画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
2025年という時代に「自衛隊」という「就職先」を選ぶことは誤りか否か?そんなの自衛隊と何の関わりもない筆者に定義づけられるわけがない。
なにせ、多くの志願者(?)は現実的な動機で動く。就活で民間に受からなかった、父親が母親が自衛隊員だった、公務員試験の腕試し──そんな理由で決める人もいる。最近だと、テレビドラマの影響?
世間一般から見れば「国を守る使命感」とか「命を懸けた覚悟」みたいな言葉で飾られがちな彼ら自衛官。だが、実際の入隊理由は、もっと地味で、もっと個人的なのだ。
国防の最前線という響きの裏で、訓練よりも書類仕事の雑務に驚き、災害派遣よりも草刈りの回数の多さに嘆き、廊下に貼られた萌え萌え自衛官募集ポスターを見ては「辞めたい」思いが募っていくはずだ(笑)
そんな日々を過ごすうち、彼らの頭には「FAKE WORLD」という文字がふと浮かび上がるのではないか。
──どっちの世界が本物で、どっちが偽物なのか、と。たぶん2039年の未来こそ、そうかもしれない。
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自衛隊ディストピア作品『FAKE WORLD』あらすじ解説
2039年、溶け始めたロシアの凍土から氷河期時代の記憶が今、蘇る!太古の巨大生物が全人類に牙を向く!
不景気の日本で職にあぶれた“労働力調整児世代”を、使い捨て兵士としてロシアの前線に送り込め──!?
2021年、LINEマンガで配信され注目を集めた巻来功士のディストピア作品『FAKE WORLD 自衛隊調整児部隊、殺人古代蟲を駆逐せよ』は、〈労働力調整児〉を通して、格差社会や日本人の差別癖、国家の暗部に切り込む野心作です。
特殊な出自を持ち世間から差別される調整児だけで構成された“調整児部隊”の過酷な訓練、派遣先で起きる少女への暴行事件をきっかけに自衛隊の中で起きるいじめ自殺・隠匿など陰惨な内容になっています。
最終的に彼らの行き先は、ロシア前線。人間離れした怪物“殺人古代蟲”との戦い。
てか、同じ日本人同士でも差別するのがいかにもスパイト日本人って感じでいいですね。
身分差別のない“正自衛官”による一般部隊は、あくまで正規戦力として国家から保護されます。この正規部隊と非正規部隊の構造を軸に、日本が否応なく巻き込まれる戦争の現実を描いた点で、本作は自衛隊劇画「オメガ7」とも比較できそうです。ある意味、エリア88もか?
しかし、オメガ7こと小松さんは「俺たち自衛隊じゃねえもん」「いつでも死ねるよ」「ソープ行こうぜ」とか、飄々とした軽さを見せて悲壮感がない一方で、『FAKE WORLD』の主人公は、自分たちを非正規部隊に堕とした日本の上級国民および正規部隊へ激しい憎しみを抱いており、より露骨に“棄民の怒り”を描いており、社会批評性を前面に押し出しています。
オメガ7の小松さんは、氷河期世代で就職先がなく仕方なく自衛隊に入ったわけでも、萌え系自衛官募集ポスターに釣られて入隊したわけでもありませんからね(笑)したがって、日本国民や自衛隊正規部隊への“恨み”は基本的に持っていません。むしろ、正規自衛官である中村3曹の方がよりひどい扱いを受けていますし、防衛省を占拠したクーデター部隊に「”待”ってたぜェ!! この” 瞬間 ( とき ) ”をよォ!!」とばかりに純粋な目で志願してましたしね。
──もっとも、小松さんが“高いボーナス”に騙されてオメガ部隊に入ったのは事実で、佐藤3佐への私怨はそれなりにあります(笑)
しかし小松さんは、自分がそこにいるのは「無知と貧困と風俗と借金は人類の自己責任」だと理解しています。ん?それは佐藤か?(笑)
だからこそ、『FAKE WORLD』の〈調整児〉たちのように、存在そのものに構造的な“棄民性”を背負ってはいません。
この避けられない生まれついての身分差別のありなしの違いが、両作品の温度差を決定づけている……そう僕ちゃんは思いますね。

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
なお、萌え系自衛官募集ポスターで失敗する自衛隊といえば、「右向け左!」の続編もいいですね(笑)
作者:巻来功士(まき・こうじ)とは
巻来功士先生は『ゴッドサイダー』『メタルK』などで知られる、ジャンプ黄金期を支えた実力派漫画家の一人です。その作風は、バトルやグロ描写、社会批評性を絶妙に織り交ぜた硬派かつ挑発的なもので、他のジャンプ作品とは一線を画す雰囲気がありました。そのせいか、別名「打ち切り漫画家」。
特に『メタルK』は、当時としては破格の設定でした。少年ジャンプで30代の女性を主人公に据えた作品など、極めて珍しい事例です。少年読者にとっては多少の距離があるはずの主人公像を打ち出しつつ、内容は完全にジャンプ読者向けという実験性。その異端性が、今日に至るまでカルト的な人気を維持している理由でしょう。
そんな巻来先生が令和になって打ち出したのが『FAKE WORLD』です。
2021年9月17日連載開始!!「FAKE WORLD」
作:巻来功士(まき・こうじ)2039年――突如ロシアで発生した巨大昆虫の群れ。アメリカをはじめとした連合国が駆逐の準備を始める中、外圧におもねる日本が出した秘策は、かつて労働力として人工授精により大量に生み出され、不景気の日本で職にあぶれる労働力調整児を前線に送り込むことだった!!親の顔も知らずに育った労働力調整児の錨宅也(いかりたくや)もまた、月給20万円の求人に惹かれ、同じ境遇の大宮ゆかりとともに自衛隊に応募するのだった。日本が抱える病魔を痛烈に描く問題作!!
この作品は、かつてのような悪魔やサイボーグとの戦いではなく、国家、社会、そして人間そのものが孕む“構造的な暴力”との闘いを描いています。かつての『ゴッドサイダー』が神と悪魔の戦争を描いたとすれば、『FAKE WORLD』は現代日本の棄民政策と階級社会(上級国民と底辺のひどすぎる格差)の地獄を舞台にした、より地に足のついたディストピアといえますね。
そして、かつての巻来ワールドに通底する「反骨」と「逆襲の美学」が息づいています。
政権を乗っ取る、国民同士を世代と性別、お注射の有無で対立させ、経済を滞留させる…、「現代にはこういう戦争というか侵略の仕方もあるんだ…」と感心しきりの現代。普通に働けばみんなが中流になれた80年代末の日本が懐かしいですね(笑)
調整児はいわゆる「ロストジェネレーション・氷河期世代」がモデルか(!?)
まあ、「労働力調整児(チョウセイジ)」という身分が現実の日本社会のどの被差別身分へのダブルミーニングになっているのか定かではありませんが、国籍ではなく同じ日本人でありながら、出自や生まれによって差別される存在として描かれています。

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
そのため、在日外国人のような外国籍の差別ではなく、世代差別や部落差別(同和問題)に近い構造として読むことができますね。作中での扱いは、単なる社会的マイノリティではなく、制度的に労働力として管理・調整されて産まされた存在、なおかつ、社会一般に疎まれている存在としてのニュアンスがかなり強いです。
労働力として人工授精により大量に生み出され、不景気の日本で職にあぶれる労働力調整児
次に、「不景気で就職できない」という背景から、現実の氷河期世代・ロスジェネ世代との相関性が見えてきます。人口が多く、就職氷河期に社会的な居場所を失った世代、という現実の状況と符合してますもんね。
となれば、解釈としては〈人口が多い世代=その後の不景気で就職できない=氷河期世代・ロスジェネ世代〉としか取れないですよね。
作中で彼らが最終的に身を寄せるのが自衛隊である点も、当時の現実とリンクしています。25年前の就職難の時期、自衛隊は確かに安定的な雇用先であり、国の機関であり、公務員であり、選択肢として魅力的だった時代です。社会に居場所を失った若者たちが、自衛隊という組織に「行き場」を求めるという描写は、ロスジェネ世代の苦境と重なります(笑)
あの頃の自衛隊は今と違って選び放題でしたね(笑)
要するに、作中設定としては
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調整児=氷河期世代(ロスジェネ世代)の象徴
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差別の軸=本人の努力以外にある出自や「たまたまその時代に生まれた」ことによる構造的不平等
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最終的な救済先=陸上自衛隊
という解釈で、ぜんぜん問題ないと僕は思います(笑)
冒頭の萌え萌えポスターに誘われ、月給20万円の甘言に騙されて自衛隊に入隊してしまう調整児の錨卓也と大宮ゆかり。いや、それにしても2039年になっても萌え萌えポスターで志願者を募るのか。30年前に失敗したはずなのに(笑)
しかも、2039年の世の中はいまだに不景気のまま。何ならできるんだこの国は。最下層の「下流民」である調整児に仕事はなく、優秀な官僚たちの尽力のおかげで、日本経済は1990年代初頭から半世紀近くにわたり低迷し続けているのです。皮肉に聞こえるならそれはそっちに問題がある(笑)いやいや、優秀な官僚だからこそ、この程度の経済低迷で済んでるのです。「打ったからこの程度で済んだんだ(ハアハアゼイゼイ)」みたいに言うなよ(笑)
雇用形態は「ID労働者」、時給はわずか500円。いわばスキマバイトのようなもので、中国のように社会的身分をランク付けされ、オンラインで動向が全て管理されているのでしょう。もちろん、例のお注射の回数によって日本政府への忠誠心もスコア化されているはずです。いや、まーだやってんのかい?はい、作中に例のウイルスについて言及があります(笑)
この物語の皮肉は、国家に見放された者たちが、国家に最後に頼られる存在になる点です。教育や雇用では手を差し伸べなかったのに、非常時には「国のために戦え」と武器を与える──まるで「選ばれなかった人材」の末路が、戦場でしかないことを暗示しているかのようです。
そういえば、コロナ禍初期、経団連会長が「二度と氷河期を作らせない」という強い決意を語っていましたね。あのときの若者たちも、「俺たちは氷河期のような惨めな暮らしはしたくない」と政府に訴え、救済を求めていました(笑)何が氷河期は自己責任だよ(笑)

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
ブラックなスキマバイトしか選択肢のない「調整児」たちは、常に金銭に追われています。錨卓也も大宮ゆかりも、日々の生活費にひっ迫し、目先の報酬に左右されざるを得ません。小松さん、金返して。
もちろん、外国人犯罪問題も発生し、治安は悪化の一途をたどっています。大宮ゆかりを解雇したコンビニの店長一家が何者かに惨殺される事件も起きます。残念ながら、社会構造の歪みを背景にすれば、これは避けがたい現実といえるでしょう。
政府の補助金制度や雇用政策の下、氷河期世代よりも外国人を雇用するほうが合理的である――そういう侵略のやりかたもあるんだなってまじで思うわーって何回も言わすな(笑)マジで「●人の作ったたまご丼美味しい」って小林源文の世界観に通じる“現実の暴力”です。
いや、作中では2021年当時こそ、労働力不足に対して日本政府は移民政策を採っていたのです。ところが、日本人の身分差別大好き社会に辟易とした外国人労働者たちは次々に帰国!

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
一瞬、山戸大輔先生と白正男先生の作品に見えてしまうが、別作品です。そこで倫理的一線を超えて、試験管ベイビーに手を出してしまう日本政府。

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
やっちまったなあ(笑)まーた国民をモルモットにしやがって(笑)DMMがそんなベンチャービジネスやってそうな倫理的一線を超えた未来の日本(笑)撮影スタジオの裏が採取ラボみたいな(笑)
そんな社会不安の中、突如ロシア国内に現れた未知の脅威。日本はアメリカの要請を受け、有志連合の一員として非正規部隊の調整児世代部隊を派遣します。だが、物語が進むにつれ、彼らの真の敵は“外の脅威”ではなく、自分たちを見捨ててきた日本国の社会構造そのものであったことが明らかになっていきます。目覚めた彼ら。
かつて差別し、線引きした“同胞”との再会。それは、かつての仲間である自衛官に銃口を向ける、葛藤と復讐の瞬間をもたらします。
『FAKE WORLD』は、社会的メッセージの強さと、冷徹な近未来世界観の中に、人間の怒り、誇り、そして悲しみを内包した作品です。
“敵は外にあるのか、それとも、かつて自分を拒んだ社会そのものなのか”。
この物語に登場する「調整児」は、社会構造の“調整弁”として意図的に扱われてきた世代であり、国家に“選ばれなかった人々”、すなわち棄民世代の象徴でもあります。
棄民世代が主役となるフィクションは数あれど、ここまで挑発的に、しかもリアリズムに基づいて描かれた作品は稀有といえるでしょう。
錨宅也と大宮ゆかりは特殊能力ある?
主人公は一見、冴えない青年。しかし、特殊な環境に身を置くことで、眠っていた特殊能力が徐々に開花し、圧倒的な力を発揮する――この流れは、近年の物語によく見られるパターンです。
本作の主人公、錨卓也にもその傾向が顕著に表れています。錨は過酷で壮絶、そして非人道的な訓練に身を置くことで、少しずつ潜在能力を目覚めさせていきます。
具体的に錨の自衛官としての高い能力は、「視力」と考えられます。冒頭のダーツ投げの描写、入隊式で教官の振り下ろした竹刀を避ける描写が、その片鱗を物語っています。卓越した視覚能力が、彼の戦場での行動や戦術的判断を支えているのです。
実は錨卓也は、一度自衛官募集に志願書を提出し、面接まで臨んだことがあります。
しかし、その面接で門前払いにされていました。その理由は、彼の出自が「調整児」であったことにあります。自衛隊では、本来「調整児」に対しては、志願書は受け付けるものの、筆記試験や適性試験でやんわりと落とす差別的な慣習がありました。つまり、錨のような「調整児」が面接にまで残ること自体、本来ならありえなかったのです。
では、なぜ錨卓也は面接まで進むことができたのか。採用担当官の話によれば、それは「動体視力」と「静体視力」の優秀さが理由でした。彼の身体が持つ能力が、出自という社会的制約を一時的に超えさせ、自衛官採用試験で面接まで残れたのです。こうして、錨は本来閉ざされるはずの道を踏み開き、特殊な環境下でその潜在能力をさらに研ぎ澄ませることになります。
なお、錨卓也と同じ境遇にあり、彼と同時に自衛隊へ志願した友人・大宮ゆかりは、その美貌だけで大臣の息子である幕勤務幹部自衛官の愛人兼秘書官となっていますから、峰不二子もビックリです。
彼女もまた、目には見えぬ“特殊能力”を持っているのでしょうか。「風俗が天職」と彼女の口から語られていますので、自衛隊の面接で有利に働いたのかもしれませんね。一体、身元調査はまともに行われているのか?どうやら、行われていないことを伺わせるセリフがロシアの戦場で出てきます。
3等陸士に任官後の錨宅也と大宮ゆかりの過酷な訓練
あの屈辱から2年後、世界は危機的状況に陥り、自衛隊は錨卓也を3等陸士として採用します。しかし、彼を待ち受けていたのは、過酷極まる訓練と、軍隊特有の苛烈な人間関係でした。新隊員教育では、いじめや同性愛的行為、徹底的なしごきが展開され、自衛隊漫画の王道的描写が濃厚に繰り広げられます。
特に訓練でのしごきは、水木しげるの古典的戦争漫画における「鬼軍曹による初年兵への気合い入れビンタ(ビビビビビンッ)」などの比ではありません。
滝守陸曹長は、89式小銃で実弾を新隊員たちの至近距離に撃ち込み、恐怖感を演出。錨の目の前を走る同期は、お尻から血が吹き出ています。昨晩行われた行為によるものです。
最も深刻なのは営内での同性愛やいじめの構造であり、錨は「次は自分だ」と、精神的にも極限まで追い詰められるなか、滝守陸曹長が89式小銃を乱射するどさくさに紛れてホモ犯の同期を事故に見せかけて殺そうとするも、失敗。
滝守陸曹長は錨の秘めた野獣性と素養を見抜いており、錨に懲罰という建前で、過酷な個人訓練を科してきます。

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
それは戦闘相手に死刑囚を使い、殺害をするという、実際の自衛隊の訓練では発覚すれば組織解体されるために絶対にあり得ないものです。
恍惚の表情を浮かべた女性幹部自衛官が、その訓練について解説します。米軍で使用される「スピード」と呼ばれる薬物を活用し、錨の身体能力や反応速度を強制的に引き上げるというのです。ミサトさんだって、シンジくんにこんな仕打ちしなかったのに(笑)
彼女は、大臣の息子の幹部自衛官の愛人兼秘書官ですが、弱男には目もくれず、強靱な肉体を持つ戦士(自衛官)に靡く趣向があるようです。
しかし、実際に“本物の死刑囚”を用いた実戦訓練はほんの序章に過ぎず、錨が直面する過酷さと非人道性は、この先さらに吐き気がするほどの過酷なものへと向かっていきます。
SFGpの分隊長に出世
錨卓也は日本政府による厳しい訓練により、秘めた己の能力の解放に成功し、なんとSFGpの分隊長に。

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
サイレンサーつきのUSPという王道の姿で描かれる陸上自衛隊特殊作戦群。2004年の相撲取りさんのリーク以降、2039年の未来でもこれが定番に。まだUSP売ってるのか(笑)
【SAT・SP・SFGp】2000年代初頭、日本政府がこっそり配備したドイツ製拳銃H&K(ヘッケラー&コッホ)USPとは?
その後、ロシアの戦場を舞台に、錨卓也が受けた訓練が彼の回想という形で読者に示されます。
防衛省が行う“死刑囚”を用いた対人戦闘訓練。しかし、真相が明らかになります。彼らは窃盗などの前科こそあったものの、決して死刑囚ではなく、錨と同じ調整児の同胞でした。
自衛隊の熟練教官・滝守陸曹長に“内に秘めた能力”を見抜かれた錨卓也とは違い、彼らは平均以下の学習能力しかなく、コソ泥などに落ちてしまい、おそらく自衛隊や日本政府にとっては不要な存在と評価されたのでしょう。生活保護費も削減したいしね。
現実の日本政府のように、「氷河期世代を結婚させず、間接的に断種してその世代で終わらせる」という現実的なものではなく、能力のある者のためにその命を糧にするという、より非道なものです。かつて日本政府が太平洋戦争で旧軍兵士に行ったように、覚醒剤(アンフェタミン)で洗脳し、「敵(錨卓也)を倒せば解放する」や「恩給を与える」と巧みに誘惑されたであろう彼ら死刑囚(ではない)。
彼らの武器はナイフ。しかし、白兵戦において、錨卓也の前では全く歯が立ちません。冒頭の萌え萌えポスターのイメージは、もはや遠い幻想に過ぎません。
滝守陸曹長に「凶悪な死刑囚」と信じ込まされ、彼らと戦わされ、そしてその命を奪ってしまった錨卓也。その後に知った真実――彼らは死刑囚ではなく、同じ世代の同胞だったという事実が、胸に重くのしかかります・・・。
薬の影響もあってか、ロシアの戦場でさえ、彼らの亡霊は錨の周りを離れずまとわりつくのです。自衛隊に入ることすら許されず、その自衛隊のリアル訓練用資材にされてしまう就職氷河期・・じゃなかった調整児。非正規とは言え、自衛隊というまともな職業(!?)につく錨卓也。錨は彼ら亡霊の恨みを一身に背負っています。
覚醒剤の禁断症状もあり、怒りと絶望が、錨の心を蝕み、彼の行動を容赦なく決定づけます。ギラついた目は涙を堪えきれず、彼はカールグスタフM4を手に取り、静かに、しかし確かに成仏できぬ彼ら亡霊に引導を渡そうとするのです。

画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
アノマロカリスに向けて発射された弾道の背後は、仏教で極楽浄土を象徴する蓮の花のようにも見えます。思わず胸の奥が熱くなります。だからって氷河期の葬式でカールグスタフを撃ち込むなよ(笑)
まとめ『FAKE WORLD』――戦場はロシア、だが真の敵は日本にあり!
〈チョウセイジ自衛官〉――かつて国家から見捨てられ、経済の“調整弁”として消費された棄民世代(ロスト・ジェネレーション)。
彼らが最終的に対峙するのは、外敵ではなく、自分たちを差別し続けた“同じ日本人”だった。
89式とカールグスタフM4で撃ち抜くのは、射撃場の訓練教官ではなく、この国の中枢に潜む「身分差別」という構造そのものだ。
うーん・・、これ「チョッちゃん物語」「パパママバイバイ」とともに文部科学省選定作品に指定してくんないかな。
物語は戦争漫画の形を取りながらも、敵意のベクトルを外から内へと反転させた瞬間、純然たる政治寓話へと変貌する。
防衛省の中枢で、米国政府の特使が嘲笑う――
「日本は太平洋戦争に負けて以来、ずっと我々の犬だ。経済も芸能も言論も思想も、すべて我々が握っている」
この台詞はまあ、ありきたりに見えるものもありますし、1991年の「創竜伝」アニメ版でレディLが横田基地の司令部で日本人のアイデンティティを揺さぶる場面を思わせますね。
そして、弱者には目もくれず、強者の蜜だけを吸い尽くす悪女として描かれる女性自衛官――その立ち位置は、近年話題になった北朝鮮アニメに登場する米軍の女性将校(かわいい)っぽさがあります。
これは戦争譚であると同時に、現代日本の神話であり、棄民世代の叛逆譚である。残酷な天使のテーゼを聞け!
20式?知らん。89式こそが、この神話の聖剣だ。
誰だよ、あんな20式小銃とかゆうの後継に決めちゃったやつ(笑)