航空自衛隊の戦術用周波数『GCI』とは

航空自衛隊のUHF帯戦術用周波数をGCIと呼びます。

GCIとは純粋に『地上要撃管制(Ground-controlled intercept)』を意味し、航空自衛隊による対領空侵犯措置における防空戦術です。

離陸から着陸までを誘導するのが一般的な航空管制。

しかし、GCIは要撃機が離陸した後、防空指令所やレーダーサイトが空中目標(領空侵犯機など)に誘導することを目的とした戦闘用の管制です。

周波数は原則公開ですが、GCIは公共の安全や国の防衛に関する重要通信として総務省も非公開。

この公開されないミステリアスなGCIこそ、我が国の国防の最前線のミリタリーエアバンドであり、“戦闘波”の真髄です。

なお、自衛隊の無線通信は以下の記事で解説。

自衛隊無線の各帯域(HF、ローVHF、UHF)ごとの受信方法解説

 

ではGCIについて、実際の詳しい運用例と傍受方法を見ていきましょう。

航空自衛隊による対領空侵犯措置とGCI運用

航空自衛隊の対領空侵犯措置(スクランブル)とは、我が国の領空を侵犯または侵犯する疑いのある国籍不明機に対する一連の対処行動です。

通常、各国では防空識別圏(ADIZ)を設定し、自国周辺を飛行している民間機、軍用機等の識別を実施。

日本も24時間絶え間なく全国28箇所のレーダーサイト、より遠方まで監視できる早期警戒管制機・AWACSなどで監視しています。

【極秘任務】航空自衛隊のレーダーサイト、“敵の無線”を黙って収集中

国籍不明機が我が国の領空を侵犯する可能性がある場合、対領空侵犯措置が発動。

戦闘航空団配置の各基地からスクランブル発進した要撃戦闘機は、目標までのコースを地上の防空指令所(DC)、全国28箇所のレーダーサイト、さらには早期警戒管制機などから指示されます。

これら一連の空自による防空管制がGCI (Ground-controlled intercept…地上要撃管制)です。

戦闘機自体も機上に索敵レーダーを備えますが、スクランブル発進した戦闘機が国籍不明機(彼我不明機とも呼ぶ)まで自機のレーダーを頼りに飛行することは稀。

地上の防空指令所や空中のAWACSからのGCIによる誘導に委ねているのが現状です。※GCIには音声を伴わないデータリンクのみの場合も。

GCIによる誘導で彼我不明機を補足した要撃機(通常は2機編成で離陸)は僚機とともに当該機を上下左右から挟み込み、機体に描かれた国籍マークなどを確認し写真撮影などを行い、基地へGCIで報告。

その際に撮影された映像はリアルタイムで空自の防空指令所(DC)に伝送。

領空侵犯機に対しては『Uガード』と呼ばれる国際緊急周波数で、英語や当該機の国の言語等を使って警告。

「アテンション!ロシアンエアクラフト!ロシアンエアクラフト!ディスイズジャパニーズエアロスペース!(注意せよ!ロシア機!ロシア機!ここは日本の領空だ!)」

例として、このような警告の通信が。

さらには「ただちに飛行コースを変更セヨ、ワレに従わぬ場合は貴機に実力を行使する」など、恐ろしい警告も。

黎明の笛 KDP版

明らかな軍用機が日本の領空に接近し、警告に従わずコース変更や退去を拒んだ場合、自衛隊機は相手機の前方に回り込み、後方から機関砲による信号射撃の実施します。さらに状況次第では、強制着陸の誘導、そして最終手段として撃墜に至るケースも想定されます。

つまり、これらの周波数帯が騒がしくなっているとき、それは外交問題寸前の緊迫した局面が展開されている証です。

—関連記事—
救難要請から領空侵犯まで使用される国際緊急周波数とは?事件も…。

受信機を通して交わされる一語一句は、まさに最前線のやりとり。ときにその交信内容は、自衛官や政治家たちとリアルタイムで緊張感を共有するような感覚をもたらします。

とはいえ、GCIの各チャンネルは日常的な訓練にも使用されています。

たとえば教官パイロットが訓練生を厳しい口調で指導している様子を耳にすると、自衛隊の任務が他国の軍隊と同様に過酷である現実を改めて実感するでしょう。

GCIは通常の航空管制とは違って周波数が非公開だが…

GCIには訓練用、ホット(実戦)用、部隊間連絡用などがありますが、前述の通りGCIの周波数は非公開。

関連雑誌や周波数バイブルなどでもGCI周波数の掲載はNG。

GCIの周波数

これは、SNS上などでの公開が自衛隊側に発覚すると、すぐさま周波数が変更されるという理由もありますが、公にならない限り変更されることはないでしょう。

それもそのはず、航空自衛隊全体でこれらのチャンネルは莫大な数があり、容易な変更は不可。

GCIの周波数

したがって、GCIの直接的な周波数をネット上で万が一にも公にしないことは自衛隊の任務に支障を生じさせないため。

自衛隊に限らず、軍事通信はいつの時代も敵対国に傍受(無線通信の傍受による情報収集を”シギント”と呼ぶ)されているもの。

—関連記事—
自衛隊によるシギント活動の解説記事

自衛隊さん、無線などからシギント (Signals Intelligence:SIGINT)してしまう

とはいえ、傍受した非公開周波数の直接的公開はNGです。

GCI受信を80年代から指南している『月刊ラジオライフ』誌でも『具体的な周波数はあえて掲載しないスタンスでやってきました』(同誌2019年9月号「ミリタリーエアバンド教導群」175P参照)とのことで、この一文が全てを物語っています。

なお、航空無線関連冊子で掲載されている周波数で225~390MHzで空自用となっているものは、GCI以外の管制用周波数(GCAなど)。

GCI周波数の公開は違法か?

あくまで筆者個人の見解ですが、仮に誰かが傍受したGCIの周波数をネットなどで公開したとしても、ただちに電波法違反に該当するかと言えば、そうとは限らない可能性があります。

実際、過去には『月刊ラジオライフ』誌上でアナログ警察無線の周波数が詳細に公開された事例があり、警察当局が問題視して当時の郵政省電波監理局に確認を求めました。しかし、電監は「違法には当たらない」と判断し、摘発には至っていません

ただし注意すべき点として、「周波数の公開」とは別に、音声の録音・公開といった“内容の漏洩”行為は、これまでに電波法違反で複数の摘発例が存在します。たとえば警察無線や鉄道無線を録音してネット上で公開した場合。

このため、GCIであっても音声データそのものを公開した場合は刑事責任が問われるリスクが高いと考えられます。

DJ-X100(受信改造済み)では電源投入後に『誓約』画面が表示される意味とは

また、GCIの周波数を職務上知り得る立場にある現職の自衛官が漏洩した場合は、電波法に限らず自衛隊法や国家公務員法上の守秘義務違反など、より重い責任が追及されるおそれがあります。

戦闘機のパイロットが持つタックネーム

これら空自の戦闘機パイロットはそれぞれが一つの『TACネーム』と呼ばれる戦術上のニックネームを持っており、機体につけられたコールサインとは別。

空戦訓練においても交信ではタックネームでお互いを呼び合うのが慣例です。

自衛隊のパイロットが使うTACネームとコールサインの違い

広帯域受信機でGCI周波数をサーチする方法

GCI(地上管制迎撃指揮)無線の周波数帯をカバーできる広帯域受信機(IC-R6受信改造済)をお持ちなら、その探索方法はシンプルです。

基本的には、AMモードで225MHz~390MHzの範囲を100kHzステップでサーチするだけ。

とはいえ、実際には24時間体制での連続スキャンが前提になります。複数の受信機を併用すれば、さらに効率的にカバー可能です。

なお、GCIも航空無線ですからFMモードではなく、原則AMモード。

—関連記事—
周波数をスキャンとサーチで見つけよう


■ この帯域には他の通信も多い

GCIを探すうえで注意が必要なのは、225~390MHzの間には多数の事業者・公的機関・民間設備の周波数が存在することです。

  • 253.8625~254.9625MHz:旧規格コードレスホンの子機側

  • 265~275MHz:デジタル消防無線

  • 351MHz帯:デジタル簡易無線(デジ簡)各チャンネル

  • 360MHz帯:警察署活系無線、警備会社、水道関係など

  • 380MHz~:旧規格コードレスホンの親機側の帯域

また、自衛隊側もGCI用途として使用できる帯域が実質的に限られていると考えられます。


■ 狙うべき周波数帯の目安

現実的にGCI通信が存在すると推測される範囲は以下の通りです:

  • 225~250MHz

  • 270~390MHz

とはいえ、例外的に**警察無線の署活系(3●●MHz帯)**の中に、あたかも“すき間を縫うように”GCIが入り込んでいる可能性もあります。

たとえば、A署とB署の通信の合間にポツンとGCI信号が割り込む…というようなパターンも完全には否定できません。

GCI(地上管制迎撃)の周波数には、日常的な訓練用のもの、編隊飛行時の僚機間通信、そして実戦に備えた“ホット”があります。これらは訓練中にも日常的に使われており、普段から交信が多いのが特徴です。

ですが、何の予兆もなく、深夜に漆黒の空からかすかに戦闘機の爆音が響いてきたとき——それはまさに“その時”かもしれません。

まずはSNSでリアルタイムな地元の空の異変に関する書き込みがないかチェックしましょう。もし投稿が複数あれば、領空侵犯への対応で戦闘機がスクランブル発進した可能性が高いと言えます。

その頃、例えば稚内沖・高度1万フィートの空域では——「ロシアンボンバー、アテンション!アテンション!」

と、パイロットが国際緊急周波数で警告を発していたり、「警告を実施したが当該機は我に従わない!引き続き警告を実施スルーッ!」と、地上の防空司令所(DC)と物騒なやりとりを交わしているかもしれません。

そんな緊迫した通信が、突如あなたの受信機から飛び込んできたら——。

それはまさに、最前線の現場と繋がる瞬間。GCIの真の魅力が、そこで実感できるでしょう。要撃機がRTB(帰投)するまで、くまなくチェック。

The Air Force Space Command (Blazers: U.S. Armed Forces)

The Air Force Space Command (Blazers)


■ GCIの探索テクニックを詳しく知りたい方へ

こうした非公開のGCI周波数の実態や、発見のための具体的なノウハウについては、以下の専門書籍に詳しくまとめられています。興味のある方はぜひチェックしてみてください。

これらの媒体では、GCIの直接的な周波数明示はありませんが、最新の受信環境や機材、受信ノウハウなどが幅広く紹介されており、GCI探索のヒントも豊富に掲載されています。

Amazon Kindle Unlimitedに入会すると、月額980円で三才ムックが出版する「月刊ラジオライフ」や「航空無線のすべて」などの無線関連をはじめ、100万冊の電子書籍(キンドル本として販売されている小説、コミック、雑誌、写真集など)が追加料金なしで読み放題。

深夜に突然聞こえてきた「管制当局の命令を無視した民間機が自衛隊戦闘機にチェイスされる深刻な無線交信の正体は”GCI劇場”だった!」……という笑撃のオチも楽しめるラジオライフなどが、Amazon Kindle Unlimitedに入会すると、月額980円で読み放題。

Kindle端末がなくても、Kindleの電子書籍はパソコン(ブラウザやアプリ)やスマートフォン(アプリ)で読書可能です。この機会に入会を。

自主規制された『歯抜け受信機』では一部周波数が受信不可

市販の受信機にはGCIが受信できる機種、できない機種があります。

メーカー各社が加入する「日本アマチュア無線機器工業会」の自主規制によって、プライバシーに関わるUHF帯の一部が削られているためです。

これは「歯抜け」と呼ばれる問題で、「非・受信改造済みIC-R6を買うと後悔する理由とは?」で詳しく解説中。

非・受信改造済みIC-R6を買うと後悔する理由とは?

 

また、歯抜けが無くてもサーチ速度が遅い受信機でのGCI受信はNG。

だからこそGCIを探すにはサーチおよびスキャン速度&感度が優秀でUHF帯にも強く、歯抜けをフルカバー受信できるように改造された100chのメモリーを約1秒で周回するベストセラー受信機が、マニアやプロから推奨されているのです。

日本海上空でロシア空軍や中国空軍に立ち向かっていく航空自衛隊機の緊迫感を窺い知るには受信機の秒速サーチが大活躍。

まとめ・・GCI受信は数あるジャンルの中でもワクワク感は異常

以上、ミリタリーエアバンドの真髄とも言えるGCI(地上管制迎撃指揮)が、なぜ多くの無線ファンを惹きつけてやまないのか、その理由の一端でも伝われば幸いです。

GCIに使用される周波数は、それぞれが「チャンネル」となっており、自分で時間をかけて発見・記録したGCI周波数をメモリーした受信機は、“自分だけの宝箱”になります。そう、GCI探しはまさに“宝探し”のような楽しさがあるのです。

—関連記事—
自衛隊無線の解説記事
自衛隊のコールサインとTACネーム解説記事