89式小銃の後継、ついに登場
20式5.56mm小銃は、1989年に採用された89式5.56mm小銃の後継として開発され、2020年に防衛省が制式化した陸上自衛隊の新たな主力小銃です。
開発は2014年度から「新小銃(試験用)」の名称で進められ、各種試験や評価を経て採用が決定されました。その後、2020年度予算から量産調達が開始され、部隊への配備が進められています。
開発・製造を担当したのは、89式小銃と同じ豊和工業です。20式小銃は、海洋環境での運用を考慮した排水性能の向上に加え、各種光学照準器やアクセサリーを装着できる拡張レールを標準装備するなど、現代の作戦環境に対応した設計が特徴となっています。

また、豊和工業は20式小銃について、自社の技術力を象徴する製品として位置付けており、社名にちなむ「HOWA 5.56」という愛称を用いて紹介しています。この名称は防衛省の正式名称ではありませんが、同社が国産小銃としての誇りを込めて使用している呼称です。
20式5.56mm小銃の開発背景と仕様を詳しく見ていきましょう。
20式小銃の開発背景には政府の「南西諸島政策」シフトか

20式5.56mm小銃が防衛装備庁によって制式化されたのは2019年ですが、その開発時期は、日本政府が南西諸島の防衛力強化を本格的に進めていた時期と重なっています。
冷戦終結後の長い期間、陸上自衛隊の主要な部隊配置は北海道に重点が置かれていました。
しかし2000年代後半以降、中国軍の活動範囲拡大や東シナ海情勢の変化を受け、防衛政策の重点は徐々に南西方面へ移っていきます。
2010年に策定された防衛計画の大綱では、従来の「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力」へと方針が転換され、さらに2013年には「統合機動防衛力」、2018年には「多次元統合防衛力」へと発展し、離島への迅速な展開能力や機動力の強化が重視されるようになります。
つまり、日本の新たな脅威は北方から南西諸島、東シナ海へ変化したのです。
こうした流れの中で、陸上自衛隊は2018年、離島への侵攻事態を想定し、上陸作戦や奪還作戦を担う部隊として水陸機動団を新編しました。

一方、主に陸上自衛隊の主力小銃だった89式5.56mm小銃は1989年に制式化された装備であり、長年にわたり運用実績を積み重ねてきましたが、潮風や海水の影響を受けやすい沿岸部や島嶼部での運用、光学照準器の常時装着、車両や航空機による機動展開といった近年の運用環境は、89式が設計された時代には十分に想定されておらず、これが課題となりました。

そのため後継となる20式小銃では、伸縮式銃床の採用、防錆性能の向上、排水性の改善、各種照準器への対応などが盛り込まれました。
これらの特徴は一般的な近代化改修という側面もありますが、海洋環境での運用や離島作戦を重視する近年の防衛政策との親和性が高いことも事実です。
防衛省は20式小銃を公式に「離島防衛仕様」と説明しているわけではありません。しかし、その設計思想や採用された機能を見る限り、南西諸島防衛を重視する時代に登場した小銃であることは間違いないでしょう。
20式小銃の開発で比較対象とされた各国の小銃
20式5.56mm小銃の開発過程において、防衛省は海外製小銃の研究や評価を実施していますが、防衛装備庁の試験映像や各種報道によると、ドイツのH&K社製HK416や、ベルギーのFN社製SCAR-Lが評価用火器として登場しており、20式小銃との比較検討が行われているのがわかります。
実際、土浦駐屯地の武器学校ではHK416やSCAR-Lなどの海外製小銃が展示されていることが確認されています。
また、陸上自衛隊では以前から海外製小火器の調査研究を継続しており、オーストリアのSteyr AUGやドイツのG36など、各国で採用されている近代的なアサルトライフルの技術的特徴も研究対象になっていたとみられています。
20式小銃には、伸縮式銃床、光学照準器の搭載を前提とした上部レール、左右両側から操作できるアンビデクストラス機能など、近年の軍用小銃に共通する設計思想が取り入れられています。そのため、外観や設計思想にSCAR-Lとの共通点は明らかです。
ただし、20式小銃の設計経緯や具体的な参考元について、豊和工業や防衛省が公式に説明しているわけではありません。
現代戦に適した拡張性とモジュール設計

画像の引用元 航空自衛隊公式Xアカウント
20式5.56mm小銃は、光学照準器や各種アクセサリーの装着を前提とした設計が採用されています。
本銃の大きな特徴が、機関部上面からハンドガードにかけて一直線に配置されたピカティニー・レールです。これにより、照準眼鏡やドットサイト、暗視装置などを容易に装着できるようになりました。
さらに、ハンドガードの側面および下面にはM-LOK規格のスロットが設けられています。使用目的に応じてフラッシュライトやレーザー照準器、フォアグリップなどを追加できるため、任務に合わせた構成変更が可能です。
89式小銃でも後年にはレール付きハンドガードが開発されましたが、20式では当初から拡張性を重視した設計が採用されました。これは光学照準器の普及や夜間作戦能力の向上など、近年の小火器運用の変化を反映したものと考えられます。
20式小銃の拡張性とモジュール設計
20式5.56mm小銃は、各種照準器や射撃補助装備の装着を前提とした設計が採用されています。
フラッシュライトやIR(赤外線)レーザー照準器、フォアグリップ、バイポッドなどを任務内容に応じて追加できるため、一般部隊から水陸機動団まで、幅広い運用に対応可能です。
上面にはMIL-STD-1913(ピカティニー・レール)規格のロングレールを採用しています。アッパーレシーバーからハンドガード上面まで連続したレールが設けられており、ドットサイトや照準眼鏡のほか、その前方に暗視装置やサーマルイメージャーを装着することも可能です。
さらに、ハンドガードの側面および下面にはM-LOK規格のスロットが設けられています。必要な箇所にのみレールセクションや各種アクセサリーを取り付けられるため、従来の四面レール方式と比較して軽量化と操作性の向上に寄与しています。
ブルッガー&トーメ製のバイポッド兼用グリップの取り付けに対応しており、遠距離射撃時の安定性向上に寄与しています。
89式小銃では後付けのレールシステムによる対応が中心でしたが、20式では当初から光学照準器や各種アクセサリーの装着を前提とした設計が採用されており、近年の小火器運用の変化を反映した構造となっています。
ベレッタGLX160A1
20式5.56mm小銃の特徴として、小銃本体だけでなく各種周辺装備との連携を前提とした設計が挙げられます。
その代表例が、イタリアのベレッタ社が開発した40mmグレネードランチャー「GLX 160」をベースとする「GLX 160 A1」です。陸上自衛隊は20式小銃の導入と並行して同装備を採用しており、小銃下部への装着運用が可能となっています。

20式小銃は拡張レールやM-LOKシステムを備えており、光学照準器や各種アクセサリーだけでなく、グレネードランチャーとの組み合わせも考慮された構成となっています。
従来、陸上自衛隊では89式小銃に装着する06式小銃てき弾が班支援火器として運用されてきました。しかし06式は銃口装着式であり、発射のたびに専用弾を装填する必要がありました。
これに対しGLX 160 A1は独立した後装式グレネードランチャーであり、運用方法や再装填手順が大きく異なります。20式小銃との組み合わせにより、小銃班が運用できる火力支援手段の選択肢はさらに広がったといえるでしょう。
ハンドガードを延長化した20式のバリアントが登場

2025年11月、豊和工業の公式インスタグラム・アカウントにて、 試製と見られるカスタム20式の写真が公開されました。延長化されたハンドガードおよび銃身、ARストック、B&Tのサプレッサー などを搭載しています。
現在、このカスタム・バリアントは航空自衛隊基地警備教導隊で試験配備されているのではと見られています。

20式と89式との具体的な比較
89式小銃は1989年に制式化された長年の陸自の主力で、全長はおおむね916ミリ前後、銃身長は約420ミリ、実装状態での重量はおよそ3.3〜3.7キログラム程度です。
設計は堅牢で信頼性に優れており、当時の運用概念に合わせた堅固な造りが特徴でした。
一方で全長や銃身が長めであるため、狭所や車両内での取り回しは必ずしも有利とはいえません。
米軍が1990年代以降にM16系から短縮カービン(M4)へ広く移行した経緯はよく知られた事実です。
自衛隊もそれに倣い、ACIES(先進個人装備)関連の試作や改修で、約800mm前後まで短縮したカービン化改修が行われた記録があります(四面レール、ポリマーリトラクタブル・ストック、短銃身など)。
しかし、89式をショート化するなどの改修は実行されず、以前から配備されていた折り曲げ銃床式で特に任務上の支障はなかったようです。
一方で、設計当時の規格に基づくためモジュール性や周辺機器の共用性といった点では近年の銃器に一歩譲る面がありました。
したがって、市街地および閉所戦闘能力の向上が図られ、部隊レベルでのカスタマイズ(フォアグリップやレール追加など)が2000年代以降に行われるなど、イラク派遣期を契機に一部の部隊で実戦的な改修が試行されたことも確認できます。
89式の「右撃ち&右操作特化」からの脱却
要点を整理すると、89式は設計上「右構え」を前提に作られているため、操作系(セレクター=安全/発射モード切替)は右利きに有利な配置になっています。
そのため「右構えと右手操作に特化した小銃である」と言えます。

アメリカ軍のM16系(M4含む)もほぼ同じですが、M16系はチャージングハンドルが中央後方にあり、排莢位置とは独立しているため、「左利きでは扱いにくい」とは限りません。
20式小銃の操作性に関しては、右構えを前提としていた89式小銃とは対照的に、チャージングハンドルを含む主要な操作系がアンビ(両手操作)仕様で設計されています。
左右のどちらからでも操作可能なセレクターレバー(発射モード切替レバー)として「アンビタイプ(Ambidextrous)」になっており、右利き・左利きを問わず迅速な操作が可能です。
なお、自衛隊では強制的に右構えではないため、89式においても、左利きの隊員は左構えで撃つことも認められる場合があります。
また、右利きであっても、現代の閉所戦闘や都市戦闘では、左構えで撃つ状況は少なくありません。20式はそのニーズにしっかりと対応した銃です。
とくに、20式のチャージングハンドルは左右どちら側でも取り付けが可能な可逆式となっており、利き腕を問わず、素早く扱える配慮が施されています。
89式小銃は、右構えでの使用を前提に設計されており、左手親指を支えるためのサムレストがグリップ左側に設置され、頬付けしやすいように右側へ湾曲(キャストオフ)したストック、匍匐射撃時に地面との干渉を避けるため右側面に配置されたセレクターレバーなど、随所に右利き専用の設計思想が見て取れます。
左側にもレバーが備えられてはいましたが、限られた状況での操作に留まっていました。
89式小銃は右構えで撃つことを前提としてデザインされている。グリップ左に付いたサムレスト、右構えで頬付けしやすいように湾曲(キャストオフ)したストック、そして匍匐した際に地面にこすれて切り替わらないように右面に付けられた切り替え軸などだ。左面セレクターこそ装備したものの、昨今の閉所戦闘や都市戦闘でのニーズから言えば両構え、両側操作が小銃の標準仕様になりつつある。
実際に、89式小銃は右構えが基本であることに起因して、イラク派遣の際には任務遂行に支障が出る可能性が懸念され、セレクターレバーを左右両側に設けた特別仕様が配備されたという経緯もあります。
このような実任務経験や隊員の声を踏まえ、豊和工業は20式小銃においてこの問題点を克服したと考えられます。
なお、89式に搭載されていた「3点制限点射(3発バースト)」機能は、構造を複雑にする要因ともなっていたため、20式では廃止されました。
「ア・タ・レ」の継承
ところで、セレクターレバーといえば、89式に刻まれていた「ア・タ・レ」という独特の表示も話題となっていました。
この「ア・タ・レ」とは、それぞれ「安全(ア)」・「単発(タ)」・「連発(レ)」の頭文字をカタカナで表記したもので、命中祈願の意味が込められているとも言われています。
自衛隊の装備品という厳格な文脈において、こうした遊び心ある刻印がなされているのは、64式小銃以来の伝統といえるでしょう。

画像の出典 USA Military Channel
報道によると、この「ア・タ・レ」は20式小銃にも引き継がれており、左右両側面にしっかりと刻まれていることが確認されています。
銃剣装着機能と互換性
20式小銃には、銃剣を装着するためのハードポイントである「バヨネットラグ」が装備されています。

ただし、20式専用の新型銃剣は現時点で開発されておらず、89式小銃に使用されている「89式多用途銃剣」がそのまま使用される予定です。

調達計画と配備優先部隊について
20式小銃は、最終的に約15万丁の調達が計画されています。
この数字は、かつての89式小銃の配備数とほぼ同等ですが、完全な配備完了にはやはりおよそ30年を要する見込みです。
出典 https://japan-indepth.jp/?p=52127
2020年度には約9億円の予算を用いておよそ3,000丁が調達され、2021年度から部隊配備が始まりました。
特に注目すべきは、どの部隊に優先的に配備されるかという点です。

画像の出典 USA Military Channel
20式小銃は、当面は陸上自衛隊の精鋭部隊に優先的に配備される予定であり、とりわけ水陸機動団がその筆頭となっています。
水機団は、敵に占拠された離島に対して水路から潜入し、奪還作戦を遂行することを任務とする部隊です。

20式小銃の設計思想は、当初からこのような「離島防衛」を想定しており、海水による腐食を防ぐための特殊処理や、高い排水性能を備えています。
つまり、陸上自衛隊の中でも特に水陸両用作戦に対応する能力が求められる水陸機動団こそが、この新型小銃を真に必要とする部隊であるといえるでしょう。
なお、令和7年度(2025年度)の調達計画によれば、航空自衛隊は2,702丁、海上自衛隊は205丁の導入を予定しており、陸上自衛隊以外の部隊への配備も順次進められていく見通しです。

一方、安全な訓練用機材として東京マルイが自衛隊に20式エアソフトガンの納入を開始しています。





























