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シグナリーファン編集部では、無線受信や運用に関して総務省総合通信局の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、各種記事はそれらの調査結果に基づいて構成しています。

【80年代アニメ】アマチュア無線を扱った衝撃テレビアニメがあった!

そもそもこの番組、単なる子ども向けアニメではなく、「未来の通信社会をどう描くか」という明確な戦略的テーマが裏にあった。要するに、ISDNに準じた公衆交換電話網──通称「INSネット」の普及をにらんだ“布石”だったわけである。

あまりに戦略的すぎたこのアニメであるが、2年にわたり、エピソード総数127話が放送されたことを考えれば、当時の視聴者であった子どもたちの心を十分に掴んだのは事実だろう。

「ミームいろいろ夢の旅」とは?

40年前の日本のアニメで描かれた”インターネット”では人々がすでにパソコンを使い、ショッピングやテレワークをして、リモート新年会を開催していた。画像の出典 日本アニメーション公式サイト

番組は2期構成になっていて、前半の「大谷兄妹編」では、兄妹が“電子の妖精”ミームと一緒に未来の通信社会をシミュレーションするという、教育アニメらしいやや地味な内容だった。とはいえ、歴史の偉人たちが登場し、物語としてはしっかり面白く、教養の一端になる。

第2シーズンのキャラクターたち全員集合やで。第1シーズンも面白かったけれど、さらにコメディタッチになり、冒険ゴッコの魅力がアップ。彼らは「科学探偵団」として、普段は地元のさくら町を中心に科学的疑問を調査、解決してくんやで。ピンクのスカートの少女と、メガネの少年が”ハム”なんや。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話 (C)日本アニメーション/TBS

そして後半、「科学探偵団編」に入ると雰囲気一変。舞台は「桜町」というINSのモニター地区になり、色彩もストーリーもガラッと変貌する。カラフルな画面の中で描かれるのは、どう見ても“現代”の暮らしそのものだ。

オンラインバンキング、ネットショッピング、在宅勤務、テレビ会議、動画視聴、eラーニング、オンラインゲーム、オンライン診療まである。これらすべてが、80年代のアニメで描かれていたのは、IT社会の予言というよりは、むしろ「計画書」だったのではないかと思いたくなるほど。先見の明という言葉すら生ぬるい、リアリズムだ。

とはいえ、当時はパソコンが一家に一台あるかないかの時代。パパの仕事やママのダイエットビデオに家庭内パソコンが占領されてしまい、子どもたちの出番がない。そこで、彼らは自分たち専用のマシンを自作し始める。自作PCが児童アニメで普通に登場するという時点で、視聴者の教養を試されているわけだが、まだまだ、ここからが本番である。

オンラインで活動するとき、子どもたちが使うハンドルネームは『MEME401』。もちろん、“ミーム”という電子精霊が元ネタであることは間違いないが、数字の“401”にまで目を向けてしまう。HTTPのステータスコードにおいて「401」は「認証失敗」を意味する。だが、このコードが正式に運用され始めたのは1989年。つまり、アニメの『MEME401』がそれを意識して命名された可能性は極めて低い……はずなのだが、もしこれが狙っての命名だったとしたら、担当者は間違いなくとんでもない預言者である。そんな皮肉すら言いたくなる。

そして、NECのパソコン通信サービス『PC-VAN』が始まったのが1986年。『ミーム』放送終了の翌年である。

アマチュア無線技士の国家資格を持つ少年と少女がアニメで描かれたのは本作が初では?

1エリアのどこか。架空の町「桜町」に住む子どもたち。彼らは自らを「科学探偵団」と称している。拠点は、使われなくなった空きビルの地下。元ゲームセンターだった場所を、オーナーから「テナント決まるまでなら使っていい」と提供されている。

薬師寺ひろ子くん(JS1MEN)はアンテナと無線機の調整を兼ねて、友達にアマチュア無線の見事なオペレートを実演してくれます。武くんは"ハム"と聞いて、お肉のハムを想像する安定のコメディリリーフです。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話 (C)日本アニメーション/TBS

薬師寺ひろ子くん(JS1MEN)。武くんは”ハム”と聞いて、お肉のハムを想像する安定のコメディリリーフ。安心してね。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話 (C)日本アニメーション/TBS

小学生が自作パソコンを駆使し、ロボットを開発し、さらにアマチュア無線の国家資格を持つ者までいる。描写の端々にやけにリアルな手触りがある。

団員のひとり、薬師寺ひろ子──コールサインJS1MEN。アマチュア無線の国家資格保持者である。今日は、日本の上空を2日にわたって通過するスペースシャトルの宇宙飛行士から、日本のハム向けに送信されるメッセージを受信しようと、屋上で空中線の調整とそのテストのため、みんなにオペレートを見せてくれるのだ。

HF帯の14MHzでCQを出すシーンから、彼女は少なくとも2級以上の資格者ということになる。なお、JS1MENというコールサインは、日本の制度上“1エリア”に住む者が付与される。つまり関東周辺、現実世界でいえば東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県あたりのどこか、ということになる。

念のため補足するが、14MHz帯(通称20mバンド)は、国内はもちろん、電離層を用いた世界通信=いわゆるDX通信に利用されるHFでも本格的な周波数帯である。小学生が趣味で扱うには、オーバースペックでもあるが、ガチ度も示している。

短波(HF:High Frequency)と電離層を利用すれば外国との交信も可能!

ちなみに『崖の上のポニョ』では50MHz、『釣りバカたち(幻の怪大岩魚アカブチ)』では7MHzと、やはり低めのバンドで運用されている。

そもそも2アマの試験内容は、高校物理レベルである。1級ともなれば、理工系短大の専門課程に匹敵する難度。モールス信号(和文・欧文)の送受信試験もかつては存在した。

指定試験機関である日本無線協会によれば「1981年当初よりマークシート」とはいえ、上級アマでは2005年の廃止までモールスの実技試験も実施され、小学生で上級ハムに合格すると、新聞の地方版を飾る時代だった。

彼女は迷いなく送信する。

「CQCQ、こちらはJS1MEN。どなたか応答願います」

無線機の前には、博士くんと呼ばれる別の団員も控えている。こちらも国家資格持ち。子どもたちの遊びではなく、“無線従事者”として描写されているのだ。

これには同じく従事者のちびまる子ちゃんや永山くんもびっくりだな……(たまちゃんもだぞ)。

屋上では八木アンテナが風に揺れている。調整の末、電波が発信されたその先にいたのは、沖縄の青い海に浮かぶ小舟の上の少年だった。HFらしい飛び方である。

14MHzでの交信!通信士さん、やったな新記録だ!(コンタクト)この無線交信の表現がおもしろい。「崖の上のポニョ」では、アンテナの両側面から電流みたいに電波が飛んだが、今作ではアンテナから円が広がる。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話 (C)日本アニメーション/TBS

次の応答者は北海道の牧場の少年ハム。これはもう完全に、14MHzの代表的な伝播パターン──日中の国内長距離だ。

少年ハムのシャツに"JA-8"の文字が。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話  (C)日本アニメーション/TBS

少年ハムのシャツに”JA-8″の文字。『JA』は日本のコールサインで、”8″は北海道のエリアナンバー。ちなみに、昔札幌にあった「ハドソン」ってゲーム会社(コナミに買収されて消滅)は、もともとハムショップ「CQハドソン」。そのマスコットキャラ”ハチスケ”も、この『JA8』が由来である。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話  (C)日本アニメーション/TBS

映像では、アンテナから波紋状に円が広がっていく演出がなされていた。「崖の上のポニョ」が描いた電波のビジュアルは、アンテナの両側から光がビリビリと走るものだったが、こちらはあくまで物理法則に寄せている。

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