前回は、アマチュア無線を車に積み込んで運用する「モービル運用」についてご紹介しました。
今回は、そのモービル運用において欠かせない存在である「モービルアンテナ」に注目します。アンテナは、外観(スタイル)を重視するか、送受信性能を優先するかによって選び方が大きく変わってくるため、なかなか悩ましいポイントです。
現在市販されているモービルアンテナは、対応する周波数帯によって長さや構造が異なります。一般的にモービル運用で多く用いられているのは、VHF帯の144MHzか、UHF帯の430MHz。144MHzでは良好な送信性能を得るためにアース(接地)が必要ですが、430MHzではアース不要のノンラジアルタイプが主流となっています。
アースがしっかり取れていないと、送信性能は大きく落ちてしまうため注意が必要です。ただし、アースを正しく取るには測定機器も必要で、作業自体も手間がかかります。面倒に感じる場合は、電源の取り回しと同様、販売店に依頼するのも一つの手段です。手軽に済ませたい場合は、ノンラジアルタイプのアンテナを選ぶのが現実的でしょう。
たとえば、Comet SBB3は、144MHz・430MHzの両方に対応し、アース不要で使える便利なモデルです。外観も通常のアンテナと変わらず、車両の見た目を損ねません。
一般にアンテナは長いほど受信性能が高く、飛距離も伸びやすくなります。筆者はこれまで、全長30cmほどのSBB0から、1m近い長さのNR770RSPまで試してきました。結果として、短いSBB0ではやはり受信感度が物足りず、逆に長尺のNR770RSPでは飛躍的に感度が向上しました。使用環境に応じて、最適なアンテナを選ぶのが大切です。
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モービルアンテナの取り付け方法
今も昔も、ハッチバック車であれば、多くの方がハッチバックに基台を付けて装着しています。
また、ルーフキャリア装着車であればキャリアに。セダンであればトランクリッドに一昔前の自動車電話型アンテナなど、基台を付け装着している方が多いでしょう。
一方、もっとお手軽にアンテナを付けてモービル運用したい方は、マグネット基台を利用しています。
その名の通り「マグネット基台」は磁石で固定するタイプで、車のルーフなどにぴったりと貼り付けるだけで設置できます。必要に応じて簡単に取り外せるのが大きな利点で、運用のたびに脱着できる手軽さが魅力です。
映画『私をスキーに連れてって』の冒頭でも、主人公が車の窓から手を伸ばして、颯爽とルーフにマグネットアンテナを取り付けるシーンが印象的に描かれていました。一方で、ラジオライフなどでおなじみの横山公一さんの漫画では、ラブホテルの車庫に入る直前に「すぐ取れるから待って〜」とアンテナを慌てて外していたら、ムードが台無しになって彼女に帰られてしまう……という苦いエピソードも登場しています。
まさに「私をホテルに誘うならアンテナは外してきて」といったところでしょうか。(『ラジオライフ流アマチュア無線の楽しみ方 PART2』より ©1993 三才ブックス・横山公一)
※同書はオンラインで購読可能です。https://contendo.jp/store/sansai/Product/Detail/Code/J0010336BK0050589003/
車にアンテナを取り付ける場合は、自宅にアンテナを設置するのと比べて制約も
車体の構造や走行時の安全性、さらには外観のバランスも考慮しなければなりません。
一般的にアンテナは「どこに」「どれだけの高さで」設置するかによって、送受信性能に大きな差が生じます。ですので、モービル運用でも可能な限り車の高い位置、たとえばルーフ上などに取り付けるのが理想です。
とはいえ、どれだけ性能の良いアンテナを用意しても、自分の車にうまく取り付けられなければ意味がありません。購入前には、アンテナの長さ、取り付ける場所、固定方法などについて、お店の方と相談してから検討するのが確実です。
ところで、実際に車に取り付けられているアンテナのサイズは、どのくらいが平均的なのでしょうか。
使用する周波数にもよりますが、たとえば業務用無線(400MHz帯)を使う商用車では、50センチ程度のアンテナが多く見られます。警察のパトカーでは、車両の中央に設置された70センチほどのホイップアンテナが一般的です。また、デジタル無線に移行したタクシーでは、20センチほどのコンパクトなアンテナ・MG-450-TP(450~470MHz対応)も使われています。
私たちアマチュア無線家が使う場合、長くても1メートル未満のホイップアンテナが主流です。特に50MHz帯などではアンテナがさらに長くなりますが、細身の形状で風の影響を受けにくく、走行中も安定しています。スプリングベース付きのアンテナであれば、車の振動も吸収してくれるため、より安心して使用できます。
ただし、長年使い続けている場合には、アンテナの根元や接合部の腐食や緩みにも注意が必要です。定期的な点検を怠らず、安全に運用しましょう。
なお、車庫入れ時などに便利な「電動可倒式」の基台も、ダイヤモンド社から販売されています。運転席からワンタッチでアンテナを倒せるので、狭い駐車場でも安心して使える優れものです。
自動車へのアンテナ設置方法各種
■ルーフトップ取り付け
マグネット基台を使って屋根の上へ設置する方法です。
■ルーフキャリア取り付け
ルーフに設置されたパイプなどにアンテナの基台を取り付けて装着する方法です。
■ハッチバック取り付け
最近ではどこを見ても、セダンよりもハッチバックを見かけることが多くなってきましたが、ハッチバック車がアマチュア無線のアンテナをつける場合は、ハッチバック用の基台が販売されていますので、それを利用して取り付けることができます。
■トランクリッド取り付け
一昔前の黒塗りのハイヤーが、よくこの方法で自動車電話タイプのアンテナを取り付けていました。前世代の自動車電話型アンテナですが、警察の白黒パトカーや一部の事業者ではこのタイプのアンテナが現役です。送受信可能モデル、送受信不可のダミーモデルタイプ、基台別売りタイプなど各種あるのでお間違えなきよう。
■リヤバンパー取り付け
ちょっと昔のアマチュア無線の書籍を読むと、この方法でアンテナを取り付けた車の写真が良く掲載されていますが、さすがに最近ではこの方法で取り付けているアマチュア無線家の車はちょっと見ません。
どの取り付け方法が一番いいの?
やはり一般的には、屋根の上に垂直にエレメントを立てるほうが感度も飛びも抜群です。しかし、ただ単に屋根の上と言っても、位置を少しずらしただけで送受信感度が大きく違ってきます。
また、車の背が高くなりますので、立体駐車場などの入り口の狭い場所では、アンテナの接触にご注意ください。また、アンテナケーブルを車内に引き込むと、晴天だと何も問題がないのですが、雨天で豪雨だと雨漏りが発生します。
ルーフにアンテナを取り付けて同軸をドアの上の隙間から車内に引き入れる限りは対策は難しそうです。さらに極論を言えば、「車体に傷を付けないモービル基台はない」と考えたほうが良いでしょう。
どんな形状であれ、マグネットであれ、多少の傷はつきます。また傷以外にも貼り付け基台などはずっと同じ場所につけておくことになるので日焼けは免れません。これが、新車を買ったアマチュア無線家泣かせでもあります。
コメットからドルフィン型アンテナ登場
ASF-430というアンテナで2013年のハムフェアで新製品として発表されました。その名の通り、耐入力は5wで430帯域のアマチュア無線の送受信に対応しています。351MHz簡易デジタル用もあります。装着はマグネットで車のルーフにポン付けできます。これでアンテナを秘匿しなくても済むようになる!?