【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、自衛隊の装備や部隊について防衛省の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、それらの調査結果に基づいて記事を構成しています。

航空自衛隊の戦闘機による「対領空侵犯措置」とは

日本の空は24時間絶え間なく、航空自衛隊のレーダーサイトや早期警戒機、さらには内閣官房の運用する情報収集衛星によって監視されています。

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戦闘機による対領空侵犯措置

わが国に対して、周辺国軍の戦闘機や爆撃機が防空識別圏を超えて迫ることを領空侵犯と呼び、国籍などの不明な航空機を彼我不明機(ひがふめいき)と呼びます。

そして、それらに対して実際の実力手段を行使する槍の部分が、戦闘機による対領空侵犯措置です。

スクランブル

スクランブル(scramble)とは主に外国の航空機による国際法に違反するような領空侵犯および、領空侵犯のおそれに対する航空自衛隊による「対領空侵犯措置」のための緊急発進です。

ひとたび彼我不明機による領空侵犯が生起すると、基地にはスクランブル警報が鳴り響き、真夜中や吹雪であってもエンジンに火を入れて漆黒の空へと飛び立ち、実際の迎撃対処行動『インターセプト』に移行するのが通常の流れです。

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激しさを増す日本周辺空域における安全保障環境

近年では周辺諸国との緊張の高まりから、航空自衛隊のスクランブルは多発傾向です。

周辺国と我が国の防空識別圏および領空を示した図(右)と空自のスクランブル対象となった外国機の飛行ルート図(左) 。 図の出典 航空自衛隊公式サイト

ロシアは『パトロール飛行』と称して、日本近辺にウラジオストク近郊の基地からTu-95戦略爆撃機などを発進させます。

日本海側または太平洋側からのいずれかの南下で、わが国の領空をかすめてほぼ一周する間に自衛隊や在日米軍を挑発して、その対処能力や無線通信の情報収集を行うのが通例です。

北海道の防空を担う空自第2航空団(千歳)では主にロシア機への対処が多く、必要に応じて三沢基地の第3航空団からも戦闘機がスクランブル発進。

一方、九州沖縄の西方、尖閣諸島周辺では領有権をめぐって、中国軍機による威嚇的な活動が頻発しており、空自南西航空方面隊ではさらなる警戒を強めています。

対領空侵犯措置の法的根拠は

領空侵犯に対する措置、対領空侵犯措置を明記した自衛隊法第84条(領空侵犯に対する措置)は以下のとおりです。

第84条(領空侵犯に対する措置)
長官は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

つまり外国航空機への退去行動はこの84条が根拠となっています。

防空識別圏と領空侵犯、その対処方法

航空自衛隊では防空のための作戦も定めています。具体的には以下に示すとおりです。


航空侵犯に対しては、「侵入する航空機の発見」「発見した航空機の識別」「敵の航空機に対する要撃(来襲する空中目標を撃破するため、戦闘機を発進させまたは地対空誘導弾を発射させること)・撃破」といった防空のための作戦が遂行されます。

引用元 航空自衛隊公式サイト
http://www.mod.go.jp/asdf/about/role/bouei/

日本の防空識別圏は1945年にGHQが制定した空域をほぼそのまま使用しており、航空自衛隊の対領空侵犯措置の実施空域に指定していますが、これは日本の領空の範囲を示してはいないことに留意が必要です。

意図を持った悪意による威嚇か、単なるコースの間違いかはレーダーで当該機の航跡を辿ればすぐに判明。

領空侵犯機に対してはスクランブル発進した戦闘機が接近し、侵犯機が官民のいずれであるか、韓国が飛ばしたチョコパイと宣伝ビラ付きの気球か、北朝鮮の時限タイマー付きサリン気球か、中国による他国の偵察気球か、宇宙人のUFOかその他か、パイロットが目視で直接確認する必要があります。その上でデジタル一眼レフを使って乗員が侵犯機を撮影。

侵犯機が有人の外国軍用機であったなら、レーダサイトまたは戦闘機乗員が直接、国際緊急周波数(ガードチャンネル)で「貴機は日本の領空を侵犯しようとしている。進路を変更せよ」と周辺国の複数の言語で呼びかけて警告。

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しかし、侵犯機が空自機の警告を無視して挑発的な侵犯を続けたならば、空自の対領空侵犯措置行動はより重いフェーズへと移行。実弾発射の信号射撃による警告や、日本国内の基地へ強制着陸を命じる手はずになっています。

信号射撃警告については1987年、領空侵犯を行ったソ連空軍機に対し、空自の戦闘機が実際に20mm機関砲M-61A1を発射して警告を行った例も。

HUD越しに見た空中戦の世界

単なる挑発が取り返しのつかない事態にならないとも限りません。しかし、自衛隊では日本国憲法に則って、とくに慎重に対処しているのが実情。自衛隊が後に「悪質」と公式表明したこのソ連機侵犯事件でも撃墜は行わず、アメリカ政府にその慎重な対応を高く評価されています。

「CAP」とはCombat Air Patrol、日本語で戦闘空中哨戒あるいは空中警戒待機と呼び、対象航空機の接近に対し、速やかに対処できるようにスクランブル用の戦闘機を事前に上空待機させておく戦術です。Combat Air Patrolの態勢では戦闘機が効率的に空中警戒を行えるよう、滞空時間を伸ばすための空中給油機も必要です。

このように領空侵犯事案が発生すると、第一義的に航空自衛隊が対処する手はずになっており、スクランブルがかかると、各部隊および受信マニアがそれぞれ警戒体制に突入します。

領空侵犯機の現況と北方空域と南西空域における防空

北方空域ではロシア軍の航空機による領空侵犯、また南西空域においては中国空軍機による恣意的、挑発的な領空侵犯が相次いでおり、近年では国籍不明の無人機と見られる航空機の問題も発生。

2020年6月には正体不明の気球が宮城県仙台市上空に現れ、日本社会が騒然。警察のヘリが確認のために離陸しましたが、気球ははるか上空を飛行。気球はその後、実に半日も本州上空に留まっていたことから、何らかの動力を持ち、遠隔で操縦されている可能性がありましたが、日本政府は気球に対し何らの対応も行いませんでした。

2023年に同様の気球がアメリカ国内に侵入した際(2023年中国気球事件)には米軍戦闘機によって撃墜されています。事件を受け、防衛省は過去に日本でも複数目撃された気球を中国の無人偵察用気球であると強く推定されると発表しています。

過去、航空自衛隊が公表している領空侵犯事件の資料によると、侵犯機には戦闘機のほか大型の爆撃機、それに情報収集活動を行う電子戦機などが日本周辺へ飛来。

出典 航空自衛隊

ところが、日本の防空にとっての脅威はロシアにとどまりません。

こちらは航空自衛隊の邀撃機が撮影した中国空軍のH-6戦略爆撃機。H-6は巡航ミサイルや爆弾、機雷なども投下できる多目的戦略爆撃機で、日本国の脅威です。

中国軍が日本を侵略する際、離島に自衛隊があらかじめ仕掛けておいた地雷をH-6は燃料気化爆弾の投下により、効率よく破壊するとみられています。

“5分待機”のアラート任務とアラートハンガー

過酷な任務をこなす航空自衛隊のスクランブル要員は領空侵犯による突然の緊急発進に備えるため、滑走路のすぐ近くに設けられている『アラートハンガー』と呼ばれる格納庫にて、実弾を装填しミサイルを翼に吊り下げ、いつでも飛び立てる要撃戦闘機と共に、ハンガー併設の待機室にて交代で24時間待機をしています。

この待機状態を『アラート任務』と呼びます。ひとたび、スクランブル発進のアラームが鳴り響けば、彼らスクランブル要員は即座に待機室を飛び出して格納庫へ走り、F-15にラダー(梯子)で駆け上がり、3分以内で離陸準備、5分以内に離陸する決まりです。

通称『5分待機』です。当然、アラート待機室詰めの彼らパイロット、整備員のため、3度の食事も食堂から車で運ばれます。

ロシア機対処のため、千歳基地から飛び立ったF-15の場合、札幌市を越え、石狩湾上空に抜けると、コンバットopenに向け、20mmバルカン砲の作動チェック。

しかし、航空祭でのスクランブル発進実演展示では外国に手の内を明かすことを避けるため、わざと時間をかけてノロノロと手際悪く発進しているのが恒例です。なんちゃって。

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