35mm機関砲で何を撃つの?87式自走高射機関砲

対戦車・対空火器

戦車は地上戦で威力を発揮しますが、航空攻撃には脆弱です。そのため地上部隊の防空を補うために、砲塔に対空砲を搭載した車両、いわゆる自走対空砲(対空戦車)が開発されました。

もともと対空砲は対空射撃専用の牽引式や固定式が主でしたが、それを車上に載せて機動性を持たせたのが自走型です。携行式対空ミサイルが普及する以前は、部隊防空の主力はこの自走対空砲でした。

概要

87式自走高射機関砲は、陸上自衛隊が1987年に制式化した装軌式の自走対空砲です。

スイス/エリコン由来の35mm双連機関砲(KDA)を左右に備え、火器管制レーダーや光学追尾を組み合わせて全天候での短距離防空を担います。

車体は74式戦車の派生車体を用い、機動防空(機甲部隊と同行して近接防空を行う)を想定して配備されています。

創設期には米軍から供与された自走対空砲を運用していた陸自ですが、その後国産化が進み、「87式自走高射機関砲」を開発して部隊防空力の中核に据えています。

設計には西ドイツのゲパルト自走対空砲の影響が見られ、同様の機動防空能力を念頭に置いて開発されました。

35mm砲は何を対象とするのか―主な標的

本車両は対空装備として配備されています。すなわち、低空侵攻してくる敵の航空機を迎え撃つ役割です。また、35mm機関砲は用途が広く、対艦・対地ミサイルに続く低空の巡航ミサイルや飛翔体(近接防空):短距離/終末段階での迎撃を行う能力を持ちます(ただし迎撃は困難で射程・誘導の組合せが重要)。

無人機(UAV/ドローン)群や小型UAVに対しても有効です。最近の戦場では無人機対策が最重要課題の一つで、35mmは効果的な対処手段の一つです(特に弾薬や射撃モードによっては高い有効性を発揮)。

そして、必要時に本車両が迎え撃つのは地上の軽装甲車両や歩兵集団です。砲は水平射撃も可能で、対地支援にも転用されうる火力を持ちます。

まとめると、87式の35mm砲は「低高度で脅威となる空中目標の撃破/抑止」が本分で、ドローンやヘリ、近接飛翔体に対して短距離で高密度火力を浴びせることを目的としています。

砲弾の種類

87式自走高射機関砲は、車体左右にスイス・エリコン社製の35mm対空機関砲を備えますが、弾種によって狙いが変わります。一般的に次のような弾が使われます。

  • 徹甲弾(AP/APDS系):装甲や強固な機体部位を貫くための弾。耐弾装甲を持つ攻撃ヘリや軽装甲車への効果を狙います。

  • 榴弾(HE)/高爆徹甲(HEI):当たれば破片で広範囲にダメージを与えるため、無人機や人員、非装甲目標に有効。

  • 近接信管(空中炸裂/AHEAD 等):目標の直前で弾を分散・炸裂させることで、小型UAVやロケット・弾丸的な飛翔体に対して非常に有効な弾種(※AHEAD等のプログラム弾は多国で導入例あり)。87式での運用弾種は公表資料に差があり、一般的には直撃弾や榴弾が基本だが、近接信管・空中分散弾が有効性を高めるという議論がある。

(注)弾種の採用や能力は各国・各システムで異なり、具体的な装備仕様は公開情報にばらつきがあります。実戦でのドローン対策にはAHEADタイプの空中分散弾や、近接信管弾の導入が世界的潮流です。

レーダー機能

戦闘時に対空レーダーが起立

車体後部に配置された索敵用レーダーと追尾用レーダーは、いずれも約20キロメートルの範囲を監視します。索敵レーダーで目標を検出し、追尾レーダーで捕捉し続けることで、目標捜索と射撃を同時に行う運用が可能です。

さらに、光学系として画像カメラ、レーザー測距器、赤外線追尾装置を装備しているため、電子妨害がかかった環境下でも視覚・熱学的手段で目標を追尾し射撃できます。

まとめ

87式は機甲部隊と歩調を合わせて前進する近接防空が基本です。具体的には、師団や戦車大隊の側面・後方で低空脅威を監視し、レーダーや光学追尾で捕捉 → 高密度火力で撃破します。

現代では無人機群(swarm)や小型UAV、対地攻撃ヘリが主な脅威であり、これらに対して即応射撃と弾種選択で対処します。

配備から30年を超え、後継車両が気になりますが、結論から言うと、陸上自衛隊は87式自走高射機関砲の直接の後継を導入していません。

しかし、35mm機関砲を搭載した「89式装甲戦闘車」はレーザー測遠機、熱線映像装置、砲駆動装置とセットになった射撃統制装置により、対地攻撃だけでなく、対空射撃も実施できますし、個人携行型の91式携帯地対空誘導弾を備えた隊員による迎撃も行えます。

【スティンガの後継】91式携帯地対空誘導弾
自衛隊が配備する91式携帯地対空誘導弾は、米国製スティンガーの後継に位置づけられる個人携行型の地対空ミサイルです。誘導弾本体と発射機、味方識別装置などで構成される小型システムで、可視画像と赤外線の二種類のセンサを組み合わせた複合誘導方式を採...

自走式高射機関砲(SPAAG)が世界で完全に消えているわけではありませんが、形を変えているのが現状です。

旧来の“砲だけ”型は減りつつある一方で、機関砲を核にミサイルや高性能センサー、時にはレーザーを組み合わせた“統合型SHORAD(短距離防空)”が急速に注目・投資されているのが正確な実態です。

ウクライナ紛争や無人機(UAV)群の台頭で、短距離で高密度の火力を叩き込める“ガン(35mm等)”の有用性が再評価されています。退役していたGepardなどが供与されて成果を上げた例も報告され、NATOや諸国は“ガン+ミサイル+センサー”の組合せを再導入・強化しています。

将来は「35mm等の優秀な砲弾(AHEAD等)+短距離ミサイル+センサー/C2/DE(レーザー)」という複合的な近接防空が標準になっていく見込みです。

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました