任務をともに遂行する、頼もしき“相棒”たち――自衛隊の警備犬の知られざる関係

「自衛隊に動物がいるって本当？」
そんな素朴な疑問に対して、答えは――本当、です。

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1 任務をともに遂行する、頼もしき“相棒”たち――自衛隊と犬たちの知られざる関係
2 諸外国の軍用犬――戦場の最前線で育まれてきた兵士と犬、その絆
3 自衛隊の警備犬 ― まとめ
- - 3.0.1 参考文献

任務をともに遂行する、頼もしき“相棒”たち――自衛隊と犬たちの知られざる関係

たとえば陸上自衛隊の体育学校では、馬術競技の選手を育成するために馬を飼育しています。そして、さらに注目すべきは航空自衛隊と海上自衛隊。この2つの部隊には、任務上の必要性から警備犬が正式に配備されており、専門のハンドラー隊員とペアで日々厳しい訓練を重ねています。

航空自衛隊入間基地の公式ページでは、次のような言葉も紹介されています。

「よく、“このバカ犬”って言う飼い主がいますよね。
それは、犬ではなく飼い主の方がだめだということなんです」

引用元――航空自衛隊入間基地・歩哨犬紹介ページ

警備犬は、攻撃性のコントロール訓練（いわゆる噛みつき訓練）を受け、警察犬のように不審者対応や警戒活動を行います。さらに、災害派遣時には救助犬として人命救助の任務にもあたることがあります。

名目上は「備品」扱いではありますが、実際には任務遂行のパートナーであり、現場の隊員たちにとってかけがえのない存在です。

なお、昭和30年代には陸上自衛隊でもシェパード犬を配備し、同様の警備任務に従事させていた時期がありました。しかし現在、犬による警備体制を維持しているのは海上自衛隊と航空自衛隊のみとなっています。

諸外国の軍用犬――戦場の最前線で育まれてきた兵士と犬、その絆

戦場において兵士が犬とともに戦う歴史は、決して最近始まったものではありません。日本でも、戦国時代には伝令や偵察に犬が使役されていたという記録が残っており、旧日本軍でも警備や歩哨任務に犬が配備されていました。

一方、旧ソ連では「対戦車犬」と呼ばれる極めて過酷な戦術が実行されました。犬に爆薬を装着し、ドイツ軍の戦車の下へ潜り込ませて自爆させるというものです。命を使い捨てにする手法は、いまなお軍用犬の運用における倫理的議論の対象です。

米軍の軍用犬と海兵隊の“絆”

現在、アメリカ軍では爆発物探知犬が多数配備され、海外の作戦行動や基地警備に活躍しています。特に在沖縄アメリカ海兵隊では、ハンドラーと犬の関係は任務の場を越えて、日常生活にも及び、深い信頼関係が築かれています。

「人類の親友が、最も頼れる味方になるとき」
— 米海兵隊公式サイト（記事リンク）

『どのように人の親友が最も近い味方になるか』爆発物探索犬とハンドラーの海兵隊員

『How man’s best friend becomes closest ally』Source : Official U.S. Marine Corps Website

自衛隊における警備犬の運用

日本の自衛隊でも、航空自衛隊と海上自衛隊では現在も警備犬（旧称：歩哨犬）が運用されています。なかでも空自では、ドイツ原産のドイツ・シェパードが中心的存在。民間の専門施設で1歳までに基礎訓練を受けた後、自衛隊で本格的な警備犬訓練に入ります。

その性格は素直で、警戒心が強く、情緒も安定しており、まさに理想的な警備犬と言えるでしょう。なお、空自には1頭のみですがラブラドール・レトリバーも配備されています。とはいえ、最近話題になったチワワの「モモちゃん」（奈良県警・嘱託警察犬）のような超小型犬は、自衛隊では現在採用されていません。

約3年に及ぶ本格的な警備犬訓練

警備犬の訓練は、航空自衛隊基地業務群管理隊のなかに編成された警備犬管理班が担当。隊員は単なるハンドラーではなく、プロフェッショナル・トレーナーとしてのプライドを持ち、犬とともに日々訓練に励みます。

航空自衛隊警備犬の主な訓練メニュー

警備の基本は不測の事態に備え、注意して守ることとしている航空自衛隊。実際の現場で役立つようにさまざまな訓練を警備犬に行っています。

基本訓練項目（例）：

立止（りっし）：命令があるまで静止
伏臥（ふくが）：命令で伏せて待つ
脚側行進：ハンドラーの横に沿って歩く
持来（じらい）：指示された物を取りに行く
障害物飛越：指定された障害物を飛び越える
禁足咆哮：不審者に対し威嚇する
襲撃：命令により不審者に対し行動

応用訓練（例）：

爆発物検索：ダミー爆弾にしみこませた火薬臭を探知
不審者追跡：においを頼りに不審者を追う
被災者捜索：災害時に生存者を探す救助犬的活動

なお、訓練では命令に従って正確に行動できても、食べ物で報酬を与えることはありません。ボール遊びが最大のごほうびです。

「犬はボール遊びが大好きなので、ボールを与えることが褒めることなんです。食べ物は与えません。褒めるたびに食べ物がもらえるというような訓練では、食べ物がなければいうことをきかなくなりますし、健康管理ができません」

航空自衛隊入間基地公式サイト　歩哨犬紹介ページより　http://www.mod.go.jp/asdf/iruma/special/021/p2.html

備品であっても、ただの装備ではない――。
軍用犬や警備犬は、戦術的パートナーであり、兵士にとってかけがえのない“相棒”なのです。

海上自衛隊の警備犬

海上自衛隊でも、基地の安全を守る任務を担う警備犬が配備されています。

中でも呉地方隊の警備犬たちは、2011年の東日本大震災の際に、不明者を捜索するため「警備犬部隊」として陸・海・空自衛官および防衛事務官とともに被災地の東北へ派遣され、現地で大きな活躍を見せました。

派遣されたのは、海上自衛隊所属の警備犬「金剛丸」と「妙見丸」の2頭。足元に散らばるガラス片で負傷しながらも、懸命に取り残された住民のもとへたどり着き、隊員による救助につなげました。

その後、「金剛丸」は派遣から間もなく肺炎を患い、わずか4年の生涯を閉じましたが、その働きは多くの人々の記憶に刻まれています。呉地方隊では、金剛丸をはじめとする警備犬たちの功績を称え、慰霊碑を建立して冥福を祈り続けています。

ありがとう、金剛丸～星になった小さな自衛隊員～

桜林美佐

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自衛隊の警備犬 ― まとめ

このように、自衛隊では現在、航空自衛隊と海上自衛隊のみが、警備任務の一環として警備犬を運用しています。警備犬はそれぞれの基地の警備や、災害時の捜索活動などで重要な役割を果たしています。

かつては、任務を終えた警備犬は民間に譲渡されることなく、自衛隊内で生涯にわたって養育されていました。
しかし、2024年時点で、航空自衛隊では一定の条件を満たした退役警備犬を民間に譲渡する制度が導入されています。

ちなみに、元航空自衛隊航空学生で作家の高部正樹氏は、学生時代に「警備犬（当時の階級は2等空曹）」が自分より階級が上であることを知らず、敬礼を怠った（欠礼）ため、先輩学生から厳しく叱られたというエピソードを紹介しています。警備犬はあくまで犬でありながらも、隊内ではれっきとした「階級を持つ隊員同等の存在」として扱われていることがわかる逸話です。