【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、自衛隊の装備や部隊について防衛省の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、それらの調査結果に基づいて記事を構成しています。

自衛隊の現行配備「88式鉄帽」はどのくらい強いの?

「鉄帽」は鉄ではない──88式鉄帽の実態と進化

自衛隊における戦闘用ヘルメットは、通称「テッパチ(鉄鉢)」と呼ばれてきた。これは旧日本軍時代から続く俗称であり、装備品としての正式名称は88式鉄帽、あるいはそれ以前の66式鉄帽である。

自衛隊における戦闘用ヘルメットの制式装備は、1988年に制定された「88式鉄帽」が現行である。陸上・海上・航空自衛隊の常備自衛官に共通して配備されており、その形状はアメリカ軍が採用していたPASGT(Personnel Armor System for Ground Troops)型ヘルメットと極めて近い。

名称こそ「鉄帽」であるが、実際には鉄製ではない。素材にはアラミド繊維の一種であるケブラーが用いられており、高い強度と軽量性を兼ね備えている。このような非金属製のヘルメットを「鉄帽」と呼ぶのは、旧日本軍以来の伝統に基づく俗称「てっぱち(鉄鉢)」が今なお用いられているためである。

88式鉄帽の防御性能は、戦場における榴弾の破片や砲弾の破裂片、あるいは拳銃弾などから頭部を保護することを想定している。具体的には、9ミリ拳銃弾を含む小火器や爆発物による飛散物に対する防護が主目的であり、対ライフル弾防護は想定されていない。防弾チョッキと同様、ケブラーの強靭な繊維構造がこれを可能にしている。

この88式鉄帽は、自衛隊のみならず、海上保安庁や警察などの他機関にも応用されている。たとえば、警察官用としてはグレー塗装のバリエーションが存在し、暴動鎮圧や危険な作戦における防護具として採用されている。

一方、特殊な作戦環境では異なるヘルメットが用いられることもある。海上自衛隊の特殊部隊(特別警備隊)や、陸上自衛隊の西部方面普通科連隊においては、水路潜入訓練や近接作戦において、軽量な「プロテック」社製スポーツ用ヘルメットが使用されている。これらは防弾目的ではなく、軽量性と耐衝撃性を重視したものであり、用途に応じて適切に選定されている。

さらに、2013年からは改良型である「88式鉄帽2型」が配備され始めた。外観上の大きな変化はないものの、素材の改良によるさらなる軽量化が施されており、装着者の負担軽減に寄与している。また、新型では4点式の顎ひもが標準装備とされ、フィット感と安定性が大幅に向上した。

88式鉄帽とPASGTヘルメットの比較

1990s デッドストック 米軍 実物 6C PASGT KEVLAR フリッツ ヘルメットカバー 6カラーデザート チョコチップ

88式鉄帽は、米軍が1980年代から採用していたPASGTヘルメット(通称「パスゲット」)をベースにした設計である。両者は形状・素材ともに類似しており、とくに側頭部から後頭部にかけて深く覆うカットラインは共通点が多い。

ただし、いくつかの相違点も見られる。

  1. ライナー構造の違い
     PASGTでは、サスペンションライナー方式と呼ばれる吊りバンド式の内装が用いられ、頭部との間に空間を設けて衝撃吸収を図っていた。一方、88式では、日本人の頭部形状に合わせてクッションパッド方式の内装を採用しており、フィット性がより高いとされる。

  2. 顎ひも構造
     当初の88式は3点式顎ひもを採用していたが、2013年以降の88式鉄帽2型では4点式に変更された。これにより、PASGTよりも安定した装着感が得られるようになっている。

  3. 外装の処理
     88式鉄帽はOD(オリーブドラブ)色で塗装され、カモフラージュカバーを装着する運用が基本となる。PASGTも同様にカバーが装着されるが、表面加工や色合いにはやや差異がある。

次世代装備への更新見通し

現在、自衛隊では88式鉄帽の後継として、より軽量で高性能な戦闘用ヘルメットの開発・調達が進められている。これは「個人装備の近代化」の一環であり、将来的には米軍のACH(Advanced Combat Helmet)やECH(Enhanced Combat Helmet)に類する防護能力と拡張性を持つものが採用される可能性がある。

新装備では以下の要素が重視されていると考えられる。

  • 拡張レールNVG(暗視装置)マウントの標準装備

  • モジュラー構造による任務対応力の強化

  • ケブラーに代わる先進複合素材(例:UHMWPE系)の導入

  • 民間法執行機関との互換性と共通化の検討

すでに一部の特殊部隊では、米軍のOps-Coreタイプのハイカットヘルメットを模した高機能モデルが試験的に用いられているという情報もある。

つまり、88式鉄帽は現在も主力でありながら、その退役と更新は現実味を帯びてきており、今後数年で正式な後継装備が登場することは十分にあり得る。

鉄帽覆いと中帽(ライナー)

自衛隊において使用される88式鉄帽には、あらかじめ本体表面にそれぞれの所属に応じた下地塗装が施されている。陸上自衛隊ではOD(オリーブドラブ)色、航空自衛隊では暗めのグレー、海上自衛隊ではより明るいグレーである。

在庫販売 JME 陸自新迷彩 130 偽装網新迷彩ひらひら付 鉄帽用 ヘルメット用

J.M.E. 陸自新迷彩 130 偽装網新迷彩ひらひら付 鉄帽用(ヘルメット用)

3自衛隊のうち、陸自と空自では迷彩模様の「鉄帽覆い」と呼ばれるカバーを鉄帽の上から装着するのが基本である。これは視認性の低下と保護を目的としたものであるが、海自では艦艇内での使用を主とするため、鉄帽覆いは通常用いられない。

中帽(ライナー)

また、戦闘用の88式鉄帽とは別に、自衛隊では「中帽(ライナー)」と呼ばれる樹脂製のヘルメットも配備されている。これは一般的な建設現場で用いられるいわゆる「ドカヘル」と同等の強度を持ち、防弾性能は有していない。災害派遣や各種訓練、体験入隊など、実戦的な危険を伴わない場面での着用が主である。

東日本大震災の際には、被災地で救援活動に従事した隊員たちが、このライナーに「がんばろう東北」といった復興への願いを込めたメッセージシールを貼り、任務に当たった事例もある。これは単なる装備品以上の象徴として、当時の記憶に残っている。

旧型の66式鉄帽

かつて陸上自衛隊で広く配備されていたのが、米軍のM1ヘルメットを参考に国内で生産された「66式鉄帽」である。このヘルメットは、日本人の頭部形状とはあまり相性が良くなかったため、隊員の間では評判が芳しくなかった。

また、庇(ひさし)が長めに設計されていたことから、64式小銃に搭載された可倒式リアサイトと干渉し、油断するとリアサイトが前方に倒れてしまうという不具合もあった。

材質は合金製であり、現用の88式鉄帽と比較して非常に重く、装着者に大きな負担を強いていた。なお、88式は66式に比べ約300グラム軽量化されている。

この66式鉄帽は、前線部隊ではすでに88式に更新されているが、完全に退役したわけではない。後方部隊や予備自衛官補の訓練用装備として現在も使用されているほか、防衛大臣や幕僚にも貸与されており、形式上は現役装備である。

自衛隊において旧式装備は、戦闘を主任務としない後方職種の部隊へと転用されるのが慣例であり、鉄帽についてもその例に漏れない。したがって66式は、今日においても現場で使用されることのある装備である。

自衛隊の「テッパチ」と「ウソッパチ」

一方で、「ウソッパチ」と呼ばれる非公式な装備が存在する。これは旧型66式鉄帽に酷似した外観を持つ、プラスチック製のレプリカヘルメットである。実際の鉄帽に比べて著しく軽量であるため、隊員の間では頭部への負担を軽減できる便利な代用品として、密かに使用されていた。

外見上の違いは細部にとどまり、迷彩カバーを被せることで見分けがつかなくなることから、訓練や軽作業時に「偽装」して用いる隊員が一定数存在したようである。ただし、当然ながら防弾性や衝撃耐性において本物にはまったく及ばず、安全性に重大な問題がある。

このため、「ウソッパチ」の使用は公式には固く禁止されていた。訓練中の事故や有事の際に致命的な結果を招きかねないためである。便利さと安全性のトレードオフの中で生まれた、いわば現場の“苦肉の策”であったが、あくまで非公認の装備にすぎない。

Visited 11 times, 1 visit(s) today