陸上自衛隊の航空部隊で長年にわたり活動してきた「LR-1」は、連絡および偵察任務を担った固定翼機でした。小型ながら与圧されたターボプロップ式の高速機で信頼性の高い機体でした。
LR-1は主に小規模な部隊間の連絡や、前線の状況確認といったや短距離偵察に活用されましたが、時代の流れと航空技術の進化に伴い、2016にはその役割を終え、退役することになりました。
機体の特徴
双発エンジンの軽飛行機で、短距離離着陸能力に優れ、陸上自衛隊が運用する航空基地や前線近くの小規模飛行場からも運用できる点が特長です。
この機体は、いわゆる戦闘機や輸送機のように派手な任務をこなすわけではありませんが、地上部隊の行動をスムーズにする重要な役割を果たしました。情報や物資の小口輸送、偵察任務、緊急連絡など、目立たないながらも部隊運用には欠かせない存在だったのです。
退役後は、新型の多用途機LR-2や無人航空機(UAV)への役割移行が進められています。LR-1が担ってきた機能は、そのまま現代的な装備や新たな運用体制へ引き継がれ、より安全かつ効率的な運用が可能となりました。

三菱MU-2─LR-1の原型となった双発軽飛行機
LR-1連絡偵察機の原型は、民間用として開発された三菱MU-2です。MU-2は1960年代に三菱重工が製造した中型双発ターボプロップ機で、最大6名程度の搭乗が可能です。低翼配置で、短距離離着陸(STOL)性能を備え、空港施設の制約がある場所でも運用できる点が特長でした。
エンジンはプラット&ホイットニー製ターボプロップを搭載し、双発設計により片方のエンジン停止時でも飛行が可能です。民間市場ではビジネス用途や小規模輸送に使われ、国内外で運用されました。
陸上自衛隊はこのMU-2を軍用仕様に改修し、通信装置や偵察機材を搭載したLR-1として運用しました。小型で高速な機体特性を活かし、部隊間連絡や偵察任務に使用されました。

実は武装計画も
LR-1の機体両側面には当初、フェアリングという出っ張りが設けられていました。ここには機銃の搭載が計画とされてきました。つまり、偵察用兼地上攻撃機としても運用する計画があったのです。最終的にはその計画は実行されませんでした。
LR‑1は、民間用機体を軍用に改修して連絡・偵察任務を行った機体として知られていますが、その設計段階には別の顔もありました。機体両側面に設けられたフェアリング(外形の張り出し部)は、単なる流線形処理ではなく、当初は「火器搭載を念頭に置いた設計要素」であるとされてきました。具体的には、ここに機銃を搭載する構想が持ち上がり、偵察任務に加えて地上目標を攻撃する能力を付与する案が検討されました。
検討の段階では、偵察装備に加えて機銃を搭載することで、必要に応じて自衛的あるいは限定的な攻撃が可能な機体とする想定がなされていました。
しかし最終的にこの武装化計画は採用されず、LR‑1はあくまで連絡・偵察用途の有人機として運用されることになりました。計画が実行に至らなかった理由は複数考えられますが、機体強度や運用洋上の都合など実務的な検討項目が挙がると推定されます。これらの検討を経た上で、最終的に武装搭載は見送られ、結果としてLR‑1は武装を持たない連絡偵察機として隊務を遂行しました。
航空自衛隊でも配備された
航空自衛隊でもMU‑2が航空救難団の捜索救難(Search and Rescue)などの用途で配備された実績があります。空自での配備では、MU‑2の機動性や短距離離着陸性能を活かし、救難捜索や連絡任務に用いられましたが、1995年からはレーダーやデータリンクの機能に優れたU-125Aに交代されました。
まとめ
LR-1が担ってきた連絡・偵察任務は、現在では後継機のLR-2に引き継がれています。LR-2は機体の近代化に加え、通信能力や航続性能が向上しており、LR-1が果たしてきた地上部隊支援の役割をそのまま継承しています。
ただし、陸上自衛隊は将来的に航空偵察を無人航空機(UAV)に移行する計画を進めており、有人連絡機としてのLR-2や、これまでのLR-1のような偵察機の運用は、近い将来に廃止される可能性があります。
また、災害派遣を含めた人員輸送には滑走路を必要とせず、速度や航続距離、輸送力にまさるV-22オスプレイが担っていくと見られます。