航空救難団の任務と救難機

航空自衛隊に所属する「航空救難団」は、捜索救難の専門部隊として、航空機や船舶の遭難者救助、山岳地帯での救助活動、離島からの緊急患者搬送など、幅広い救難任務を担っています。その活動は24時間体制で行われ、災害派遣要請を受けると即座に出動し、人命救助にあたります。

24時間体制の精鋭救難部隊

航空救難団は、航空自衛隊の航空総隊に隷属し、全国の主要な航空自衛隊基地などに配置された10個の救難隊と4個のヘリコプター空輸隊を擁していますそのモットーは「That others may live(他を生かすために)」であり、創設以来、2,600人以上の命を救ってきました。

航空救難団は、これまで多くの災害派遣において、その高い技術と機動力を活かし、迅速な対応で人命救助に貢献してきましたが、本来の任務は有事の際、戦闘中に墜落した自衛隊機の乗員救助にあります。

かつて航空救難団の機体はすべて非武装でしたが、現在では任務の性質上の必要性から、一部機体に限り、ドアガンとして軽機関銃ミニミを搭載する措置がとられています。これは、より過酷な任務への対応力を高めるための限定的な武装と位置付けられています。

自衛隊の5.56mm機関銃MINIMIはFN M249 MINIMIを住友重機で国産化した装備品

航空救難団に配備される航空機

現在、航空救難団では救難ヘリコプターUH-60J、輸送および救難用のCH-47、さらに双発ジェット機U-125Aを配備しています。通常のサーチ&レスキューミッションでは、救難ヘリコプターUH-60Jや救難捜索機U-125Aがペアを組んで現場上空に飛来、任務を開始。

UH-60Jは、赤外線暗視装置や気象レーダーを搭載し、夜間や悪天候下でも安全に目標海域へ到達できる高い全天候能力を持つ双発ヘリコプターです一方、U-125Aは、捜索レーダーや赤外線暗視装置を装備し、遭難者の迅速な発見と援助物資の投下が可能な救難捜索機です

保有装備1:U-125A

U-125Aは、UH-60Jと連携して行動する小型の双発ジェット捜索機であり、通常は救難現場に真っ先に到着する役割を担っています。

前機種のMU-2は老巧化したため、空自では後継機としてU-125Aを導入。

特殊な装備を搭載している捜索救難機U-125A

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U-125Aには両サイドに設けられた大型捜索窓、捜索レーダー、赤外線暗視装置など極めて高度な装備が満載で、旧配備のMU-2より捜索能力の大幅な向上が図られた。

救援物資を空中投下するデモンストレーションを実施するU-125A。最大820km/hの速度を活かし、遭難現場へ真っ先に到着すると、必要に応じて救命糧食などの救援物資を空中投下することで、UH-60Jヘリコプター到着まで被災者・要救助者の命をつなぐ。

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照明弾、救命糧食、救命用品各種を海上に投下できる投下用ベイも装備。

老朽化したMU-2の後継機として航空自衛隊に導入されたU-125Aは、捜索救難任務専用に開発された機体です。両側に設けられた大型捜索窓をはじめ、捜索レーダー、赤外線暗視装置などの高度な装備を搭載し、MU-2と比べて大幅な能力向上が図られています。

最大速度820km/hという高速性能を活かし、U-125Aは被災地にいち早く到達。状況に応じて救命糧食や救援物資を空中投下し、UH-60Jが現場に到着するまでの間、被災者や要救助者の命をつなぎます。海上においては、照明弾、救命糧食、各種救命用品を投下できる専用ベイも装備されています。

不肖・宮嶋、再び。自衛隊レディース (イカロス・ムック)

不肖・宮嶋、再び。自衛隊レディース

なお、U-125Aの前任機がLR-1です。

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こちらは陸自のLR-1。機関銃も搭載可能とし、対地攻撃機への転用も可能であった陸自唯一の固定翼機偵察機。

航空自衛隊でも白と黄色の救難塗装で運用されていましたが、現在は全機が退役しています。


保有装備2:UH-60J & CH-47 ヘリコプター

UH-60Jは、陸・海・空すべての自衛隊で運用されている多用途ヘリコプターです。航空自衛隊では2008年度時点で39機を保有しており、従来は白と黄色のツートンカラーでしたが、現在では洋上迷彩を施した低視認性(ロービジ)塗装が採用されています。

このUH-60Jは、アメリカの全天候型救難ヘリ「HH-60A」を基にした航空自衛隊仕様です。大型輸送ヘリ「V-107」の後継機として導入され、赤外線暗視装置、気象レーダー、精密な慣性航法装置などを搭載。これにより悪天候下でも長距離飛行が可能となり、防空識別圏全域をカバーする広範囲での救難活動が可能です。

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操縦席後部の側面に張り出した球面風防(バブルウインドウ)は、見張り員が捜索で使用。ほか、機外燃料タンクの装備により、捜索範囲が広がった。

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低視認(ロービジ)塗装として洋上迷彩に施した機体。海上において敵航空機が上から同機を見ると海の模様に溶け込む迷彩効果を狙ったものだ。

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さらに最近では、一部の機体に自衛用の5.56mm機関銃MINIMIをドアガンとして搭載するなど、本来の「コンバット・レスキュー」部隊への回帰を進めている。
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また、航空救難団ではCH-47輸送用大型ヘリコプターを配備しており、飛行場のない離島のレーダーサイト等への迅速な輸送に使われる一方で、救難事案発生時には救難活動にも従事する。

機首の気象レーダー。

機体側面、操縦席後方には球面風防(バブルウインドウ)が設けられており、見張り員が捜索任務に使用します。さらに、外部燃料タンクの搭載により航続距離・捜索範囲の拡大が図られています。

洋上迷彩は、海上での活動時に上空から敵航空機によって視認されにくくすることを意図したもので、環境に溶け込む迷彩効果を発揮します。

近年では、一部の機体に5.56mm機関銃「MINIMI」をドアガンとして搭載し、戦闘下での救難任務=「コンバット・レスキュー」への対応力も強化されています。

さらに航空救難団は、CH-47大型輸送ヘリも配備。飛行場のない離島のレーダーサイトなどへの人員・物資の迅速な輸送、緊急時には救難任務にも投入されます。

航空救難団の救難員(メディック)とは

航空救難団に配属される救難員(メディック)は、その驚異的な技能と適応能力で広く知られ、彼らの存在は救援活動において欠かせません。救難員は極限の状況下でも迅速かつ正確に対応できる専門職として、多方面にわたる任務を担っています。

救難員は、基本的には「救急救命士」の資格を有し、現場での医療処置をはじめとする高度な救命措置を行います。UH-60J救難ヘリに搭乗し、捜索現場に到達した後、即座にロープ降下し、被災者の迅速な捜索と救助活動を開始します。これにより、他の部隊が到達する前に、命をつなぐ重要な役割を果たします。

救難員養成課程は、愛知県航空自衛隊小牧基地内に設置された「救難教育隊」において実施されます。この課程では、厳格な選抜基準と高度な訓練が要求され、訓練生は肉体的・技術的・精神的に鍛え上げられます。

基礎的な身体能力条件

分類 条件
腕立て伏せ 46回以上
背筋力 110kg以上
腹筋 45回以上
握力 50kg以上
50m走 7.3秒以内
300m走 62秒以内
1500m走 5分40秒以内
平泳ぎ100m 2分20秒以内
クロール100m 2分以内
横潜水 25m以上泳げること

しかし、これらの身体的な要件は、あくまで選抜基準の一部分に過ぎません。救難員はまた、心理的な強靭さと冷静な判断力、そして極限状況下での臨機応変な対応能力が求められます。命を救うという責任感を持ち続け、決して諦めない精神力が訓練を通じて養われます。

さらに、航空自衛隊員でありながら、陸上自衛隊の「空挺レンジャー課程」に参加し、厳しい空挺訓練を受けることも必須です。空挺レンジャー課程は、陸上自衛隊の第1空挺団員が修了する特殊部隊訓練であり、空中機動作戦や地上での迅速な展開、戦闘環境における生存技術を習得します。これにより、救難員はあらゆる環境下での活動に対応可能な能力を身につけます。

このように、航空救難団のメディックは、空中・海上・山岳といった厳しい環境下で迅速かつ的確な医療支援を提供するために、高度な肉体的能力、技術的知識、そして精神的な強靭さを兼ね備えた精鋭です。

陸上自衛隊第1空挺団は東京タワーの天辺と同じ高さを新幹線と同じ速度で飛ぶ輸送機から飛び出していた

航空救難団まとめ

防衛省では2021年、これまで3自衛隊で受け持っていた自衛隊機の事故が起きた際の捜索・救助任務を部隊運用の効率化を目的に、航空救難団に統合すると発表しています。

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