンディ機の記事でも触れましたが、ハンディ機を車に積めば手軽にモービル運用ができます。
しかし、やはり使いにくさは否めません。
モービル運用向けアマチュア無線機
結論として、モービル運用には車載用アマチュア無線機、いわゆる「モービル機」が最適です。
モービル機が主に使用する周波数帯である144MHzや430MHzは、比較的小型のアンテナで運用できるため、自動車やバイクでの運用が非常に簡単です。
モービル機の利点は多岐にわたりますが、セパレート式の液晶表示パネルを運転席の見やすい位置に設置すれば、スイッチ類やボリューム、スケルチのダイヤル操作が楽に行えるのがグッド。
また、モービル機は車のエンジンノイズを極力拾わないように設計されているため、車内で使用する際の雑音が大幅に軽減され、快適な運用が可能です。ハンディ機を車内で使用していると、エンジンノイズでスキャンが止まってしまうこともありますが、モービル機ではその心配が少なくなります。
アマチュア無線の電波形式にはAMやFM、SSBなどがありますが、FMモードは自動車のエンジンノイズに強いため、モービル機を使用する場合には最適です。ほとんどの市販のモービル機はFMモードに対応しており、車での運用には非常に便利です。
さらに、モービル機の大きな利点はバッテリー切れの心配がないことと、送信出力の強さです。ハンディ機が最大1Wから5W程度の出力に対して、モービル機は最大で50Wの送信が可能です。この高出力によって、より遠くまで電波を届けることができます。ただし、安定した作動を望む場合は、走行中に50Wの大出力を常に使用するのではなく、10W程度の出力が望ましいです。過度な出力はバッテリー上がりの原因となることもあるので注意が必要です。
現在、モービル機として販売されているアマチュア無線機は、144MHzと430MHzのデュアルバンド機が人気ですが、28MHzや50MHzのシングルバンド機もあります。さらに、広帯域受信や同時受信機能を持つ機種もあります。ただし、使用する無線機は自分の免許の級に対応したものでなければなりません。
もしモービル機を自宅などで固定局用に使いたい場合、家庭用のコンセントから直接電源を取ることはできません。そのため、「安定化電源」と呼ばれる装置を別途用意する必要があります。
オススメのモービル機は?(2025年版)
FTM-6000Sがおすすめです。

筆者は長らくスタンダードのFT-7900を愛用。使いやすさでベストセラーです。ハンドマイクにボタンがいっぱいついている機種は嫌だったのですが、使いやすさを考えるとこれ以上の選択はありませんでした。
実際、基本性能の高さと使いやすさ、さらには広帯域受信機能つきで、FT-7900は初心者から中級者まで幅広い層に人気となりました。
FT-7900 スタンダード(STANDARD) 144/430MHz帯 FMデュアルバンドモービルトランシーバー 20W
B002N4AV1Y | 八重洲無線株式会社 |
FT-7900の実質的な後継機であるFTM-6000Sが2023年に発売されています。
基本性能の高さは前機種を踏襲、もちろん広帯域受信は108MHz~999.995MHzと心強いもの。
さて、モービル運用で必要なものはもちろん、無線機本体に加え、モービルホイップという車用アンテナ。
また、バッテリーの配線も必要です。この電源を取る作業は素人には難しいかもしれません。
モービル・ハム入門: クルマで楽しむアマチュア無線 (アマチュア無線運用シリーズ)
4789815862 | CQ出版 | 2013-08-24
セパレート式操作パネルのおすすめ
無線機の操作性は、無線機本来の性能に加えて、取り付け方にも大きく左右されます。現在、多くのモービル機では「セパレートタイプ」と呼ばれる分割式の操作パネルが採用されています。つまり、操作パネル部分を運転席の操作しやすい場所に設置し、無線機本体は助手席の下などに設置するという仕組みです。この設置方法によって、スマートに配置でき、利便性が高くなります。
また、モービル機の場合、ハンディ機のようにマイクから音が出るのではなく、無線機本体に内蔵されたスピーカーから音が聞こえます。そのため、本体はできるだけ運転席の近くに設置するか、外付けスピーカーを購入して運転席付近に設置するのが一般的です。筆者は本体を助手席下に設置し、スピーカーから受信音を聞いていますが、明瞭に聞こえ問題ありません。
操作パネルは、付属のブランケットを使わなくても、車内用の強力粘着テープ(例:3M製)を使うことで、コンソールに穴を開けずに強力に固定できます。
車内の無線機を隠すべきか?
モービル機を車に取り付ける際、セパレートパネルの設置場所が問題になります。「車内で無線を使っていることを外から知られたくない」と考える人もいるかもしれません。
特に覆面パトカーなどでは、車内の無線機を目立たないように隠されているのは、ある意味参考になります(!?)。
例えば、無線機本体にカバーをかけたり、最近では無線機をグローブボックス内に隠し、ケーブルとハンドマイクだけをドアの穴から出す方法が採られています。これにより、無線機をよりスマートに秘匿できます。
とはいえ、正当な免許を持つアマチュア無線家にとって、車内の無線機を隠す必要は特にありません。ただし、車内で無線機を目立たせすぎるのも良くないかもしれません。特に盗難防止の警報装置がない車の場合は、無線機が搭載されていることを隠すほうが安全です。
バックミラーにハンドマイクを吊るすのも格好良いかもしれませんが、個人的にはちょっと勇気がいります。
モービル機のバッテリーはどこからとるの?
そのほかのモービル運用の注意点など
交信が尻切れになる場合がある
モービル運用では、移動中の車両から送受信を行うため、常に安定した通信環境が得られるとは限りません。とくにビル街や山間部などの遮蔽物が多い場所では、交信の終わりが相手に届かず、いわゆる「尻切れ」になることも。
相手局がローテーター付きのアンテナを持つ固定局であれば、移動局の方向にアンテナを向けてもらえるため、比較的安定した交信が可能です。しかし、固定方向のアンテナでは距離と角度の関係により、通信の一部が欠落してしまう場合があります。
コールサインの後ろに「ポータブル」か「モービル」とつける
法律で義務付けられているわけではありませんが、車両や携帯運用の場合は、コールサインの後ろに「モービル」や「ポータブル」などを付け加えるのが一般的な慣習です。これにより、相手局に移動局であることが明示され、運用状況が把握しやすくなります。
たとえば、北海道ではエリアナンバーが「8」であるため、「ポータブルエイト」と付けます。また現在地の市町村名などを付け加えることで、より親切なコールとなります。
なお、無線局の開局申請時に「移動する局」として申請していれば、車両以外にも船舶や航空機からの運用も可能です。航空機の場合は「エアロノーティカルモービル」、船舶では「マリタイムモービル」としてコールサインの末尾に添えます。7MHzで韓国からヨットでやってきたオーナーが「マリタイムモービル」を付けてQSOをしているのを聞いた時はワクワクしました。
車のバッテリーの寿命が短くなる
モービル機は内蔵バッテリーを持たないため、通常は車のバッテリーから電源を取って運用します。このため、繰り返し使用するとバッテリーの寿命が短くなる傾向があります。
また、直接配線の場合、無線機の電源を切り忘れたまま停車してしまえば、バッテリーが上がる可能性もあります。これを避けるためには、無線専用の補助バッテリーを搭載するという方法も考えられます。
運転中にハンディ機をそのまま使うと道路交通法違反になるが、モービル機は?
運転中の携帯電話使用が禁止されて久しいですが、実は「携帯電話」だけでなく、「無線通話装置」全般が道路交通法の規制対象となっています。このため、ハンディ機を運転中に手に持って使用するのは交通違反となりますのでご注意ください。
一方で、車載型のモービル機は対象外です。ハンドマイクやヘッドセットを適切に使用していれば、道路交通法に抵触しません。ただし、ハンディ機をモービル代わりに使う場合は、ハンズフリー装置やマイクを接続し、手に持たずに運用することが必要です。
日本アマチュア無線連盟(JARL)では以下(テーブル内)のように明記しています。
ご紹介しましたとおり、ハンズフリーによる携帯電話や車載型のアマチュア無線機の使用は、禁止行為にはなってはいないものの、やはり運転中に使用することは気が散漫になるおそれもありますので極力使用しないようにし、交通事故を生じさせないようにしていただきたいと思います。
アマチュア無線用の無線機では、ハンディートランシーバーが対象となり、走行中にハンディートランシーバー単体で使用をすると規制の対象となります。
ハンディートランシーバー単体ではなく、本体にヘッドセットやハンズフリー装置、モービル用マイク、スピーカーマイク、外部接続のマイク等つけて使用する場合は規制の対象外としています。改正道路交通法の詳しい解釈が必要な方は、直接警察庁にお問い合わせください。
引用元 http://www.jarl.or.jp/Japanese/2_Joho/041101mobile.htm (リンク切れ)
JARLさんでは「運転中に交信すると運転が散漫になるので、運転中のQSOはやめるべき」ともアドバイスをされています。安全運転を最優先し、停車時にのみ交信するのが望ましいでしょう。モービル機には、音声を感知すると自動で送信状態になる「VOX」という機能がある機種もあり、手放し通話も可能ですが、安全運転の観点から、やはり筆者としても、停車して交信するほうがスマートだと思います。
なお、道交法では「傷病者の救護または公共の安全の維持のために緊急やむを得ず通信を行う場合」は例外として認められていますが、これは救急車やパトカーなどの「当該車両」を対象としたものであり、一般車両のアマチュア無線は含まれません。
車載アンテナで警察の職務質問を受けるケースも モービル運用における一側面
車に無線用アンテナを設置して運用していると、警察官から職務質問を受ける機会が増える可能性があります。とくに目立つ形でアンテナが取り付けられている場合、警察官が「無線局の免許の有無」を確認しようと声をかけてくることがあります。
当然のことながら、有効な「無線従事者免許証」を携帯していれば、法的に何ら問題はなく、堂々と対応すれば良いのですが、突然の呼び止めには煩わしさを感じる方も少なくありません。
過去には、無線機の液晶表示を見ただけで「これは違法機だ」と誤った判断をした警察官もいたという報告が、北海道のアマチュア無線家によって記録されています。
おまわりさんがミニパトから出てきて「無線機を付けていますね~見せて頂けますか?」と言われ、私はやましい事はしていないので、どうぞ見て下さい。
おまわりさん達は、一応の警察マニュアルがあり「アンテナの特徴、無線機の特徴」などのA4コーピー資料を確認しながら無線機を見ていた。(搭載機:IC-706、C5900、FT5800)
すると一人のおまわりがIC-706を見て、これは違法機ですね~と、ほざいた・・・どうして違法機なんですかと聞いてみたら「周波数表示の液晶」らしいのです。警察マニュアルに、もそれらしき液晶画面が付いた無線機があった。それと同じだと思ったのでしょう。
引用元 http://ja8tdl.at.webry.info/201204/article_2.html (リンク切れ)
通常、地元で一度職務質問を受けて正当な免許所持者であることが確認されると、警察署内で情報が共有され、以後は声をかけられることは少なくなる傾向にあります。しかし、移動運用などで他地域を走行する場合には、その地域の警察官が無線アンテナに注目する可能性は依然として残ります。
このため、一部のベテラン無線家(OM)の中には、遠方への移動時にはトラブルを避ける目的で、事前に車載アンテナを取り外して出発する方もいらっしゃいます。
アマチュア無線は法律に基づいた健全な趣味でありながらも、一般的な認知度がそれほど高くないため、時にこのような誤解や不審視を招くことがあります。安全かつ円滑な運用のためには、必要な従事者免許証の携帯と冷静な対応が求められます。
モービル運用と移動運用は違うの?
両者は厳密には違います。移動運用とは良好な電波伝搬を得るため、ロケーションの良い場所に移動して、運用する手法です。
車などに無線機と大きなアンテナを積んで高い山の上で、アンテナを組み上げて運用するのが一般的です。
手間暇がかかりますが、ロケの良さから自宅での運用では出会えない局との交信が可能になるなど魅力がいっぱいです。一方、車で移動しながら無線を楽しむのは一般にモービル運用と言います。
モービル運用のまとめ
このようにモービル運用って、わずらわしいことが多いのですが、とっても楽しいんです。筆者はモービル運用こそアマチュア無線の醍醐味と思います。
一方で144MHzと430MHzは不法無線局の温床ともなっているのが、私たち正当に許可を受けた無線局としては辛いところです。ほぼ毎日、昼間はコールサインも言わない局が交信しています。だから正規の無線局が出てくるのは夕方以降や週末だけ……というツライ現実も。
しかし、モービルハムの楽しさは一度味わえば病みつきになるでしょう。ぜひチャレンジを。