航空自衛隊や海上自衛隊でパイロットを目指す方法はいくつかありますが、最もストレートな道は「航空学生採用試験」に合格することです。
この「航空学生」とは、高校卒業(または卒業見込み)の方、中等教育学校卒業者(または見込み)、高専3年修了者(または見込み)、あるいはそれと同等以上の学力があると認められた方を対象に、将来の自衛隊パイロット候補生を選抜する制度です。
航空学生になると、戦闘機のパイロットだけでなく、輸送機の操縦士などの道も開かれます。まさに、空の世界への登竜門といえるでしょう。
パイロットになる最短ルート、それが「航空学生」なのです。
夢のウイングマークへ――でも道のりは甘くない!?

戦闘機パイロットになるための道は、決して楽なものではありません。現実には非常に厳しい訓練と競争が待ち構えています。
【航空学生:パイロットの登竜門】
もっとも確実にパイロットを目指せる道が、海上・航空自衛隊の「航空学生採用試験」です。
合格すれば、将来的に戦闘機や輸送機のパイロットとしての道が開けます。
また、「自分にはパイロットの適性があるか不安…」という方にも、別の進路が用意されています。たとえば、**固定翼哨戒機(P-3CやP-1)に搭乗し、戦術情報の分析と指揮を行う「戦術航空士(TACCO/タコー)」**という選択肢もあります。
航空学生の世界――厳しすぎるその実態とは?

航空学生の教育課程は、非常に厳しいことで有名です。
先輩学生への絶対服従、教官の存在はまさに「神様」のようなもの。なかには「警備犬ですら上官だから敬礼が必要」などという冗談のような話もあるほどです。
しかも、たとえ採用されたとしても安心はできません。
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成績不良であれば即除隊
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訓練中にケガをして飛べなくなっても即除隊
このように、パイロット候補として厳しく選抜・管理されるシステムが敷かれています。まさに“エリートの中のエリート”を育てる世界といえるでしょう。
とはいえ、もしパイロットになれなかった場合でも、自衛官としての身分が失われるわけではありません。別の職種に配属される救済措置もありますので、安心してください。
つまり、「航空学生試験に合格すること」は、パイロットになるための最も確実で堅実なルートであることに間違いはないのです。
【航空学生以外にも道はあります!】
「航空学生に合格できなかったら、もう戦闘機に乗る夢は終わりなのか…?」
そんなことはありません! 実は他にも道があるのです。
たとえば、
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防衛大学校に進学し、航空要員として選抜されるルート
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一般大学を卒業後、「一般幹部候補生」として航空要員になるルート
といった選択肢があります。
ただし、どちらも非常に狭き門であることは覚悟しておいてください。
なお、陸上自衛隊には、海上・航空自衛隊のように最初からパイロット候補生として募集する制度はありません。
陸自の場合は、
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陸曹として採用されてから「陸曹航空操縦課程」を受ける
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幹部候補生として入隊し、「幹部操縦課程」を受ける
といった流れになりますが、これもまた非常にハードルの高い進路です。
【航空学生出身の有名人もいます!】
このように、航空学生は将来の自衛隊航空要員を育成するエリート選抜コースですが、実は著名人の中にもこの経歴を持つ方がいます。
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漫画家のたなかてつお先生(島根県八雲町出身)
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傭兵として各地の紛争地を渡り歩いた高部正樹さん
といった方々がその代表です。
なお、平成20年(2008年)9月1日に、航空身体検査の合格基準が一部緩和されました。
【視力の壁にご注意を! レーシックはNG】
「レーシック(LASIK)手術を受けてから、航空学生に応募しよう」と考えている方は、要注意です!
パイロットを目指す上で、視力の条件は非常に重要です。
近年、視力矯正の手段として一般的になっているレーシック(LASIK)手術では、レーザーで角膜を薄く削って屈折力を調整しますが、航空学生の応募資格には「近視矯正手術(オルソケラトロジー等を含む)を受けていないこと」と明記されています。
▼ LASIKとは?
日本眼科学会の公式サイトによると、LASIKは次のように説明されています。
LASIKは、フェムトセカンドレーザーというレーザーを用いて角膜の表層に「フラップ」と呼ばれる薄い膜を作り、それをめくって角膜実質を露出させます。そこにレーザーを照射して角膜実質の一部を切除し、角膜の屈折力を変化させて視力を矯正する手術です。
出典:日本眼科学会公式サイト
つまり、LASIKはれっきとした外科手術(眼科手術)です。
将来パイロットを目指すのであれば、手術を受ける前に慎重に情報を確認することが非常に重要です。
【航空学生の受験概要案内】
防衛省による公式な「航空学生」の受験概要案内には、次のように明記されています。
特に視力に関する条件が非常に厳格ですので、以下にその詳細を示します。
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片眼の遠距離裸眼視力または矯正視力が0.7以上
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両眼の裸眼視力または矯正視力が1.0以上
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中距離裸眼視力または矯正視力が0.2以上
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近距離裸眼視力または矯正視力が0.5以上
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近視矯正手術(オルソケラトロジーを含む)を受けていないこと
なお、視力矯正には眼鏡を使用することが求められており、コンタクトレンズの使用は認められていません。
(引用元:防衛省公式サイト 防衛省のFAQ)
これが防衛省が公式に発表している航空要員の視力基準です。つまり、近視矯正手術であるレーシックを受けてしまった場合、受験資格を失うことになります。もしパイロットを目指しているなら、視力矯正手術を受けることは絶対に避けたほうがいいということです。
また、オルソケラトロジーは、就寝時に特殊なコンタクトレンズを装着して視力を回復させる手法ですが、こちらも受験には影響があることを理解しておきましょう。
【視力回復のためには手術以外の方法を】
自衛隊が公式に協力した宮嶋茂樹氏の「自衛隊 レディース 空飛ぶ大和撫子」という女性自衛官パイロット写真集には、興味深い一文があります。それによると、角膜手術を受けても入隊後に眼圧検査でバレてしまうため、パイロット資格は無条件で剥奪されるとのことです。
(引用元:宮嶋茂樹著『自衛隊レディース 空飛ぶ大和撫子』)
このことからもわかるように、視力回復のためには手術以外の方法を試みるほうが賢明だと言えるでしょう。
【航空自衛隊パイロットの視力管理】
航空自衛隊の戦闘機パイロットによる視力に関する公式コメントが掲載されています。
その中で、視力の維持・向上に関して以下のように記載されています。
「天気の良い日には遠くを眺める等、視力を維持・向上させるよう努めてください。」
(引用元:航空自衛隊公式サイト)
こんなんで目が良くなったら誰も困らんで。スマホとゲームを投げ捨てるしかないやん。
また、航空自衛隊では目に良いとされるブルーベリージュースなどをパイロットに配給しており、視力管理に力を入れています。
(引用元:防衛省公式サイト)
【ここまでのまとめ】
パイロットを目指すには、視力が最も重要な要素の一つ。航空学生試験を突破するためには、勉強、体力、根性に加え、視力管理が求められます。
視力回復のための手術を考えている方は、航空学生の受験資格に影響を与えることに十分な理解が必要かもしれません。
防衛省公式サイトより引用。引用元の明示
http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/omosiro/omosiro11.html
航空学生の試験と身体検査
航空学生の試験には、筆記試験と身体検査が含まれています。受験者は全国の有名進学校から選ばれた優秀な生徒で、幼少期から厳しい教育を受けてきた人々です。そのため、基礎学力が完璧で、特に数学や英語が優れていることが求められます。
航空自衛隊の航空学生3次試験で行われる衝撃的な内容
ただし、優秀な学力だけでは合格できません。パイロットには適性が求められるため、実際の操縦試験も行われます。
警察や消防の試験のような体力テスト(腕立て伏せや腹筋など)はありませんが、航空学生の3次試験では、飛行実技試験が用意されているのです。
受験者は、実際の練習機に乗り込み、空中で操縦を行います。これは高校生にとっては非常に驚きの内容と言えるでしょう。
実際の飛行試験の内容
試験では、離着陸は教官が行いますが、上空では受験者自身が、上昇や旋回などの基本的な操縦を担当します。試験はCP-1からCP-4までの過程に分かれており、飛行の手順を覚えることが求められます。
ただし、「手順を暗記するだけでは意味がない」と教官から言われることも多いです。試験では、限られた時間内でどれだけ飛行手順を理解し、実行できるかが重要視されます。
また、グライダーの免許や航空特殊無線技士の資格を持っていると有利ですが、資格がなくても適性があれば合格できる場合もあります。操縦試験中には、教官がフレンドリーに景色の話をしてくれることもあるため、緊張を和らげることもあります。
採用後の教育
採用されると、正式な自衛官かつ航空学生として、約2年間の基礎教育を受けます。初めの期間は集団生活を送りながら、基本的な教育を受け、その後、飛行訓練を進めていきます。最初はプロペラ機を使った訓練から始まり、次に亜音速ジェット機T-4での訓練が行われます。
パイロットにとって英語は必須であり、航空管制や米軍との共同訓練では英語を使うことが多いため、航空自衛隊では英語教育も充実しています。英語のコミュニケーション能力がないと、訓練に支障をきたすため、非常に重要なスキルです。
Eチェック判定とエルミネート
訓練中に成績が悪く、根性や学習意欲が不足していると「Eチェック判定」を受けることになります。この判定は、合格のための最後のチャンスを意味し、パイロットとしての適性が問われます。その後、努力を重ねて合格した例も多く、こうしたドラマチックな話は広報でも紹介されることがあります。
一方で、Eチェック判定を突破できない場合やケガで訓練が続けられない場合、「エリミネート」が待っています。これはパイロットのコースから外れることを意味し、ウイングマークを取得できず、自衛隊でのパイロットの道が完全に断たれることになります。
F転とは?
「F転」とは、戦闘機パイロットから救難機や輸送機のパイロットに転換されることです。戦闘機には乗れなくなりますが、パイロットとしての道は続けられるため、これは一つの選択肢です。
航空自衛隊の航空学生教育
航空学生の教育は、山口県防府市にある第12飛行教育団で行われ、約2年間の基礎教育が行われます。この教育期間には、「航空学生課程」と「地上準備課程」が含まれ、初級操縦課程も行われます。場合によっては、別の教育団での訓練もあります。
約2年間、座学を中心とした基礎教育を受けて修了後、飛行幹部候補生として約2年間の飛行訓練を中心とした操縦教育を経て、パイロットの資格を取得します。その証として「ウイングマーク」を授与されます。さらにその後約4ヶ月から1年で、戦闘機、輸送機、救難機に分かれて教育訓練を受けて、各部隊に配属されます。「初級操縦課程」を修了した後、芦屋基地の第13飛行教育団での「基本操縦前期課程」、または美保基地の第3輸送航空隊での輸送機等の操縦士育成の「基本操縦課程」に進みます。
このようにして、複数のメソッドを用いた教育カリキュラムが行われています。
海上自衛隊における航空学生の教育
海上自衛隊における航空学生の教育は、非常に厳しい訓練を受けることが特徴です。特に、教育課程の内容は、将来のパイロットや戦術航空士としての資質を育むために設計されています。最初の「幹部航空基礎課程」は、短期間で航空の基本を学ぶためのコースですが、特に「航空学生課程」の2年間にわたる教育がとても重要です。
その2年間では、航空に関する基礎技術から始まり、計器飛行訓練など高度な技術を身につけることが求められます。このような教育は、将来的にパイロットや戦術航空士として活動するために必要な力を養うことを目的としています。
将来の幹部としての資質も問われるため、まさに「脱獄」と言えるほどの厳しい訓練環境ですが、それが自衛隊のエリートを作り上げる過程であるとも言えるでしょう。
海上自衛隊の航空エリートを育てる「揺りかご」みたいなものです。その揺りかご、めっちゃ激しく揺さぶられるけどな。
2種類の教育課程
海上自衛隊の航空学生には2つのルートがあります。
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幹部航空基礎課程(12週間)
- 対象:防衛大学校卒業生、一般大学卒業者など、将来幹部になる人
- 内容:航空の基礎教育を短期間でガッツリ学ぶ -
航空学生課程(2年間)
- 対象:高校卒業生で、パイロットや戦術航空士を目指す若者
- 内容:2年間かけて、基礎からみっちり鍛えられる
海上保安庁パイロットの育成も
なお、海上自衛隊は海上保安庁のパイロット育成も行っており、小月には将来自衛隊のパイロットになる学生と、海保のパイロットになる学生が一緒に学んでいます。
射出座席の脱出訓練は本当に過酷です!
戦闘機には、パイロットが緊急時に機体から脱出できるよう**射出座席(イジェクションシート)**という装置が備えられています。
仕組みは以下のとおりです。
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非常時にパイロットがレバーを引くと、まずキャノピー(機体のガラス部分)が爆発的に吹き飛びます。
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続いて、座席の下にあるロケットモーターが点火し、パイロットごと座席が機体外へ射出されます。
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射出後、パラシュートが開き、安全に地上へ降下する…という流れです。
ただし、この装置による脱出は非常に身体への負担が大きく、射出の瞬間には**約6G(体重の6倍の重力)**がかかるため、体が耐えきれず気を失ってしまうこともあります。
射出脱出の模擬訓練も実施されます!
実際にロケットで射出するわけではありませんが、圧縮空気を使って実際の脱出に近い状況を再現する模擬訓練が行われます。これも6Gの加速度を体験するもので、一瞬で意識が飛びそうになるほどの過酷さです。
また、もしパイロットが海上に脱出した場合に備えて、以下のような装備が座席に仕込まれています。
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自動で膨張する救命いかだ
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生存用の非常食や救助信号発信装置
ちなみに、アメリカのU-2偵察機には自決用の毒薬が装備されていたという話もありますが、自衛隊の射出座席にはそのような過激な装置は搭載されていません。
落下傘を使った空挺降下訓練もあります!
海上自衛隊のパイロットや戦術航空士は、陸上自衛隊の第1空挺団で「落下傘降下訓練」も受けることになります。
この訓練では、
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高さ80メートルの降下塔から実際に飛び降りる
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実戦に近い状況での空挺降下を模擬体験
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恐怖心を乗り越える精神力が求められる
といった過酷な訓練内容となっており、ここで尻込みしてしまうようでは務まりません。
まとめ
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航空学生には2つのルート(幹部候補生コースと高校卒業コース)があります。
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空自パイロットは徳島航空基地で計器飛行(計器による操縦)の訓練を受けます。
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海上自衛隊は海上保安庁のパイロット育成にも協力しています。
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射出座席の脱出訓練は6Gという強烈な加速度を体験する、本物の試練です。
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空挺降下訓練も必須で、高所からの落下に耐える覚悟が求められます。
つまり、「空を飛ぶ海自のエリート」になりたいのであれば、小月教育航空群での訓練や、厳しい脱出・降下訓練を乗り越える強い意志と体力が必要なのです。