画像の引用元『FAKE WORLD』(C)巻来功士
今この時代に自衛隊という職業を選ぶことは誤りか否か?そんなの筆者に関係ない。
不景気の日本で職にあぶれる労働力調整児世代をロシアの前線に送り込め!?
2021年、LINEマンガで配信され注目を集めた巻来功士作品『FAKE WORLD』。本作は、いわゆる「ロストジェネレーション世代」をモデルにした、架空(!?)の存在〈チョウセイジ〉たちを通して、格差社会や国家の裏側に切り込むディストピア作品です。
これはもう一つの「オメガ7」だと思う(笑)
ただし違いは、『オメガ7』が”冷徹なプロのお仕事ずかん”だったのに対して、『FAKE WORLD』は”棄民の怒り”の物語であるという点。
巻来功士先生は『ゴッドサイダー』『メタルK』などで知られる、ジャンプ黄金期を支えた実力派漫画家の一人です。その作風は、バトルやグロ描写、社会批評性を絶妙に織り交ぜた硬派かつ挑発的なもので、他のジャンプ作品とは一線を画す雰囲気がありました。そのせいか、別名「打ち切り漫画家」。
特に『メタルK』は、当時としては破格の設定でした。少年ジャンプで30代の女性を主人公に据えた作品など、極めて珍しい事例です。少年読者にとっては多少の距離があるはずの主人公像を打ち出しつつ、内容は完全にジャンプ読者向けという実験性。その異端性が、今日に至るまでカルト的な人気を維持している理由でしょう。
さて、そんな巻来先生が令和になって打ち出したのが『FAKE WORLD』です。
2021年9月17日連載開始!!「FAKE WORLD」
作:巻来功士(まき・こうじ)2039年――突如ロシアで発生した巨大昆虫の群れ。アメリカをはじめとした連合国が駆逐の準備を始める中、外圧におもねる日本が出した秘策は、かつて労働力として人工授精により大量に生み出され、不景気の日本で職にあぶれる労働力調整児を前線に送り込むことだった!!親の顔も知らずに育った労働力調整児の錨宅也(いかりたくや)もまた、月給20万円の求人に惹かれ、同じ境遇の大宮ゆかりとともに自衛隊に応募するのだった。日本が抱える病魔を痛烈に描く問題作!!
この作品は、かつてのような悪魔やサイボーグとの戦いではなく、国家、社会、そして人間そのものが孕む“構造的な暴力”との闘いを描いています。かつての『ゴッドサイダー』が神と悪魔の戦争を描いたとすれば、『FAKE WORLD』は現代日本の棄民政策と階級社会(上級国民と底辺のひどすぎる格差)の地獄を舞台にした、より地に足のついたディストピアといえますね。そして、かつての巻来ワールドに通底する「反骨」と「逆襲の美学」が息づいています。
政権を乗っ取る、国民同士を世代と性別で対立させ経済を滞留させる…、こういう戦争の仕方もあるんだと感心しきりの現代。普通に働けばみんなが中流になれた80年代末が懐かしいですね(笑)
作中、厳しい就職難と社会的差別の中で行き場を失った〈調整児=チョウセイジ=ロスジェネ世代〉が、最終的に自衛隊に身を寄せた存在として描かれます。

冒頭の萌え萌えポスターと月給20万円に騙されて自衛隊に入隊してしまう調整児の錨宅也、大宮ゆかり。
まあ、2039年の世の中不景気ですから、彼らには仕事がありません。雇用形態は「ID労働者」で時給500円ですが、これはいわゆるスキマバイトみたいなものでしょうか?
この物語における最大の皮肉は、国家が見放した者たちを、国家が最後に頼る構図にあります。教育や雇用では手を差し伸べなかったにもかかわらず、非常時には「国のために戦ってくれ」と武器を与える──それは、まるで「選ばれなかった人材」の末路が“戦場”でしかないと暗示しているかのようです。
そういえば、コロナ祭り当初、経団連会長が「二度と氷河期を作らせないという強い決意で云々」言ってましたが、今となっては懐かしいですね。あの時の若者も「俺たちは氷河期みたいな惨めな暮らしはしたくない」と言って、政府に泣きついてましたもんね(笑)

無職のチョウセイジだから常に金ねんだわ。小松さん、金返して。なお、外国人犯罪問題も当然起きており、治安は悪化の一方。大宮ゆかりをクビにしたコンビニの店長一家も何者かに惨殺されてしまいます。
彼らは、意図的に社会構造の“調整弁”として扱われた世代であり、ある意味では国家に“選ばれなかった人々”、つまり棄民世代の象徴でもあります。
そんな社会不安の中、突如ロシア国内に現れた未知の脅威。日本はアメリカの要請を受け、有志連合の一員として〈チョウセイジ〉部隊を派遣します。だが、物語が進むにつれ、彼らの真の敵は“外の脅威”ではなく、自分たちを見捨ててきた日本国の社会構造そのものであったことが明らかになっていきます。目覚めた彼ら。
かつて差別し、線引きした“同胞”との再会。それは、かつての仲間である自衛官に銃口を向ける、葛藤と復讐の瞬間をもたらします。
『FAKE WORLD』は、社会的メッセージの強さと、冷徹な近未来世界観の中に、人間の怒り、誇り、そして悲しみを内包した作品です。
“敵は外にあるのか、それとも、かつて自分を拒んだ社会そのものなのか”。
氷河期世代が主役となるフィクションは数あれど、ここまで挑発的に、しかもリアリズムに基づいて描かれた作品は稀有といえるでしょう。
政治寓話なんすなあ、これ
「戦場はロシアだけど、敵は霞が関」
「武器は89式だけど、狙いはパワハラ上官じゃなくて身分差別という日本の社会構造」
政治寓話だぞ、これ。
ロシアもアメリカも巨大生物も関係なく、彼ら『チョウセイジ自衛官』の敵は自分達を身分差別した日本人、そのものでした。 今、彼らは同じ日本人を敵として・・・(戦国自衛隊か)。
彼ら〈チョウセイジ自衛官〉が最終的に対峙する相手が「外敵」ではなく「国内の差別構造」である点も重要です。敵意の向かう先が国家や社会そのものになったとき、それは単なる戦争マンガではなく、政治的寓話へと変わっています。