予備自衛官と予備自衛官補の違いとは

予備自衛官と予備自衛官補――その違いと役割とは

自衛隊には、有事や災害時に常備自衛官を補完するための「予備役制度」が存在する。その中で「予備自衛官」と「予備自衛官補」は、それぞれ異なる背景と任用経緯を持つ。

いかにそれぞれの違いを項目ごとに解説する。

「予備自衛官」とは

「予備自衛官」は、自衛隊を退職した元自衛官が本人の志願に基づいて任用される制度で、民間で生活しながら年間一定日数の訓練に参加する。一方、「予備自衛官補」は自衛隊経験のない一般の国民が志願し、基礎的な訓練を受けたのち、条件を満たすことで予備自衛官へ昇任することができる。

両者はともに平時には民間人としての生活を送りながら、国の安全保障や災害対応に備える役割を担っている。予備自衛官は年間5日間、予備自衛官補は教育期間として一定日数の訓練が義務付けられており、いずれも防衛招集命令、災害招集命令、または国民保護等招集命令を受けた際には、常備自衛官と同等の自衛官として任務に就く。

東日本大震災(2011年)では、自衛隊史上初めて予備自衛官が災害派遣のため招集され、その有効性が確認された。また、予備自衛官制度の維持・推進にあたっては、予備自衛官を雇用する事業者に対して国からの助成制度も設けられており、民間との連携体制が重視されている。

これらの運用は、全国の地方協力本部(地本)が管轄しており、制度の周知・募集から訓練、招集時の手続きに至るまで一貫して支援が行われている。予備自衛官制度は、平時における備えとしての意義と、国防および災害対応の即応力確保の両面で、重要な役割を果たしている。

また予備自衛官の身分は非常勤の特別職国家公務員であり、任官者には予備自衛官手当・訓練招集手当が支給される。

予備自衛官に貸与される装備について

予備自衛官は、訓練や招集時に装備品の貸与を受けるが、これらは常備自衛官とは異なり、主に旧式装備が中心となっている。たとえば、66式鉄帽(旧型の鉄帽)や、現行迷彩服と同等の戦闘服、戦闘靴などが貸与される。銃器(小銃)も訓練時や招集時に貸与され、個人が自宅などで保管することはない。

装備品は訓練や招集のたびに返却・再貸与される仕組みであるため、毎回迷彩服の階級章を縫いつけるのが実際の予備自衛官の手間のひとつとして知られている。


訓練内容について

予備自衛官は、年間一定日数の訓練に参加する義務があり、内容は実戦を想定した本格的なものとなっている。体力検定に加え、小銃射撃は重要な訓練項目であり、89式5.56mm小銃を用いて200メートル先の標的を狙う射撃検定が毎年実施されている。得点は公式に記録されるため、訓練参加者には高い精度と真剣な姿勢が求められる。

また、都市型戦闘への対応として市街地戦闘訓練を行うケースもあり、専用の市街地模擬施設での訓練も導入されつつある。

災害派遣関連では、レスキュー機材の扱いを含めた訓練が行われるほか、災害派遣時に適用される法律や権限、任務上の行動規範についても学ぶ。さらに、応急処置や救護を含む「野外衛生」も教育内容に含まれている。

特殊武器防護訓練では、原子力災害などを想定し、福島第一原発でも使用された簡易防護服「タイベックス」の着用法や、汚染区域での行動、除染手順などについても実習を行っている。

即応予備自衛官制度とは

「即応予備自衛官」は、予備自衛官制度の中でも、陸上自衛隊のみで運用される特別な制度であり、1997(平成9)年度に創設された。一般の予備自衛官よりも訓練日数や招集への応召義務が多く、常時即応可能な戦力として位置づけられている。

この制度に任用されるのは、元自衛官で即応性の高い人材であり、部隊の一部として常備自衛官とほぼ同様の訓練や行動が求められる。非常時には優先的に動員されるため、平時からの緊密な連携と高い技能が期待されている。予備自衛官補制度は自衛隊未経験者を対象とした制度

一方、「予備自衛官補」は2001年に創設され、翌2002年度から陸上自衛隊で採用が始まった、自衛隊未経験の民間人を対象とする制度である。この制度は、将来の予備自衛官の母体を確保するために設けられたもので、常勤ではなく非常勤の特別職国家公務員として任用される。


年齢制限の緩和と背景

当初、予備自衛官補(一般)の応募資格は18歳以上34歳未満とされていたが、自衛官不足を背景に、2024年(令和6年)1月22日、防衛省は年齢上限を52歳未満にまで引き上げた。これは制度開始以来初めての大幅な緩和である。


訓練と任務の違い

予備自衛官補は「教育訓練に応じる義務」のみを持ち、有事の際に招集される義務はない。これは、即応予備自衛官や予備自衛官と異なる点である。

任用期間中に所定の訓練を修了すると、予備自衛官に任用される道が開かれる。訓練参加時には教育訓練招集手当が、予備自衛官任用後に防衛招集された場合には出頭手当が支給される。


階級・身分の取り扱い

予備自衛官補には階級は付与されず、訓練期間中は隊員の一員としてではなく、教育を受ける立場の職員として扱われる。ただし、国際法上は正規の戦闘員と見なされる地位を有し、有事の際には武力行使も許される。


2つの採用区分

予備自衛官補には、以下の2つの採用区分が存在する。

  1. 一般公募区分
     自衛隊未経験の一般人が対象で、駐屯地の警備や後方支援などを想定。3年間で計50日の教育訓練(射撃、野戦教練、隊列行進、自動小銃分解結合など)を受ける。

  2. 技能公募区分
     医師、看護師、語学者などの専門技能を持つ有資格者を対象。訓練内容は一般とほぼ同じだが、2年間で合計10日の短縮カリキュラムとなっている。

採用試験と難易度

採用試験は筆記試験身体検査で構成される。体力試験(腕立てや走力など)は課されない。筆記試験は、国語・数学・英語・社会・理科からバランスよく出題され、作文では「国の防衛に関する意見」などが問われる。難易度は、いわゆる「自衛官候補生」採用試験よりもやや高いとされている。


大学生からの志願者も多い

近年では、大学在学中に将来の幹部候補を目指して予備自衛官補に応募する学生も少なくなく、民間でのキャリアを持ちつつ、自衛隊に関心を持つ人材の入り口としても機能している。

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