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迫撃砲と榴弾砲は何が違う? ― 同じ“曲射砲”でも役割が異なる

「迫撃砲」と「りゅう弾砲」はどちらも高い放物線を描いて弾を撃ち出す、いわゆる“曲射砲”に分類されます。

しかし、形も運用方法もまったく同じというわけではありません。両者には明確な違いがあり、それぞれが果たす役割も異なります。

詳しく見ていきましょう。

迫撃砲とは

迫撃砲(はくげきほう)は、比較的短い射程で高角度に弾を撃ち出す砲です。銃身(砲身)は短く、砲身の角度をほぼ垂直に近く上向けて発射します。

弾を砲口から直接落とす「前装式」で、装填された砲弾が砲底の撃針に当たると発射薬が点火される単純な構造のため、軽量で携行性に優れています。

部隊が徒歩や車両による牽引で素早く移動しながら使うことができ、陸自では普通科が自前で行う火力支援に適しています。

  • 射程:数百メートル〜数キロメートル程度

  • 特徴:構造が簡単・展開が速い・軽量

  • 代表例:陸上自衛隊の81mm迫撃砲、120mm迫撃砲RTなど

普通科の持つ「自前の支援火器」である

陸自普通科連隊の重迫撃砲中隊と120mm迫撃砲RT

戦場で歩兵たちが前線を駆け回るとき、彼らの背後にはささやかながらも頼もしい火力が控えています。それが迫撃砲です。迫撃砲は陸上自衛隊の歩兵部隊である普通科部隊が自前で扱う火力支援兵器です。小型で軽量なため、部隊自身が持ち運び、設置し、発射まで行えるのが大きな特徴です。

高機動車により牽引され、展開と撤収が迅速

迫撃砲の射程は数百メートルから数キロメートル程度。前線の歩兵が目の届く範囲で敵の塹壕や建物に潜む兵士を狙い撃つのに適しています。普通科部隊では、牽引型の迫撃砲を使い、車両にて隊員とともに迅速に移動し、敵の位置に応じて即座に射撃することも可能です。まさに「撃って逃げる」戦術に適した兵器といえるでしょう。

自走できる迫撃砲もある

なお、「自走迫撃砲(self-propelled mortar)」という、通常の迫撃砲を車体に搭載し、機動性と射撃準備時間の短縮を目的にした装備も各国および自衛隊に存在します。

96式自走120mm迫撃砲が北海道限定配備である理由とは?

ただし、「自走できる迫撃砲」の基本構造や役割は、依然として迫撃砲の範疇にありりゅう弾砲のように完全な自走火砲とは目的も設計思想も異なります。

通常の迫撃砲は地面に設置して使いますが、自走迫撃砲では車体に固定または半固定されており、車内から直接発射できるものもあります。

  • 主な特徴

    • 発射機構は通常の迫撃砲と同じ(高角射撃、前装式)

    • 車両に搭載することで迅速な移動と射撃が可能

    • 発射後すぐに離脱できる「撃って逃げる」運用(shoot and scoot)が容易

  • 代表例

    • 陸上自衛隊:96式自走120mm迫撃砲

      → 地雷原処理車ベースに120mm迫撃砲を搭載したタイプ。砲は後部に搭載され、車外に向けて発射する。

    • 海外例:アメリカM1129 ストライカー自走迫撃砲フィンランドAMV NEMOなど


榴弾りゅう弾砲)とは

榴弾砲(りゅう弾砲)は、中〜長距離の間接射撃を行うための火砲です。

迫撃砲よりも射程が長く、砲身が長いのが特徴です。

発射角度を変えることで、遠距離への射撃や平射ぎみの射撃も可能です。

また、発射薬量(装薬)を調整できるため、距離に応じた弾道制御も柔軟に行えます。りゅう弾砲は通常、車両や牽引装置で移動し、陣地に据え付けて使用されます。

  • 射程:10〜30キロメートル以上

  • 特徴:射程が長い・火力が強い・装薬を調整可能

  • 代表例:陸上自衛隊のFH70、99式自走155mmりゅう弾砲など


自走式榴弾砲

第二次大戦以降の近代的な火砲は、牽引式と自走式のいずれかとなっていおり、単に「榴弾砲」とだけ呼称する場合は、牽引式と自走式の両方を含む場合もありますが、多くの場合には牽引式だけを指しており、自走式は「自走榴弾砲」ないし単に「自走砲」と称されることがあります。日本では陸上自衛隊の野戦特科部隊が配備します。

自走りゅう弾砲は、長射程・大口径の火力を保持しつつ、車両に搭載して機動性・生存性・迅速展開を高めた火砲です。迫撃砲の自走型(自走迫撃砲)とは目的・射程・設計思想が異なります。


2) 自走りゅう弾砲の特徴(迫撃砲・自走迫撃砲との対比)

  • 射程・弾薬:通常155mmなどの大口径を使い、射程は数十キロに達する。迫撃砲より遥かに長距離射撃向きです。

  • 発射方式:後装式で装薬(装薬段数)を変えて射程や弾道を調整できる。迫撃砲は前装式で可変幅が小さい。

  • 砲塔・装甲:多くは砲塔を備え、乗員を一定の防護下に置く。装甲で被弾や砲撃破片からの生存性を高める機種もある。

  • 機動性:履帯(トラック)式や車輪式があり、戦場での迅速移動や位置変更(shoot-and-scoot)が可能。

  • 火力集中・持続性:高速装填機や大きな弾薬庫を備え、短時間で高い射弾量を叩き込める機種が多い。

  • 指揮統制・火力管制:近代型はGPSや射撃指揮装置を備え、遠隔の観測データを取り込んで即応射撃が可能。


3) 利点と欠点

  • 利点:迅速な移動で生存性向上、展開・撤収が速い、砲兵部隊全体の機動性が上がる、高い火力と長射程。

  • 欠点:価格・整備負担が大きい、車両サイズや重量で移動制約(道路橋梁や輸送)が発生、燃料や整備・補給が必要。


4) 代表的な機種(世界例・日本)

  • 世界的な代表例:米国 M109 系列、ドイツ PzH 2000、韓国 K9 Thunder、ロシア 2S19 Msta、フランス/イタリアの自走砲など。車輪式の例としてフランスのCAESARなど。

  • 日本:陸上自衛隊は155mm口径の自走りゅう弾砲を運用しており、牽引式(FH70 等)と自走式を使い分けています。2023年からは新たにトラックの形式をした「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」が配備されています。これまでのキャタピラ形式の自走砲に比べて走破性は劣りますが、発達した現代の道路交通を利用して、迅速な展開が可能です。


5) 運用上の位置づけ

  • 自走りゅう弾砲は旅団・連隊レベルの火力中核として、後方に位置しつつ広範囲の間接射撃を担当します。

  • 自走迫撃砲(あるいは携帯式迫撃砲)は歩兵前線に密着した近距離支援を担い、素早い機動と即応性が重視されます。両者は互いに補完関係にあります。

まとめ

このように、迫撃砲とりゅう弾砲は、どちらも「間接射撃」を行う砲ですが、その運用距離・構造・機動性には明確な違いがあります。

  • 迫撃砲:軽量・短射程・歩兵支援用

  • りゅう弾砲:重量級・長射程・部隊火力支援用

迫撃砲は前線の歩兵(普通科)部隊が使う機動的な近距離火力支援装備であり、敵の塹壕や建物に隠れた兵士を攻撃するのに適しています。対照的に、りゅう弾砲は、その長砲身を活かして、はるか後方から敵陣地を攻撃・制圧するための長距離火力支援装備です。りゅう弾砲は普通科部隊が自前で扱うことはなく、夜戦特科の隊員が運用します。迫撃砲が歩兵の“手元の火力”なら、りゅう弾砲は部隊全体の“戦略的火力”を担当し、いわば「戦場の火力の要」です。

こうして考えると、迫撃砲は目立つ存在ではありませんが、歩兵の戦いをそっと支える縁の下の力持ち。前線での一瞬の判断や機動力を活かして、敵に小さながしかし確実な打撃を与える、そんな役割を担っているのです。

同じ「砲」と名がついても、使う場所と目的が異なるため、両者は相互に補完し合う関係にあります。陸上自衛隊では、これらの兵器を組み合わせることで、前線から後方まで切れ目のない火力支援体制を構築しています。

また、21世紀の砲兵戦では、対砲迫レーダー、火光標定、音源標定、UAV(無人偵察機)などの各種観測装置と戦術データ・リンクの発達により、砲迫の攻撃を受けると瞬時に射撃位置が標定され、反撃されるため、砲撃は短時間にとどめ、すぐに陣地変換をする(シュート・アンド・スクート)を行います。

砲兵部隊(迫撃砲や榴弾砲)が発見されるメカニズム — なぜ「撃ってすぐ動く(shoot-and-scoot)」が必要なのか

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