船舶無線(海上無線通信)は『国際VHF』と『漁業無線』が主流の受信対象

日本の漁船や旅客船、プレジャーボートなど各種船舶および海岸局が行う海上無線通信には国際VHF、漁業無線など複数。

これらをまとめて本稿では「船舶無線」と呼称する。

国際VHF(船舶共通通信システム)

「船の無線」として、世界各国の船舶で最も普及しているのが『国際VHF(船舶共通通信システム)』

まずは、その16ch(156.800MHz)受信がベスト。

大海原を航行する大型タンカー、貨物船、豪華客船、海上保安庁や海上自衛隊、各国海軍の各種船舶、そして海岸局と呼ばれる港湾管理事務所の無線局。

これらはVHF帯の150MHzから160MHz(FMモード)に割り当てられた世界共通の計57chを使う国際VHFにて、互いに航行安全上の通信を行うことが定まっている。

国際VHF(船舶共通通信システム)とは?

■船舶の航行のための通信に使用する国際的なシステムです

150MHz帯を使用し、船舶において遭難・安全通信・港務通信、電気通信業務、水先業務等に使う無線通信システムで、全世界的に使われているため「国際VHF」と呼ばれています。総務省では、船舶のより安全な航行を実現するため、小型船舶等に任意で設置することができる安価な国際VHF機器の普及を図るべく、平成21年に「船舶共通通信システム」として制度の整備を行いました。国際VHFは、航行の安全に関する重要な通信を行うものとして多数の船舶に利用されています。

出典 日本マリン無線協会 https://marine-vhf.jp/marine-vhf.html

 

57チャンネルのうち、156.800MHzは16chと呼ばれ、大型船舶では設置が義務。航行中、必ず聴取が義務付けられ、同時に呼び出しと応答専用ともなっており、遭難安全通信用にも使用される。

ここで呼び出して、他のチャンネルに移って交信をするのはアマチュア無線やデジ簡と同様。

総務省による国際VHFの説明(pdfファイル)を参考にしてほしい。

つまり16chを聞いていれば、即座に大海原を行く船の無線、航行案内を行う海岸局からの送信をワッチ可能だ。

チャンネルによっては海上保安庁の船舶局、海岸局、航空機局との通信に使用するものもある。

アイコム 国際VHFトランシーバー IC-M73J

ICOM IC-M73J 国際VHFトランシーバー

 

国際VHF用の無線機各種。画像引用元 https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/life/technique/navigation/vhf.html

2018年に発生した日本の自衛隊機に対する韓国駆逐艦レーダー照射事件でも、日本のP1哨戒機側は国際VHFの16ch、それにVHFとUHFの二つの国際緊急周波数を使って、韓国艦艇側にレーダーによるロックオンの意図を繰り返し問い合わせた。

が、国際的に取り決められた安全航行のための周波数や緊急事態用の周波数による問い合わせを韓国海軍は一方的に無視している。

救難要請から領空侵犯まで使用される国際緊急周波数とは?事件も…。航空自衛隊「GCI」とも関連

すなわち、「船の無線」を聞きたいなら、国際VHFの16chワッチが最適解。

毎朝、16chで航空無線とは違うハッキリした英語で「プリーズ、チャンネル、ワン、フォー」などと、海岸局と各船舶との交信を聴取できるはず。

なお、実務としてこれらの通信に携わる業務局の職員が国際VHFを使用するためには第一級から第三級総合無線通信士、第一級から第四級海上無線通信士、第一級から第三級海上特殊無線技士のいずれかの無線従事者資格を取得していなければならない。

海上特殊無線技士の試験では国際VHFに関する問題も出題される。

プロの無線従事者の資格とは?アマチュア業務とプロの業務はどう違う?

また、沿岸海域のみを航行する船舶で国際VHFや漁業無線なども設置していないレジャー船、プレジャーボート用として、日本独自の「マリンVHF」という制度もある。

国際VHFの中の周波数の中で割り当てられている。

1988年(昭和63年)に発生した自衛隊潜水艦と釣り船との衝突事故「なだしお事件」が導入契機となっており、緊急時の連絡体制を確保する目的で導入されている。

マリンVHFは国際VHFと違って、聴取義務はないものの、マリンVHFも国際VHFを使用する大型船舶や海上保安庁との直接通信が可能。ただし、導入船舶は多くないと見られている。

漁業無線

一方、漁船は所属漁協や僚船との通信を1.7MHz、2MHz、4MHz、8MHz、27MHz、39MHzといったHF帯で行っている。

無線局免許は漁協か漁業無線組合に交付されるのが通例で、各漁協に割り当てられている周波数一覧は総務省公式サイト(PDFファイル)で公開されている。

なお、J3E、H3EはSSB、A1Aはモールス、A3EならAMだ。

8MHzは韓国の海岸局も使用しており、日本国内でも受信可能。

また、日本の民間プロ無線からは廃れてしまったモールス(電信/CW)が漁業無線では今なお生き残ってもいる。

漁業無線の使う27MHz帯では27.524MHzが呼び出し周波数。

ただし、早朝の定時放送を除けば、交信頻度自体は少ない。

27MHzはCB無線(市民ラジオ)の帯域としても割り当てられており、夏のシーズンにダクト現象やEスポが出れば、遠距離でも受信可能。

電波モードはSSBを使うことが多いので、SSB対応の比較的高価な広帯域受信機の上位機種か、HFアマチュア無線機があると良い。

筆者はIC-R30で傍受しているが、”受信機を選ぶ無線通信”である点は、同じくHF通信かつSSB(そのうちのUSB)モードを使う航空無線の洋上管制同様。

残念ながら当サイトでおすすめしているIC-R6ではSSB受信はNG。その理由は以下の記事で解説している。

【洋上管制解説…No.2】受信改造済みのIC-R6でも洋上管制が聞けない2つの理由

なお、1万円前後のSSB対応BCLラジオで受信可能。以下の記事にて人気機種を解説している。

XHDATA D-808でHF帯SSBモードの洋上管制や海上自衛隊HFアツギオーシャニック、7MHzアマチュアバンド受信可能!

漁業無線では秘話も

漁業無線で何の交信をしているのかという基本的な話だが、航行に関する安全情報はもちろん、漁獲高や良好な漁場などの情報である。

日本周辺の沿岸・沖合漁場.さらには遠く外国水域の漁場に出漁し,操業している我が国の漁船は,操業に必要な各種情報の人手いかんにより漁獲高に影響を大きく受けることがあり,また,今日の漁業にとって無線通信は,情報伝達のために不可欠の手段となっており,漁業経営の円滑な運営の推進に役立てられている。
漁業通信の種類には,漁場における気象・海況,漁場の位置・魚群状態からなる漁況,使用漁具の手配等の操業上の打合せ等を内容とする通信及び漁業監督官庁から漁船に対して行われる漁業の指導監督のための通信がある。

出典 総務省 昭和57年版 通信白書 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s57/html/s57a02030209.html

基本的には各地の漁協ごとに周波数が割り当てられており、海岸局である各漁協無線局(コールサインは○○ぎょぎょう)と、漁協所属漁船との交信が主なもの。交信内容は主に海水温、気象情報など。

当然、漁獲高や良好な漁場など操業に関する情報をやり取りするため、平文のほか暗号による交信がなされたり、FURUNO社の秘話装置を使った秘話通信を使うこともあり、非常に興味深いのが漁業無線の側面である。

この秘話は民間船に妨害を与えることもあるとして、必要最低限の使用が漁協より推奨されている。

常に交信されてはおらず、海岸局からの定時放送のほかは閑散。

ところが北朝鮮からミサイルが発射された場合は自動音声でセキュリティが発報され、安否確認が行われることもある。

北朝鮮がミサイル発射 太平洋で操業中の県内漁船に被害なし

4日朝、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを受け、日南市にある油津漁業無線局では、東北沖など太平洋で操業中の県内の漁船に対して情報を伝えるとともに、安否の確認を行いました。

引用元 https://www3.nhk.or.jp/lnews/miyazaki/20221004/5060013826.html

上述のEスポ発生時はモービルホイップでもいけるが、やはりHF用アンテナを立てられる環境が最高だ。

ワイヤーアンテナも可。大掛かりなアンテナでなくとも、ベストセラーのHF用受信専用アンテナがあればいい。

船舶無線のまとめ

このように、船舶の無線は大きく分けて国際VHF系と漁業無線の二種がある。

エアバンドや一般業務無線の受信に飽きたら、これら船舶無線にチャレンジ。

「ボクんちの近所に海なんかないよ!」なんて嘆くなかれ。

海から離れた内陸部に住んでいるから船の無線なんて聞けそうにない……なんて諦めの声も聞こえてきそうだが、大丈夫。

国際VHFに関して言えば、海面反射により意外と遠方まで聞こえている。

海岸から山を挟んで100キロは離れた内陸部でもコンディション次第。

まずはダメもとで国際VHFの呼び出し周波数である156.800MHzを受信機にメモリーしておこう。

一方、HF帯の電波も電離層に反射するため、夏場のEスポ発生時には受信のチャンスが多くなる。

ただし、HFの場合はSSBも使うので『SSB対応BCLラジオ』があると良い。

なお、フライトレーダー24同様に船舶のリアルタイムな動向がわかるサイト・MarineTrafficもあるので、日本のほか世界中で漁船や貨物船、旅客船、漁業監視船など、おおまかな船舶のリアルタイムな位置を知ることができる

漁協、各種船会社、さらには国立高専に割り当てられた周波数は総務省で公開されているので、目を通しておこう。

総務省公式サイト https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/material/dwn/06.pdf