「ドローンは電子レンジで落とせる」─この刺激的な見出しには、一理あります。
家庭用の電子レンジと同じ“電磁波で機器を撹乱する”という原理が、軍事の世界では高出力マイクロ波(HPM)や強力な電磁妨害として実装されつつあるからです。ただし、あくまでこれは比喩です。
実際のHPMは電子レンジとは全く別物で、扱い方にも厳しい制約があります。
まずはざっくりと仕組みから見ていきましょう。
軍事分野での高出力マイクロ波(High-Power Microwave:HPM)
軍事分野では高出力のマイクロ波(High-Power Microwave:HPM)や広帯域の電磁妨害を用いて無人機の電子機器を損傷または停止させる技術は、もはや実用化され第一線に武器として配備されています。
どこで使われているのか(実例と傾向)

Image credit: Epirus https://www.epirusinc.com/electronic-warfare
米軍やいくつかの企業は、対ドローン用途に特化したHPMあるいは広帯域電磁兵器を開発・試験しています。
代表的な例としては、米空軍研究所の「THOR(Tactical High-power Operational Responder)」がドローン群を無力化する実証を行った事例や、民間防衛企業や大手防衛メーカーが発表するコンテナ型・車載型システムが報告されています。
最近のデモや試験では、コンテナ型や車載型のHPMシステム(例:THOR、レオニダス等)が多数の機体を短時間で無力化する成果が公表されています。
米国の電子戦専門企業エピラス社は2025年、インディアナ州で行われた実弾試験で、主力兵器であるレオニダスの実演を行っています。
レオニダスシステムは、高出力マイクロ波(HPM)兵器で、「ロボットによる非対称的な脅威の群れに対抗するために、兵器化された電磁干渉を発射する」ものです。
最新版のレオニダスシステムは、HPMビームを1発発射するだけで49機のドローンを撃墜することに成功しています。
これらの装備品はレーザーや電波妨害(ジャミング)と並び、ドローンの群れ(スウォーム)対策の有力候補として注目されています。
電子レンジとの違い
家庭用の電子レンジと似た「電磁エネルギーで電子を撹乱する」という点で比喩的には通じますが、実際の装置は出力、指向性、射程、効果の制御が異なります。
似ているのは「電磁波」という比喩だけ。家庭用電子レンジは密閉室で食品を加熱するための機器です。
一方で軍用HPMは指向性が高く、極めて短いパルスで高エネルギーを集中させます。装置の大きさ、電力源、放射のコントロール、そして安全対策はいずれも次元が違います。
ですから「家で電子レンジを使えばドローンが落ちる」といった誤解は断じて避けなければなりません。
では、どのように撃墜するの?
高出力マイクロ波は、短時間に強力な電磁パルスを発生させ、ドローンの電子回路やセンサー、通信系を誤動作させたり破壊したりします。
イメージとしては「電子機器の脳に強いノイズを一気に送り込んで失神させる」といったところです。電パチですね。結果として機体は制御を失い、飛行を停止したり安全に着陸したりすることがあります。
HPM兵器は短時間に非常に強い電磁エネルギーのパルスを放ち、標的の電子回路やセンサー、通信系を過負荷にして機能を停止させることを目標にします。
効果は「一時的な誤動作」から「恒久的な破壊」まで幅があり、用途や出力次第で変化します。これにより、複数の小型無人機を一斉に無力化することが可能とされています。
長所としては、弾薬を消費しないため「発射回数に制約が少ない」「弾道を伴わないため飛翔体の破片で二次被害を起こしにくい」「群れを同時に無力化できる可能性がある」といった点が挙げられます。
一方で短所や限界も多いです。大きな電力源が必要であること、指向性を高めても距離と遮蔽物によって効果が落ちること、周辺の電子機器にも影響を与え得ること(誤作動や破損)、および電磁環境規制や法的・倫理的問題があることなどです。
ただし商用展開や広域運用には電力供給の問題が依然として残ります。
HPMは万能か? 他の対ドローン手段とどう棲み分けるか
現在は「HPMだけで全部解決」という時代ではありません。レーザーで直接破壊する方法、RFジャミングで制御を奪う方法、ネットや砲火で物理的に落とす方法──いずれも長所と短所があります。HPMは「非接触で同時無力化できるが周辺影響に注意が必要」という位置づけで、状況に応じて他手段と組み合わせて用いられるのが現実的です。
まとめ:結局、「電子レンジ」よりもっと複雑
比喩としては「電子レンジのように電磁波を出す」という表現もイケますが、重要な違いがいくつかあります。
家庭用電子レンジは密閉された空間で持続的に加熱するための低周波(マイクロ波)を用います。
一方、軍用HPMは指向性の高い短パルスで高エネルギーを送ることで回路の過負荷や破壊を狙います。出力と指向性が段違いで、装置規模や電力供給、熱管理なども全く異なります。
HPMは強力なツールになり得ますが、万能ではなく、ほかの手段と組み合わせて使うことが現実的です。
参考文献:
防衛装備庁 : ドローン対処の切り札~HPM技術の早期装備化へ向けて https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2024/pdf_exhi_pos/p-26.pdf
防衛装備庁 : 撃てば即当たるマイクロ波兵器 〜ライト・スピード・ウェポン〜https://www.mod.go.jp/atla/research/dts2012/P-10p.pdf


