普段、テレビや新聞でしか目にすることのない自衛隊。その活動や装備、災害派遣での活躍などに関心を持つ方は多いものの、実際に隊員と直接ふれあったり、装備品を間近で見たりする機会はそう多くありません。そこで重要な役割を果たしているのが、各地にある「広報施設」です。
自衛隊の広報施設とは、一般市民に向けて自衛隊の活動内容や歴史、装備などを紹介するための場です。日本全国に複数あり、有名なものでは東京・新宿にある「防衛省市ヶ谷記念館」や、千葉県・習志野の「陸上自衛隊広報センター(りっくんランド)」が挙げられます。
これらの施設では、実物大の戦車やヘリコプターの展示、シミュレーター体験、制服の試着コーナーなど、子どもから大人まで楽しめるコンテンツが用意されています。単なる展示にとどまらず、体験を通じて「防衛」や「国の安全保障」というテーマに自然と親しむことができるのが特徴です。
また、駐屯地・基地そのものが広報施設として、地域との接点にもなっています。例えば、地域住民を招いた防災イベントや夏祭り、記念行事なども積極的に開催されており、自衛隊が“遠い存在”ではなく“近くの頼れる存在”であることを伝えています。
近年は、平和と安全をめぐる環境が複雑化しており、自衛隊の役割も多岐にわたっています。こうした時代だからこそ、広報施設の存在意義はますます高まっています。自衛隊の現場で働く人々の姿や思いを直接感じられる場所として、訪れる価値は十分にあるでしょう。
「ちょっと見に行ってみようかな」──その一歩が、国を守る力に対する理解を深める入り口になるかもしれません。
それぞれの項目に飛べます
自衛隊の広報施設
陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」
埼玉県と東京都の県境に位置する朝霞駐屯地に隣接する「陸上自衛隊広報センター(通称:りっくんランド)」は、陸上自衛隊が保有する主要な装備を一堂に展示する広報施設です。実物資料や模型、映像資料を通じて、自衛隊の役割や活動について幅広く学ぶことができます。
2010年7月23日には来館者数が累計100万人を突破し、自衛隊が設置する常設広報施設の中でも高い人気を誇るスポットとなっています。一時期、2010年11月1日から2011年2月1日までの間、当時の民主党政権下で時限的に入館が有料化されましたが、現在は再び無料開放されており、どなたでも自由に入場可能です。
施設内では、実物の対戦車ヘリコプター「AH-1Sコブラ」が屋内に、汎用ヘリコプター「UH-1H」が屋外に展示されています。また、ミニチュア装備や自衛隊の活動記録映像、制服試着コーナーなど体験型展示も充実しています。
売店「ARMY SHOP SAKURA」では、自衛隊グッズや限定アイテムなども販売され、来館の記念にも最適です。さらに、不定期で体験搭乗イベント(抽選制)なども実施されており、ヘリコプターに実際に搭乗できる貴重な機会が得られることもあります。
なお、全国の主要な駐屯地にも「防衛館」といった自衛隊の歴史や装備に関する資料館が併設されており、それぞれ特色ある展示が行われています。
海上自衛隊 呉史料館「てつのくじら館」
広島県呉市にある「海上自衛隊呉史料館(愛称:てつのくじら館)」は、海上自衛隊の歴史や任務、特に掃海任務と潜水艦部隊に焦点を当てた広報施設です。2007年4月5日に開館し、国内外から多くの来館者を集めています。
最大の特徴は、実際に使用されていた海上自衛隊の潜水艦「あきしお」がそのまま陸上展示されている点にあります。通常、潜水艦は任務中海中に潜んでいるため、その全体像を目にする機会はほとんどありませんが、ここでは艦内に入って見学することができ、操縦席や艦内の生活空間なども見られます。
施設内では元自衛官のボランティアによる詳しい解説も行われており、海上自衛隊の活動をより深く理解することができます。
鹿屋航空基地史料館(鹿児島県)
鹿児島県鹿屋市に所在する海上自衛隊・鹿屋航空基地に併設された「鹿屋航空基地史料館」では、海軍航空隊の歴史や特攻隊に関する貴重な資料が多数展示されています。旧日本海軍の拠点であった「鹿屋海軍航空基地(旧・鹿野飛行場)」は、太平洋戦争末期に特攻作戦の基地として知られています。
館内には、実物の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)をはじめ、出撃前の特攻隊員の遺書や写真、当時の資料などが保存・展示されています。戦争の記録を通じて平和の尊さを考える場所としても重要な施設です。
航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」
静岡県浜松市西区にある航空自衛隊浜松基地の広報施設「エアーパーク」は、航空自衛隊が誇る航空機の数々を間近で見学できる体験型展示施設です。入館料は無料で、家族連れや航空ファンに人気の高いスポットとなっています。
1階の展示エリアには、退役した実機の戦闘機や輸送機、救難機などがずらりと並び、迫力ある姿を間近で見ることができます。バートル救難ヘリやT-2高等練習機などが保存状態よく展示されています。
2階では、航空機に搭載されていた火器(例:対空機関砲VADS)や、レーダーサイトで使用された本物のコンソール機器類が紹介されており、技術的な面にも触れることができます。
併設のミュージアムショップ「ツバサ」では、浜松基地所属部隊のワッペンや、自衛隊公式グッズ、KENTEX製の自衛隊モデル腕時計、さらには「東京銀座コロンバン」とのコラボによるオリジナルスイーツなども販売されており、見学の記念や贈り物にも好評です。
3階には簡易フライトシミュレーターが設置されており、飛行機の操縦を疑似体験することも可能です。また、建物の3階部分からは浜松基地の滑走路が一望でき、タイミングが合えば実際の航空機の離発着を眺めることもできます。
公式サイト(防衛省)
航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」
自衛隊記念祭・記念行事とは?
陸・海・空の各自衛隊では、全国の駐屯地、基地、分屯地などにおいて、年に一度、地域住民に向けた広報活動の一環として一般公開イベントを実施しています。これらは「開庁(開隊)記念行事」または「記念祭」と呼ばれ、原則として誰でも無料で入場可能です。
ふだんは立ち入れない駐屯地の内部を歩くことができる貴重な機会であり、多くの来場者でにぎわいます。ただし、施設内には立ち入りが制限されている区域もあるため、現地の案内や標識に従って行動する必要があります。
かつては銃器に自由に触れることもできましたが、2012年4月、市民団体から「自衛隊が一般市民に銃を触らせるのは銃刀法違反だ」との告発があり、防衛省が対応を見直した結果、現在では銃器の周囲がロープで囲まれ、触れることはできなくなっています。
記念祭で楽しめるイベント
各記念行事では、以下のような体験・展示が行われます。
分類 | 内容 |
---|---|
装備展示 | 戦車、装甲車、指揮通信車、ヘリコプター、護衛艦、戦闘機などの実物展示 |
模擬体験 | 車両・艦船・航空機への体験搭乗(抽選制が多い)や戦闘糧食(ミリメシ)の試食 |
模擬戦闘 | 陸上自衛隊による迫力ある模擬戦闘展示や訓練演武 |
音楽演奏 | 各自衛隊の音楽隊による演奏会 |
子ども向け企画 | スタンプラリー、ちびっ子広場、制服試着、塗り絵など |
飲食模擬店 | 自衛隊員や協力業者による模擬店。カレー、焼きそばなど各地で特色あり |
特に陸上自衛隊の模擬戦闘展示は人気が高く、戦車やヘリが登場する臨場感あふれる演出が話題です。航空自衛隊では、戦闘機による飛行展示や、ブルーインパルスのアクロバット飛行(航空祭)も大きな見どころです。千歳、百里、入間などの基地で行われる航空祭は、毎年大勢の来場者でにぎわいます。
海上自衛隊では、護衛艦などの艦艇への体験乗艦が実施されることもあり、艦内見学が可能です。とりわけ「ちびっ子ヤング大会(通称:ちびヤン)」は、子どもや若者向けのイベントですが、大人も参加可能な開放行事として親しまれています。
自衛隊売店(PX)は一般人でも利用可能?
自衛隊や米軍の基地内にある売店は「PX(Post Exchange)」と呼ばれ、主に隊員の生活支援を目的に設置されています。迷彩服やブーツ、個人装備品、日用品、食料、雑誌などを扱っており、駐屯地記念祭などのイベント時には、これらの一部が一般向けにも販売されます。
一般来場者が購入できる商品としては、次のようなものがあります。
-
迷彩柄のシャツやバッグなどの記念グッズ
-
限定パッケージの自衛隊公式土産「撃」シリーズ(カレー、饅頭、せんべい ほか)
-
部隊ワッペンやパッチ
-
自衛隊デザインの腕時計(KENTEX製)
自衛官が自ら出店するブースもあり、親しみやすい雰囲気の中で買い物を楽しめます。商品ラインナップは会場や部隊ごとに異なるため、掘り出し物に出会える可能性もあります。