迫撃砲部隊の戦術でよく聞かれる「shoot‑and‑scoot」は、文字通り「撃ってすぐに移動する」ことを指します。これは単なるスローガンではなく、現代戦で生き残るために欠かせない基本行動です。迫撃砲は発射すると同時にその位置を敵に知らせてしまうため、迅速に陣地を変える必要があります。
敵が迫撃砲の位置を特定する手段は多岐にわたります。まず、火器探知レーダーは砲弾の軌道を追跡し、発射点を逆算します。音響センサーは砲声や弾道音の到達時間差から位置を割り出すことができます。さらに、光学や赤外線センサー、ドローン、衛星などによって、発射時のマズルフラッシュや煙、熱源を即座に確認される場合もあります。また、弾着のクレーターや破片の痕跡、現場の観測情報を組み合わせて発射点が特定されることもあります。
こうした探知能力の前では、従来型のけん引式迫撃砲のように設置に時間がかかる陣地では、反撃を受けるリスクが高まります。shoot‑and‑scootを行うことで、発射直後に位置を変え、敵の逆探知や砲撃をかわすことが可能になります。実際の運用では、射点に到着して観測や方位合わせを行い、短時間で必要弾数を発射したら即座に車両を起動し、別の位置に移動するのが基本です。
自走砲であれば射撃準備・撤収が短時間で済むため、より機動的にこの戦術を行えます。さらに、複数の弾を短時間で撃ちつつ迅速に移動する戦術や、ネットワーク連携による状況判断の迅速化などと組み合わせることで、生存性と火力支援の持続性を両立させることができます。
それを踏まえたshoot-and-scootという運用
上に挙げた探知方法はいずれも「砲撃という運用が発射点を露出させる」という前提に立っています。したがって、迫撃砲部隊は発砲後すぐに陣地を離れて位置を変える(shoot-and-scoot)戦術を取ることで、逆探知からの被害を避け、持続的な火力支援を可能にします。また、自走化は随伴部隊に合わせて迅速に射点を変えられることから、場所を変えながらの継続支援に向いています。
ただし、shoot‑and‑scootにはトレードオフもあります。頻繁な移動は整備や燃料、補給の負担を増やすため、地形や天候、後方支援の状況によっては運用が制限されることもあります。それでも現代戦では、発射後に素早く位置を変える行動は、迫撃砲部隊の基本戦術であり、長期的な生存と任務達成に直結する重要な要素です。
参考文献・資料一覧
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AN/TPQ-36 Firefinder radar
火器探知レーダー。砲弾軌道から発射点を逆算する技術を持つ。
https://en.wikipedia.org/wiki/AN/TPQ-36_Firefinder_radar -
Long-range acoustic localization of artillery shots
音響センサーによる砲撃位置特定の研究論文。
https://pubs.aip.org/asa/jasa/article/146/6/4860/955637/Long-range-acoustic-localization-of-artillery -
Acoustic Detection and Localization of Artillery Guns
光学・赤外線センサーを用いた砲撃源の検出事例。
https://proceedings.spiedigitallibrary.org/data/Conferences/SPIEP/27137/81_1.pdf -
Security analysis of drones systems
UAVによる偵察と発射点特定の分析。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2542660519302112 -
Crater analysis and reporting
弾着クレーターを分析して射線や発射点を特定する手法。
https://www.globalsecurity.org/military/library/policy/army/fm/6-50/Appj.htm