特殊急襲部隊(SAT:Special Assault Team)は、テロや重武装犯罪への対処を目的に1996年、警察庁により創設された警察の精鋭部隊である。
警察白書によれば、2025年現在、SATは全国8都道府県(北海道、東京都、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県、沖縄県)に設置され、合計約300人規模で編成されている。
通常の機動隊や銃器対策部隊では対処困難な事案に即応する部隊として位置づけられており、ハイジャックや重要施設占拠事件、銃器を使用した重大事件への対処を想定している。
SATの装備は高性能かつ多様で、自動拳銃(SIG P226)、短機関銃(MP5サブマシンガン)、狙撃用ライフル、自動小銃(89式小銃)、特殊閃光弾のほか、防弾装備、暗視装置などの先進的装備を備えている。戦術によってはヘリコプターを使用した上空からの展開も行われるが、展開に使用されるヘリは対テロ任務用に防弾化されている。
これらの装備と訓練体制はすべて、警察白書、専門誌、報道において根拠の裏付けがなされており、警察の対テロ・重武装対応の中核といえる存在である。
本稿では、警察庁が公式に公開している広報資料や公文書および報道などを基に、SATの設置経緯や任務内容、装備体系といった運用実態について事実に即して整理し、事実確認を重視して詳述、その実像に迫る。
バナー画像の引用元 【CBC News】坂口警察庁長官が愛知県警のSATを視察 https://www.youtube.com/watch?v=21vZUcDFe6s
Contents
特殊急襲部隊(SAT)──警察白書に見る、国家的な対テロ即応戦力の実像

特殊部隊SATが使用するSIG P226自動拳銃
1996年、警察庁は重大凶悪事件やテロに対応する特殊部隊として「特殊急襲部隊(SAT)」を創設した。平成16年警察白書(※)によれば、当時のSATは北海道警、警視庁、大阪府警に加えて、千葉、神奈川、愛知、福岡の各県警に配備され、全国7都道府県体制で運用されていた。その後、2005年に沖縄県警にも発足し、2025年現在は全国8の都道府県に配置されている。
④ テロ対処部隊
ア 特殊部隊(SAT)
特殊部隊(SAT)は、北海道、警視庁、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡及び沖縄の8都道府県警察に設置されている。全国で約300人の体制で、自動小銃、サブマシンガン、ライフル銃、特殊閃(せん)光弾、ヘリコプター等が配備されており、ハイジャック、重要施設占拠事案等の重大テロ事件、銃器等の武器を使用した事件等に出動し、被害者や関係者の安全を確保しつつ、被疑者を制圧・検挙することを任務としている。
引用元:警察庁公式サイト『第2項 警察におけるテロ対策』 https://www.npa.go.jp/hakusyo/r01/honbun/html/vf122000.html
【出典】警察庁公式サイト『平成16年 警察白書「第7章 警察の危機管理体制の強化』
刑事部には捜査一課にSIT(特殊事件捜査係)が編成されているが、SATは、主にハイジャックや重要施設の占拠といった、より重大な重大テロや、銃器を使用した立てこもり事件など、通常の部隊では対応が困難な事案に備えて配備されている。
各部隊は警察庁長官の統制下に置かれ、都道府県警察本部長からの要請により出動する体制となっている。
SATの対応する事件
- 銃器犯罪
- 航空機の乗っ取り(ハイジャック)
- テロ
- 人質立てこもりなどの凶悪事件

白書では、SATが地方警察ごとに設置されているにもかかわらず、全国的な視点から警察庁の 一元指揮的での運用がなされている点が強調されている。
つまり、SATは発足当初から、各都道府県警の通常の機動隊とは一線を画す「日本政府直轄に近い統制」が行われていたことが読み取れる。今日のSATの装備や出動事例を考察するうえでも、この部隊運用の位置づけが明確に示されている点は極めて重要である。
また白書では、SATの装備や訓練水準についても言及されているが、特に専用の訓練施設の整備や、最新の装備導入が図られており、隊員には高い専門技術と即応性が求められる実情に触れている。SATは機動隊のバリアントではなく、国家レベルの治安維持を担う重要な戦力として、法整備や制度面の支援を受けながら強化されてきたことが記されている。
白書には明確な表現で、SATが「銃器使用事案等の重大事案に対する初動対応力の強化」の中核を担っていることが述べられており、地方自治体の枠組みを越えた広域的な治安対処部隊としての役割が示されている。
【出典】
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警察白書 平成16年版 第7章「警察の危機管理体制の強化」>「特殊急襲部隊(SAT)」
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h16/hakusho/h16/html/F7002020.html -
警察庁 警備局「焦点」第279号(PDF) 特集:重大事案における初動対応体制の強化
https://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten279/pdf/p18.pdf
1. 設立と任務
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設立年:1996年(平成8年)に警察庁により設置。
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任務:重大凶悪事件、テロ、ハイジャック、立てこもり事件等に対応し、迅速かつ専門的な対処。
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設置:2025年時点で、東京都、大阪府、北海道、千葉県、神奈川県、愛知県、福岡県、沖縄県。
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出動条件:各都道府県警本部長の要請を受け、警察庁長官の承認を経て出動。
【出典】
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警察庁「令和3年 警察白書」https://www.npa.go.jp/hakusyo/r03/index.html
2. 設立と前身部隊
SAT(Special Assault Team)は、1996年に正式に発足をしたが、前身には1970年代発足の非公然特殊部隊SAP(警視庁)や零中隊(大阪府警)が存在し、1996年の再編により現在の体制となった。警視庁では当初、第六機動隊にSATを置いていたが、のちに警備部警備第一課に移管され、機動隊からは独立している。
3. SAT/SAP/零中隊の主な出動事例(報道確認済)
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【突入支援】1995年 全日空857便ハイジャック事件(函館空港)
北海道警察と警視庁第六機動隊特科中隊SAP(SATの前身部隊)が合同で出動。SAP隊員が航空自衛隊の輸送機で現地入りし、機内突入支援を行ったとされる(NHK報道記録に基づく)。 -
【直接介入】1979年 三菱銀行立てこもり事件(大阪)
大阪府警の零中隊(SAT前身部隊)が初の突入実績。犯人射殺・人質救出が行われた(当時の新聞報道)。 -
【突入支援】2000年 西鉄バスジャック事件(福岡)
福岡県警SATおよび大阪府警SATが出動し、広島県警の銃器対策部隊と合同で対応。現場では後方支援を行ったと報道されている。 -
【突入支援】2003年 名古屋立てこもり放火事件(愛知)
愛知県警SATが出動。犯人が死亡する騒動となったと中日新聞などが報じた。 -
【直接介入】2007年 愛知県長久手町立てこもり発砲事件
SATが出動し、犯人がSIT隊員を含む警察官に発砲。SAT隊員が後方支援中に被弾し、殉職と報道された。 -
【直接介入】2007年 佐世保銃乱射事件(長崎・ルネサンス事件)
福岡県警SATが出動し、長崎県警銃器対策部隊と合同で犯人の捜索任務に対応と報道された。 -
【突入支援】2012年 愛知県豊川市の豊川信用金庫蔵子支店人質立てこもり事件
愛知県警察SATがSITと共に出動し、SITの突入を支援したと報道された。 - 【突入支援】2023年 長野県中野市4人殺害事件
警視庁刑事部の特殊捜査班 (SIT) および神奈川県警察SATが応援派遣されたと報道された。長野県警は“犯人は説得して投降”と記者発表した。
⚠️ 注意点
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SATの出動は、報道により事実確認されたもののみを記載。
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出動時の詳細な装備や人員規模については、報道では省略される傾向がある。
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その他、90年代の事件は、報道ベースで確認できる事例が限られている。
特殊急襲部隊(SAT)と他部隊の連携
警察庁資料にみる任務分掌と共同運用体制
平成15年版警察白書によれば、特殊急襲部隊(SAT)は、銃器や爆発物が使用される凶悪事件や重大テロに対応するため、全国7都道府県警察に設置されている部隊である。SATの設置目的は、「銃器使用事案等への迅速かつ的確な対応体制の確立」にあり、1996年の設立以降、地方警察組織の一部にありながら、警察庁の統制下で全国運用される体制がとられている。
SATの運用において重要な要素は、単独行動ではなく、他部隊との有機的な連携である。警察庁は、SATが出動する事案において、まず第一段階の対応を担うのが機動隊等に編成された「銃器対策部隊」であると明言している。
銃器対策部隊は、事件発生時に初動を担い、現場の封鎖、被害者救出、またはSAT到着までの防御線確保などを任務としている。SATは、こうした銃器対策部隊の支援を受けつつ、より直接的な介入・制圧を行う。
さらに警察庁は、化学兵器や生物兵器などを用いたテロ、いわゆるNBC(Nuclear, Biological, Chemical)事案に対応するため、8都道府県警察にNBCテロ対応専門部隊を設置したと公表している。SATは物理的制圧を担うのに対し、NBC部隊は汚染の封じ込めや除染など、特殊環境下での専門的対応を行う。両者は任務領域を分担しながら、必要に応じて共同で現場に投入される体制となっている。
また、白書では自衛隊との連携にも言及がある。警察と自衛隊は、有事や災害対応における役割分担を確認し、日常的に訓練や連絡調整を行っている。SATは、地理的に遠方の現場に展開する際、自衛隊や海上保安庁の輸送手段を利用するとされ、これも制度上の支援体制として整備されている。
このように、SATは単独の作戦部隊ではなく、銃器対策部隊、NBC対応部隊、さらに必要に応じて自衛隊などとも連携し、階層的・複層的な治安対処体制の中に位置付けられていることが警察白書から読み取れる。警察庁は、各部隊の役割を明確に分掌しつつ、統合的な治安対応力を確保するための制度整備を段階的に進めてきた。
【出典】
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警察庁『平成15年 警察白書』第6章「公安の維持」>「警察の対応」
https://www.npa.go.jp/hakusyo/h15/html/E6001020.html
SATの装備変遷 ― 2002年公開の動画から読み取る個人装備の事実
SATの装備は、地域警察官と異なる警察装備として、例外的に軍用規格に準じた高性能な火器と戦術装備を配備する。
2025年現在、MP5A5をSAT隊員が構えている姿は複数の報道映像でも確認されているが、その配備状況が公的に詳細が明らかになったのは、2002年に警察庁が初めて公開した警視庁SATの公式訓練映像による。以降、主に報道写真・訓練取材・公開映像などから分析されてきた。
● 火器の変遷と現行装備
【初期】
その中で隊員がH&K MP5(9mm短機関銃)、USP、グロック19などを携行している姿が正式に公知された。なお、SAP時代はH&K P9S拳銃を使用していたという。

2002年5月に公開された警察庁広報ビデオ(SAT)より引用
【SAT・SP・SFGp】2000年代初頭、日本政府がこっそり配備したドイツ製拳銃H&K(ヘッケラー&コッホ)USPとは?
当初からフレームにはフラッシュライトが装着されており、装備の現代化の一端といえる。
MP5
現在、日本警察ではMP5をSATのほか、刑事部のSITや機動隊の銃器対策部隊などに配備している。このうち、警備部の部隊で配備されるMP5はセミオート、フルオート、3点バースト付きの通常モデル、SITの配備するMP5はシングルファイヤ(連射機能がない)モデルとなっている。一方で、前身である警視庁特殊部隊『SAP』および大阪府警特殊部隊『零中隊』では、70年代の発足当初から、サプレッサー仕様のMP5SDの使用を明かす元警察官の証言がある。
【中期】
2005〜2007年にかけ、北海道や愛知での合同訓練現場にSATと見られる部隊が参加し、MP5を確認。
【近年】
2020年以降、メインアームズはMP5が引き続き配備されているが、サイドアームズでは当初見られたグロック19やUSPは報道で見られなくなり、拳銃はP226Rに統一されていると推測される。
なお、2021年には警視庁自動車警ら隊の地域警察官がグロック45を使用していることが確認されている。
● 個人装備の特徴
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出動服:当初から現在に至るまで、紺系のアサルトスーツが着用されている。外国の特殊部隊が着用する戦闘服と同等の耐熱性が推測される。一方で、オーストラリアのクインズランド州における国外訓練においては陸上自衛隊と同じ2型迷彩服の着用も確認されている。
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アーマー:プレートキャリア型のハードアーマー(Level III以上と推測)へと移行。2007年の長久手町事件で戦死者が出たため、現在は上腕部を保護するプレートが追加されている。
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ナイトビジョン:偵察機材として配備。
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その他装備:ドア破壊用バッティングラム(鉄製の大型ハンマー)、集音器材なども配備。
SATの装備は、自衛隊の特殊部隊(SFGp)よりも柔軟かつ市街地対応型である点が際立っており、あくまで警察的運用に基づく選定がなされている。
【出典】
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警察庁による「警視庁特殊急襲部隊SAT」訓練動画公開(2002年)https://www.youtube.com/watch?v=PUmYUVqM6Uo
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報道機関による公開訓練映像
まとめ
SATは、制度、装備、人員、運用のすべてにおいて、警察の中でも最も高度かつ特殊な部隊である。
なお、米国のFBIにはSATに近い特殊部隊としてHRTと呼ばれる特殊部隊が編成されている。
今後も警察白書など一次資料を通じて、その実像に迫りたい。
■ 参照・出典資料リンク(警察庁公式サイト)