複数の銃種を携帯性や操作性、それに安定供給と価格などから総合的に評価のうえで選定する警察庁の「けん銃選定基準」。
その厳しい評価試験を経て各都道府県警察に配備されるのが、今回取り上げる銃。
これらのけん銃は国内精密大手のミネベア、伊藤忠商事や三井物産エアロスペース、日本航空系のJALUXなど大手商社が輸入代理店になっており、JALUXはHeckler & Koch社の日本正規代理店としても知られ、海上自衛隊特殊部隊で配備されるHK416も同社経由で納入。
警察庁ではこれら国内の輸入代理店各社を介して随意契約で銃器を購入しているわけ。
現在、各都道府県警察で配備されるけん銃は回転式3種、自動式2種が主流です。
とりわけもっとも配備数が多いのは、やはり戦後からの伝統とも言える回転式。

正しい射撃フォームの研究を行う女性警察官の写真。日警の制服とシルバーのリボルバーって意外と合いますね。僕は実銃なんて言ってないですよ。※写真は毎日新聞社公式サイトから引用したもの。
1960年から近代まで長らく一本化され、全国の警察本部で標準的であったニューナンブM60(新中央工業およびミネベア大森製作所製造)は、90年代で製造が終了。
耐用年数の限界から徐々に用廃となり、第一線の地域警察官の腰道具としては後述の後継機種と代替が進んでいます。
その後継として2000年代初頭に「Smith & Wesson M37 Airweight」、さらに2006年ごろからはさらに後継として、同じくSmith & Wesson社のM360を日本警察仕様として細かな改修を施した「M360J”SAKURA”」を取得。
現在、これら3種の38口径回転式けん銃が、全国の地域警察官、さらに刑事部、生活安全部などの私服捜査員でほぼ標準化しています。
ただし、一部の制服警察官にも自動式けん銃の貸与が行われ、80年代までは自治体警察時代にアメリカ軍から支給された旧装備品の45口径コルト・ガバメントを吊った愛知県警察の交番勤務員がいたほか、近年ではオリンピック警備強化の特殊事例として警視庁地域部の警察官にグロック45が配備されるケースも。
一方、自動式けん銃は刑事部の機動捜査隊などに広く配備されており、こちらは小型のP230(32口径)、そして捜査一課内に編成されているSITや、組織犯罪対策局の捜査員、テロなどの重大事案に対処する警備部機動隊の各種機能別部隊には、より威力の強いM3913(9㎜口径)という二種のけん銃を配備中です。

Contents
ミネベアミツミ株式会社(旧・ミネベア株式会社)
かつての新中央工業を吸収合併し、銃器の生産を引き継いだ国内精密最大手のミネベアミツミ株式会社(旧・ミネベア)では、警察庁および防衛省自衛隊向けのけん銃、機関けん銃を製造、納入。
ニューナンブM60
ニューナンブM60は現在のミネベアミツミが新中央工業を買収する以前、同社によって開発された5発装填の官用38口径回転式けん銃です。1960年に警察庁に配備され、各警察本部に配分されたほか、法務省の刑務官、海上保安庁、麻薬取締官等でも配備され、国産官用けん銃の雄として広く治安の一翼を担いました。
その後、新中央工業はミネベアの特機部門に吸収合併されて消滅し、ミネベア大森製作所が最終製造まで担当。

署長による装備品点検の様子。署員が着装しているのは3インチのニューナンブM60。引き金の後ろには不意の暴発を防ぐための『安全ゴム』と呼ばれる部品が押し込められていることにも留意。制服や手帳、けん銃など日常業務を行う上で欠かすことのできない装備品は所属署の署長により厳しいチェックが行われる。写真の出典 宮古毎日新聞社『合い服に衣替え/宮古島署』http://www.miyakomainichi.com/2013/11/56395/
ニューナンブM60の原型はアメリカS&W社のM36チーフスペシャル。しかし、完全なる複製ではなく、全体的にやや大きく再設計されているのが特徴です。
銃身長は制服用の3インチ(77ミリ)長銃身および、幹部(あるいは私服用とも)用の2.5インチ(51ミリ)の2種。
90年代にグリップ下部を延長して小指をかけやすくした新型グリップに換装されるなど、若干の近代化改修を受けています。
ニューナンブM60の口径は警察の法執行用けん銃の口径としては威力も必要以上に強くなく、最もポピュラーな38口径(.38スペシャル)ですが、2006年に起きた堺市南区和田東の盗難車逃走事件ではパトカーに体当たりを繰り返してきた盗難手配中のトヨタ・ランドクルーザーの横っ腹を軽く撃ちぬいて男性被疑者の脇腹に警察官が命中させ、法を執行しています。
銃の弾丸を『実包(じっぽう)』と呼びますが、日本警察で配備する銃に使用される弾丸は「執行実包」と呼ばれます。その口径や種類、そして威力もさまざま。特別な実包の例として、国際線旅客機に私服で警乗する警視庁などのスカイマーシャルは、万が一の発砲の際、機体に穴を開けないため、けん銃に「フランジブル弾」を装てん。
新中央工業ではニューナンブM60の海外販売も視野に入れていたようで、”ニューナンブ・サクラ”という競技用モデルをも試作。銃身を伸ばし、アジャスタブル・サイト、木製のターゲット・グリップ仕様ですが、結局は試作に終わり、海外販売されずに終了。なお、サクラの名称は現代になって後述のM360J”SAKURA”として返り咲いています。
もし、海外販売されていたら「ポリスリボルバー・ニューナンブ・サクラ」になっていたのかも?

警視庁制服用ニューナンブホルスター(モデル品)
長らく警察用回転式けん銃として第一線で配備されたニューナンブM60。皇宮護衛官、海上保安官、法務省の刑務官、厚生労働省のマトリでは今もニューナンブM60が主力として配備されていますが、警察では老巧化から配備数も減り、後述する後継銃種に転換が進んでいます。

なお、マトリのおとり捜査ではベレッタM85を使用する場合も。
余談ですが、自衛隊の中の司法警察である警務隊ではニューナンブM60が配備されなかったものの、当時コルト・ディテクティブ・スペシャルを配備していました。また、実は新中央工業ではニューナンブM57という自動けん銃を自衛隊に試作として提示したことも。しかし、こちらも不採用。
“ニューナンブ”が登場する作品

社会正義の象徴、”警察のシンボル”としてのニューナンブM60は現代警察小説でも多数登場。
大沢在昌の『新宿鮫』では主人公の鮫島警部に敵対する密造銃作りの天才こと、木津要(きづ かなめ)が、鮫島警部からニューナンブM60を奪い、チーフスペシャルのコピー商品であるニューナンブを「コピーするならちゃんとコピーすりゃいいものを。できそこないだよ。このニューナンブ(M60)ってやつは」と貶しつける描写が。
まさに主人公の鮫島警部も「俺に言われてもな……。出来損ないを作った連中に言ってくれ」と、内心思ったでしょうが、実際の台詞はクールに「だったら返してもらおうか」と一言。なお、木津も『返してやるよ。頭に一発』と一言。
なお、こちらは沢田研二が演じる冴えない中年巡査部長がニューナンブを盗まれ、様々な人々の人生を交差させる1988年公開の『リボルバー』。
一方で、作品の題名にもなっている鳴海章の「ニューナンブ」では「アメリカ製の拳銃なんてイモだよ。ニューナンブこそ、ニッポンのお巡りさんの象徴だと思わないか。」というニューナンブを肯定する一文も。
では、イモをご紹介します。
Smith & Wesson(スミス&ウェッソン)
Smith & Wessonはアメリカの歴史ある大手銃器メーカー。
今でも米国警察の非番の警官が隠し持つけん銃として定番なのが、同社の38口径仕様のM36や軽量版のM37といった小型回転式けん銃です。
M37エアウェイト
交番の地域警察官から刑事まで貸与されるM37エアウェイト
M37はM36チーフスペシャルの後継モデルとして米国内では古くから民間人のホームセキュリティ用、また非番の警察官のバックアップ用に流通しており、広く支持されています。
装弾数の多いグロックが市場を席巻し、90年代中期から全米の警察、法執行機関で配備が進んで久しく、装弾数の少ないリボルバーは苦戦が続くなかで、今でも米国の警察官や法執行官が予備や非番で携行する38口径のオーソドックスな5連発の回転式短銃として一定の評価を得ています。
重量が580グラムであったM36チーフスペシャルをアルミフレームに改修し(弾倉はスチール)、420グラムにまで軽量化。「エアウェイト」の名のとおり、材質変更と軽量化が最大の特徴です。

フレームの右側面にはSWのトレードマークとエアウェイトの英文が白ヌキで。
Uncle Mike’sのラバーグリップが標準装備され、もちろんランヤードリング追加、管理番号の打刻がミネベアにより行われています。
2002年からニューナンブの後継となるべく、47都道府県警察で広く配備が開始。
しかし、本製品もすでに本国で製造中止となり、調達は終了。
配備は今なお続くものの、同社の別の新型けん銃に転換が進んでいいます。
M38 ボディーガード エアウエイト
ここで一つ興味深い話が。実はトイガン製造販売のタナカ社によれば『日本警察は一部限定的にS&W M38 ボディーガード エアウエイトを配備している』とのこと。

『M38 ボディーガード エアウエイト』で特徴的なのがフレーム後端のハンマーシュラウドと呼ばれる機構。
本来、リボルバーではハンマー(撃鉄)がフレームから大きく露出しますが、ハンマーの大部分をフレームで覆うのは、銃をとっさに抜いた際にハンマーと上着の干渉を防ぐ理由です。
どこの部署とは具体的に言及せず『日本警察で一部限定的な配備』とのタナカ社の言い回しには、こちらが妄想を勝手に膨らませるのもまた自由と受け取れます。
当然、革ホルスターに納めた銃を着装する地域警察官に本モデルが支給されている可能性はほぼゼロ。
ハンマーシュラウド本来の目的を考慮するならば『私服の下にホルスターを着け、銃を隠して勤務する警察官』と考えるのが自然。
それも咄嗟の抜き射ちが必要となる特殊な部署…と考えれば、警視庁のSPや各県警の警護員の可能性が最も高いでしょう。
いずれにせよ、日本警察が一部で配備しているというM38 ボディーガード エアウエイトについての詳細は不明ゆえに妄想は受け手の自由です。
なお、エアウェイトの採用後は警察用回転式けん銃のバレル長は2インチに統一されています。
M360J SAKURA

アメリカのスミス&ウェッソン社が開発した次世代型リボルバーM360を同社が東京の警察庁の求めで別注にしたカスタムモデルがM360J”SAKURA(サクラ)”です。

画像は国土交通省外局の警備救難機関が配備する『海サクラ』画像の出典 海上保安庁第9管区海上保安本部公式サイト
サクラの一世代前である同社のM37エアウェイトの製造中止にともない、警察庁は次期制式配備候補けん銃を選定。
そしてM37の改良モデルであるM360が候補になり、日本独自仕様に改修された”M360J SAKURA(サクラ)”として2006年から警察庁が調達を開始。
例のごとく随意契約でミネベアミツミが代理店となって取得。
2011年当時で約25,000丁のM360J SAKURA(サクラ)が全国の警察本部で配備されているとされ、当時で日本警察のけん銃の約1割とのこと。

海上保安庁版のSAKURAも警察庁のものとほぼ同じだが、側面の微妙な箇所に同庁のシンボルマークが入る。画像の出典 海上保安庁第9管区海上保安本部公式サイト
オリジナルモデルであるM360とカスタムモデルであるM360J SAKURA(サクラ)の相違部分は、フィンガーチャンネルが小指部分まである長めのグリップへの換装。
ニューナンブの改良型もそうであったように、グリップ延長は底部のナスカンに小指が干渉するのを防ぐための措置。
さらにフィンガーチャンネルも設けられたことで、手に吸い付くようなグリップ感が良好と評価されています。
そのほか、側面にSAKURA M360J NMBの刻印、一部の固体では銃身側面にMinebeaのロゴも。
機構的にも従来より進化しており、キーによるロックシステムを搭載。
グリップの真下には、これまでのニューナンブM60やM37同様にランヤード・リングが付属しており、日本警察では通常、紛失や強奪を防ぐため、鉄芯入りカールコードを連結。
警察庁以外でも配備されるSAKURAけん銃
現在、日本政府機関の公用けん銃としてのSAKURAは警察庁での配備が主ですが、出入国在留管理庁や国土交通省外局でも配備を確認。

M360Jはスカンジウム合金をフレームに採用し強化されているほか、ハンマーを小型化してハンマー落下および撃発時のショックをやわらげ、ブレを軽減させることで集弾性を高めている。使用する執行実包は前モデル同様に.38スペシャル。画像の出典 海上保安庁第9管区海上保安本部公式サイト
銃内部や銃身の付け根にクラック(ヒビ)が入った個体が
SAKURAは本家M360とほぼ性能は変わらず、オーソドックスな回転式で耐久性と信頼性の高い新型けん銃のはずでした。
しかし、2011年の毎日新聞社や時事通信社の報道によれば、2009年に全国の警察本部で銃内部や銃身の付け根にクラック(ヒビ)が入った固体が200丁ほど発見され、警察庁に回収されるなど、事実上の欠陥製品だったことが判明。
配備から数年でヒビが入るなど経年劣化とは考え難く、設計ミス等に起因する何らかの欠陥を最初から抱えていた欠陥銃。
幸いなことに射撃時における銃身破裂や分解、暴発などは起きなかったとのことですが、警察庁では製造メーカーのスミス&ウェッソン社(あるいはミネベア社)に原因究明を申し入れ。その後の報道はなく不明ですが、現在においてもSAKURAの調達、配備が続いていることから、品質の改善はなされていると考えられます。
SAKURAの刻印「Minebea」について
下記のSATマガジン 2016年5月号の表紙に見られる個体のサクラではフレームに加え、銃身左側面にも「Minebea」の小洒落た白抜きロゴが誇らしげ。まるでオシャレなスポーツ用品風。
「銃器全般に対するイメージのよくない日本の国柄云々」などとウィキペディアの「新中央工業」の項目に誰かが個人の感情を書いていましたが、銃器全般に対するイメージのよくない国柄でありながら、ミネベアミツミでは自社のブランドを恥じることなく誇らしげに押し出しているところが好印象。
S&W M360J SAKURA はアメリカ製か?日本製か?
サクラの製造については実は諸説あり、アメリカ本国の製造または日本のミネベアでのライセンス生産。
ここまで銃自体に『ミネベア』の自社名を前面に押し出しているところを見ると、やはりS&W本家の製造ではなく国内ライセンス生産なのかもしれませんが、前述したクラック問題に関する時事通信の報道記事では米国製とあります。
警察拳銃に不具合200丁、全国に回収指示-納入業者に原因究明要請・警察当局
全国の警察官が使用する米国製の拳銃約200丁に小さな亀裂が入る不具合が相次いで見つかったことが13日、警察関係者への取材で分かった。警察庁は全国の警察本部に不具合の見つかった拳銃の回収を指示。国内の納入業者に対しては、原因究明をするように要請した。関係者によると、不具合が見つかったのは米メーカーの回転式拳銃で通称「サクラ」。
また『Gun Professionals』の2015年9月号でも、開発・製造のほぼすべてをS&W社で行っており、ミネベア社ではグリップやランヤードリングの追加といった極細かな”改修”にとどまるのみという記述が。
これらのソースから、銃本体の製造はアメリカで、日本警察仕様として銃の左側面に『SAKURA』の文字や管理番号の刻印、それにグリップの換装、ランヤードリングの装着といった細かな改修は日本国内のミネベアミツミ社で行われ、同社経由で警察庁に納入されているというのが通説。
つまり、ミネベアはあくまで製造元ではなく、販売代理店であり輸入業者であるというわけ。
また、同モデルは若干数がアメリカ合衆国の民間市場で流通しているとも。
しかし、SATマガジン2016年11月号の記事内には以下の記載が。
日本警察の独自のフィンガーチャンネルとランヤードリングを追加したグリップを採用した日本警察特注モデルとなっている。製造はライセンスを取得したミネベアで行っている。
典拠元 ストライクアンドタクティカルマガジン 2016年11月号
上記の様にSATマガジンでは部分的な改修ではなく、ライセンスを取得したミネベアで製造がおこなわれているとする記述が。
すると、日本製のけん銃がアメリカ国内で流通している可能性も。それ自体は四国のメーカー・株式会社ミロクのリボルバー『リバティーチーフ』の例もあるので、むしろ夢がある話です。
ちなみにアームズさんの「リバティチーフがニューナンブになった可能性も…」という記事が興味深いですよね。
ニューナンブと同じく、警察もS&W社もミネベアミツミ社も本製品について詳しい仕様などを公表しておらず、不明。
単に当初は輸入で、現在はライセンス生産なのかもしれません。
ところで、これら日本の警察で配備されている回転式けん銃の外観を見ていると、あることに気がつかないでしょうか。
P230
ヨーロッパのガンメーカー「シグ・ザウアー」。現在はSWISS ARMS Neuhausenとなっています。
日本警察ではSIG社の各種オートマチックを制服の地域警察官から特殊部隊まで広く配備していますが、、SIGと日本警察は深い運命共同体にあるようです…。
1995年ごろから全国の警察本部で配備が始まり、地域、刑事/MIU、警備/SP、皇宮護衛官などで配備されるオートマチック・ピストル「P230」。
日本警察の採用モデルはマガジン8発、チャンバー1発の合計9発を装填できる口径.32ACP仕様モデル。
大きさは皇宮警察やSPも過去に使用していたワルサーPPK/sよりやや大きいものの、コンシールメント性に優れた小型オートです。
32口径の威力について
22口径と38口径の中間に位置する32口径の威力については議論も。
組対で主に使われる9mm口径のM3913、さらに全国の刑事部SITで配備される同じく9mmのベレッタ92。
ところが、32ACPは9mmパラベラム弾の3分の1程度の威力なのです。
しかし、25口径よりは強力で警察の法執行けん銃用の弾丸としては諸外国でもポピュラー。
もし、あなたが、たった一人で秋葉原の路地裏にあるサトームセンの前で、ダガーナイフを持って興奮状態にある男を追いつめて確保しようとしているその時、右手に構えているのがトヨタのランドクルーザーの厚いドアを撃ち抜けるサンパチ・サクラや軍用クラスの9ミリを使うM3913ではなく、この.32ACPのP230だったら、多少なりとも不安を感じるかもしれません。
実際問題、アメリカでは興奮状態にある被疑者がアドレナリンの影響により痛みを感じなくなる例もあり、9ミリや38口径で太刀打ちできず、10ミリ弾導入のきっかけになった事例も。
P230は「日本警察仕様」の特注品
P230のトリガー後方に見える”押し下げ式のデコッキングレバー”は、「引き起こされて撃発可能状態にあるハンマーを安全位置まで倒す」ために備わっている機構。
本来であれば、P230にマニュアルセイフティはないものの、デコッキングレバーが”手動の安全装置”の役割を果たすため、薬室に弾薬が装填された状態で銃を携行しても安全性に問題はありません。
とある独逸の手動式安全装置(マニュアル・セイフティ)
しかし、日本人はそれには満足しませんでした。
東京の警察庁の要望は『なんだろう……独立した手動の安全装置つけてもらっていいですか?』でした。
ええ~!?同じ値段で追加の安全装置を!?できらぁ!
同じ値段かどうかは不明ですが、結果的に応じてしまうSIG社。や、やめ……。
当然、日警の伝統、けん銃吊りひもおよびナスカンを装着するための『ランヤードリング』も絶妙のデザインでグリップに仕込んでくれました。
こうして日本警察の要請によって、マニュアルセイフティ(手動式安全装置)とランヤードリングを追加で搭載したP230は通常モデルと区別をつける便宜上『P230JP』と呼ばれていますが、SIG社の公式な名称ではありません。
1994年ごろのアームズマガジンでおそらくマルシンのPPKベースで作られたP230(KSCがJPをリリースししたのは2001年)を構え、サングラスと紫スーツを着用し、舘ひろし風に拳をつくった左手を心臓の上に重ね、都庁をバックにポーズを決める編集部員の味のある合成写真を一生忘れはしません。
なお、P230の配備後におそらく採用されたマニュアルセイフティのないP226をSATが使用しているほか、SPもマニュアルセイフティのないグロック(※)けん銃やHKのP2000を使用するため、日本警察の自動式に対する思想に変化が見られることにも留意したいところ。
※グロックにはメーカーオプションとしてマニュアルセイフティ付加を選択できるが、ノーマルには非搭載。
海外では余剰になった一部の日本警察仕様P230の在庫分が一般市場にて民間販売されており、珍しい日本の警察特注品ということで海外のオークションでは高値が付く例も。
M3913

オリジナルのM3913。ただし、日本警察仕様はトリガーが黒色でグリップ下部にランヤードリングを備えるなど相違も。画像引用元の明示 http://www.imfdb.org/wiki/Smith_%26_Wesson_3913
スミス&ウェッソンのM3913は同社のセミ・オートマチック「M39」を基本とした9mm口径の第三世代型自動けん銃『M3913』。
日本では刑事部のSITや組織犯罪対策局、機動隊の専従部隊である銃器対策部隊、特殊部隊SATなどで配備されています。

M3913を被疑者の立てこもる家屋に向ける警視庁SITの刑事たち。SATとは微妙に違う耐熱アサルトスーツやタクティカルベスト、装備品がよくわかるベストショット。右から二番目のSITはかなり高い位置に構えているが、グリップからコードが伸びている様子はない。 写真の引用元「決定版 世界の特殊部隊100」白石光さん著(写真・柿谷哲也さん)
つまり、主に強大かつ組織的な犯罪と対峙する危険度の高い捜査員に対して、より強い法執行力を持たせるために配備されているのがM3913です。実際、白バイのポニテ姫が持ってても嫌ですよねー。
敵勢力の武器がトカレフやXM177やロケットランチャーや手榴弾であれば、対抗する側も、その抑止力としてより強力な装備が必要になるのも自然な流れ。
宇宙人対策に内規を無視して454カスールを使ってる『エイリアンネイション』のマシュー・サイクス(ジェームズ・カーン)でしょう。
逆にヤベエ奴に「P230で挑め」と本部長に命令されたクウガの事例はひどい。
【フィクション作品考察】『仮面ライダークウガ』でのSIG Sauer P230使用通達の謎…『アギト』登場のリアルな覆面パトカーも紹介
制服の警察官、つまり地域警察官や交通警察官の主流は38口径(.38スペシャル弾)の回転式けん銃が圧倒的に多いものの、その威力は9mmを100%とすると、.38スペシャルは約50~70%程度。そうでしたな?そうでしたっけ?フフフ……。弁護士の魚紳さんが『釣りキチ三平』でリール万引きした子供を釣竿で錘をキャスティングして捕らえたシャークのジンに対し「おまわりさんのピストルの威力」を引き合いに出して説教していましたが、意外と怖い漫画です。
3インチのニューナンブを除けば、銃身の短い2インチばかり目立つ制服の回転式けん銃から発射される弾丸はさらに威力の低下が顕著。
そこで.38スペシャルの最大で2倍も威力が強い9ミリパラベラム弾を使うM3913の出番。
ただ、シングルマガジンで装弾数は最大8発であり、多弾数のグロックなどよりは劣ります。また、ポリマーフレームの銃に比べると重いのも難点です。
一方、刑事ドラマの中でもM3913の活躍がちらほら。
女性刑事を描いた『アンフェア』にて、ヒロインの雪平夏見がM3913を着装。
しかも、同僚の男性刑事らがM3913を吊るのに対して、彼女だけが女性らしい優美なフォルムのカスタムモデル“M3913 Lady Smith”を携行。
同じ刑事、そして同じ銃でありながらも、男性刑事と女性刑事に”エレガント”の面で明確な差をつけているのは心憎い演出です。グリップが黒いのが惜しい。
なお、同作品のプロップガン担当はPYROTECH(パイロテック)さん。特殊部隊SATの小道具として欠かせないMP5も手がけています。そして雪平「S&W M3913 Lady Smith」に刻印を施したのが、ガン&RCショップ マッドポリスさん。
威嚇力を高めたステンレス・シルバー仕上げのM3913は相手を服従させる効果も狙っているのか、制服、さらには本来艶消しの黒い銃が必要であるはずのSIT突入係りまで幅広く貸与される一方、旧4課すなわちマル暴への配備も。
ピカピカのシルバー仕上げなので、無駄に美人刑事が持ってこそ映える銃。マル暴専用防弾覆面に乗った柔剣道有段者枠採用の組対の人が、コレを隠し持ちつつコウカクする姿を想像するとチョット。家裁の人みたいに言うのやめなよ……。
さて、日本の警察では以上五種のけん銃がスタンダードですが、さらに一部の限定的な部門の捜査員に対しては以下のようなけん銃も配備されています。
Heckler & Koch
日本警察ではドイツ製の銃器も大量に配備。まずはドイツHeckler & Koch社の各種モデルをご紹介。
H&Kといえば、サブマシンガンのMP5が世界中の特殊部隊や警察で広く普及しており、日本の警察や海保、海上自衛隊も特殊銃という名目で導入済み。
VP9(SFP9)
陸上自衛隊ではすでに2020年、それまでのP220(9mm拳銃)の後継として300丁あまりの新型9mm拳銃・SFP9が制式配備されており、将来的には12,000丁の調達が予定されています。
一方、警察庁での採用も複数のオープンソースから答え合わせ済みです。
ドイツの日刊紙『ブラックフォレストメッセンジャー』では、2020年に日本がSFP9を新規に取得したと報じており、これは2021年に開催された東京オリンピック警備向けの装備の一つと見られています。
『彼ら(HK社)はまた、成功したSFP9モデルのけん銃2,000丁を日本の警察に納入したことを誇りに思っています。これらは来夏のオリンピックの安全確保のために特別に使用されます』
すでに47都道府県警察に2,000丁のSFP9が配分されていても不思議ではありません。
分野外ですが、初めてじっくり拳銃を見た気がする。 聞くところによると新しいモデルとのこと。 pic.twitter.com/AlWSNu5GYr
— エスハイ (@esuhai1991p) June 16, 2021
SFP9はピカティニー・レールを標準搭載したポリマーフレームで構成され、グリップのバックストラップを調整することで、射手により良好なグリップフィーリングを提供。
発射方式はストライカー式で、安全面ではトリガーセイフティを組み込んでおり、コンセプトはすでに成功したグロックそのもの。
現代的な銃としてはオーソドックスな仕様です。
トリガーの軽さも特徴的で、すでに多数の警察機関で配備されている米国の現場ではグロックよりも軽いと認識されています。軽すぎて大変なことに・・。
ただ、対策は完了したようですが、2019年には導入直後のドイツ連邦警察で『意図しないマガジンの落下』が原因で大規模なリコール騒ぎの発生も。そういえば、どこかの国のお巡りさんがパトカーに乗った時に、グロックのマガジンがスポーンと…もういいって。
USP
H&Kが1993年にワルサーに代わる自国ドイツ連邦軍の次期制式けん銃として開発したのが、警視庁や愛知県警察、神奈川県警察特殊急襲部隊SATなどで使用される『USP』。

作動方式は一般的なショートリコイル方式で、ティルトバレル機構およびダブルアクション方式を採用。
革新的な機構こそないものの、Heckler&Koch製品の品質の高さとグロックが作ったポリマーフレームブームに沸くアメリカ市場で受け入れられ、世界規模での商業的成功をおさめました。
だからと言って、長久手町の住宅街へ県警のSATがUSPを持って出動してくるとは思わなかったなぁ。
特殊部隊SATでは ITI社製M2が装備されており、突入時に焚いて悪い人の目をくらませます。陸上自衛隊特殊部隊でも2004年から特殊けん銃としてサイレンサーを装着させた特殊作戦用USPタクティカルを使用。
USPは9mmパラベラムをはじめ、より大口径の.40S&Wや.45ACPなど複数のバリエーションが用意され、ダブルカラム仕様では9パラで15発、.40S&Wでも13発を装填できる怒涛のハイキャパシティ。
しかし、そのせいでグリップが前後に間延びし、男性でも握りにくいとの声も。
とはいえ、昨今では警視庁も神奈川もSATは後継機種に別の銃をチョイスしたためか、近年の公開映像でのUSP登場は皆無。
世界的に見ても旬は過ぎた中で、トイガン業界では東京マルイがこれを2018年に発売したことについて『ハイパー道楽』管理人のYAS氏も『商機を逸してしまっていると言われても仕方がない』と首をかしげています。
http://www.hyperdouraku.com/airgun/tm_usp/index.html
P2000
Gun Professionals17年2月号
B01M286QJT | ホビージャパン | 2016-12-27
そしてUSPを改良発展させたのがP2000。
2010年5月6日に日本テレビ系ニュース番組内の特集である「密着!警視庁SP要人警護の舞台裏」において、警視庁SPがP2000の実弾を使用した訓練の場面で画面に大写しになったことでデビュタント。
SPを主題にした映画『藁の盾』でもプロップガンとして活躍が見られる日本警察の最新けん銃です。
筆者のようなシャバ僧には同作の作者が『ビー・バップ・ハイスクール(BE-BOP-HIGHSCHOOL)』で知られる漫画家・きうちかずひろ氏であることが今でも信じられない……。

2018年に行われた2020年東京五輪・パラリンピックに向けた、警視庁の警備訓練における1シーン。高速道路上での大臣車列へのテロを警戒し、P2000をかまえるSP。ドチャ怖い。
USP同様、ダブルアクションオンリーのメカニズムでありながら「CombatDefence Action(CDA)」というシングルアクションのように引きシロの少ない軽い引き金の動きで発射できるのが特徴。
グリップ後部のバックストラップのサイズを変更でき、射手の手にあわせて、より良好なグリッピング調整が可能。
また、紛失防止の「けん銃吊り紐」が大好きな日警用として、ランヤード(現在ではカールコード)装着のためのリングが追加装備。
Strike And Tactical (ストライクアンドタクティカルマガジン) 2016年 7月号 [雑誌] B01G71DWU0 | SATマガジン編集部 | SATマガジン出版
現在のところ、警視庁警備部のSP以外では埼玉県警銃対RATS、高知県警察、岡山県警察銃対でも配備されており、全国の警察本部の警備部に配備済みです。
安全かつ即射撃できるのが好まれた可能性も。
SIG
すでに解説したP230のほかにも各種SIGのオートマチックが配備されています。
P226

日本の公的機関におけるシグ製品の配備といえば、自衛隊では1982年になって、それまでのガバメントに代えて単列マガジンのP220を国内ライセンス生産し「9mm拳銃」として配備。
警察がP220(9mm拳銃)を調達したか不明ですが、前述したように90年代前半にはP230を採用。
その後、2002年に公開された特殊急襲部隊SATの訓練動画にて、SAT隊員が手にするのがアメリカをはじめ世界各国の警察機関や、軍隊の特殊部隊で広く配備されている複列マガジンで多弾数のP226でした。

現在、日本警察ではフレームにレイルが配置されたP226RをSATで配備。
おっと、海上保安庁や自衛隊の特殊さんも使ってましたね。

画像の引用元 防衛省公式カレンダー
自衛隊のP220では弾倉がシングルカラムのために装弾数9発とやや少ないものの、P226ではダブルカラム化。15+1発と大幅に増加(.40S&W弾モデルおよび.357SIG弾モデルでは12+1発)。
マニュアルセフティを備えないSIG独特のセフティメカニズムはP226でも健在で、起こされたハンマーをより安全に落とす(解除する)ためのデコッキング・レバーを搭載。
P228
P228はP226を小型軽量化したコンパクトモデルとして1989年にデビュー。
アメリカ軍でもM11として採用され、FBIなど多くの法執行機関でも採用。
フルサイズのP226に比べ、スライド、グリップの短縮化で全体的にコンシールメント性が高まり、スレンダーで小柄なスカリー捜査官が身に着けても上着で隠せちゃいます。じゃあマグライトはどこに隠してんだよ?無理ありすぎません?
小型化の影響でP226よりも少ないとはいえ、13+1の装弾数を誇ります。現在はP229の口径9ミリバージョンが実質的な後継。
P226同様にSATや海上保安庁でも配備。
ただ、SATでの配備が確認されたのは警察庁の初公開動画時のみ。現在はやはり前述のP226Rのほうに出番を奪われています。試験配備の可能性も。
Glock
いやはや、日本の警察がこんなにグロックラブラブになっちゃうなんて、当時誰が想像しえたでしょうか。
筆者はまだ使いこなせてないです。早く人の悪口言わせまくりたい。え?Xの悪口生成AIのグロックじゃないって?はい。

グロックけん銃をかまえて周辺警戒する警視庁SP。 マルイではないと思いたい。写真引用元・産経新聞
警視庁SATでグロック19、警視庁SPがフルサイズのグロックを使用。
時は2002年。サッカーワールドカップ開催を控え、国民がテロの不安を払しょくできない中、警察庁が一般公開したのはそれまで警察庁がひた隠しにしてきた警視庁特殊急襲部隊SATの訓練映像。
ヘルメットとバラクラバで顔貌を隠し、大声で「警察だ!」と叫びながらハイジャックされた旅客機の中になだれ込む男たちこそが「日本警察の最後のカード」と呼ばれるSAT。
彼らの手に鈍く光る角ばった銃は半プラスチックのグロック19。それは日本の警視庁がグロックを配備しているという事実が公開された瞬間でありました。
グロックはオーストリアの銃器メーカーで、それまでは軍用ナイフなどの軍用品を納入するのみで、非専業銃器メーカー。
銃の生産開始は1980年以降と米国の主要銃器メーカーに比べるととても浅いものの、革新的な機構とポリマー素材を使ったグロックは鮮烈なデビューを果たし、現在グロックはアメリカをはじめ、世界中の警察や軍隊で採用されており、今では全米の警察の半分以上が9ミリのグロック19を採用。
それ以前にもポリマーフレームのけん銃は、HK社のVP70というモデルがあったものの、こちらは大コケ。
余談ですが、2016年に連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation, FBI)では現行配備の9ミリよりも強力な.40S&W弾を使用するGlock 22 (フルサイズ版) と Glock 23 (コンパクト版)を捨てて、9ミリのグロック17および、19に回帰すると表明。
グロックけん銃はマニュアルセイフティや外部露出のハンマーが非搭載。
スライドを引いて初弾を薬室に装てん後、発砲するに当たって実質的に操作するのはセイフティが組み込まれているトリガーを引くのみ。指をトリガーに軽くかけるだけでセイフティは解除されます。
アメリカ国内では実に4000もの各州警察・法執行機関での採用実績が。採用当初は暴発事故が相次いだため、グロック社ではノーマルより重いトリガープルの 「ニューヨーク市警トリガーモデル」 もリリース。日本警察が採用したトリガープルは不明です。
日本警察に採用されたモデルはG19、G17、G45と見られている

グロックには口径やサイズで各種モデルがありますが、サイズの違い以外は遠目に見ただけでは不明。
例えばフルサイズの9ミリ口径だとグロック17ですが、見た目は.40S&W弾を使用するGlock22とほぼ同じ。
このため、報道写真を見る限りでは、日本の警察が使っているグロックの光景口径はは不明です。
しかし、世界的なスタンダードを鑑みれば、おそらくは9ミリ口径でしょう。
G17は2010年に行われたAPECに係る要人警護訓練にて公開され、警視庁ではSP(セキュリティポリス)向けにP2000とともに配備。2018年に行われた公開訓練の様子では警視庁警護員SPの手にグロックが。
また、同じく警視庁の特殊部隊SATがコンパクトサイズのG19を配備。公開された訓練映像でSATが突入時にカールコードとフラッシュライトを装着したG19を構えていたのを確認。

G19はG17に比べグリップが低いコンパクト・モデルですが、さらに小さいG26もある(警察庁への納入は不明)。
外見はオモチャ感覚。それでも射ちやすいとされるグロック。
グロックのメカニズムはそれまでの銃のシステムに比べ、かなり奇異であり、独特のセーフアクションと呼ばれるメカはトリガーの引きシロが短く「一回撃ったら二発目はほぼ連射」と表現されることも。
しかも.38スペシャル(.38Spl)の交番ピストルより威力があるのだから、現代日本の治安情勢には最適?
なお、グロック社がYOUTUBEにて公開している公式動画では世界各国の警察の徽章が流れるように映し出されますが、そこには警視庁の徽章も映っているのはマニアの間では今更得意げに紹介することも憚れるくらい有名な話です。
このように、グロックが日本警察に採用されているのは紛れもない事実というわけ。
2021年、『グロック45』が警視庁地域部自動車警ら隊で配備!即引退
東京オリンピック警備で地域警察官の火力制圧力向上を目指して配備されたとのこと。
しかし、「ランヤード破損」および「意図しないマガジン脱落」のため、東京オリンピック終了後に即回収という憂き目に。こちらでいじってます。
Beretta
80年代、米軍のサービスピストル受注競争にBeretta92が勝利し、M9として採用され一躍名を馳せたイタリアに本社を置く大手メーカーのベレッタ。Beretta92は現在まで各国の多くの機関で採用されていますが、米国ではすでに法執行機関の3分の2がグロック。苦戦中です。
ベレッタで最も有名なのは92。お馴染み「リーサル・ウェポン」や「ダイ・ハード」で80年代から90年代一躍有名になったモデルです。あ、ちなみに筆者は「ゴリラ」の山中胡銃撃戦における風間さんの92SB、「クレヨンしんちゃん暗黒タマタマ大追跡」における東松山さんの92FSですね。
日本国内では警察がBeretta92バーテックと90-Twoを、厚生労働省の各地方厚生局が85を麻薬取締官用として配備。
92バーテック
ベレッタ92FS-Vertecは公的機関向けの自動式高性能けん銃。度重なる凶悪事件で出動する警視庁のSITが携行していたことで日本警察もベレッタを配備していることが報道で明らかに。92FSをベースとしており、 フレームにはライトを装着するためのレールが標準搭載。
警視庁SITのほか、大阪、愛知、茨城、埼玉、神奈川の各警察の特殊捜査班でも配備が確認されている。東京MXテレビ公式チャンネルではニュース報道番組で警視庁SITの公開訓練を見られますが、その中で92Vertecが大写しに。
SIT(大阪府警ではMAAT)に配備されるこのバーテックには、標準でフラッシュライトが装着されており、突入時や制圧時に犯人を目くらましで、ひるませることも想定。
東京MX公式チャンネルによるニュース配信
ベースモデルの92FSとは?
92FSは1974年にイタリアのピエトロ・ベレッタ社が開発した自動式けん銃。92FS-Vertecモデルでは野暮ったいナスビグリップから、スパルタンなストレートタイプになり、銃身長も短縮され、スマートな印象を受けます。
非常に撃ちやすいため、法執行機関や軍のみならず、民間でも世界中から支持があり、また85年にはアメリカ軍に制式採用され、多くの将校、下士官に支給されています。
そのためハリウッド映画の登場回数も多く、主役がこの15連発の軍用けん銃を携行。
日本国内の公的機関による「ベレッタ社製品」の採用は現在まで、警察がバーテックを配備するほかは、厚生労働省麻薬取締官用に支給されるけん銃の一種として85が配備されている事が判明しています。
余談ですが、77年には本モデルをベースにしたM93Rも開発されました。M93Rは対テロ任務に就くイタリア国内の警察機関の要求で開発されたもので、単発、3点射撃を可能としたマシンピストル。実は日本国内で『皇宮警察にM93Rが配備されている』という出所不明の情報を信じている人が多くいるようです。
実際に配備されているのか真偽は不明ですが、何がそのソースとなったのかは興味深いものがあります。ネット上で調べてみたものの、答え合わせはできませんでした。
超小型光学照準器をスライドに直付け
SITではバーテックのスライド上部に超小型光学照準器をスライドに直付け。朝日新聞の報道によれば、オプティマ2000(もしくはミニミルダット)、さらにSUREFIRE X200を装着しているバーテックを持つSITの写真が。
絶対に負けられない戦いに挑むけん銃、それがこのベレッタ・ダブルアクション92。ヒェ~っ、門田泰明ファンなのかテメーは(笑)
90-Twoの配備も新たに判明
2015年、SATマガジンでは栃木県警の銃対がベレッタ90-Twoを配備していることを報じています。

模擬銃の可能性も、という鋭い指摘の一方(トイガンだとしたらマニアックな選定だ)、隊員それぞれのレッグホルスターにおさめられたその90-Twoは、現在配備されているバーテックけん銃の後継機種になるのでは?と同誌では推測。

90-Twoはバーテックの15発に比べて2発多い、17発装弾が特徴。弾丸の口径については複数ですが、日本の警察で採用されてる口径については不明。作動方式はバーテック同様ダブル・アクションですが、バリエーションは複数あり、安全装置に関するその操作が各バージョンで異なります。
また、バーテックと同様にフレーム前方下部にレールが搭載されており、ライトモジュールの装着も可能。
ただ、この90-Twoについてはアメリカ国内では明らかにセールスに失敗。世界的に見ても売れ行きが良くないとのこと。
本国やアメリカのメーカー、日本の輸入代理業者、誰が警察庁に対して売り込みを図ったのか知る由もありませんが、売れずに残った大量在庫品が売りつけられてゴミをつかまされていたとしたらいやなものですね〜。
警察官はけん銃の予備弾を持つ?
現在では制服警察官、私服勤務員ともに予備弾の携行はなし。けん銃に装填されている弾丸が携行弾のすべて。サクラやエアウェイトであれば5発。
ただし、昭和31年ごろまでは制服巡査がベルトに予備弾納めを着用し、10発あるいはそれ以上の予備弾を携行していた例も。それはなぜ?携帯無線機がすべての外勤員に行き渡らない時代、迅速な応援を見込めないことが背景にあったと考えられます。
現在の刑事部の特殊班SITや警備部の特殊部隊SATにおいては、わざわざ多弾数のベレッタやグロックを採用するほどですから、おそらくは装填可能の上限、さらに予備マガジンも携行しているものと推測できます。
なお、上述した「グロック45」の一時的な配備の際は自動車警ら隊員一人につき、弾丸10発が支給されたそうです。
警察官に貸与されているけん銃のまとめ
以上のように、日本の警察官に貸与されるけん銃は回転式3種と自動式2種が主流。さらに捜査一課特殊班やSP、SAT向けとして複数の軍用けん銃の配備も行われています。