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シグナリーファン編集部では、警察装備や運用に関する国内外の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、本記事もそれらの調査結果に基づいて構成しています。

ミニパトの緊急走行は全国一律ではない──愛媛県警の運用事例

全国の警察本部に配備されている「ミニパト」と呼ばれる軽自動車や小型乗用車タイプの警察車両は、地域警察官による巡回や駐車違反の取り締まりなど、日常的な業務に広く使用されている。

しかし、こうしたミニパトには、一部の県警において意外な運用上の制限が設けられていることがある。

本記事では、ミニパトの基本的な運用実態から、ある警察本部の運用要領の明文化の一例に至るまで、実際の事例をもとにその実態を検証する。

ミニパトの役割

ミニパトは、地域警察官が日常の巡回活動や地域パトロールに使う車両として、市民にもっとも身近な存在といえる国費配備のパトカーだ。フットワークが軽く、交番勤務員や駐車違反取締りの警察官によって、全国的に広く配備、使用されている。

そもそも、ミニパトは「小型警ら車」が正式名称である。クラウンなど大型セダンの「無線警ら車」が基本的に2500ccであることや、定員が5名以上であることなどが警察庁の調達基準になっているのに対し、小型警ら車は排気量が660~1500ccと幅広く、調達基準は緩やかであるため、軽自動車やコンパクトカーなど様々だ。

車種 車両区分 排気量 用途 導入事例
スズキ アルト(HA36S型など) 軽自動車 660cc 地域警ら・交番用 各都道府県警
ダイハツ ミライース 軽自動車 660cc 地域警ら・交番用 各都道府県警
ホンダ N-BOX 軽自動車(トールワゴン) 660cc ※覆面/刑事捜査用 警視庁で導入
スズキ スイフト(5BA-ZC83S型など) 普通車 1,200cc 地域警ら・交番用 各都道府県警
トヨタ パッソ (DBA-KGC10型など) 普通車 1,000cc 地域警ら・交番用 各都道府県警
スズキ ソリオ(5AA-MA37S型など) 普通車 1,300cc 地域警ら・交番用 各都道府県警

ミニパトも緊急自動車としての指定を受けており、赤色警光灯やサイレンを搭載している。だが、立派な警察車両である……とはならないようだ。

意外なことに、一部ではミニパトの運用には明確な制約が存在するのだ。

詳しく見ていこう。

愛媛県警の例

とりわけ愛媛県警察本部が定めた「小型警ら車運用要領」では、ミニパトの緊急走行に関して、明文化された独自の運用方針を示している。その愛媛県警察本部が定めた「小型警ら車運用要領」を見ていこう。

第4 使用制限 1

ミニパトカーは、原則として緊急自動車として使用してはならない。ただし、署長は、管内の特殊事情、用務の性質等から特に必要であると認めるときは、速度違反車両の追跡、逃走車両の追跡、単独による被疑者、でい酔者の搬送等、高度の危険を伴う場合を除き緊急自動車として使用させることができる。

引用資料:愛媛県警察本部公式サイト「小型警ら車運用要領の制定について」
https://www.police.pref.ehime.jp/kitei/reiki_honbun/u227RG00000342.html

この要領では、ミニパトを対象に、原則として緊急走行を行わないよう明記されている。具体的には、赤色警光灯およびサイレンを用いた緊急自動車としての走行を、特殊かつ緊急のやむを得ない場合に限って許容するという、かなり明確な使用制限を設けている。

その理由には、以下のような要素があると考えられる。

  • 小型車特有の衝突安全性や走行安定性の限界

  • 高速走行時における制動性能や横転リスク

  • 万一の事故発生時に、乗員の警察官自身や第三者に与える危険の大きさ

  • 一般車両との混在状況における緊急走行の識別性の問題

つまり、ミニパトの緊急走行の制限は、軽自動車や1,500cc未満のコンパクトカーが持つ車体構造や設計用途に由来しており、より安全性と合理性を重視した愛媛県警独自の方針であるといえる。

愛媛県警では、この要領により小型警ら車の緊急走行を抑制的に運用し、追尾や急行といった任務は主に通常の警ら用パトカー(クラウンなどの普通乗用警察車)に限定している。これは、追跡など危険を伴う任務には無線警ら車を配置するなど、安全装備の充実した中大型警察車両との任務分担の明確化を図ったものと見られる。

このような県単位での運用基準の違いは、全国共通の警察装備に対して、各自治体警察が独自の判断で運用制限をかけられる一例である。つまり、警察庁が国費で調達した車両であっても、最終的な運用ルールの策定は各都道府県警に委ねられているのが現状である。

確認したいが、愛媛県警でも完全に禁止しているわけではなく、特別な事案では認められているほか、全国でもミニパトの緊急走行事例は実務上、至ってポピュラーである。

なお、同じく警察の内部規定という点では、パトカーの運転資格が設けられている点も興味深い。実は警察官の内部資格によっても、警察車両の運行の可否に直接関わってくるのだ。

通称『青免』『黄免』はパトカーを運転するために必要な警察の部内資格

 

このような自主的な制限の背景には安全の他に、軽車両の加速性能の限界に対する運用当局者の判断があるとみられる。

大型の車体であるトヨタ・クラウンでは難しい住宅密集地でも、ミニパトであれば、軽快さを活かして車体のウィークポイントを最小限に抑えつつ、きめ細やかな地域警察活動を行うことに適しているとされている。こうした用途においては、高速性や追尾能力よりも、機動性・小回り・目立ちにくさ(隠れやすさ!?)といった特性が評価されている。

まとめ

このように、見た目はサイレンも赤色灯も備わった“立派なパトカー”であるミニパトだが、その運用上の役割は明確に分けられており、特に被疑者の車両追跡のような高リスクが伴う任務には投入されないよう配慮されている。警察車両の中でも、任務に応じて最適な性能と制約が設計されている一例といえる。

ミニパトもサイレンおよび赤色灯を装備した緊急自動車に分類されるが、その車両性能や運用上の規定、さらには安全性の観点から、原則として被疑者の車両を追跡するような高速度での追尾行動には使用されない場合もあるというわけである。

つまり、小型警ら車、いわゆるミニパトは、警察官の日常的な巡回業務や地域パトロールに広く用いられているが、その車両特性──すなわち加速性能や衝突時の安全性といった観点から、原則として高速追跡や激しい車両運用、すなわち緊急走行には不向きとされ、実際にそれを原則的に行わないよう内部通達を出している警察本部も存在する、というのが今回の記事の要点である。

このように、警察車両の運用方針については、警察庁が定める全国統一の基準とは別に、各都道府県警察本部が地域の事情や安全性を踏まえて独自に運用要領を設けているケースがあるという点に留意しながら各都道府県の警察車両に注目すると、意外な“イレギュラー運用”を発見する場合もあるかもしれない。そういうのがマニアにとって楽しいのである。

警ら用無線自動車の解説

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