【80年代アニメ】アマチュア無線を扱った衝撃テレビアニメがあった!

正義の暴走と偏見からの誤認逮捕

そのマンションには、彼らとあまり交友のない陰気な同級生、イヤミくんが住んでいた。何よりも、その空気感が――薄暗く、胡散臭い。

マンション、ひっそりと静まり返る廊下を、二人の足音が響く。

ドアを、叩くこともなく。サトルが力任せに蹴り飛ばした。

――バン!

飛び散る木片。
驚愕するイヤミくんの前に、怒気をはらんだサトルが歩み寄る。

無線機も、アンテナも、証拠らしいものは何ひとつない。
だが、サトルの目はすでに断罪していた。

声を荒げ、肩をつかんで揺さぶる。

その時、後ろから小さな声が飛ぶ。

「やめて!無線機はないのよ」

ひろ子の言葉に、空気が一瞬、凍った。

沈黙――重い、逃れられない現実。
サトルと武の目から、徐々に怒りが抜け、代わりに後悔がにじみ出す。

誤認であった。ただの、”怪しい”という理由だけで暴走した正義。

アマチュア無線の資格を持っていたとしても、電波を悪用する者に停波させる直接的権限はない。
――電波法第80条第2号。総務大臣への報告、それだけが許された道だった。

――ともかく、彼らも本職の総合通信局(当時は電波監理局)と同じく、司法警察権がない。

それを越えてしまった瞬間、彼らは正義ではなくなる。
まるで、”正義”に憑かれた者の末路をなぞるかのように。

無線の世界には、一見、都市伝説のような話もあるが、事実もある。
いたずら電波の主に激昂したトラック運転手が乗り込んで、屋根のモービルホイップをへし折ったとか……。
「いや、同軸抜いただけ。すぐ直る」なんて言い訳も、虚しく響くだけだ。

だからこそ、”電波の発信源を突き止める”という探究心自体と、妨害電波を強制的な手段で停波させる危うい行為は、まさに一部のフォックスハンターが陥る”誤った正義”そのものと描写されてるところは見逃せない。

余談だが、今回の脚本はアニメやドラマの脚本でおなじみの一色伸幸さんである。この”アマチュア無線とフォックスハント”の話は、同氏が脚本&原作を手掛けた映画『七人のおたく』でも描かれている。

【特集】「戦うオタク、島へ行く」──迷彩男と無線少女(!?)たちの“熱いミッション”…七人のおたく(1992年)

このエピソード、なかなか考えさせられる内容である。フォックスハンティング(電波の発信源を探す遊び)を題材にしつつ、「正義感の暴走」というテーマまで入ってるのだから。

高層マンションに苦戦

ともかく、今回の誤認騒動、その原因はどうやら近隣に乱立する高層マンション群にあるらしい。
電波の伝搬特性に翻弄されてしまったのだ。つまり、あの場所では電波の反射・屈折・回折が複雑に絡み合い、信号の出どころを正確に掴むのが難しかったわけである。

思い出してほしい。冒頭でミームが語っていた、あの電波伝搬の基本原理を。
あれこそが、まさしく本編中最大の伏線だったのだ。

そして見事に、それがここで回収される。伏線の張り方、使い方、収束のさせ方――まるで映像脚本の教科書をなぞるような展開だ。

だが、感心してばかりはいられない。誤認は誤認。誰かの権利を軽く踏みにじるような“勇み足”が、立派な構成の中に組み込まれていた、という事実は重い。

さて、科学探偵団が空転する中で、ただ一人、薬師寺ひろ子が静かに立ち上がる。
彼女は「アマチュア無線技士」の国家資格を有する少女である。つまり、オカルト趣味や遊びではなく、理論と技術に裏付けられた“国家認定の技術者”というわけだ。

電波の迷路に手を焼く仲間たちをよそに、冷静に電波の挙動を再分析した彼女は、ある大胆な仮説を立てる。

高層マンションの壁面を、巨大なパラボラアンテナのように使えば、ある一方向の電波だけを選択的に受信できるのではないか?
――建物を利用して、妨害電波の進行方向を逆算する。

画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話  (C)日本アニメーション/TBS

この戦術に、ミームですら舌を巻いた。ここからの探偵団は本気である。一棟一棟、建物を丹念に調べ上げ、確かな手応えを得ていく。電波の“幻”に振り回されるのではなく、現実の手がかりを積み重ねて真相に近づく姿は、科学の王道とも言えるだろう。

「アマチュア無線技士の国家資格を持つ少女が、専門知識を駆使して活躍する!」などというアニメは、ほかに例を見ない。この手の題材になると、どうしても過剰なミリタリー描写や中二設定に傾きがちだが、本作は極めて地に足のついた描写に徹している。

……などと誉めてしまうと、大洗町方面から「……チッ」と低い声でSNSで噛みつかれるかもしれないが、ここはひとまず静観といこう。

ラジオライフの実用記事もいいが、こういう作品もまた、電波趣味に対する深い洞察を与えてくれる。そして、真面目な追跡劇の傍らで、妙にうれしそうな顔をして受信機にかじりつく視聴者がひとり。

「……えっ? アンタ何の電波探っとんの?」
「じ……GCIですから……」

――おいおい(笑)

そしてついに、古びた一軒家の屋根にアンテナを確認。探偵団の活躍と衝撃の結末は次のページに続く!

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