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シグナリーファン編集部では、自衛隊の装備や部隊について防衛省の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、それらの調査結果に基づいて記事を構成しています。

ヘリコプターは本当にミサイルに弱いのか?最新技術と運用での防御手段を知る

低空で機動するヘリコプターは、地上発の脅威に晒されやすい傾向があります。これは、任務上、低空での近接支援や輸送、離着陸、ホバリングを行う機会が多く、その間に機体が露出する時間が生じやすいことや、タービンなどの高温部位が赤外線誘導ミサイルの目標になりやすいことが主な理由です。そのため、固定翼機と比べて低高度で脅威に直面する頻度が相対的に高くなる面があります。

しかし、単純に「脆弱である」と断定するのは正確ではありません。現代のヘリコプターでは、赤外線低減設計、早期警戒装置、赤外線欺瞞弾(フレア)や電子対抗装置(DIRCM)などの防護手段が導入されており、これらを組み合わせることで被弾リスクを低減できます。被撃墜率は機種や装備、運用方法、支援体制によって大きく異なります。

攻撃ヘリについても同様です。歴史的には、ベトナム戦争期の低高度運用ではMANPADS(個人携行式地対空ミサイル)や小型対空兵器に対して脆弱でしたが、近年の機体は防護装備や電子対抗手段、戦術的工夫により生存性が向上しています。そのため、機体単体で「落とされやすい」と決めつけることはできないものです。

【スティンガの後継】91式携帯地対空誘導弾

ヘリにとっての脅威と対抗手段を見ていきましょう。

戦闘ヘリが小銃や機関銃からの攻撃に強い理由

短く言えば、対戦車ヘリ、戦闘ヘリは「歩兵の小銃弾や.50口径機関銃に対しては機体の設計や装甲で一定の耐性を持たせられるが、後述する誘導弾(MANPADS や他の地対空ミサイル)の衝撃・破片効果には根本的に脆弱であり、運用上は常に対策と戦術的配慮が必要」という理解と言えます。

AH-1S…対戦車ヘリは時代遅れ?

AH-1Sを含む多くの戦闘ヘリでは、コックピット周りの被弾は乗員直接の致命傷に直結します。そのため、乗員・重要機器周りに防弾装甲を備えており、機体の一部(コックピット前面やエンジン周り、弾薬庫周辺など)は歩兵の持つ5.56mm程度の小口径小銃弾に対して耐弾性を持っています。

しかし、機種によって差が大きく、例えばMi‑24のように比較的厚い装甲を持つ機体は12.7mm弾に対してさえ耐える設計です。

機関砲と機関銃…どう違う?

また、ローター、テールブーム、駆動系(トランスミッション)や油圧系、センサー、外装パネルなど、ヘリにとって防御が薄い/無防備な箇所は、小銃弾でも損傷すれば飛行不能に直結することがあります。つまり「胴体はやや強いが機体の全箇所が頑丈ではない」という点に注意が必要です。

小火器がヘリコプターに当たったときに「どの部位が致命傷になりやすいか」は、機種ごとの装甲化の程度や弾種・命中箇所・距離によって違いますが、まず最も危険で致命的になりやすいのはトランスミッション(メインギアボックス)です。ここが破壊されるとローターに動力が伝わらなくなり、短時間で飛行継続が不可能になります。トランスミッション自体は厚手の装甲で保護されることが多いですが、油圧や潤滑油の漏れ、ベアリングの破損が生じると瞬時に重大なトラブルにつながります。たとえ小口径弾(7.62 mmなど)の貫通であっても、ギアや軸受に損傷が入れば致命的です。

次にテールローターとテールブーム駆動系です。テールローターはヨー(機体の回転)を制御する要で、ここを失うと直ちに機体の姿勢制御が不能になります。テールローター自体は比較的細く露出しているため、小銃弾や12.7 mmクラスの弾でも損傷を受けやすく、命中すれば制御不能や急激な回転運動(スピン)を招いて墜落に至る危険が高い箇所です。駆動シャフトへの打撃で内部から破断が起きることもあります。

ローター(メインローター)のブレードは面積が大きく一見当たりにくいように見えますが、先端近くや前縁を被弾するとバランスを崩し振動が発生します。振動がひどくなると構造疲労や制御系の喪失につながり、最終的に飛行不能になることがあります。ブレードは素材や構造である程度の貫通抵抗を持つことがありますが、被弾による小さな欠損でも高速回転下で急速に悪化します。

油圧系統・サーボアクチュエータ・ピッチリンク類も非常に重要です。ヘリの姿勢やブレードピッチを変える装置は比較的小さく露出した部品も多く、そこが損傷すると操縦入力が伝わらなくなります。現代機では冗長系や自己復旧機能を持つ場合もありますが、主要なサーボラインやリンクがやられると局所的には即効的に制御性を失うことがあります。

エンジン吸気・排気部やタービン周辺への被弾は、出力低下や火災を招く可能性があります。エンジンは外殻である程度保護されますが、吸気口に破片が入りタービンを損傷すると短時間で出力喪失に至ります。燃料系統が被弾して燃料漏れ→着火に繋がると極めて危険です。

燃料タンクと配管は被弾時の火災リスクを高める要因です。自己封止機能(self‑sealing)付きのタンクや防火材で保護する対策がとられることが多いものの、貫通による燃料漏れや引火は乗員と機体双方にとって致命的になり得ます。

なお、AH-1S コブラの特徴の一つに、前席と後席の両方から操縦が可能な二重操縦系統が備わっている点があります。これによって一方の操縦士が負傷しても機体の生存性を高めています。

地対空誘導兵器(MANPADSや短距離SAM)の脅威増大により、従来の低空機動での安全性が損なわれている

さらにヘリにとって、衝撃は小口径火器より遥かに大きく、被害は致命的になりやすい誘導ミサイルの破片エネルギーや熱が脅威です。

歩兵の持つ携行式赤外線追尾ミサイルや小型の射程拡張型地対空ミサイル、いわゆる「man-portable air-defense systems, MANPADS/MPADS」は、低空を飛ぶヘリコプターに対して有効な攻撃手段となっているのが現代です。

例えば、3自衛隊でも射程が5000メートルにもおよぶ「91式携帯地対空誘導弾」通称“携SAM”が配備されています。もし自衛隊の駐屯地や基地が敵の攻撃ヘリコプターや戦闘機等の航空機から空襲を受けた際は、まず地上の隊員が機関砲のほか、91式携SAMで対抗する運用です。

現代の携行式赤外線追尾ミサイルは小型軽量であり、発射も比較的簡便で、遮蔽の少ない地形や都市環境で発見されにくいため、ヘリ側は発見・回避と被害低減のための対策を常に講じる必要があります。

ヘリがミサイルを回避する手段

実戦的に採られている対処は大きく二つあります。ひとつは機体側の被害軽減措置で、赤外線追尾を撹乱するフレアの放出や、エンジン排気の赤外線を低減する技術、電子戦装置によるミサイルのセンサー類への干渉などを活用して捕捉追尾を撹乱し、命中確率を下げる方法です。

機体側の被害低減措置(装備・技術)

  • フレア(赤外線欺瞞弾)やチャフ
    ミサイルの赤外線シーカーを欺くために高温の光源を放出し、ミサイルをそらす古典的手段がフレアです。高温で強い赤外線を放つ物質を燃焼させ、一時的に機体よりも強い放射源を作ります。これにより、ミサイルのシーカーがフレアを新しい目標として捕捉することを期待します。戦闘機には標準的に装備されていますが、自衛隊のヘリでは陸自のCH-47JAなど限定的で、それほど多くありません。一方、チャフはレーダー追尾ミサイルを誤誘導するための金属被覆の繊維や帯です。レーダー誘導(RCI、半能動・能動レーダーホーミングなど)を使うミサイルに有効で、そのレーダー波を反射・散乱させて目標のレーダー像を撹乱します。ただし、最新鋭の画像赤外線シーカー(IIR)や高機能シーカーは、動体識別やスペクトル解析でフレアと機体を識別する能力があり、フレアだけでは十分に防げない場合があります。実戦ではフレアとチャフを組み合わせて使うことが多いです。

  • ミサイル接近検知装置(MAWS/ミサイル警報)
    発射や飛翔中のミサイルを紫外線や赤外線、光学で検知し、乗員に警報を出す装置です。検知信号を受けて自動的にフレアを投下するシステムと連動することが多く、早期警戒の役割を担います。代表例にAN/AAR-60系などがあります。

  • 赤外線シグネチャ抑制(IRサプレッサ/排気冷却等)
    エンジン排気などの熱放射を減らして、ミサイルがロックオンする有効レンジを縮小する技術です。二重壁の排気ダクトや混合冷却、特殊整流器などで排気温度やシルエットを低減します。陸自の一部ヘリではこうしたIR対策が導入されています。

  • DIRCM(指向性赤外線妨害装置)
    ミサイルのシーカーに対してレーザーや強力な赤外線源を指向して撹乱する能動型装置です。従来のフレアに比べて狙ったミサイルのみを狙い撃ちで撹乱できるため、効果的な防護手段として採用が拡大しています。AN/AAQ-24(Nemesis)などが代表例です。UH-1Jに備わっている赤外線誘導ミサイルに対する自衛装置です。

まとめ

このように、ヘリコプターは赤外線追尾やレーダー誘導のミサイルに狙われやすい性質がありますが、実際の現場では被撃墜率を下げるための対策が着実に取られています。たとえば、ミサイルの目をそらすフレアやレーダーをかく乱するチャフの投棄、エンジン排気の熱を抑える技術や電子戦装置による妨害といった機体側の装備が挙げられます。これらは単独でも効果がありますが、組み合わせることでより高い防護効果を発揮します。

同時に、地形を利用した飛行ルートの設定や編隊運用、早期警戒資産との連携といった戦術面の工夫も重要です。

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