免許が不要で登録のみで使える手軽なデジタル簡易無線の登録局は、業務利用とレジャー利用が同じ周波数を共有しているため、利用が集中すると混信が発生する場合があります。

しかし、ユーザー側の工夫によって混信の発生を大幅に抑えることができます。ここでは、混信防止に特に効果のある四つのポイントをご紹介します。
詳しく見ていきましょう。
デジ簡(登録局)の混信トラブルと諸々の問題
便利なデジ簡には注意すべき点があります。それは、登録局には「業務利用」と「レジャー利用」が混在しているにもかかわらず、制度上は開設目的として両者が区別されず、混信トラブルが起きやすい点です。
地域にもよりますが、通常の運用環境では閑散としたデジ簡のチャンネルで、それほど問題ありませんが、都市部やイベント開催時、登山シーズン、そして災害時など、利用が集中する場面では混信が発生しがちです。
業務局にライセンスフリー局はチャンネルを譲るべきか?
通常であれば、ライセンスフリー局のマナーとして、チャンネルの事前チェックが広く行われています。15chで呼び出しを行う前に、自分の使いたいchを10分程度聴取および「どなたかこのチャンネルをお使いでしょうか」と確認の呼びかけを行い、他の局が使っていないかを確認する手順です。

応答がなければ、使われていないと判断し、自分が使っても問題ないと判断するのが、一般的な運用です。
これにより、多くの場合は混信トラブルを事前に防ぐことができます。
ただ、この事前チェックをしたとしても、移動局などの場合は、あとから混信が発生する場合もあります。
そこで重要なのが、混信時にレジャー(ライセンスフリー局)用途の利用者は業務利用者に対してチャンネルを譲るべきか?という問題です。
この点を考える際の参考になるのが、アマチュア無線の取り扱いです。HF帯の一部では、アマチュア局と業務局が同じ周波数帯を共用しています。
この場合、混信が発生すると、アマチュア局は業務局に速やかに周波数を譲る義務があります。これは、アマチュア局が「二次業務局」、企業や官庁の業務局が「一次業務局」と位置づけられているためで、制度上の優先順位が明確に定められているからです。

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電波法施行規則第256条
アマチュア局は電波法施行規則第256条において、「自己の技術的技能の向上」などを目的とする「業務以外の無線通信」と明記されており、他の無線通信の業務(=一次業務)に対して混信を避ける義務があるとされています。したがって「二次業務局」という位置づけです。
登録局には“仕事”と“遊び”が共存するが、開設目的に“業務”と“趣味”の明確な区別はない
しかしデジ簡の登録局には、一次業務局・二次業務局といった優先順位の取り決めは、制度上存在していないと言えるのが現状です。
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どちらも法的には対等
デジタル簡易無線(登録局)は「業務用」として制度設計されており、業務利用・レジャー利用の別を問わず、登録局どうしは同じ制度下で扱われます。電波法上、「業務局」「アマチュア局」のような区別はありますが、デジタル簡易無線(登録局)内での優先順位(一次・二次)の制度的取り決めは存在していません。
制度が優先順位を定めていない以上、混信時にどちらが正当かを判断する基準がないため、現場レベルでのトラブル防止はマナーや合意に頼らざるを得ません。
電波法の中で「先使用の優先」は明文化されていませんが、一般的な無線運用の実務においては、先に使用している局を尊重するという慣習があることは事実です。
また、利用マナーとして“譲り合いの精神”を持つことが大切と言えるでしょう。
悪意なき混信問題(!?)
山の上の交信が、誰かの業務を止めているかもしれません
その特性ゆえに意図せず他局に影響を与えてしまうケースも少なくありません。とくに問題となるのが、標高差による“悪意なき混信”です。
混信を引き起こしやすいのはどちら?
結論から申し上げますと、15chで延々と交信し続ける業務局の事例を除けば、混信妨害を与えるリスクが高いのは、趣味で無線を楽しんでいるフリーライセンス局と言えるでしょう。
その理由は明確です。多くのフリーライセンス局は、見晴らしのよい高い山の上などから、高利得アンテナを使用して、不特定多数のフリーライセンス局と遠距離交信を楽しむスタイルをとっています。
こうした通信は、時に想定外の広範囲に電波が届いてしまうことがあり、知らないうちに遠く離れた業務局へ混信妨害を与える可能性もあります。
その混信、相手には届いていないかも?
こうした標高差などの通信環境の差によって、一方のみが妨害を受け、もう一方にはその妨害を気づかせられない“非対称な混信状態”は、業務中の通信が突然中断されるといった深刻なトラブルにつながります。
厄介なのは、混信を伝えたくても電波が届かない可能性があることです。相手が標高の高い山頂から送信している場合、業務局からの「混信している」というメッセージが届かず、一方的な混信状態が続いてしまうという現象が起きがちです。
自粛の空気はあったものの…
かつてフリーライセンス局の世界には、「平日昼間のCQは控える」という暗黙のマナーが存在していました。これは、業務で無線を使っている人々への配慮として自然と広まったものです。
法的なルールがないからこそ、各ユーザーの自覚と自治が求められていました。
デジ簡の混信防止に効果のある三つのポイント
それは3つあります。
1、互いにマナーを守る
まず一つ目は、基本的なマナーを守ることです。登録局は多くの利用者が同じチャンネルを共有する仕組みであるため、一回の通話を必要以上に長引かせないことや、周囲の通信を妨げるような長い雑談を避けることが欠かせません。
また、混信が起きた際は無理に押し続けず、一度送信を控えて状況を確かめる姿勢が求められます。こうした丁寧な運用は、業務・レジャーのどちらの利用者にとっても混信の抑制につながります。
一番の対策は、お互いに配慮し合うことです。趣味でも業務でも、「今このチャンネルを使っているのは誰か」「電波の届く範囲はどこまでか」を意識して運用することが大切と言えるでしょう。
2、多チャンネル機を使う
2023年にはデジ簡の登録局においてチャンネル数の大幅増波が行われました。
従来のチャンネル数が30チャンネルだったものが、増波後のチャンネル数は82チャンネルと大幅に増加しています。
もし予算に余裕があれば、増波対応機への買い替えを検討してみてはいかがでしょうか。これにより、混信の少ない新チャンネルで快適に運用できる可能性が高まります。
3、『RALCWI』方式を使う
現在、デジタル簡易無線(登録局)の変調方式は『AMBE』方式が主流ですが、アルインコ社では『AMBE』方式のほか、同社独自のデジタル変調技術『RALCWI方式』方式のデジ簡機も販売しています。
『RALCWI方式』無線機は一般にあまり普及しておらず、企業の業務使用であれば、『RALCWI方式』無線機を敢えて使うことで、他社との混信を防げる可能性があります。
※ただし、今後『RALCWI方式』の普及が進めばこの限りではありません。

ただし、不特定多数の局との交信を目指すライセンスフリー局では、圧倒的に『AMBE』方式が多いので、『RALCWI方式』を(間違って)選ぶと、意図しない分断が起きる可能性もあります。
4、便利な機能「秘話コード」を使う
四つ目は、秘話コードを適切に用いることです。この機能は言わば、「パスワード」で、「異なる秘話コード同士は互いに復調されない」という仕組みです。
秘話コードはすべてのデジ簡無線機に備わった機能であり、増波対応機や『RALCWI』方式の無線機を新たに買う必要はなく、手軽で実用的な混信防止手段です。
これにより、同じチャンネル上で別のグループと衝突しても、相手の音声が混ざらず、実質的に独立した通信環境を確保できます。
秘話コードの役割は「混信の低減」と「交信の秘匿化」
意外と見落とされがちな「秘話コード」。これは単に会話を他人に聞かれにくくするだけでなく、混信防止という意味でもかなり頼りになる機能です。
デジ簡には32,767通りの秘話コードが備わっており、使用することで混信を軽減することが可能です。無線機同士であらかじめ同じ秘話コードを設定しておくと、そのコードが一致しない限り、音声は復調されません。そのため、交信内容を他の局に秘匿することができるわけです。
ただし、秘話コードは混信そのものを物理的に防ぐ機能ではないため、相手局の送信が完全に“消える”わけではありません。電波を発射している最中はチャンネルが占有されるため、近隣の無線機にはキャリアセンスが作動することがあります。
この点を理解した上で、グループごとに秘話コードを使い分ければ、運用のストレスを大幅に軽減できます。
秘話コードの限界と注意点
以前は秘話コードが交信内容の秘匿化に非常に役立つ機能でしたが、2024年現在では、アルインコの広帯域受信機『DJ-X100』の拡張機能により、秘話コードが容易に解読されます。
このため、完全なセキュリティを求める場合は注意が必要です。
秘話コードの使い方には、以下のような注意点があります:
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秘話コードが使用できない特定のチャンネル(呼び出しチャンネル)がある
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秘話コードが解読されるケースがある
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一部のフリーライセンス局での秘話コード「27144」の共有という試みもあります
これらの詳細については、専用ページで詳しく解説していますので、ご覧ください。
また、混信防止に役立つのが、デジ簡機に備わっている優れた機能の一つ「秘話コード」や『ユーザーコード(UC)』です。
秘話の仕組み
秘話コードとは、5桁の数字をもとに搬送波に暗号をかける仕組みでデジ簡の標準機能です。
これにより、設定されたコードがお互いに一致しない他の無線機では、秘話がかけられた交信(搬送波)を受信すると、受信ランプは点灯しても無線機は復調せず、無音のままです。
要するに、相手が何を話しているかすらわからない、という状態になります。
理論上、32,767通りの秘話コードを設定できるため、3桁のユーザーコード(UC)よりも圧倒的に秘匿性が高いというのが特徴です。
近年、全国の消防団ではデジタル簡易無線(登録局)の配備が増加中。
消防団も活用中の「定番設定」
たとえば札幌市消防団では、各分団に数百台単位で登録局を配備。その際、第三者による傍受リスクを考慮して秘話コードを導入しています。
このように、同じ登録局を使っていても、秘話コードを活用することで「専用通話」ができます。
また、消防団だけでなく、常備消防でも本署と支署間で秘話コードを使って患者情報を送信しているケースがあります。
こういった運用が実際に広がっているのは、それだけ実用性があるという証です。
ホビー用途の「秘話」は秘匿ではない!?
一方で、「業務じゃないし、聞かれたら困る会話じゃない」と思っているホビー局も多いかもしれません。
ただ、山岳地などで多数の局が運用されるシーズンや、週末や連休などイベントが多く開催されるシーズンや特定エリアで混雑が予想される状況では、秘話コードを使っておくと、無用な混信を回避しやすくなります。
相手の無線機と同じコードを使っておけば、結果的にストレスの少ない運用につながります。
なお、フリーライセンス局の間では以下の秘話コードを「合言葉」のように使おうという呼びかけが行われています。

秘話コード設定は呼び出し専用チャンネルの15chでは反映されない
なお、デジタル簡易無線(登録局)の秘話機能およびユーザーコードは呼び出し専用チャンネルの15chでは反映されません。
ヤエスさんの公式サイトにも説明が掲載されていますので、以下に引用いたします。
15チャンネルではユーザーコードや秘話コードの設定ができません。故障でしょうか?
デジタル簡易無線登録局の15チャンネルは呼び出し用チャンネルとして定められており、ユーザーコードや秘話コードの使用ができません。お互いの使用チャンネルがわからないときなどの呼び出し通信用として使用し、継続して通信する場合は、速やかに他のチャンネルに移って通信してください。
引用元 https://www.yaesu.com/jp/dt_index/faq01.html#07

秘話コードの使用を明確に相手に宣言しておかないと、相手が同じコードで秘話設定していないと交信は不可。
また、秘話コードの入力間違い、逆に秘話なしで交信をするのが日常的な局は秘話の切り忘れにも気をつけたいところです。
なお、秘話コードを設定すると、コードを設定していない第三者の無線機では音声が復調されずに無音となり、無関係の業務局に趣味のフリーライセンス局の交信を聞かせてしまうことは防げますが、同じチャンネルを使っている限り、電波の占有自体はされます。
近距離においては一方が電波を発射している間は、干渉回避のためのキャリアセンスが働き、電波を発射できません。
デジ簡の標準秘話コードは簡単に解読可能
秘話機能は「秘匿性を高める補助機能」であり、「通信の暗号化」や「完全な秘匿性」を保証するものではありません。とくにデジタル対応受信機を所持し、ある程度の技術的知識を有する者であれば、解析や復調が可能な場合もあります。したがって、秘話コードは一定の私的保護を目的とした機能に過ぎず、通信の安全性を過信すべきではありません。
市販の広帯域受信機、たとえばアルインコ製『DJ-X100』(受信改造済み)などでは、デジ簡の標準秘話コードは簡単に解読可能です。
このような「秘話」は警察無線のようなデジタル暗号化ではないので、秘話解読にも違法性はありません。
つまり、完全な秘匿通信にはなりません。ただし、アルインコの自社方式の「強化秘話コード」などは解読対象外になっており、多少の安心材料にはなります。
まとめ:備えあれば、交信も快適に
秘話コードは、「混信を避ける」「必要な相手とだけ交信する」「不要な音声を聞かずにすむ」といった実利面で非常に有効です。必ずしも“秘密通信”を意識する必要はなく、“混雑回避の一手段”としての活用がポイントになります。
操作自体も難しくないので、設定しておいて損はありません。特に混信しやすいエリアでの使用が多い方は、今一度、自分の機器の設定を見直してみてはいかがでしょうか?
ただし、前述した通り、秘話コードの解析に対応した受信機も普及しているため、秘匿目的の場合は脆弱性に注意が必要です。

















































































































