デジタル簡易無線、混信トラブルを防ぐために知っておきたい「秘話コード」のこと

― 登録局の“業務”と“レジャー”の混信 ―

近年、ますます利用者が増えているデジタル簡易無線の登録局。その魅力は、なんといっても、免許局のように免許がいらず、登録だけで使える簡便さにあります。

また登録局であれば、営利企業における業務用途のほか、キャンプや登山といったレジャーシーンでも使用できる利便性があります。

このように便利なデジ簡登録局ですが、実はひとつ注意したい点があります。

登録局には“仕事”と“遊び”が共存するが、開設目的に“業務”と“趣味”の明確な区別はない

つまり、登録局には、業務で使う人と、レジャーで使う人が混在しているという点です。

普段は問題なく使えていても、より人口の多い都市部、イベント開催時や登山客の多い季節、あるいは災害時など、無線が多く使われるシーンでは、意図せず混信が起こるケースがあります。

では、こうした混信が発生した場合、レジャー利用者、すなわち遊びでデジ簡を使っている人は業務利用者に対してチャンネルを譲らなければならないのでしょうか?

この点を考える際のヒントになるのが、アマチュア無線の事例です。

たとえば、HF帯の一部周波数では、アマチュア局と業務局の両方に利用が認められています。そして、この帯域で混信が起きた場合、アマチュア局は業務局に対して周波数をすみやかに譲る義務があります。

プロの無線従事者の資格とは?アマチュア業務とプロの業務はどう違う?

なぜなら、アマチュア局は、“二次業務局”と位置づけられているためです。これに対して、官庁や一般的な企業がその業務で運用する“一次業務局”は、優先される立場にあります。

しかしデジ簡の登録局には、一次業務局・二次業務局といった優先順位の取り決めは、制度上存在していないと言えるのが現状です。

明確でないからこそ、デジ簡の登録局における業務とレジャー局の混信問題は決着がつかないとも言えます。

とはいえ、無線の世界にも“常識”はあります。先にそのチャンネルを使用している局が優先されるという考え方は、多くのユーザーに共有されている暗黙の了解です。

また、利用マナーとして“譲り合いの精神”を持つことが大切と言えるでしょう。

悪意なき混信問題(!?)

― 山の上の交信が、誰かの業務を止めているかもしれません ―

その特性ゆえに意図せず他局に影響を与えてしまうケースも少なくありません。とくに問題となるのが、標高差による“悪意なき混信”です。

混信を引き起こしやすいのはどちら?

結論から申し上げますと、15chで延々と交信し続ける業務局の事例を除けば、混信妨害を与えるリスクが高いのは、趣味で無線を楽しんでいるフリーライセンス局と言えるでしょう。

その理由は明確です。多くのフリーライセンス局は、見晴らしのよい高い山の上などから、高利得アンテナを使用して遠距離交信を楽しむスタイルをとっています。

こうした通信は、時に想定外の広範囲に電波が届いてしまうことがあり、知らないうちに遠く離れた業務局へ混信妨害を与える可能性もあるのです。

その混信、相手には届いていないかも?

こうした悪意のない行為でも、業務中の通信が突然中断されるといった深刻なトラブルにつながります。業務局は当然、趣味の局と交信する理由がありません。無関係な第三者の信号によって重要な業務連絡が妨げられるのは、避けるべき事態です。

しかも厄介なのは、混信を伝えたくても電波が届かない可能性があることです。相手が標高の高い山頂から送信している場合、業務局からの「混信している」というメッセージが届かず、一方的な混信状態が続いてしまうという現象が起きがちです。

自粛の空気はあったものの…

かつてフリーライセンス局の世界には、「平日昼間のCQは控える」という暗黙のマナーが存在していました。これは、業務で無線を使っている人々への配慮として自然と広まったものです。

法的なルールがないからこそ、各ユーザーの自覚と自治が求められていました。

混信防止のためにできること

一番の対策は、お互いに配慮し合うことです。趣味でも業務でも、「今このチャンネルを使っているのは誰か」「電波の届く範囲はどこまでか」を意識して運用することが大切と言えるでしょう。

加えて、2023年にはデジ簡の登録局においてチャンネル数の大幅増波が行われました。

もし予算に余裕があれば、増波対応機への買い替えを検討してみてはいかがでしょうか。これにより、混信の少ない新チャンネルで快適に運用できる可能性が高まります。

混信防止に便利な機能

また、混信防止に役立つのが、デジ簡機に備わっている優れた機能の一つ「秘話コード」や『ユーザーコード(UC)』です。

意外と見落とされがちな「秘話コード」。これは単に会話を他人に聞かれにくくするだけでなく、混信防止という意味でもかなり頼りになる機能です。

今回はこの秘話コードについて、ご紹介します。

秘話コードとは?

秘話コードとは、5桁の数字をもとに搬送波に暗号をかける仕組みでデジ簡の標準機能です。

これにより、設定されたコードがお互いに一致しない他の無線機では、秘話がかけられた交信(搬送波)を受信すると、受信ランプは点灯しても無線機は復調せず、無音のままです。

要するに、相手が何を話しているかすらわからない、という状態になります。

理論上、32,767通りの秘話コードを設定できるため、3桁のユーザーコード(UC)よりも圧倒的に秘匿性が高いというのが特徴です。

近年、全国の消防団ではデジタル簡易無線(登録局)の配備が増加中。

消防団も活用中の「定番設定」

たとえば札幌市消防団では、各分団に数百台単位で登録局を配備。その際、第三者による傍受リスクを考慮して秘話コードを導入しています。

出典:札幌市消防団 通信機器整備資料(PDF)

このように、同じ登録局を使っていても、秘話コードを活用することで「専用通話」ができます。

また、消防団だけでなく、常備消防でも本署と支署間で秘話コードを使って患者情報を送信しているケースがあります。

こういった運用が実際に広がっているのは、それだけ実用性があるという証です。


ホビー用途の「秘話」は秘匿ではない!?

一方で、「業務じゃないし、聞かれたら困る会話じゃない」と思っているホビー局も多いかもしれません。

ただ、山岳地などで多数の局が運用されるシーズンや、週末や連休などイベントが多く開催されるシーズンや特定エリアで混雑が予想される状況では、秘話コードを使っておくと、無用な混信を回避しやすくなります。

相手の無線機と同じコードを使っておけば、結果的にストレスの少ない運用につながります。


なお、フリーライセンス局の間では以下の秘話コードを「合言葉」のように使おうという呼びかけが行われています。

フリーライセンス局が使う秘話コード『27144』の由来とは?

秘話コード設定は呼び出し専用チャンネルの15chでは反映されない

なお、デジタル簡易無線(登録局)の秘話機能およびユーザーコードは呼び出し専用チャンネルの15chでは反映されません。

ヤエスさんの公式サイトにも説明が掲載されていますので、以下に引用いたします。

15チャンネルではユーザーコードや秘話コードの設定ができません。故障でしょうか?

デジタル簡易無線登録局の15チャンネルは呼び出し用チャンネルとして定められており、ユーザーコードや秘話コードの使用ができません。お互いの使用チャンネルがわからないときなどの呼び出し通信用として使用し、継続して通信する場合は、速やかに他のチャンネルに移って通信してください。

引用元 https://www.yaesu.com/jp/dt_index/faq01.html#07

デジタル簡易無線でCQを出す方法を解説!

 

秘話コードの使用を明確に相手に宣言しておかないと、相手が同じコードで秘話設定していないと交信は不可。

また、秘話コードの入力間違い、逆に秘話なしで交信をするのが日常的な局は秘話の切り忘れにも気をつけたいところです。

なお、秘話コードを設定すると、コードを設定していない第三者の無線機では音声が復調されずに無音となり、無関係の業務局に趣味のフリーライセンス局の交信を聞かせてしまうことは防げますが、同じチャンネルを使っている限り、電波の占有自体はされます。

近距離においては一方が電波を発射している間は、干渉回避のためのキャリアセンスが働き、電波を発射できません。

デジ簡の標準秘話コードは簡単に解読可能

市販の広帯域受信機、たとえばアルインコ製『DJ-X100』(受信改造済み)などでは、デジ簡の標準秘話コードは簡単に解読可能です。

このような「秘話」は警察無線のようなデジタル暗号化ではないので、秘話解読にも違法性はありません。

つまり、完全な秘匿通信にはなりません。ただし、アルインコの自社方式の「強化秘話コード」などは解読対象外になっており、多少の安心材料にはなります。

まとめ:備えあれば、交信も快適に

秘話コードは、「混信を避ける」「必要な相手とだけ交信する」「不要な音声を聞かずにすむ」といった実利面で非常に有効です。必ずしも“秘密通信”を意識する必要はなく、“混雑回避の一手段”としての活用がポイントになります。

操作自体も難しくないので、設定しておいて損はありません。特に混信しやすいエリアでの使用が多い方は、今一度、自分の機器の設定を見直してみてはいかがでしょうか?

ただし、前述した通り、秘話コードの解析に対応した受信機も普及しているため、秘匿目的の場合は脆弱性に注意が必要です。

なお現在、デジタル簡易無線(登録局)の変調方式は『AMBE』方式が主流ですが、アルインコ社では『AMBE』方式のほか、同社独自のデジタル変調技術『RALCWI方式』方式のデジ簡機も販売しています。

『RALCWI方式』無線機は一般にあまり普及しておらず、企業の業務使用であれば、『RALCWI方式』無線機を敢えて使うことで、他社との混信を防げる可能性があります。※ただし、今後『RALCWI方式』の普及が進めばこの限りではありません。

デジタル簡易無線(登録局)のAMBE方式とRALCWI方式の注意点について