アマチュア無線機に搭載される広帯域受信機能は便利ですが、本格的ではありません。
航空無線や各種業務無線、さらに低い周波数のHF帯など、幅広い無線の受信には広帯域受信機(ワイドバンドレシーバー)がおすすめです。
2010年発売の高性能受信機『IC-R6(受信改造済み)』は発売から15年を経た2025年現在も超人気機種です。
また、広帯域受信機は無線機と違って送信機能がないため、免許や資格不要。どなたでも扱えます。
電波法では『「無線局」とは、免許人及び無線設備並びに無線設備の操作を行う者の総体をいう。 ただし、受信のみを目的とするものを含まない。』としていますが、取締りを行う総合通信局では『電波を発射しなくても、電波を発射できる状態で無線機を使用していれば、不法無線局の開設罪に問われる場合もある』とのこと。
資格のない方による、電波が発射できる状態下にあるアマチュア無線機の安易な使用はNGです。
免許がないのに電波が発射できる状態のアマチュア無線機を車内設置した人が取締りの際に使う定番の言い訳があるって総合通信局の人が言ってた
Contents
広帯域受信機で聴ける無線、聴けない無線は?
2025年現在、広帯域受信機はアナログ専用とアナログ・デジタル両対応の2種。
例えるならアナログ受信機はラジオ放送のAM、FM方式の電波と同じシンプルな方式の無線に対応します。
アナログ受信機の特徴
- AM/FM/NFM各種モード(アナログ)のみ対応
- やや高価な機種はSSBモードが受信可能
- 航空無線(AM)、業務無線やアマチュア無線(FM)の受信に最適
- 業務無線は将来的にデジタル化により受信不可能に
一方、例えるならアナログ・デジタル両対応受信機はそれまでのアナログ電波とテレビの地上デジタル放送のように特殊な各種デジタルモードに対応します。
デジタル&アナログ受信機の特徴
- AM/FM/NFM各種モード(アナログ)に対応
- DCR/DMR/DPMR/TETRA/P25/NXDN/D-STAR/C4FMなどの各種モードに対応
- 一部のデジタル対応機では機能開放コマンドの入力でSTD-T61といったモードも拡張可能
- IC-R6とDJ-X100では価格差が4倍と非常に高価
- TETRA (Terrestrial Trunked Radio): 欧州統一規格で米国とヨーロッパの警察消防など公共安全通信に広く使用。音声通信とデータ通信のために設計され、高品質な通信とセキュリティが特徴。
- DMR (Digital Mobile Radio): 低コストで効率的なデジタル無線通信を提供するために設計されたモードで、2つのスロットを使用することで、2つの通信チャネルを同時にサポート。トランキングに対応した受信機が必要。総合通信局も使用。
- P25 (Project 25): 主にアメリカで主流のデジタルモード。秘話対応で日本では刑務所、在日米軍が使用。
- NXDN (Next Generation Digital Narrowband): 狭帯域デジタル通信を提供。タクシー業界などの用途に適しており、ノイズ耐性やセキュリティを強化。
デジタルモードはタクシー無線やマスコミ無線、道路公団、ガス会社、一部の官庁などで使用され、アナログ通信に比べて音質や通信のセキュリティが向上。多重化やデータ通信もサポート。
2025年現在、受信できる無線各種
総務省では新たな電波利用ニーズに応えるため、周波数再編を進めており、将来的にはアナログ無線を徐々にデジタル無線へと置き換える計画です。
2025年現在、公的機関の無線、鉄道やタクシー、ライフライン無線、防災行政無線、報道連絡波などがデジタル化されています。
どの地域でも受信できる無線
アマチュア無線(アナログ&デジタル)
アマチュア無線にもアナログとデジタルがありますが、VHF帯の144MHzとUHF帯の430MHzならば運用局は多く、簡易なアンテナでも普段はおよそ50キロ圏内で受信可能。どちらのバンドも直進性が強く、電離層で反射しにくい性質を持っています。
430MHzでは宇宙空間のISSのレピーターを介した交信も受信可能で、500キロ先の無線局の交信も受信可能です。
国際宇宙ステーション(ISS)設置のクロスバンドレピーターで地上のアマチュア局同士の交信を受信せよ!ISSが日本上空を通過する一瞬だけ437.80MHzで奇跡が起きる!
また、波長の長い短波帯(HF)の周波数は電波電離層に反射して遠くまで伝わる性質を持ち、減衰の少ないSSB変調方式なら、さらに遠方まで届きます。
筆者は北海道で東北、北陸、関東、関西、四国、沖縄までほぼすべての地域の交信を7MHzや18MHzで毎日受信しています。
日中から夜11時ごろにかけて日本全国はもとより、1500キロ先の外国のアマチュア局の声やモールスがお祭り騒ぎのように賑やかに聞こえています。
IC-R6はSSBに非対応ですが、約半額で買えるSSB対応短波ラジオ(簡易ワイヤーアンテナ付属)で受信可能です。
また、災害とは切っても切れないアマチュア無線では災害発生時、被災地域の局とボランティアの局が非常通信を行います。
大規模な災害でなくとも、山岳事故、海難事故などで救援が必要な際に非常通信が行われる場合もあり、アマチュア無線は情報収集と人命救助において疎かにできません。
■関連記事■
≫ 鎌田洋次著『カモシカ』にみるアマチュア無線機のAMラジオ受信による天候予測
≫ 1984年放映のテレビアニメで登場したアマチュア無線の驚きの描写とは?
また、アマチュア無線のデジタルモードでは現在、JARLが開発したD-STAR、八重洲無線が提唱するC4FM、HFではFT-8が使用されています。
C4FMではGPS測位で得た位置情報などを無線機のディスプレイに表示できますが、やはりこれらのモードに対応した無線機や受信機が必要です。
航空無線(アナログ)
航空機と地上管制などが交信するAM方式のVHF帯の航空無線は一般的に航空路管制、航空会社や警察消防のカンパニーラジオ、さらにはUHF帯の航空自衛隊GCI、HF帯の洋上管制まで広義に含まれます。
洋上管制もHF帯(SSB)なので全国各地で受信可能。先述の通り、これらHF無線の受信は安価なSSB対応ラジオでOK。外部アンテナも不要。
有名な自衛隊版・洋上管制『厚木オーシャニック』では陸海空の航空機が交信しており、コンディション次第で昼間から受信可能です。
業務無線(アナログ)
かつての150MHz帯、468MHz帯は電力、運輸など民間事業者が多数おり、「おもしろ無線」のメインバンドでした。現状はわずかに残る程度です。
また140MHz帯では極少数ですが、土地改良区など準公的機関が現在も使用している場合があります。
これらもデジタル化され、将来的に消えゆく運命です。
国際VHF(アナログ)
船舶無線の一種であり、海上通信で狙いやすいメインバンドです。海から離れた内陸部でも、聞こえることがあります。
消防署活系無線(アナログ)
それまでは政令指定都市の消防本部のみ免許されていましたが、2016年の消防無線(指令波)完全デジタル化に伴い、全国各地で使用が緩和。
基本的には現場の隊員同士で交信するアナログ無線ですが、訓練における指令波の代替や、ハチの巣駆除での使用など意外と普段から活発。
基本的にアナログFMモードかつ、反転秘話が使用される場合もありますが、アルインコの最新受信機DJ-X100の拡張機能を解放させていれば復調可能です。
デジタル簡易無線(登録局・免許局)(デジタル)
上記のアナログ業務無線に置き換わりはじめているのが、一般的な事業者に免許される467.00000MHz~467.40000MHzまで65波ある467MHz帯デジタル簡易無線(免許局)と、業務並びにレジャー使用ができる351MHz帯のデジタル簡易無線(登録局)です。
登録局では企業、店舗、学校行事、常備消防&消防団、そしてレジャー局(フリーライセンス局)と2025年現在、全国で使用者が増加中。
これを踏まえて2023年に登録局のチャンネル数が大幅に増えました。
重要な業種では秘話コードが使用されますが、秘話解読機能が搭載された機種により、解読可能です。
一部地域で受信できる無線
やはり無線を使用する事業者は都市部に集中しています。
報道連絡波(デジタル)
事件事故が発生した際、取材中のヘリや中継車とテレビ局報道部デスクが交信。
山頂設置の中継局が近くにあれば、報道連絡波用のアンテナも併設されることがあり、受信しやすい場合もあります。
大事件事故が発生した場合、詳しい取材内容のやりとり、ニュース放送の直前に中継のヘリとの細かい打ち合わせ等が行われ、報道の舞台裏を伺い知ることができます。
タクシー無線(デジタル)
それまでアナログだったタクシー無線も、今やすべてT102およびT61モードを使うデジタル無線です。
受信方法にはクセがありますが、DJ-X100(受信改造済み)では音声復調はもちろん、POCSAG方式によるテキストデータによる乗客情報を受信し、画面上に表示も可能です。
ただし、同機の特殊機能を使うにあたっては『電波法違反は刑事罰が課されることを理解している』という文面が表示され、同意が必要です。
デジタル警察無線・デジタル消防無線は聞けない
上述の各事業者のデジタル無線が聞けるのであれば、デジタル警察無線、デジタル消防無線も聞けるのでは、と期待を持つ方もいるかもしれませんので、明確に否定しておく必要があります。
昨今、AOR、アルインコ、アイコムなどのメーカーから各種デジタル無線に対応している受信機が出揃い、上述のデジタル報道連絡波、デジタル簡易無線、デジタルタクシー無線のほか、米国警察や在日米軍も使うPublic Safety(公共保安)P25規格などにも一部対応します。
しかし、2025年現在、それでも日本のデジタル消防無線および警察を代表とする各種捜査機関(麻薬取締り官、海上保安庁、検察庁その他)のデジタル無線は傍受できません。
災害発生時の情報収集として何十年にもわたって重要視されてきた消防無線の市町村波は2025年現在、すべてデジタル化。全く傍受できません(上述のアナログ署活系を除く)。
警察無線に関しては、「警察官が交話するアナログ無線」という広義で現在も受信できるものに「遭難対策無線」と「警察ヘリのカンパニー」があります。
遭難対策無線は各県の山岳遭難対策協議会に免許された166.23 MHz(FMモード)の専用波ですが、山岳遭難発生の際に県警の山岳警備隊員と遭対協の救助隊員が交信。全国で使用されており、こちらも警察官が交話する傍受可能な最後の無線と評されています(さらにデジ簡の登録局を使う団体もあるようです)。
また、カンパニー無線は警察官である操縦士と警察技術職員等の航空隊本隊職員が航空機の運行調整に関するやりとりを行う一種の航空無線で、AMアナログモードのため第三者による傍受が可能です。
例えばテレビの警察密着特番でよく見る「警察ヘリによる被疑車両の秘匿追尾」のような、個別の捜査事案に直接関わる連絡はカンパニー波ではなく、デジタル警察無線で行います。
いわゆる、「パトカーの無線」に代表される捜査情報を直接やり取りする警察無線はすべてデジタル・スクランブル(暗号)化されており、対応する市販の受信機はありません。これは大手メーカーの説明によれば、主に二つの理由です。一つは日本の無線機メーカーは「まともなメーカー」であること、もう一つは「法律」です。
日本の警察無線はすでに80年代から90年代にかけてデジタル化されましたが、初期のデジタル警察無線こそまだ技術が低く、過激派や一部の無線マニアによってスクランブルが解読された歴史がありますが、当時と現在の技術的及び法的な事情は大きく異なることに留意が必要です。
最新のデジタル警察無線ではさらに複雑なスクランブルによる暗号化が実装された上に、警察の自営回線と民間の通信会社の回線を併用したIP無線化。出ている電波をSDR等で掴むことはできても復調・解読はできません。
ただ、昨今では受信機単体での復調より、PCと連携させてなんらかのソフトウェアで解読を試みようとする人も増えています。よって、解読できるか否かは個人の技量にもよるため『できない』と断じることは適切ではないかもしれません。
しかし、法改正が行われ、デジタル暗号化された通信を第三者が解読することが違法とされたことで、解読の目的によっては法的なリスクが生じるようになりました。
DJ-X100などを販売するアルインコ社では警察無線などを解読・復調することについて、『まともなメーカーなら警察無線を解読できる受信機などは販売しない。また、解読することは電波法に違反し罰則がある』と公式サイト上で言及しているので、解読を絶対に試みないでください(※当該の文言は同社公式サイト上から削除されています)。
■関連記事■
≫ 消防無線は2016年に全国でデジタル化完了。しかし、全ての消防無線が傍受できなくなったわけではない!
≫ [ 外部サイト ] アナログ警察無線と妨害の歴史
≫ [ 外部サイト ] デジタル警察無線MPR、APR、IPR、その変遷の歴史
≫ [ 外部サイト ] デジタル警察無線を解読する受信機を『まともなメーカー』が発売しない理由
広帯域受信機のまとめ
いかがでしたか。アマチュア無線機の広帯域受信機能と広帯域受信機を比較すると以下になります。
- アマチュア無線機の『広帯域受信機能』は限定的
- 広帯域受信機は幅広い周波数と各種の電波形式に対応する
- 広帯域受信機はアマチュア無線の資格や免許がなくても扱える
- 無資格者が送信可能状態のアマチュア無線機を受信機がわりに使う法的リスクがない
このように、広帯域受信機があれば、様々な周波数を受信することができます。
ただし、警察や消防など重要なデジタル通信は技術や法的な面で復調ができないと理解していただければ幸いです。
■関連記事■
≫ 広帯域受信機ではスキャンとサーチを使い分けて効率的に受信しよう!
≫ 受信機を買ったら高性能アンテナも絶対に買ったほうが良い理由とは?
≫ 航空無線を受信するためにはまず広帯域受信機を購入しよう!