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かつて、映画やドラマといった娯楽作品にアマチュア無線が登場する機会は多いものでした。中でも円谷プロ作品の特撮物、当時の刑事ドラマにもかなりの頻度で登場したそうですが、漫画やアニメの世界ではどうでしょうか。
この記事では『アマチュア無線が登場するマンガやアニメ』として、筆者が知るかぎりの作品をご紹介していきます。
以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。
とてもお得な情報が記事の中程にありますので、お見逃しなく!
少年の町ZF
1976年から79年まで『ビッグコミックオリジナル』にて連載された小池一夫氏原作、平野仁氏作画の「少年の町ZF」は、人間の血液を求める宇宙人により、人間がバンパイアにされて侵略される世界、そしてそれに対抗すべく日本の少年たちが知恵と勇気を振り絞って戦う物語です。
過酷な運命を生き抜く彼らの物語は”ゾンビもの”でもあり、冒険サバイバル漫画でもありますから、アマチュア無線が出るのも当然でした。
作中、アマチュア無線技士として活躍していたのが、村地日出男と向井洋介という二人。彼らはある日の夜、アマチュア無線で交信中、東京上空に現れたUFOの編隊『ラボック光』を目撃。
『ラボックライト事件』といえば、UFO研究家にはおなじみの1951年発生のテキサス州ラボック近郊での謎の光が目撃された事件です。目撃した11人の少年らのうち、5人がラボックライト事件を知っている様子は当時のUFOブームの高さを思わせます。ところで、当時宇宙人ブームの頃、子供たちが”目撃例”として描いた宇宙人の姿は当時流行していた手塚治虫さんの絵や特撮モノの怪人にすべからず似ているのがなんとも言えません。
ただ、作中のキャプションこそ『無線(アマチュア)交信中に・・・』とあるものの、村地と向井は『下から読んでもトマト局ッ』とか『ジェロニモ局ッ!空を見るんだッ!』などと発しており、明らかにアマチュア局のコールサインではないため、詳細は不明です。
翌日彼ら11人の少年は東京郊外の高尾山へ、UFO着陸の可能性を探りに集うなか、自転車に無線機をつけた「チャリンコモービル」で颯爽と”交信”するのが村地と向井。「天気がよくてFB、FBですよ~」などとご機嫌な彼らですが、高尾山でのUFO探しに自ずと集まった11人の少年は、それ以外の人類との命運を分けることになるとは誰も思っていなかったのです。
見せ場は物語後半。村地が自分たちと同じ”非バンパイアの人類”を探してCQを出し続けた結果、”ある方法”でバンパイア化を防いでいた女性化学者が応答、クライマックスへ。少年らは思わず歓喜の涙を流します。しかし、女性研究者の身体はすでに……。
余談ですが、『生き残った地球人がアマチュア無線を使って他の生き残った人々に呼びかける』という演出は小松左京原作の小説および映画の『復活の日』でも見られます。ある国が開発したウイルス兵器により、35億もの人々が死亡してしまった地球では南極基地などに少数の人々が生存するのみ。映画では各国の南極観測隊員たちがアマチュア無線で”外の世界”との交信を試み、状況の把握に努めようとします。当該シーンでのCQ呼び出しのシーンは見せ場の一つ。
日本の南極観測隊の昭和基地隊員たちが必死のCQ呼びかけをしている最中、アメリカ・ニューメキシコ州にあるサンタフェの農場に住むらしきトビー少年の声をキャッチ。母親はすでにウイルスに感染し命を落とし、父親も重篤で残されたのは5歳の彼だけだったのです。
おそらく両親のアマチュア無線機でしょうか、トビー少年はそれを使い、泣きながら寂しさと不安を誰かに訴えます。日本の観測隊員たちは必死にトビー少年に応答し励まそうとしますが、その結末は・・・。
幻の大岩魚アカブチ(“釣りバカたち”より)
昭和48年6月3日の『少年マガジン』が初出となる矢口高雄さんの「釣りバカたち」。その中の一編「幻の大岩魚(オオイワナ)アカブチ」も実に興味深い作品です。アマチュア無線で互いに情報交換を行い、友好を深め、実際にアイボール(釣りミーティング?)するという、70年代当時、若者同士のコミニュケーションツールとして最先端だったアマチュア無線を描いた王道的な内容となっています。
矢口高雄さんといえば、テレビアニメ化もされた『釣りキチ三平』が代表作として知られるところですが、同氏の描く、雄大かつ懐かしさのある自然の情景と素朴なキャラクター、釣りというレジャー趣味に没頭し、日本全国を釣り行脚していくいい歳こいた弁護士資格を持つかっこいいおっさんなど、魅力は尽きません。本作『幻の大岩魚(オオイワナ)アカブチ』では、詳しくアマチュア無線の運用目的やコールサインなどの概要説明が行われています。
東京の世田谷に住むヒロインのピンちゃん(JH1WXY)は自宅の自室をシャックにして、ハム仲間のシゲちゃん、シンちゃんとともに日々ラグチューに興じています。そんなある日、ピンちゃんは東北在住のトリプルXくん(JA7XXX)と7MHzで知り合い、ラグチューを交わすうちに彼に興味が沸きます。
ところで、トリプルXくんと作中で呼ばれている『JA7XXX』というコールサインをシゲちゃんとシンちゃんらは心底、羨ましがっています。7エリアではありませんが、実際に『XXX』というサフィックスは、過去何例か発給されていた史実があるようです。しかし、現在『XXX』というサフィックスの局は総務省のアマチュア無線局検索ではヒットしませんでした。ちなみに、ピンちゃんのサフィックス『WXY』も十分に魅惑的でしょう。
そして、ついに交信相手の「トリプルXくん」の住むA県(7エリア、すなわち東北地方。矢口高雄氏の生まれ故郷の秋田かもしれません)まで、シゲちゃん、シンちゃんらと共に特急で9時間かけてやってきたピンちゃん。
ピンちゃんはショルダー式のハンディ機を携行してきており、着いた駅で早速、颯爽と呼び出そうとするも「トリプルX」くんこと中村吾郎くんはすでに駅に到着しており、めでたくアイボール。
そして3人は吾郎くんの自宅に招かれ、彼が所有する当時最新のリグ『FT-101』に3人は羨望のまなざしを向けます。FT-101は現代でも20世紀不朽の銘機として神格化されています。
ともかく、この作品を今読んで当時の時代背景を伺うと、やはりアマチュア無線は当時、若者同士のリアルタイム・コミニュケーション・ツールとして絶大なる力を持っていたんだなと思います。インターネットやSNSなんかなくても、都会と地方のリアルタイムな情報の格差などは微々たるものだったのかもしれません。とくにテレビやラジオの電波に載せられないような話題、それに前述の『少年の町ZF』じゃないですが、UFOや宇宙人(※70年代後半は宇宙人ブーム全盛だったそうです)目撃など、オカルトの話題もこうやって瞬時に全国に広がって行ったんでしょうか。
さて、「幻の大岩魚アカブチ」本編にはアマチュア無線の目的と概要解説、多様なQ符号、カード交換の習わしなど、驚くほど詳しく解説されていることから、矢口高雄氏もしくはアシスタントさん方にハムがいたと思われます。しかし、筆者も同氏の作品は本作『釣りバカたち』のほか、『釣りキチ三平』、『ふるさと』、『蛍雪時代』、『9で割れ!』などを読んでいますが、同氏の漫画で他にアマチュア無線が登場する作品はおそらく無く、矢口氏自身がハムかどうかも不明でした。逆に免許を未取得で、周囲の現役ハムの助言だけでここまで描いていたならば、やはり矢口氏のエンターテイナーとしての才能には驚くばかりです。
『平成版釣りキチ三平』では、魚紳さんがパソコンとネットで魚を調べあげ、三平くんも携帯電話(魚紳さんのではあるが)で通話するなど、文明の利器にどっぷりでしたが、矢口氏にはアマチュア無線と防災のマンガなんてぜひ描いて頂ければ…。そう、矢口氏といえば、日本海中部地震を描いたドキュメンタリー的漫画『激濤(げきとう) Magnitude7.7』が知られています。矢口氏も東日本大震災による津波被害の作品化を考えていたそうですが、体調を崩していて果たせなかったとのことです。
2020年11月20日、『釣りキチ三平』などで知られる漫画家の矢口高雄さんがお亡くなりになられました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
マイコン刑事
70年代当時、やはり漫画家の間でもアマチュア無線が流行しており、コミック版 最新ハム問題集 (CQ comics)でおなじみの、すがやみつる氏などは漫画の制作中もラグチュー三昧だったそう。両手が作画作業で塞がってしまうときは足元にマイクのフット式PTTを設置し、足でスイッチを踏んでQSOしていたと、以前ご自身のブログで言及されていました。
そのすがやみつる氏、同氏が別名義の鷹見吾郎として原作を行った漫画作品の中でも、やはりアマチュア無線を取り上げています。レピーターの解説記事でも触れていますが、鷹見吾郎(すがやみつる氏)原作・下條よしあき氏作画『マイコン刑事』の中の一編です。
マイコン刑事の第8巻に登場する一編ではレピーターの仕組みがわかりやすく解説されています。
Amazon Kindle Unlimitedに入会すると、月額980円で無料で読めます
なお、上に挙げた『少年の町zf』『釣りバカたち』『マイコン刑事』はAmazonの『キンドル・アンリミテッド』に入会すれば、月額980円で読み放題・無料で読むことができます。
Amazon Kindle Unlimitedに入会すると、月額980円でライセンスフリー無線完全ガイド Vol.2 三才ムック vol.962のキンドル版など三才ムックが出版している多くのアマチュア無線関連書籍をはじめとして、キンドル本として販売されている本(小説、コミック、雑誌、写真集など)のうち、100万冊の電子書籍がでどれも無料で読み放題です。Kindle端末がなくても、Kindleの電子書籍はパソコン(ブラウザやアプリ)やスマートフォン(アプリ)で読むことができます。この機会にぜひ入会しませんか。
ブラックジャック「ハローCQ」
手塚治虫氏の名作『ブラックジャック』のなかにもアマチュア無線を描いた一本があります。日本と外国の少年ハムがアマチュア無線のDXで知り合う、その名も「ハローCQ」という一編です。ラグチューから友好を深めた二人は、ある日アイボールをすることになるのですが・・・。
このお話は2005年のテレビアニメ版の際にも題材に使われましたが、アマチュア無線はさすがに今の時代にそぐわないのか、インターネットのチャットに置き換えられています(だって、ブラックジャック先生がパソコンを得意げに操作するくらいですから!)。
チャットで「CQCQ・・・」と打つシーンがなんとも言えません。
おもしろ無線部員のり子ちゃん
なぜこの作品を今まで紹介しなかったのか自問自答しています。ネタが濃すぎるから!?
『JKのアマチュア無線部の漫画ってないの?面白そうなのに』みたいな呟きをたまにXでZがしてますが(実際はおっさんの趣味を女子高生にやらせたいおっさん)、すでに30年前の1992年から『ラジオライフ』誌上で、まさにそのような作品『おもしろ無線部員のり子ちゃん(NORI子ちゃん)』を連載していたのが横山公一氏。同氏のギャグセンスは逸品で、アマチュア無線のみならず警察、自衛隊ネタも引っ張ってくる知識の広さにオタクの真髄を魅せられました。
アマチュア無線部に所属する主人公の女子高生・のり子と、セーラーマーズに似た級友の井上アイ子(元ネタは旧・井上電機、現在のアイコム)が毎回、アマチュア無線、警察無線、自衛隊航空祭を始めとする濃いギャグを繰り出す四コマ作品でしたが、アマチュア無線よりも「おもしろ無線受信」が多かった印象です。とくに落し物の『ラジオライフ周波数手帳』のメモ欄に現職PMの氏名と内線番号がぎっしり手書きされていて、拾った彼女らが戦慄するオチは爆笑。
『ヨコヤマが行く』のレポート記事も逸品でした。
横山氏のイラストはラジオライフおよびその別冊でもおなじみで、同氏のわかりやすい解説のカット絵と共に無線の知識をつけた方は多いはず。
残念ながらラジオライフ誌上での『おもしろ無線部員のり子ちゃん』の連載は2002年に終了していますが、同氏の個人誌(同人誌)において『NORI子ちゃん』『むせん部部活中!』が発表されています。
ラジオライフのバックナンバーも、Amazon Kindle Unlimitedに入会すると読み放題です。
アマチュア無線の出るアニメ作品
一方、アマチュア無線が出るアニメはどうでしょう。
国外ではアメリカの人気テレビアニメ『ザ・シンプソンズ』にてアマチュア無線が登場しています。原子力発電所に検査官として勤務する主人公のホーマーがライセンスを持っているようで、意外と多くのエピソードでアマチュア無線を描いており、驚かされます。
中でも、ホーマーの息子・バートの交換留学生としてやってきた生徒が実はスパイで、ホーマーの勤務する発電所の情報をアマチュア無線で本国へ送るとエピソードも。
以下のサイトで詳しく紹介しています。https://www.qsl.net/kb9mwr/files/ham/cartoon/cartoon.html
そして、日本のアニメでおそらくもっともアマチュア無線を詳しく描いた作品は二つあります。
ひとつは意外や意外、あの国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」で、1997年に放映されたseason2の133話。その名もずばり「まる子、アマチュア無線にあこがれる」という回のなかで、かなり詳しく突っ込んだ内容になっています。
筆者はAmazonプライムに入会しており、付加サービスとして動画見放題が使え、ちびまる子ちゃんの本エピソードを無料で視聴できましたので、ネタバレご紹介します。※2021年現在、本作は無料視聴の対象ではなく、本作は視聴できません。
クラスの秀才、長山君がアマチュア無線の免許を取得したことに興味を持ったまる子たちが、長山君の家でアマチュア無線の運用を実際に見せてもらうというお話です。
「養成講習会でも免許が取れるよ」との長山君のアドバイスで、まる子たちもいったんはハムの道を目指そうとするものの、長山君に見せられた講習会のテキストの難しさ(そもそも学校で習っていない漢字があった)に断念し、顔面蒼白で帰路に着く……というラストですが、”偶然”通りかかった野口さんも実はアマチュア無線の免許を取得しており、長山君の交信をワッチしていた……というオチが面白かったです。
そもそも、原作者のさくらももこさん(JI2EIT)が従事者免許所持者だそうです。つまり、現実のちびまる子ちゃんはアマチュア無線家なんですね。『(現実の)ちびまる子ちゃんはアマチュア無線の資格を持っている』って言葉にすると、言葉の破壊力がすごいですよね……。タモリさん(JA6CSH)がへーを電鍵で連打しそう。あ、たまちゃんも取得してますぞ。まじで。
平成30年8月15日、ちびまるこちゃんの原作者であるさくらももこさんがお亡くなりになられました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
二つ目は『ミームいろいろ夢の旅』という80年代に放映されたテレビアニメです。別記事にて詳しく解説していますが、電波法と資格、電波の特性、実際の運用、フォックスハントまできちんと解説された驚くべきアニメです。
上記二つの作品以外では『City Hunter3』の11話で悪役がアマチュア無線の430MHzで悪巧みの連絡をして悪用していました。
そして、お馴染みスタジオジブリのアニメ映画崖の上のポニョにも登場しています。以下の記事で詳しく解説しています。