広帯域受信機で聴ける無線、聴けない無線は?

現在のアマチュア無線機には広帯域受信機能(ワイドバンド機能)が備わっている機種が多くあります。

しかし、アマチュア無線機に搭載される広帯域受信機能は本格的ではありません。

そこで、アマチュア無線のみならず、航空無線や各種業務無線、さらに低い周波数のHF帯など、幅広い無線交信を聞きたい(受信)のであれば『広帯域受信機(ワイドバンドレシーバー)』がおすすめです。筆者が使用しているIC-R6は現時点でアナログ受信機としては最高の性能を持っています。

また、広帯域受信機は無線機ではないため、送信機能がありません。つまり、免許や資格が不要で、どなたでも扱えます。

電波法では『「無線局」とは、免許人及び無線設備並びに無線設備の操作を行う者の総体をいう。 ただし、受信のみを目的とするものを含まない。』としていますが、取締りを行う総合通信局では『電波を発射しなくても、電波を発射できる状態で無線機を使用していれば、不法無線局の開設罪に問われる場合もある』としていますので、絶対に電波を発射できる状態で無線機を使用しないようにお願いいたします。

アマチュア無線機の広帯域受信機能と広帯域受信機の比較
  • アマチュア無線機の『広帯域受信機能』は限定的
  • 広帯域受信機は幅広い周波数と各種の電波形式に対応する
  • 広帯域受信機はアマチュア無線の資格や免許がなくても扱える
  • 無資格者が送信可能状態のアマチュア無線機を受信機がわりに使う法的リスクがない

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広帯域受信機で聴ける無線、聴けない無線は?

現在、国内で販売されている広帯域受信機にはアナログ受信専用とアナログ・デジタル受信両対応の2種類があります。例えるならアナログ無線はラジオ放送のAM、FM方式の電波と同じシンプルなもの。一方、デジタル無線はテレビの地上デジタル放送と同様に、特殊な変調方式を用いている無線です。

アナログおよびデジタル受信機で受信できる無線

  1. アナログ受信機はAM/FM/NFMモードが一般的です。やや高価な機種はSSBモードも搭載される場合も。
  2. デジタル対応機はDCR/DMR/DPMR/TETRA/P25/NXDN/D-STAR/C4FMといった各種モードが一般的。
  3. 一部のデジタル対応機では機能開放コマンドの入力でさらにSTD-T61といったモードも拡張可能。
主流のデジタルモード

  1. TETRA (Terrestrial Trunked Radio): TETRAは、欧州統一規格で米国とヨーロッパの警察消防など公共安全通信に広く使用されます。音声通信とデータ通信のために設計され、高品質な通信とセキュリティが特徴です。
  2. DMR (Digital Mobile Radio): 低コストで効率的なデジタル無線通信を提供するために設計されたモードで、2つのスロットを使用することで、2つの通信チャネルを同時にサポートできます。トランキングに対応した受信機が必要です。総合通信局も使用します。
  3. P25 (Project 25): P25は主にアメリカで主流のデジタルモードです。秘話対応で日本では刑務所、在日米軍が使用しています。
  4. NXDN (Next Generation Digital Narrowband): NXDNは狭帯域デジタル通信を提供するために設計されています。タクシー業界などの用途に適しており、ノイズ耐性やセキュリティを強化できます。

デジタルモードはタクシー無線やマスコミ無線、道路公団、ガス会社、一部の官庁などで使用されています。アナログ通信に比べて音質や通信のセキュリティを向上させるとともに多重化やデータ通信もサポート。

総務省では新たな電波利用ニーズに応えるため、周波数再編を進めており、将来的にはアナログ無線を徐々にデジタル無線へと置き換える計画です。2024年現在では公的機関の無線、鉄道やタクシー、ライフライン無線、防災行政無線、報道連絡波などがデジタル化されています。2024年現在、これら一部のデジタル無線に対応したデジタル受信機も普及してききましたが、まだまだ高価なのがネックです。

2024年現在、受信できる無線各種

地域によって受信できる無線は異なる場合があります。

どの地域でも受信できる無線

アマチュア無線(アナログ&デジタル)

アマチュア無線にもアナログとデジタルの2種のモードがありますが、VHF帯の144MHzとUHF帯の430MHzならば、運用局は多く、全国各地で受信可能です。どちらのバンドも直進性が強く、電離層で反射しにくい性質を持っています。利用者が多く、簡易なアンテナでも普段はおよそ50キロ圏内でこれらの周波数帯域における交信が聞けるでしょう。430MHzでは宇宙空間のISSのレピーターを介した交信も受信可能で、500キロ先の無線局の交信も受信できますです。

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一方、「HF」と呼ばれる短波帯での通信は電波電離層に反射して遠くまで伝わる性質を持ち、さらに減衰の少ない「SSBモード」なら、さらにより遠方へ電波が届くので、遠い局の交信を受信できるでしょう。筆者は北海道で東北、北陸、関東、関西、四国、沖縄までほぼすべての地域の交信を7MHzで毎日受信しています。日中から夜11時ごろにかけて日本全国はもとより、1500キロ先の外国のアマチュア局の声やモールスがお祭り騒ぎのように賑やかに聞こえています。IC-R6はSSBに非対応ですが、約半額で買えるSSB対応短波ラジオ(簡易ワイヤーアンテナ付属)で受信可能です。

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また、災害とは切っても切れないアマチュア無線では災害発生時、被災地域の局とボランティアの局が非常通信を行います。大規模な災害でなくとも、山岳事故、海難事故などで救援が必要な際に非常通信が行われる場合もあり、アマチュア無線は情報収集と人命救助において疎かにできません。

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また、アマチュア無線のデジタルモードでは現在、JARLが開発したD-STAR、八重洲無線が提唱するC4FM、HFではFT-8が使用されています。C4FMではGPS測位で得た位置情報などを無線機のディスプレイに表示できますが、やはりこれらのモードに対応した無線機や受信機が必要です。

航空無線(アナログ)

航空機と地上管制などが交信するAM方式のVHF帯エアバンドでは50キロ先を低空で飛ぶヘリやセスナの交信も受信可能。航空無線は一般的に航空路管制、航空会社のカンパニーラジオ、さらにはUHF帯の航空自衛隊GCI、HF帯にはSSBモードの洋上管制まで含まれ、それらを探究する楽しさがあります。

航空無線の基本解説

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洋上管制もHF帯なので全国各地で受信可能。有名な自衛隊版・洋上管制『厚木オーシャニック』では陸海空の航空機が交信しており、コンディション次第で昼間から受信可能。先述の通り、これらHF無線の受信は安価なSSB対応ラジオでOKです。大きなアンテナは必ずしも不要です。

業務無線(アナログ)

かつて150MHz帯、468MHz帯などは民間事業者が多数いましたが、現状では激減しております。近所に事業者があれば、これらのアナログ業務無線をまだ使用している可能性があります。また140MHz帯では極少数ですが、土地改良区など準公的機関が現在も使用している場合があります。

消防署活系無線(アナログ)

それまでは政令指定都市の消防本部のみ免許されていましたが、2016年の消防無線(指令波)完全デジタル化に伴い、全国各地で使用が緩和されました。基本的には現場の隊員同士で交信するアナログ無線ですが、訓練における指令波の代替や、ハチの巣駆除での使用など意外と普段から使用されています。基本的にアナログFMモードで、反転秘話が使用される場合もありますが、アルインコの最新受信機DJ-X100の拡張機能を解放させていれば復調可能です。

消防無線(デジタル/アナログ )の解説

デジタル簡易無線(登録局・免許局)(デジタル)

上記のアナログ業務無線に置き換わりはじめているのが、一般的な事業者に免許される467.00000MHz~467.40000MHzまで65波ある467MHz帯デジタル簡易無線(免許局)です。一方、業務並びにレジャー使用ができるのが351MHz帯のデジタル簡易無線(登録局)です。登録局では企業、店舗、学校行事、常備消防&消防団、そしてレジャー局(フリーライセンス局)と、全国で使用者が増えており、受信の機会は最多。2024年現在、明らかに多数の局が利用しており、活発です。2023年に登録局のチャンネル数が大幅に増えました。

デジタル簡易無線とは?『免許局』と『登録局』の違いなどを解説

一部地域で受信できる無線

やはり無線を使用する事業者は都市部に集中しています。

報道連絡波(デジタル)

事件事故が発生した際に活発になるマスコミ無線で、取材中のヘリや中継車とテレビ局報道部デスクとが連絡を取り合います。山頂設置のテレビ中継局が近くにあれば、報道連絡波用のアンテナも併設されている場合があるため、受信しやすい場合もあります。大事件事故が発生した場合、ニュース放送の直前に中継のヘリとの細かい打ち合わせ等が行われ、報道の舞台裏を伺い知ることができます。

デジタル・報道連絡波(放送連絡波)の受信方法

タクシー無線(デジタル)

それまでアナログ方式で24時間受信できていたタクシー無線も、今やすべてT102およびT61モードを使うデジタル無線です。受信方法にはクセがありますが、多くの場合受信は可能です。やはり多くの事業者が集まる市町村、客の多い都市部である方が受信できる機会が多いでしょう。DJ-X100(受信改造済み)では、テキストデータによる乗客情報を受信して、内容を窺い知ることもできますが、同機の特殊機能を使うにあたっては電源投入時、画面上に『電波法違反は刑事罰が課されることを理解している』という文面が表示され、同意が必要です。

【聴ける!】デジタル・タクシー無線を受信する方法

デジタル警察無線・デジタル消防無線は聞けない

上述の各事業者のデジタル無線が聞けるのであれば、デジタル警察無線も聞けるのでは、と思う方もいるかもしれませんので、明確に否定しておく必要があります。

「警察官が交話するアナログ無線」という広義で現在も受信できるものには「警察ヘリのカンパニー波」と「遭難対策無線」があります。カンパニーは警察官である操縦士と警察技術職員等の航空隊本隊職員が航空機の運行調整に関するやりとりを行う無線で、AMアナログモードのため第三者による傍受が可能です。したがって、例えばテレビの警察24時でよくある警察ヘリによる被疑車両の秘匿追尾のような個別の捜査事案に直接関わる連絡はカンパニー波で行いません。一方、遭難対策無線は各県の山岳遭難対策協議会に免許された166.23 MHz、FMモードの専用波ですが、山岳遭難発生の際に県警の山岳警備隊員と遭対協の救助隊員が交信する無線で全国で使用されており、こちらも警察官が交話する傍受可能な最後の無線と評されています(さらにデジ簡の登録局を使う団体もあるようです)。

いわゆる、「パトカーの無線」に代表される捜査情報を直接やり取りする警察無線はすべてデジタル・スクランブル(暗号)化されており、対応する市販の受信機はありません。これは主に二つの理由です。一つは日本の無線機メーカーは「まともなメーカー」であること、もう一つは「法律」です。

2023年現在、AOR、アルインコ、アイコムなどのメーカーから各種デジタル無線に対応している受信機が出揃い、上述のデジタル報道連絡波、デジタル簡易無線、デジタルタクシー無線のほか、米国警察や在日米軍も使うPublic Safety(公共保安)P25規格なども受信して復調できます。しかし、それでも受信できないデジタル無線、それは日本のデジタル消防無線および警察を代表とする各種捜査機関(麻薬取締り官、海上保安庁、検察庁その他)のデジタル無線です。

日本の警察無線はすでに80年代から90年代にかけてデジタル化されましたが、初期のデジタル警察無線はまだ技術が低く、スクランブルが突破された歴史があります。これは過激派や一部の無線マニアによるものでしたが、当時と現在の技術的及び法的な事情は大きく異なることに留意が必要です。最新のデジタル警察無線ではさらに複雑なスクランブルによる暗号化が実装された上に、警察の自営回線と民間の通信会社の回線を併用したIP無線になっており、出ている電波をSDR等で掴むことはできても復調・解読はできません。

ただ、昨今では受信機単体での復調より、PCと連携させてなんらかのソフトウェアで解読を試みようとする人も増えています。よって、解読できるか否かは個人の技量にもよるため『できない』と断じることは適切ではないかもしれません。

しかし、法改正が行われ、デジタル暗号化された通信を第三者が解読することが違法とされたことで、解読の目的によっては法的なリスクが生じるようになりました。警察無線などを解読・復調することについては、アルインコ社が『まともなメーカーなら警察無線を解読できる受信機などは販売しない。また、解読することは電波法に違反し罰則がある』と言及しているので、解読を絶対に試みないでください(※当該の文言は同社公式サイト上から削除されています)。

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広帯域受信機のまとめ

このように、広帯域受信機があれば、様々な周波数を受信することができますが、警察や消防など重要なデジタル通信は技術や法的な面で復調ができないと理解していただければ幸いです。

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