【特集】「戦うオタク、島へ行く」──迷彩男と無線少女(!?)たちの“熱いミッション”…七人のおたく(1992年)

脚本家によると、「アマチュア無線は冒険アイテム」であるという……。

ミリタリーオタクの主人公・星(演・南原清隆)にスカウトされた格闘技オタクの近藤(演・内村光良)、Macintoshを愛するIT会社の社長・田川(演・江口洋介)、その恋人であるりさ(演・山口智子)、アイドルオタクの国城(演・武田真治)、そして無線傍受オタクの女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子)。

さらに、おたく趣味を封印しながらも正義の心を忘れない、特撮ガガガ(!?)な丹波(演・益岡徹)など、個性豊かな面々が、それぞれの知識を武器に所狭しと活躍。

それぞれの分野に秀でた彼らスペシャリストたちに課せられる任務とは。

1992年に公開されたアクションコメディ映画『七人のおたく』

映画 七人のおたく

画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

当サイトの推しは、やはり無線傍受オタクである水上令子の活躍です。

そんな令子が消防無線を傍受する姿に、もう一人のヒロインである「りさ」(演・山口智子)がドン引きするシーンも印象的です。

なお、山口智子さんといえば、アニメ映画『崖の上のポニョ』においても「リサ」というキャラクターを演じており、同作では颯爽とアマチュア無線の運用を行なっていたことも知られ、今にして思えば、これは非常に面白い偶然といえるでしょう。

※以降、物語のネタバレにご注意ください

「七人のおたく」…物語の導入部

ときはバブル崩壊直後の1992年。東京・某所。昭和の名残が色濃く漂う木造アパートの一室に、謎の男がひとり住んでいる。彼の名は星 亨(ほし・とおる)。常に迷彩服をまとい、口を開けば戦術語り出す、筋金入りのミリタリーオタクだ。

部屋には山積みの軍事専門書、棚からあふれるエアガンと予備マガジン、床に転がるガス缶、そしてなぜか本棚にひっそりと佇む『友だちの作り方』。――そう、彼は決して“悪人”ではない。だが、そのディープな趣味が災いし、仲間以外に交友関係は皆無。

だがある日、彼の平穏(に見える)日々に突如として“作戦開始”の合図が鳴り響く。

アパートの隣室に住む外国人女性ティナが、ある夜、謎の男に襲われたのだ。その男の名は高松。静岡沖の某島を拠点とする、ならず者漁師集団のボスである。密漁で荒稼ぎし、島では「網元」としてのさばる男。島の警察機能はほぼ皆無、海上保安庁も取り締まりに手を焼く、まさに“無法地帯”の主だ。

ティナはかつて高松との間に子をもうけたが、DVに耐えかねて島を脱出、東京で子供・喜一と静かに暮らしていた。だが、高松は突如ティナの部屋に現れ、札束を叩きつけると「連れて帰る」と喜一を連れ去った。

その瞬間、星の中のスイッチが入った。

「俺ぐらいになると、ただのサバゲーじゃ物足りないんだ」

正義感からではない。あくまで自己の欲求――本物の“任務”に飢えていた

星は立ち上がる。まずは“仲間”集めからだ。彼がスカウトするのは、それぞれのジャンルに特化したオタクたち。メカオタ兼ドルオタ、パソコンおたく、格闘技おたく、そして無線少女。

個々の能力は変態的に特化していても、一部を除いて社会性はほぼ皆無。でも、星にはわかっていた。「偏った才能こそ、作戦には必要だ」と。

かくして――異能のオタクたちは静岡の片隅にある旅館に集結。目的はただひとつ。
「奪われた子供を取り戻す」

負け続けるミリオタに訪れた、たった一度のチャンス。オレが欲しいのは金じゃない。ミリタリーマニアが描いた夢。オレが仕切る地獄の黙示録。サバゲーフィールドじゃない、リアルな戦場に、オレの夢を埋めるのだ・・・!

みたいな沢田研二みたいな感じで、ひとり燃える星に唆された(?)おたくたち。ややこしい人間模様が交錯する、オタク版『荒野の七人』。かつてないジャンルクロスの予感。

そう、星率いるチームが挑むのは、リアルの戦いだ。サバゲーのルールは、ここには通用しない――。

スカウトせよ! 無線傍受オタク――その名は水上令子

というわけで、本作では主人公の星から、おたくたちが各種の方法と様々な場所でスカウトされていく過程が見もの。

「無線傍受おたく」の女子中学生・水上令子

「無線傍受おたく」の女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子) 画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

どのオタクたちもキャラが立っており、星によるそれぞれのスカウト方法も面白いのですが、そのスカウト方法はぜひ本編を視聴していただくとして、当サイトとして注目したいのはやはり「無線傍受おたく」の女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子)です。

彼女のスカウトから訓練、実戦までの活躍をご紹介。

東京の片隅。そこに“本物”の電波を追い求める中学生がいます。

名前は水上令子(みずかみ・れいこ)。都内の中学校に通う、物静かな少女です。

流行のメイクやSNSには目もくれず、休み時間はいつも屋上。ダンスに夢中なクラスメイトたちを尻目に、ひとりハンディ機に耳を傾けながら、テレホンカードを静かに削っています。

令子の興味は、普通の“中学生女子”とはかけ離れています。
消防無線、コードレスホン……。

「この世には、人知れず飛び交う声がある」

ある日、令子はいつものように傍受をしていたところ、ひときわ異様な電波に遭遇します。
男の低い声で、延々と繰り返される住所の読み上げと時報の音。

「……渋谷区松涛3の2の5……渋谷区松涛3の2の5……」

コードレスホンでもない、自衛隊の交信でもない。発信源不明のその微弱な信号に、令子の“探索本能”が騒ぎます。

ポシェットにハンディ無線機を忍ばせ、放課後の街へと飛び出す令子。
向かった先は、あの松涛

政財界の大物たちが邸宅を構える静寂の住宅街。高級車が並び、通学服の少女にはまるで似つかわしくない場所です。
目指す住所の前にあったのは、草に埋もれた洋館風の廃墟。

「ここから……?」
確信を持てぬまま、令子は敷地内へと足を踏み入れます。

古びた階段を上りながら、微弱だった電波が徐々にクリアに。
やがて、それは無線ではなく“肉声”へと変わります。

――そして次の瞬間。
迷彩服の男が、廊下の奥から飛び出してきました。

驚いて逃げ出そうとする令子。ですが、その男、星亨はこう告げたのです。
「わずかな電波を、よくキャッチした」

その言葉に、どこか心がくすぐられる感覚もありました。

しかし、次に出た『キミ(の能力)が欲しい』という星の怪しい言葉に令子はドン引き。

令子は顔をしかめつつも、なりゆきで星のスカウトを受け入れ、メンバーに。

“迷彩男”にスカウトされた無線少女――。
彼女の能力は、これから始まる“任務”に必要不可欠なものでした。


脚本は一色伸幸氏

本サイトでも以前取り上げた、1985年放送のアニメ『ミームいろいろ夢の旅』の一編に、アマチュア無線を題材にした話がありましたが、驚くべきことにその脚本も「七人のおたく」の原作・脚本を手がけた一色伸幸氏によるものです。

「ミームいろいろ夢の旅」より(C)日本アニメーション

「ミーム」で描かれたフォックスハントの一場面。7年後、「七人のおたく」でも”無線オタク少女”に同じ活躍をさせるのは脚本家の一色伸幸氏。「ミームいろいろ夢の旅」より(C)日本アニメーション

【80年代アニメ】アマチュア無線を扱った衝撃テレビアニメがあった!

 

その一色伸幸氏、やはりアマチュア無線には思い入れがおありのようで、アマチュア無線を冒険アイテムと定義。

【潜入レポート】熱海に集結せよ――“おたく”たちの旅館ベースキャンプ

星亨が選んだ“精鋭”たちは、ただのおたく集団か、否か。
無線傍受、格闘、PC、アイドル……それぞれが自分の世界で研ぎ澄まされた、真の「オタク」たち。

彼らはついに、静岡・熱海へと集結。
作戦実行のための拠点となるのは、海沿いの小さな旅館。
しかし、作戦会議の前に繰り広げられたのは、それぞれの趣味に没頭する“日常”。


格闘技オタク・近藤(演:内村光良)

襖の奥からは、何やらうなるような気合の声。
格闘技オタクの近藤は、黙々と肉体鍛錬中です。

汗を拭う姿は、もはやこの旅館が合宿所にしか見えません。


アイドルオタク・国城(演:武田真治)

その隣の部屋では、ある種の“異様な静けさ”が支配していました。
アイドル同人誌の編集作業に没頭するのは、国城。

アイドル誌に貼った付箋とホッチキスの音、そして唐突に入るテレビのCMミュージック。
間髪を入れずにリモコンの録画ボタンを押します。その動き、約0.7秒。IC-R6の100メモリーのスキャンより早い。

「……まさかCoCoが静岡のコンビニをパブ(宣伝)ってるとは……おっ、まだ瀬能あづさいるもんな。まったく……ローカルは宝箱だ」

国城こそ、本作における“最もステレオタイプ的なオタク”像。
武田真治の演技には、背筋がゾワッとするようなリアルさがあります。


OL・りさ(演:山口智子)

その光景に呆然としていたのが、PCオタク・田川に同行してきたOLのりさ
彼女だけは、この場に「連れてこられた」立場です。

国城に同人誌を980円で売りつけられた直後、今度は星亨のエアガン射撃練習に巻き込まれ、目の前をBB弾がかすめます。

うんざりとした表情で一言も発しませんが、その顔は物語っています。
「私だけはオタクじゃない。この場で私だけが唯一、ふ・つ・う!

ちなみに公式設定では、彼女の属性は「レジャーオタク」。
しかし、広告でのテロップはあえて「ふ・つ・う」と明記されており、この空間の“異常性”を引き立てる対比となっています。


PCオタク・田川(演:江口洋介)

そんなりさの「普通」な思いとは裏腹に、恋人・田川は本気モード。
普段はソフトウェア開発会社の若き社長ですが、この時ばかりは星の指示でMacintoshにかじりついていました。

任務:偽造音源の製作

使用する素材は、なんと令子が傍受したコードレスフォンの交信データ。
そこから音声を切り貼りし、“それらしい会話”を作り出す高度な工作に勤しみます。


無線傍受オタク・令子(演:浅野麻衣子)

そしてもちろん、水上令子もまた、自らの“得意分野”に集中していました。

テーブルに向かい、広げたのは分厚い周波数帳
片手に鉛筆を持ち、傍にはハンディ無線機。

目的は、静岡県内のアクションバンドの傍受

ちなみに、本作に協力したのは『ラジオライフ』ではなく、ライバル誌「アクションバンド電波」
スタッフロールにもその名が記載されており、細部にまでこだわった“本気”の姿勢が伺えます。

無線傍受オタク・令子(演:浅野麻衣子)

画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

【傍受と出動】令子の耳が捉えた“955”の緊急電波――作戦前夜の静寂の中で

やがて、無線傍受に集中していた令子のハンディ機が、地元消防局の無線を受信します。

浜松市消防局の消防無線
広帯域受信機能により、令子の耳に飛び込んできたのは、救急隊から消防本部への容態報告の電波でした。

緊迫の無線傍受――955、944、そして“天使の輪”

「……これ?」

旅館の静けさを破って、傍受された消防無線が復調されます。

『救急浜松1、955。944に移行』

コードの意味を理解できないりさは、傍らの令子にそっと尋ねます。

「きゅーよんよんって……何?」

令子は無言でノートを開き、そこにふたつの記号を描きます。

  • 「倒れた人」のアイコン

  • 「天使の輪っか」

消防無線のコード「944」の意味を悟ったりさは絶句。

緊迫の消防無線に身を強張らせながらも、りさは令子にそっと尋ねます。

「……楽しい?」

少女は当たり前のように微笑みながら一言。

「とても」

このやりとりの、なんとも言えない距離感と余白。

「楽しい……?」と問う“ふ・つ・う”と、「と・て・も」と答える“異端”

“ふ・つ・う”代表・りさの違和感。

一色伸幸さあああああん。・゜・(ノД`)・゜・。

この時のりさは、アマチュア無線どころか、消防無線という存在そのものが未知の領域
ジュリアナ東京でボディコン姿で踊り明かしている、活発な「レジャーおたく(ふ・つ・う)」――という設定。

演じるのは、山口智子。

それがあれから15年後、「崖の上のポニョ」では介護施設職員となり、アマチュア無線機(しかもHF機!)を扱う母親役に。


【作戦決行】令子のコード151報告、そして高松邸へ

そして深夜、ついに作戦は動き始めます。

令子は斥候として敵地・高松邸へ接近。
旅館にいる星に、ハンディ型アマチュア無線機で状況を報告します。

『高松、151。151』

これは、東京消防庁の通話コードで「出動」を意味する数字
ミリタリーオタクの星も、さすがに消防無線のコードにはピンとこなかった様子。

『なんだ?151って?』

もちろん、アマチュア無線で通話コードのような暗号を使うのは禁止事項
さらに、メリット交換(通信同士の同意)なしでの“目的外通信”ということで、グレーゾーンどころか限りなく黒に近い運用です。

※ちなみに、星の使う無線機は見た目ほぼ軍用無線機。従事者免許、持ってるんでしょうか……。


【突入】星の電灯破壊と、近藤の一撃

報告を受けた星たちはついに敵である密漁団ボス・高松の邸宅へ“浸透”します。

先制は星。手にしたエアガンで、家の外灯を正確に撃ち抜きます。

これは当時合法だった3ジュール前後の高威力改造品の可能性大。当時から東京マルイ製電動ガンの標準出力は1ジュール未満でした。

続いて星の指示により、近藤が門戸を正面から蹴破り、突入。
『まさかこのために俺を呼んだのか……?』と不満をこぼします。

……が、直後に発覚する衝撃の事実。

その門戸、実は普通に開けば入れた。

近藤の信頼は一気に崩壊。星に対する不信感が表面化します。


【奪還?誘拐?】喜一を抱きかかえる星

星の目的、それは幼児・喜一の“奪還”
彼は喜一を抱き上げ、旅館へと戻ろうとします。

それを見た田川(演:江口洋介)が、静かに問いかけます。

「……これって、誘拐なのか?」


“おたく”たちが己の信念と趣味に殉じる中、誰もが法の“ギリギリ”を歩いている
だが、それぞれが自分の“好き”を信じて、突き進むその姿――。

この夜、熱海の静寂は彼らによってかき乱されていくのです。

おたく、失意の撤収。そして輝く

時はまさに、世紀末の夜。

濃い霧と潮風が混じる漁港の岸壁に、暗い波が打ち寄せていた。そこへ、闇の中からざわめくように現れる高松率いる不良漁師たち。手には釣竿でも網でもなく、錆びた鉄パイプやバール、角材——まるでヒャッハーな世紀末劇場。

逃げ場のない星たち。追い詰められる小さな希望の灯。

しかし、その時。
港の向こうから、甲高い警笛が響いた。

白く鋭い光を放ちながら、海上保安庁の巡視艇がゆっくりと滑り込んでくる。スピーカーから流れる保安官の声は冷静で無機質。

『また出たんだ、例の特攻船(密漁船)が』

高松の手下らは余裕の笑いで手を振る。
「ご苦労様でーす。本土の奴らでしょう」

星、ここぞとばかりに叫ぶ。
「お願いです!本土まで乗せてくださーい!」
当然、事情を知らぬ海保は冷たくスルー。

——絶望。

喜一を取り戻され、暴力で制圧されかけるその時。

りさが静かに、しかし毅然と星からエアガンを奪い取る。

そして、一瞬の行動だった——
BB弾の斉射、巡視艇の照明灯に命中。
弾ける光り、照明が落ちる。

りさの捨て身のアイデア(罰金とエアガン没収で済んだ)で司法警察(海上保安庁)を介入させたのだった。

国城の車内。

「とにかく、ひとまず東京へ戻ろう」

ところが、安堵の空気も束の間、再び角材を持った漁師たちが車を襲撃。
その中の一人が、運転席のダッシュボードに飾られたアイドルのフィギュアを発見。

「……?」
言葉を失う漁師。

その隙を突いて、国城が車を急発進させる。砂煙を上げながら脱出に成功。

だが、激しい追撃と暴力に晒されたオタクたちは、ついに心が折れる。

一時退却。

リーダー格の星と、無口な武闘派・近藤だけが現地に残り、奪還の機会を窺う中、他のメンバーは東京へ帰還。

東京——それぞれの生活へ。

田川は、自作ソフトの開発に没頭すぎて会社が経営難。

国城は、同人誌の資金を持ち逃げされたあげく、
「次の同人誌、どうすんだよ!お金は何に使った!」
と仲間と揉めている。しかも使い込み先は「高橋由美子のネパール写真集追っかけ」だったというオチ。もう取り戻せない。

もしかして、無線オタク少女は京野ことみになる可能性もあったのかもしれません。時の輝き。

一方その頃、令子は星のために静かに動き出していた。

舞台は都内郊外、林の中にあるサバイバルゲームフィールド……、ではないことは確かだった。

迷彩服に身を包んだ男たちが、エアガンを構え、汗と熱気でほこりっぽい空気を揺らす。撃ち合う銃声、『ヒット!』の声、飛び交うBB弾。だが、端を通り過ぎる無関係の親子にはまるで気づかない様子。

ゲーム、中断なし
——安全意識?なにそれ、という時代。

「すみません……星って人のことで、お話があって」
ゴーグルもせずに立ち入る令子。
本来なら入場禁止のはずだが、誰も止めない。

そこに現れたのが、星のサバゲー仲間兼上司(私は社員、あいつはバイトぉ!)

無線傍受オタク・令子(演:浅野麻衣子)

画像の出典 映画 七人のおたく (C)フジテレビ

「スタンガン? 貸せないねぇ」

そして一言、
「あいつ、肝心なときにビビる。いつも負けチーム。だからあいつは、ひとりチーム。“負けボシ”」

その言葉に、令子の視線がわずかに揺れる。

だが彼女は、諦めなかった。

「もう、貸してもらう必要なんかない」

彼女はそう思ったかもしれない。彼女の手には、BB弾より小さな「再起」の火花が宿っていた。

令子、再起動。

このシーンがあとで、彼女が自ら作った“自衛装置”を手に、不良漁師たちに立ち向かう伏線になります。


サバゲー協力はホビージャパンの月刊アームズマガジンが担当していますが、たぶんこのゲーマーの皆さんは編集部員でしょうか。

無関係の親子がフィールドを通り過ぎてるのにゲームを中断しなかったり、ゴーグルしてない令子をゲーム中に入場させたり(そこはそもそも専用のフィールド?)、今だと炎上する可能性も。実際、近年でも映画「世界は今日から君のもの」のサバゲー中に俳優がゴーグルを外してスマホで通話したため、炎上が起きています。

結局、令子は貸してもらえず、自作します。

帰りの電車、車窓に流れる夕暮れの住宅街をぼんやり見つめながら、バッグから取り出したのは基板と半田ごて、そして古いトランジスタのセット。夜通し組み立てたのは、かつて自作して失敗した試作型・小型パルスショックユニット(これは妄想です)

不良漁師集団でただ一人の正義漢で隠れオタクの丹波さん登場

一方、星と近藤は反撃の機会を得るべく、再び島へ。
バナナボートと遠泳によるネイビーシールさながらの隠密上陸。月明かりの下、浜辺に身を潜めたふたりは、山中の廃屋を発見。そこを前進基地として立てこもる。

夜。
星は暗視スコープを手に敵情視察を試みるが、番屋で魚を焼いていたため、あっさり発見されてしまう。

「こんなところじゃ、すぐ見つかるぞ」

声の主に思わず身構える星と近藤。だが、相手の顔を見て別の意味で驚いた。

「丹波さん……!? あのホビージャパンのジオラマの……」
「フィギアの神様だ……コミケで買いました。ウルトラマン、ゴレンジャー……」

現れたのは丹波達夫。特撮フィギアに造詣が深い伝説の原型師。今は島の漁師で、高松の手下として働いているが、実はかつては筋金入りのおたく。

丹波は、妻子を得るため、5年前にオタク趣味を封印していた。
だが、先日の漁港で国城の車に飾られたフィギアに目を奪われ、襲撃の手を止めたのは、他ならぬ彼だった。しかも、そのフィギアの原型は自分が作ったものだった。

今いる番屋は、丹波の隠れ作業小屋。
棚の奥には、特撮ものやミンキーモモなどのフィギアが、埃をかぶって整然と並ぶ。

「ジオラマは愛だ。作るぞ……きっちり!」

丹波は、星と近藤の作戦を支援するため、ジオラマによって島の全景を作成することを申し出る。
3人は明け方まで没頭し、ついに島の全貌を再現したジオラマを完成させる。

だが、丹波は言う。

「俺にできるのはここまでだ……。高松は、予想以上に凶悪で強敵だ……。お前たち、もう帰れ……」

そして、黙ってその場を去る。

そして、空が白む中──
星が叫ぶ。

とはいえ、あの「ガガガ」みたいな丹波さんから「帰れ」と一喝されてしまえば、従うしかありません。

星と近藤はついに撤退を決意し、浜津駅のホームで東京行きの電車を待っていました。

しかしその頃、彼らの意思とは裏腹に、かつて散り散りになったオタクたちが、それぞれの想いを胸に静岡の地へと戻りつつありました。

中には、オタクと見なされず“戦力外”だったりさが。星が掲げた“人道的救出ミッション”に心を動かされ、協力を申し出たのです。

ただ一つ、令子が再び現れた理由だけは、いまひとつ明確ではありません。

スタンガンを調達できなかった彼女は、「じゃあ、自作する」と言い出し、再び作戦への参加を懇願します。

その様子に、星は思わず「おまえ……なんで!?」と、不思議そうな表情を浮かべるのでした。

この星と令子の微妙な距離感の描写がまた絶妙で、視聴者の妄想をかき立てます。どうやら令子のほうは、星に対してまんざらでもない様子。“キミが欲しい”のセリフが効いたのかもしれません。

しかし、星の方はオタクのくせに、最初から”普通の女性会社員”であるりさに夢中(まるで電車男のような感覚)。令子のことは、おそらく“サバゲー仲間”くらいにしか思っていない様子です。

それでも、無線傍受オタクとミリタリーオタクということで、どこか波長が合うのでしょうか。もし二人が将来結婚していたら、ラジオライフのペディに仲良く参加していたかもしれませんね。

「第二次作戦開始だーッ!」

そして再び作戦が始まります。令子は敵をハニートラップにかけるべく、高松らのたまり場であるスナックへと化粧をして向かいます。

しかし、そこには大きな壁が――

彼女はまだ女子中学生。色仕掛けには無理があり、ハニトラ作戦は痛々しいほどに失敗。

代わりに登場したのはりさ。彼女は歌と踊りで場を魅了し、高松らの心を一瞬でつかんでしまいます(ちなみに、先日のM16乱射事件で顔は割れているはずですが……?)。この展開に嫉妬した令子は、ハイヒールを無言で軽トラのフロントガラスに投げつけて破壊――このシーン、笑いどころです。

物語後半では、またもアマチュア無線が登場。令子は携帯したハンディ無線機から電波を送り、遠隔操作式の発煙筒を起動させます。この使い方、正直かなりグレーです。

そしてラストに繋がる伏線が──『誰でも空が飛べるシミュレーションソフト』。

星は満足感の達成のために、近藤は真の正義のために、田川は自ら開発したソフトの実証のために、国城は同人誌の印刷資金のために、令子は――もしかすると星のために。そして、仮面男・ダンこと丹波は……高松への積年の鬱憤か、それとも心の奥にあった正義感が芽生えたのか。

りさは? ティナへの同情か、それともただのレジャー気分だったのか。ある意味、ラストで一番魅せてくれるのは彼女でした。

──いずれにせよ、彼らの戦いが再び始まったのでした。

まとめ

本作は、日本では珍しい「最後にほろりとさせる」バランスの取れたアクション・コメディの金字塔と言える作品です。1992年の公開当時は、まだバブルの余韻が残っており、街の風景や人々の暮らしぶりにも、どこか余裕が感じられます。田川が乗ってるのもフェラーリだし。全体的に“貧乏臭さ”がないのも、本作の心地よさのひとつです。

ところが1994年以降になると、世の中はブルセラ騒動やリストラ問題など、徐々に荒み始め、95年には阪神大震災と地下鉄サリン事件で決定づけられ、日本映画作品に漂う空気も暗くなってしまいがちです。そういった意味でも、絶妙な時期に撮られた一本だと言えるでしょう。

やはり、テレビアニメ「ミーム」のアマチュア無線の話同様、一色伸幸さんの得意とする張り巡らされた伏線が最高。じわじわ来るのがいいですね。

エンディングのスタッフロールでは、それぞれのキャラクターの趣味を象徴するアイテムと共に、彼らを模したフィギュアが登場。

星はもちろんエアガン、近藤は太極拳のウェア、国城は同人誌、田川はMac、令子はアマチュア無線機と、それぞれの個性が楽しく表現されています。

ところが、りさだけは“パスポートと海外旅行のパンフレット”。うーん、やはり彼女はオタクではなく、「ふ・つ・う」のOLだったということでしょうか。
……なんだ、“普通”って(笑)。

ところで、『七人のおたく』から13年が経った2005年、フジテレビはドラマ『電車男』を放映し、社会現象とも言える大きな話題を呼びました。

原作は「2ちゃんねる」のあるスレッドで交わされた実際のやりとりに着想を得たもので、フジテレビが一から創作したわけではないとされています。

もしこれが本当に仕込みではなかったとすれば、非常にうまい題材を見つけたものだと感じます。

ドラマ化にあたっては、『七人のおたく』のように、オタクたちそれぞれが持つ知識や特技を持ち寄り、人助け(?)を行うというコンセプトが根底にありました。『電車男』も、気弱なオタク青年がネット掲示板を通じて同じ趣味を持つ仲間たちの助言を受けながら、目標に向かって成長していくというプロットであり、本質的には通じるものがあると感じます。

筆者としては、『電車男』を観ながら、13年前に伊豆諸島で散った(散ってません)あのオタク戦士たちの姿が自然と重なり、しみじみと思い出されました。

フジテレビが『七人のおたく』から13年の時を経て、オタクにどのような眼差しを向けて問い掛けるのか、非常に興味深く見守っていました。

結果として、予想以上に初回から面白く、放映時間にはドラマの舞台となっている「2ちゃんねる」の実況スレッドがあったサーバーが落ちる寸前にまでなるなど、その反響の大きさを物語っていました。

ちなみに、フジテレビ出版(現・扶桑社)が1992年に刊行した映画『七人のおたく』の解説本には、次のような肯定的な見解が記されています。

「おたく」とは、心の中に自分だけの小さなパラダイスを持っている人たちのこと。自分にとって、大切にしているものや、自分の好きなジャンルは誰にでもある。その中で時間の感覚を失うほど没頭できる何かひとつのことを持っているのが「おたく」。 そしてそのパラダイスを大切にしながらそれを最大限に楽しめる人こそがおたくなのだ。

出典 「七人のおたく」フジテレビ出版(現・扶桑社)1992年

一方で、脚本家・一色伸幸氏がフジテレビへ本企画を持ち込んだ際には、次のようなやりとりがあったとのこと。

当時は、宮崎事件の影響もあり、オタクに対する印象が非常に悪かったことがうかがえます。そういった意味では、フジテレビ側も当初はあまり乗り気ではなかったようです。

なお、『七人のおたく』は2022年に『七人のおたく THE STAGE』として舞台化もされており、今なお根強い人気を誇る作品となっています。

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