自衛官の給与事情――特別職国家公務員の待遇考察。男女の性差で格差は存在するか

自衛隊には、頂点に立つ統合幕僚長から、最も若い隊員である2士や自衛官候補生、さらには非戦闘員である防衛事務官や高等工科学校生徒に至るまで、階級も役割も多岐にわたる隊員が在籍している。当然ながら、給与についても勤務年数・階級・勤務成績などを反映し、個々に差が生じている。

自衛官の給与事情――特別職国家公務員の待遇とは

自衛隊を含む官公庁においては、公正な人事評価の基礎として「勤務評定」が実施されており、これはいわば公務における「成績表」ともいえる。賞与(ボーナス)はこの勤務評定の内容が額に大きく影響する仕組みである。

なお、自衛隊では男女の性別によって給与に差が出ることは一切なく、同一の職務に対しては同等の処遇がなされている。

では、自衛官たちの給与体系や、任務ごとに支給される各種手当について詳しく見ていきたい。


高給の背景にある特殊任務と手当制度

自衛官は「特別職国家公務員」に分類されており、基本給に加えて任務や環境に応じた各種手当が支給される。防衛出動が命じられた場合には「防衛出動手当」が、災害派遣時には「災害派遣手当」が支給される。

たとえば、災害派遣手当は通常一日あたり1,620円であり、特に危険性が高い状況では3,240円に引き上げられる。異常気象や地震災害が頻発する近年、この手当は重要な補完的収入となっている。

また、不発弾処理に関わる隊員には、一出動あたり5,200円が支給される(処理の危険性が低い場合は時給110円となる)。

中でも、特に多くの手当が支給されるのは、特殊な任務に従事する部隊の隊員である。

海上自衛隊では、護衛艦などに乗艦する隊員に対して「乗組手当」が支給される。その額は基本給の33%にのぼり、潜水艦乗員に至っては45.5%と高率である。加えて、船が出港するたびに「航海手当」も支給されるため、地上勤務の隊員と比べて手当の水準は高い。

また、陸上自衛隊の第1空挺団に所属する落下傘隊員には「落下傘隊員手当」、特殊作戦群および西部方面普通科連隊のレンジャー小隊に所属する隊員には「特殊作戦隊員手当」がそれぞれ支給されている。

これらの手当は、危険性の高い任務に従事する隊員たちに対し、相応の対価を支払うという観点から設けられている。


多岐にわたる手当制度

このほかにも、自衛隊では勤務内容や勤務地、特殊技能などに応じたさまざまな手当が制度化されており、総じて給与水準の底上げに寄与している。

詳細な支給額については、防衛省が公開している「自衛官モデル給与例」(PDF)を参照されたい。
自衛官モデル給与例(PDF:65KB)

期末・勤勉手当(ボーナス) 通勤手当 単身赴任手当 扶養手当
寒冷地手当 住居手当 特別勤務手当 落下傘隊員手当
爆発物取扱作業等手当 営外手当 管理職手当 航空手当
航空作業手当 除雪手当 特殊作戦隊員手当 災害派遣等手当
超過勤務手当 死体処理手当 船舶検査等手当 坑内作業手当
落下傘降下作業手当 地域手当 休日給
国際平和協力手当 夜勤手当
夜間特殊業務手当 航空管制手当
異常圧力内作業等手当
夜間看護等手当
イラク人道復興支援等手当
管理職員特別勤務手当等
国際緊急援助等手当


典拠 http://www.mod.go.jp/pco/wakayama/boshu/kyuyo/kyuyoshogu.html

自衛隊員の年収事情――新隊員は約200万円、幕僚長クラスは2000万円に達する現実

自衛隊員の給与は、階級や年齢、勤務年数、職務内容に応じて大きく異なっている。入隊間もない新隊員(自衛官候補生や2士)では年収およそ200万円からのスタートとなるが、統合幕僚長ともなればその年収は約2000万円に達する。こうした給与体系は、国家の防衛という厳しい職務に対する正当な報いとして位置づけられている。

結婚と出世、そして安定性

自衛隊において、安定した生活基盤が整うとされるのは3等陸曹(3曹)に昇任してからとされる。この階級は中級幹部への登竜門であり、自衛官としての資質や能力が一定以上であることを意味する。結婚する自衛官の多くがこの3曹以上であるというのも、将来性や経済的安定が見込まれることが理由だ。

扶養家族を持てば扶養手当が支給されるため、家庭を築くことは実質的な収入増加にもつながる。こうした事情から、結婚は3曹昇任と密接に関係している。

花形職種・パイロットの年収は1000万円超も

航空機の操縦資格を持つ自衛官は、陸上自衛隊に約1200名、海上自衛隊と航空自衛隊にそれぞれ約1000名が在籍している。女性パイロットも少数ながら存在し、陸自6名、海自8名、空自14名と報告されている。

パイロットには飛行手当が支給され、飛行時間や機種によってはこの手当が基本給を上回る場合もある。たとえば、プロペラ機を操縦する3曹(高卒・25歳)で年収490万円、2曹(35歳)で年収690万円、曹長(50歳)で920万円に達する。また、防衛大学校卒の3尉(25歳)は570万円、飛行班長にあたる3佐(35歳)は900万円、飛行隊長クラスの2佐(40歳)では1060万円に達する。

僻地・極地勤務では手当が上乗せ

特地勤務や南極観測支援など、僻地や極地での勤務に従事する隊員には特別な手当が支給される。たとえば、北海道の礼文分屯地勤務では「特地勤務手当4級」が支給され、夏季11%、冬季は15%が基本給に加算される。また、南極観測支援の任務に就く隊員には、最高で日額4100円の「南極手当」が支給される。

組織の頂点に立つ幕僚長の待遇とは

陸上自衛隊のトップである陸上幕僚長の月収はおよそ120万円とされており、ボーナスや諸手当を加えると年収は約2000万円に達する。これは大手企業の役員クラスに匹敵する水準である。ただし、日本の自衛隊では米軍のような専用機や宮殿のような官邸などは提供されておらず、官舎は一般的な公務員住宅と大差ない。

米軍との比較と日本社会の現実

一方、米軍の高級将校たちは専用機や豪華な住宅、専属運転手・ボディーガードなどが提供される。中には軍用機で家族をショッピングに送迎し、公金で高級ホテルに宿泊した例もある。こうした事例に比べると、日本の自衛官たちは非常に慎ましい生活を送っていると言える。

一方で、近年の日本社会は非正規雇用や長時間労働、低賃金といった問題を抱え、安定した職業への希求が高まっている。公務員、とりわけ自衛官のような安定職への人気が高まる背景には、こうした社会情勢も無関係ではない。

自衛隊は、給与や手当の制度においても国家公務員の中で特異な存在であり、その職責に見合った報酬が整備されていると言える。

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