警察の無線通信は、用途に応じて2つの系統に分けられ、明確な通信統制が図られています。ひとつは、通信指令室とパトカーや白バイ、航空機などの移動体がやり取りを行うVHF帯の車載通信系(基幹系)です。これは、県下全域にわたる機動的な警察活動を支える大動脈的な通信ラインとなっています。
もうひとつが、外勤中の警察官が携帯無線機を使って交信するUHF帯の携帯通信系で、これは署活系と呼ばれています。署活系では、所轄警察署の通信室(通称リモコン指揮者)と、現場で活動中の警察官、または警察官同士の間でUHF帯の無線通信が行われます。
この署活系通信には、各警察署ごとに割り当てられた専用のUHF周波数が使用されており、警察官が持つ携帯型無線機(いわゆるウォーキートーキー)と、本署の通信担当者とを結ぶ重要な連絡手段として機能しています。
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署活系無線の歴史
1970年代当時、第一線で署外活動に従事する地域警察官が使用していた通信手段は、送信機能を持たない受信専用の「受令機」が主流でした。
これにより警察官は、本署からの指令を一方的に受け取るだけで、自らの状況を即応的に送信する手段を持ちませんでした。

また、緊急時の連絡には公衆電話を利用することも多く、外勤警察官が本署や他の外勤員と密接な連携を取ることは極めて困難でした。そのため、外で活動する警察官と本署との間で、双方向の通話が可能な通信手段の導入が急務とされていました。
この状況を受けて、1974年度からは東京・大阪などの大都市圏において、警察官個人の装備として相互通話が可能な携帯式無線機の配備が始まりました。
この新装備により、警察署や他の外勤員と常時連絡を取りながら警ら活動を行えるようになり、事件や事故への対応中でも、新たな通報に迅速に対応できるなど、大きな利便性向上が実現。
特に、逃走する犯人の包囲、職務質問中の人物照会などにおいては、携帯無線機が重要な役割を果たしました。第一線からのリアルタイムな一報により、指名手配中の被疑者であるかどうかの迅速な判断が可能となったのです。
1981年度末には、全国873の警察署に無線基地局が整備され、携帯無線機の配備も完了。翌年度からは、デジタル携帯無線機の整備が始まりました。
ただし、このデジタル化の進展は、車載無線機の更新に比べて遅れが目立ち、1990年代後半まで多くの地域でアナログ方式が使用されていました。このため、部外者による無線の傍受は頻繁に発生し、悪用されるケースも少なくありませんでした。

1982年度からはパトロール中の警察官が署活系無線を利用して照会ができる署活系照会システムの整備に着手されましたが、全国整備はされず、警視庁と大阪府警のみで完了。
参照 澤喜司郎『警察通信網と情報システム』および昭和59年警察白書
「所轄系」ってナニ?──無線マニアなら知ってて当然の基礎知識
たまに見かける誤記。それが「所轄系」という謎ワード。警察無線の通信系統を語るうえで、「署活系」のことをこう呼んでしまう人が稀にいるんです。正式には「署外活動系」の略称、「署活系」です。
たしかに「所轄署単位で使う通信」って言われれば、なんとなく「所轄系」って呼びたくなる気持ちはある。
この話、昔からあって、たとえば1984年12月号の『ラジオライフ』では、警察庁広域重要指定115号事件の報道記事の中で、『フォーカス』編集部のライターが「所轄系」なんて書いちゃったもんだから、編集部がツッコミを入れるという場面も。
曰く、
「もしウチの読者だったなら、所轄系と署活系の区別がつかないようなことはないだろう」
という、ちょっと辛口なコメント。
これはつまり、あの伝説の「送信改造」と「受信改造」の違いもわからずに、無知なライターがラジオライフ誌を“警察無線の妨害を指南している雑誌”として叩いた某週刊誌への、愛ある仕返しだったのかもしれません。
『SW-1』──SW-1型携帯用無線電話機
いまやスマートフォンとほぼ同じサイズの警察用無線機が主流となっていますが、1980年代の警察活動を支えていた名機といえば、やはり──SW-1型携帯用無線電話機です。
当時、松下通信(現・パナソニック)と三菱電機が手がけたこの無線機は、現場の最前線で地域警察官たちに使用されていました。しなやかに曲がるホイップアンテナや外部マイクロホンといったスタイルは現行配備のモデル同様ですが、本体のサイズはおよそ2倍。ごついフォルムに、当時の無線好きの少年たちは胸をときめかせたものでした。
しかし、外見の無骨さとは裏腹に、このSW-1は非常に実用的な無線機でした。ニカド(ニッケル・カドミウム)電池を内蔵し、連続送信でもおよそ1時間の運用が可能。さらに、重量は約500グラムと軽量で、警察官が日常的に携行する装備品の中でも比較的負担の少ない機材でした。
注目すべきは、署活系通信機ならではの機能です。ハンドマイク下部には非常発信用の専用ボタンが備えられており、これを押すことでプレストークボタンを押し続けることなく送信状態を維持できます。つまり、両手がふさがっていても緊急連絡が可能となり、現場対応の実情に即した設計となっていたのです。
署活系無線の特徴
現在の署活系無線は、原則としてUHF帯を使用しています。具体的には、移動局(外勤警察官)側が340MHz帯、基地局(本署の通信室)側が360MHz帯に割り当てられています。
この無線システムは、各警察署の管轄区域内──おおむね数十キロ圏内──での基地局と移動局間、あるいは移動局同士の相互通信を目的として運用されています。そのため、移動局側(外勤警察官の携帯機)の最大出力は1ワット程度と非常に小出力で設計されているのが特徴です。
また、隣接する所轄署との連絡を可能とするため、各都道府県警察ごとに「共通波」と呼ばれる共用周波数も設定されています。このため、たとえばアナログ時代の携帯無線機SW-1では、1チャンネルに自署の周波数、2チャンネルには共通波または隣接署の周波数が設定されているのが一般的でした。
署活系無線は、日常の地域警察活動に密着した通信が主ですが、これに加えて交通取締りや巡回連絡などの業務にも幅広く使用されます。そのため、複数のチャンネルが用意されており、状況に応じた切り替え運用が可能です。
こうした構成により、署活系無線は地域警察官が地域に密着して機動的な対応を行うための、極めて重要な通信インフラとなっているのは80年代同様です。
初代デジタル署活系無線機 SW-101およびSW-201
署活系無線のデジタル化は、1987年ごろから警視庁をはじめとする一部の警察本部で始まりました。このとき登場したのが、アナログ機に代わる初代デジタル携帯無線機「SW-101」です。
SW-101は、同時期に発売されていた一般向け携帯無線機「MT-775」と筐体デザインがほぼ共通しており、見た目の面でも大きな変化はありませんでした。ただし、中身は完全に警察用として設計され、署活系に特化した仕様が盛り込まれていました。
そして1995年ごろには、後継機となる「SW-201」が各地で配備され始めます。SW-201は、横幅約6センチ、縦12センチ(アンテナ除く)、厚さわずか2センチ余りというコンパクトなサイズで、警察官の携行性を大きく向上させました。
この機種には、小型の液晶ディスプレイのほかに、以下のような操作系が搭載されています:
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電源ボタン
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送信ボタン(プレストーク)
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イヤホンジャック
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チャンネル設定スイッチ
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識別用コードスイッチ
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非常発報ボタン(ハンドマイクにも搭載)
これらの機能により、現場の警察官がより迅速かつ確実に本署や他の外勤員と連絡を取ることが可能になりました。
そして、1998年ごろまでには、全国の警察で署活系無線におけるデジタル化と音声暗号化(デジタル・コーデック)の導入が完了。これにより、従来問題となっていた外部からの傍受や盗聴のリスクが大幅に軽減され、通信の秘匿性と安全性が格段に向上しました。
現行配備のPSW形携帯用無線機
警察庁は平成23年(2011年)より、約20年ぶりとなる地域警察無線システムの見直しを行い、『地域警察デジタル無線システム』として刷新しました。その中核を成すのが、『新・署活系無線PSW(Police Station Walkie-talkie)システム』です。
この新システムにより、外勤中の警察官は、腰に装着する小型携帯無線機「PSW形端末」を使用するようになりました。PSW端末は、単なる音声通信機能にとどまらず、GPS機能やカメラ機能を備えており、位置情報や画像データの送受信も可能となっています。
『地域警察デジタル無線システム』は、以下の2つのシステムで構成されています:
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新・署活系無線PSWシステム(音声・位置情報通信)
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PSDシステム(Police Station Data terminal)
(データ通信端末を用いた各種情報の送受信)
これらの導入により、従来のSWシリーズと比べて、署活系無線の性能は大幅に向上しました。
SWとPSWの違いとは?
まず大きな変化の一つが、分散型基地局の増設によるサービスエリアの拡大です。これにより、地下街や鉄筋コンクリート建造物内など、従来通信が困難だったエリアでも安定した無線通信が可能となりました。
また、GPS(全地球測位システム)機能の搭載によって、警察官の現在地をリアルタイムで本署の端末に表示・共有できるようになり、現場への最適な人員配置や勤怠・動態管理がより迅速かつ的確に行えるようになりました。
そのほか、PSW形端末には以下のような改善も見られます。
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小型・軽量化により携帯性が向上
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バッテリー性能の向上による連続使用時間の延長
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高い防水性能による全天候対応
このようにPSW形無線機は、まさに現代の街頭活動に適応したスマートな“相棒”として、全国の警察官にとって欠かせない存在となっています。
署活系無線は本署のリモコン室およびリモコン指揮者が担当
警察本部には、リモコン室と呼ばれる専用の通信室が設けられており、ここでは警察署の無線機をリモートで操作しています。
いくつかの警察本部では、リモコン室という名称は、無線機が別室に配置されており、その操作が通信室内の操作盤を通じてリモートで行われていることに由来しています。
このリモコン室を担当するのは、リモコン指揮者と呼ばれる無線担当の署員です。通常、リモコン指揮者は係長クラスの署員が任命され、24時間体制で警察本部通信指令室からの指令を受理し、現場での指揮を行います。
リモコン指揮者の役割
リモコン指揮者は、警察本部から送信される基幹系無線や有線通信で110番通報などの出動指令を受け取り、その指示を基に、署活系無線を使って外勤員(警察官)に指示を出します。また、現場からの情報を本署に送信し、その情報を基幹系無線や専用回線を通じて本部通信指令室に逐一報告します。
このような情報のやり取りを通じて、警察本部は各所轄署管内で発生した事件や事故の状況を常に把握し、迅速な対応をしています。
署活系無線で事件事故の発生を知る方法
デジタル化および暗号化された警察無線は、当然ながら復調できないため、通話の内容をうかがい知ることはできません。
しかし、ラジオライフの「通話が聞けない警察無線で事件の発生を知る方法」によれば、警察無線の交信の特定の音を利用して事件の発生を知ることができるとしています。
署活系無線は、基地局である本署と移動局である外勤員、または外勤員同士の通信系統です。通信は、基地局が360MHz帯のダウンリンク、外勤員が347~348MHz帯のアップリンクを使って行われます。これらの通信は、レピーター通信を用いて行われており、交信が行われていない場合でも、通常約3秒ごとに搬送波(キャリア)が送信されています。
この搬送波は、広帯域受信機で受信すると「ズザッ」という音が一瞬聞こえるのが特徴です。そのため、もし交信頻度が高くなると、搬送波が連続して送信され、ズザー、ズザーという音がしばらく鳴り続けることになります。このような音の連続により、近隣で事件や事故が発生していることを観測できるのです。
署活系無線は変な会話が多い
警察の基幹通信である車載通信系の交信は、厳格に運用され、警察の責務を遂行するために必要な通信事項のみが交わされています。
しかし、かつてのアナログ時代の署活系無線は、まったく異なる雰囲気がありました。警ら中の外勤員と本署や交番勤務員が、昼食の出前のメニュー確認や、くだけた会話をするためにも使われていたのです。このような会話は、車載通信系の交信とはまるで空気が違い、非常にカジュアルなものでした。
例えば、前述の「デジタル化された警察無線で事件発生を知る方法」において、ズザーズザーという頻繁な搬送波を観測して、「これは何かが起きている予感……!」と妄想する一方で、実際には交番のハコ長(巡査部長)が昼食を手配しているという可能性も。
昭和の警察無線傍受
昭和の時代、交番近くのラーメン屋のオヤジが、片手にラジオライフ(しかも投稿していた)を持ちながら、もう片手には受信改造アマチュア無線機、さらにもう一方の手にフライパンを持って警察無線を傍受していたというエピソードもありました。まるで腕が何本あるのかというような状況でした。
また、警察無線を傍受することで生まれた都市伝説も数多くありました。例えば、「葬儀会社は警察無線を貸してもらっている」とか、「葬儀会社の車は赤色灯をつける許可を警察からもらっている」などの噂が流れることもありました。
警察無線傍受と利益を上げていた業界
ただ、80年代に警察無線を傍受して利益を上げていたのは、葬儀会社ではなく、実際にはレッカー会社でした。それも、反社会的勢力のフロント企業とされるような会社だったという事実があります。
警察無線を傍受して、事故や故障車両の情報をいち早く得て、レッカーサービスを提供していたことが、無線を傍受して利益を得る手段となっていたのです。
署活系無線は電波が飛ばない
署活系無線は、原則として移動局(外勤警察官)が340MHz帯、基地局(本署)が360MHz帯を使用しています。これらは飛びの悪いUHF帯を使用しており、所轄署の管轄内数十キロ範囲を想定した通信エリアとなっているため、出力も1ワットと非常に微弱です。
そのため、ビルもほとんどない農村や地方都市であれば問題ありませんが、山間地の谷間やビルの谷間などでは不感地帯の問題が顕著でした。
しかし、現在ではこの不感地帯問題も改善されています。交番の屋根に垂直ダイポールアンテナを立てて中継するレピータ方式が普及し、これによりUHF帯での通信範囲が拡大しました。また、以下のような対策も採られています。
ミニパトの通信環境改善〜屋根につけたユーロアンテナに署活系無線機を繋げば広がる夢と通信距離
なお『無線警ら車』ではないミニパトは車載通信系無線機を積まず、外勤員が車載通信系を傍受する場合は受令機を使います。

そのため、ミニパトにもユーロアンテナが搭載され、署活系の通信距離を最大化しています。
ミニパトでは車載通信系無線機を積んでいないため、外勤員は受令機を使って車載通信系を傍受します。しかし、ミニパトには無線用アンテナが搭載される場合があり、そのアンテナをPSW無線機に接続することで、通信環境を一時的に改善させることができます。
これにより、無線機の付属アンテナだけでは飛ばなかった電波が、外部アンテナを通じてより強力に送受信されます。
地域による特別な対策
特に広範囲な地域を管轄する警察署では、広域署活系としてVHF帯域のアナログ基幹系通信を転用することがあります。この対策により、VHF帯域の強い電波を活用し、UHF帯域での通信が難しい地域でも対応できるようになります。1983年度からは、一部県警でこのような広域署活系が整備され、広い地域をカバーできる体制が整いました。
署活系無線のまとめ
現在では、PSW無線機に加えて*PSD(警察用携帯電話)も使用され、これらが組み合わさったシステムが『地域警察デジタル無線システム』となっています。このシステムにより、従来の無線だけではなく、無線以外のデータ通信も活用できるようになり、警察無線の通信手段は進化しています。