陸上自衛隊 部隊訓練評価隊とは?
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陸上自衛隊 部隊訓練評価隊とは?

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引用元 朝雲新聞社 公式X @AsagumoNews52
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陸上自衛隊北富士駐屯地(山梨県忍野村)には、普通科部隊向けに“敵役”として模擬実戦環境を提供する専門部隊、「部隊訓練評価隊(Training Evaluation Unit・略称TEU)」が駐屯しています。

詳しく見ていきましょう。

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陸上自衛隊・部隊訓練評価隊(アグレッサー部隊)の概要

部隊訓練評価隊は、戦闘訓練において仮想敵部隊(Opposing Force=OPFOR)の役割を専門に担う精鋭部隊で、主に各普通科連隊の戦闘力を現実的に評価することを目的としており、通常の部隊とは異なる訓練体系と任務を持っています。

アグレッサー(仮想敵)部隊の役割とは

この「アグレッサー(仮想敵)」という概念は、第二次世界大戦後にアメリカ軍で発展しました。

とくに1970年代から1980年代にかけての冷戦期、アメリカ陸軍はソ連軍を想定した訓練環境を整備し、ソ連軍の戦術・装備・行動様式を忠実に模倣する「アグレッサー部隊」を各地の訓練センターに配置したのです。

米軍のOPFORと「ドノヴィア共和国」とは?
アメリカ軍における「OPFOR(Opposing Force)」は、演習や訓練において“仮想敵”として行動し、実戦さながらの戦術状況を再現するために設けられた専門部隊である。その中核が、カリフォルニア州フォート・アーウィンに設置された「国家...

フォートアーウィン陸軍訓練センター(NTC)などで行われた実戦的演習は、後にOPFORシステム」として体系化され、各国軍の訓練思想に強い影響を与えました。

陸上自衛隊の部隊訓練評価隊

陸上自衛隊の「部隊訓練評価隊」は、普通科などの戦闘部隊に対して実戦的な訓練機会を与えるために編成された「敵役専門の部隊」です。

2000年に編成され、富士学校の隷下にある“富士訓練センター”の中核として機能する部隊訓練評価隊ですが、その任務は、全国の普通科中隊に対し、明確な「敵役部隊」を演じることで、実戦に近い訓練環境を提供し、戦闘能力の水準を客観的・数値的に評価することにあります。

基本的にはアメリカ軍の“OPFOR(Opposing Force)”の考え方を取り入れており、実戦的な部隊対抗演習(FTX)や対抗戦訓練において「敵軍」として活動する。

ただし、陸上自衛隊の部隊訓練評価隊は、このOPFOR運用の思想を踏襲しつつも、特定国の戦術を模倣するものではなく、むしろ、自衛隊が保有する装備や地形・気候条件を踏まえ、あくまで「想定敵」として現実的な戦闘評価を行うことを目的としています。

北富士駐屯地や大演習場で実施される実動訓練では、評価隊が敵部隊として登場し、演習部隊の戦術判断・指揮統制能力を実戦的に検証します。

つまり、部隊訓練評価隊は「敵役を演じる」だけでなく、「部隊の実戦能力を可視化するための評価機構」として機能しており、日本の陸上戦術訓練の高度化を支える唯一の中核的存在なのです。

専用迷彩服・専用塗装車両の配備

引用元 https://www.mod.go.jp/gsdf/takigahara/hyoukasienn.html

訓練評価と敵役を同時に担う部隊訓練評価隊では、より実戦的な演習を可能にするため、専用迷彩服・専用塗装車両を配備しています。

組織構成と役割

  • 所在地:北富士駐屯地(山梨県)

    • この駐屯地に所在する「部隊訓練評価隊」は、他部隊が行う演習に対してアグレッサーとして出動し、戦術レベルから部隊行動までを評価する。

    • 部隊自体は、全国の訓練支援隊の中でも最も実戦志向が強い編制の一つ。

部隊訓練評価隊は北富士を拠点とする本隊と、静岡・滝ヶ原駐屯地の「評価支援隊」から成る。評価支援隊は実際のアグレッサー部隊として、専用迷彩服(3色迷彩)と専用車両を身にまとい、中隊規模の部隊を相手に実戦さながらの攻撃を仕掛けるのです。

また、TEU本部には統裁科や評価分析科が設置され、訓練後には「AAR(After Action Review)」と呼ばれる講評会を実施。参加部隊は、自部隊の装備・戦術の改善点を分析報告として受け取ります。

訓練方式と評価手法

安心してください。実戦さながらと言っても模擬は模擬。実弾は使わない空砲とレーザー光線による「バトラー戦」です。

交戦用訓練装置(バトラー:BATRA)」は実弾を使わず、レーザー光や受光センサで命中判定を行う訓練機材として自衛隊で運用されています。

陸上自衛隊の「バトラ戦」/バトラーを用いた訓練は、レーザー交戦装置+受光装置(隊員・車両装着)で被弾判定を行い、訓練結果を記録・分析する方式です。訓練では空包を使って発射音の演出を行うことが一般的に報じられています。

隊員の被弾をリアルタイムで計測し、モニタリングデータを元に詳細に評価される仕組みによって、実弾を用いずに命中判定や損害状況を高度に再現するのがバトラーシステムの特徴です。

部隊は年間約20回に及ぶ訓練を主催しており、2000年以降、約450回の訓練実績を記録している。攻撃部隊が防御陣を上回るという基準で訓練が行われる中、「防御側の勝利」は極めて稀で、全国屈指の強さを誇り“陸自最強”とも称されています。

また、TEUは米軍など他国軍との連携訓練にも参加しており、要員や装備が米陸軍戦闘訓練センターで連携訓練を行い、実戦に近い環境下での能力向上を図っています


■ 使用装備:バトラー(BATS:Battle Training System)

  • 構成:隊員が着用するベストに受光器、小銃に取り付けるレーザー照射装置などから構成。

  • 機能

    • 射撃時にレーザーを照射し、被弾判定が可能。

    • 被弾時はブザー音が鳴る。新型では液晶パネルにダメージ表示があり、よりリアルな訓練が可能。

    • 「ゾンビ行為(死んだはずの兵が動き続ける)」が不可能になる精度を備える。


■ 専用装備:迷彩服と車両

  • 対抗部隊用迷彩服(2009年頃より配備)

    • 通常の迷彩服とは異なり、旧式の迷彩服1型をベースに黄色みを加えた独特の配色

    • 他部隊と明確に区別するためのデザイン。

  • 専用車両

    • 通常の2色迷彩塗装(緑×黒)ではなく、3色塗装(緑×黒×茶)が施されている。

    • 遠目にもアグレッサー部隊とわかる特徴的なカラーリングで、戦場環境の識別を促進。


まとめ

部隊訓練評価隊は、「評価」が任務の主眼であり、単なる仮想敵ではありません。訓練後には参加部隊の行動や戦術の成果と課題を分析し、戦闘技術向上のためのフィードバックを行うまでが任務です。

つまり「戦って終わり」ではなく、「評価→改善提案→戦闘力向上」というサイクルを担っている点で、他の戦闘部隊と根本的に異なります。

部隊訓練評価隊は、北富士駐屯地を拠点に、リアルな交戦環境を提供することで部隊の「本当の強さ」を測る、自衛隊唯一の専門的評価部隊である。実戦を想定した訓練と継続的な分析で、全国の部隊の戦闘能力を底上げする非常に重要な存在だ。多くの先進国が採用するOPFOR概念を日本流に落とし込んだ形態であり、冷戦後の陸自の訓練スタイルの進化を象徴する部隊と言える。

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