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ついに電波の発信源を特定
そしてついに、古びた一軒家の屋根にアンテナを確認。探偵団は「これはいける」と確信する。だが、玄関に掲げられた表札を見て仰天。そこに記されていたのは、前回のエピソードで偽のSOS信号をMEME401に送りつけた当人――矢島さわ、その人の名前だった。
つい先ほどまで無実の同級生を詰問していたサトルも、鼻息荒く再び正義感に燃える。だが、インターホンを鳴らしても応答はない。郵便受けには新聞が積み重なる。
「まさか……」と誰かがつぶやく。地方公務員と近隣住民が集まり、玄関から突入。そこで彼らが目にしたものは――。
クライマックスはすぐそこに。

というわけで、わかる人にはわかる結末。やらかした矢島のおばあちゃん。衝撃の結末は実際に視聴を。画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話 (C)日本アニメーション/TBS
なおJARL(日本アマチュア無線連盟)では、「無変調キャリアの発射に注意せよ」とたびたび警告を発しているが、それでも生活音や家族との私語が漏れっぱなしの局が稀に発生する。名も知らん局長の生活音丸聞こえとか、家族との会話がダダ漏れ状態で「チャンネルはそのまま! 波よ聞いてくれ!君の名は!」と言われても、聞く方も気まずい。
過去には、433MHz帯のメインチャンネルで無変調状態が長時間続いたため、総合通信局の探索車が出動。免許人は厳重注意を受けたという。
こうした際、今回の探偵団のように地元の善良な社会人ハムたちが「フォックスハント」(電波源探索)を実施して発信源の特定を試みる。アンテナを確認し、インターホンを鳴らして自宅訪問するわけだ。とはいえ、恋の無変調……ではなく故意の無変調で、警察や消防など重要な無線通信を妨害する悪質事例ともなれば、話は別だ。総合通信局のセンサ局が即座に発信源を特定し、妨害者は行政・刑事両面での処分を受けることになる。
ともかく、「あたしもボケたのかしら?」からの今回の騒動の張本人、矢島おばあちゃんのシャック(無線機の設置場所)で、科学探偵団はスペースシャトルからのCQ(呼びかけ)を傍受。彼らと共に、ばあちゃんも大歓声。宇宙からのメッセージ、無事に受信。
ちなみに筆者自身も、144MHz帯にてダンプカーの運転手たちが会話を交わす中、突如としてISS(国際宇宙ステーション)から英語によるメッセージが59の強度で届いた瞬間に遭遇したことがある。あれは紛れもない、電波というものの神秘そのものであった。
一連の事件を経て、アマチュア無線の魅力に取り憑かれたサトルは、「俺も試験、受ける!」と宣言。だが、これに妹・マリが「中学理科レベルだけど、兄ちゃん大丈夫なの?」と冷静にツッコミ。探偵団は笑いに包まれ、大団円を迎えるのであった。
総評
さて、筆者のつたない紹介ではあるが、少しは興味を持っていただけただろうか。
アマチュア無線の成り立ちにはじまり、電波と電離層の仕組み、従事者免許制度、非常通信の意義、HF帯での実務的オペレーション、フォックスハント、そして宇宙――スペースシャトルからの交信に至るまで、わずか20分という時間に実にテンポ良く盛り込まれている点が、本作の魅力のひとつである。
物語構成も起承転結が明快で、まったく飽きさせない。率直に言って、これほど中身の濃いアニメ作品には、現在においてもなかなかお目にかかれない。
それにもかかわらず、非常に不遇な存在である。これほど先見性に富み、アマチュア無線どころか80年代当時のアニメとしてはインターネットの概念まで取り入れていたにもかかわらず、いまひとつ語られる機会が少ない。実に不思議である。
通信技術の歴史と発展を軸に描かれているのも、その背景に当時の電電公社(現在のNTT)がスポンサーとしてついていたからであろう。技術教育と企業イメージの向上を兼ねた、実に理にかなった広報戦略である。
人類最初期の通信技術のひとつとして、アマチュア無線が真っ当に描かれている点も、実に自然な流れと言える。
そろそろ再評価の時期が来ても良いのではないだろうか。
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電電公社が40年以上も前に制作したINS(情報ネットワークシステム)推しのテレビアニメを、今やネット配信で気軽に視聴できるというのは、感慨深い。まさに情報化社会の賜物。
そして、本作にはもうひとつ見逃せない視点がある。それは、2020年代に入り自宅でのテレワークが一般化した今において、1985年当時すでに、その未来を先取りした描写が数多く存在していた点である。
「科学万博―つくば’85」とのタイアップ回では、「もし森鴎外の時代にINSとパソコンがあったなら?」という大胆な仮定のもと、森鴎外が在宅勤務に励む様子が描かれているのは、なんとも示唆に富む。
さらに、パソコンとINS回線を使った『リモート新年会』すら描かれている。これは特に第89話において顕著である。
物語では、大雪で外出が不可能になったサトルくんの父親が、予定されていた会社の新年会に出席できなくなる。しかし、その代替として開催されたのが”INS新年会”――いわば現代でいう「リモート新年会」である。
カメラ付きパソコンの画面にZoomさながらのビデオチャット画面が映し出され、同僚4人と顔を合わせる父親。しかし、どこか浮かない表情なのは、上司や同僚に促されて、どうにか隠し芸のマジックを披露することになったからだ。だが、その芸がオンライン向けではなかった――。
このエピソード、なんと1984年12月23日に地上波で放送されたものである。今から40年も前に、すでに「リモート勤務」と「リモート宴会」が描かれていたのだから驚きである。
2020年7月に『クレヨンしんちゃん』で「父ちゃんがテレワークだゾ」という回が放送され、野原ひろしの在宅勤務の様子が描かれたが、本作におけるINS新年会エピソードの悲哀には及ばない。
ひろしも「今の時代、インターネットがあれば、どこにいても会社とつながれる」と口にするが、通信技術の進歩は、勤務時間後までも「つながり続ける」ことをサラリーマンに強いているという現実に考えさせられる。
その上、つながった先で「隠し芸」を要求される……。この悲哀と皮肉の描き方において、ミームの描写は群を抜いている。
「そんな生活を続けていたら、人間は不精になるのでは?」という警告すら含まれている。これは、まさに現代社会への問いかけと言えるのではないだろうか。座ったままだと、ガチで血の巡りが悪くなって、よくない。
今こそ、親子で一緒に視聴したい、科学教養アニメである。「80年代アニメの再評価」において、先陣を切ってほしい。
ちなみに、本作の監修は「日本の宇宙開発の父」こと、糸川英夫氏が務めていることを最後に付記しておきたい。

画像の出典「ミームいろいろ夢の旅」第73話 (C)日本アニメーション/TBS
もし、視聴者層をもう少し高めにして、たとえば中学や高校のアマチュア無線部に所属する少年少女たちが、謎の電波を追跡するストーリー仕立てのアニメ映画が、仮に80年代に製作されていたとしたら、タイトルは――『Q・R・A / 貴局(きみ)のコールサイン(名)は。』などと名付けられていた可能性もある。エロゲみたいなタイトルである。
ともかく、科学的で進歩的なアマチュア無線の大手サイトが本作のような科学教養アニメに一切触れずに、お注射嫌いの非科学的なサイトが紹介するのは皮肉と言えば皮肉である。