【特集】自衛官の胸元に光る「き章」と「防衛記念章」――それぞれの職務と技能の証

自衛官の制服に見られるさまざまな徽章(バッジ)は、単なる装飾ではなく、隊員の専門分野や習得した技能、さらには功績を表すものである。これらの徽章は、本人の経歴や経験を映し出す「鏡」と言っても過言ではない。

防衛記念章

防衛記念章は、自衛隊員がその任務や功績を顕彰されるために授与される勲章の一種である。具体的には、自衛隊の任務において一定の期間勤務したり、特定の事績をあげた隊員に対して、防衛省が授与するものである。

この記念章は、隊員の制服の胸元に装着され、個人の努力や貢献を示す象徴となっている。防衛記念章は、一般的に自衛隊の活動歴や勤続年数に応じたものがあり、長期にわたる勤務や特定の任務の完遂を認めるためのものだ。

また、防衛記念章は階級章や職種き章とは異なり、隊員の技術や職務を示すものではなく、功績や勤続を称える栄誉の記章である。すなわち、若い隊員は防衛記念章がまだ少なく、勤続年数の多い隊員は多くなる。

き章とは

自衛官が階級章とは別に胸や襟に装着するバッジには、大きく分けて「き章」と「防衛記念章」の2種類がある。「き章」は自衛官の職種や技能、特定の職務を表すもので、さらに襟に着ける「職種き章」と、胸に着ける「技能き章」に分類される。

職種き章

自衛隊の「職種」とは諸外国軍の「兵科」に相当する。陸上自衛隊には現在16の主要職種があり、それぞれに職種き章が制定されている。主に制服の襟に装着される。これは、外見から各隊員の所属と職務の性質を識別できるように設けられている。

陸上自衛隊 16職種き章の解説

職種名 意匠(図案)の特徴 意匠の意味・象徴性
普通科 小銃を交差させた図案 歩兵の基本戦闘を象徴。自衛隊の主力部隊。
需品科 鍵、ロート及び三日月を組み合わせた図案 糧食、燃料、需品器材、被服などの補給を担う。
高射特科 高射機関砲及び対空誘導弾の組み合わせ 防空任務の象徴。空からの脅威を迎撃。
機甲科 戦車の砲塔と天馬を模した図案 戦車部隊を象徴。重装備による地上戦の主力。
野戦特科 砲口、加農砲及びロケット弾を組み合わせたもの 砲による支援。
航空科 回転翼を中央に配した盾を中心に、その両側に翼の図案 ヘリコプターや連絡機などの航空任務を象徴。
通信科 稲妻及びのろしの図案 通信技術を象徴。作戦連絡の中枢。
施設科 城と架橋を形にした「E」字型図案 土木・工兵任務の象徴。橋梁構築・地雷処理なども含む。
武器科 火炎弾及びスパナにかぶとの組み合わせ 兵器の整備・管理・開発を象徴。
輸送科 トラックの車輪とウィングを模した図案 補給・後方支援・物資輸送の象徴。
化学科 フラスコに桜星の図案 NBC(核・生物・化学)防護の専門職種を象徴。
会計科 天秤と羽根ペンの組み合わせ 財務管理と物資調達を象徴。
警務科 警の文字を中心に配した旭光を中心の組み合わせ 自衛隊内の法務・犯罪捜査・風紀管理を象徴。
衛生科 アスクレピオスの杖(医神の杖) 医療活動・衛生管理を象徴。
音楽科 リラの下部に桜星を図案化 音楽任務・式典参加の象徴。
情報科 金鳥、日本刀、望遠鏡及び鍵を組み合わせた抽象図案 サイバー・偵察・情報戦の新時代的な任務を象徴。

※補足:

  • 「情報科」は比較的新しい職種で、旧来の「調査・分析」任務などから発展し、情報戦対応の専門職種として認定されている。

MOS(Military Occupational Specialty)

陸上自衛隊ではこうした職種き章とは別に、自衛官の技能を分類する独自の技能き章制度がある。それが「MOS(Military Occupational Specialty:軍事職業特技)」と呼ばれる陸自の制度だ。

MOSは、各隊員が所属する職種や任務に応じて付与されるもので、部内における公式な「特技区分」にあたる。たとえば、全隊員が基本的に取得する「軽火器(小銃)」のMOSや、らっぱの吹奏を専門とする「らっぱMOS」などがある。

MOSは、個々の隊員がどのような任務に就けるか、またどのような訓練を受けているかを明確に示す機能も果たしている。

陸上自衛隊の技能き章

技能き章は、各種課程教育を修了した隊員が胸に着けることを許される。たとえば、「レンジャー」「空挺」「不発弾処理」「航空管制」「スキー」などの課程を修了すると、それぞれの技能き章が授与される。これらは高度な訓練を要する専門技能を修得した証であり、隊員にとって名誉な印でもある。

陸自でも最も過酷なレンジャー訓練を耐え抜いた者だけに与えられるレンジャー徽章

レンジャーや空挺は付加特技というMOSの一つ。

「冬季遊撃き章」――極寒での戦闘技能を証明

陸上自衛隊において特に注目されるき章の一つが「冬季遊撃き章」である。これは、札幌市に所在する冬季戦技教育隊において厳しい教育課程を修了した者に与えられるもので、雪深い北海道のような積雪寒冷地における遊撃戦能力を習得した証である。

冬季遊撃き章

この課程では、零下の過酷な環境下での長距離スキー行軍、敵地浸透、装備運用、戦闘訓練などが行われる。陸上自衛隊の教育訓練に関する訓令(第53条第1項)に基づく技能検定において、陸上幕僚長が定める成績基準を上回った者のみが徽章の着用を許される。仮に冬季の北海道で武力紛争が発生した場合、同課程修了者は特殊部隊として最前線を担うことも想定されている。

スキーき章

航空自衛隊――空の任務に応じたき徽章

航空自衛隊でも、専門性に応じた徽章が整備されている。以下はその代表的な例である:

  • 航空徽章:航空機操縦に関する課程を修了した者に授与。

  • 航空医官徽章:航空環境に特化した医学的支援を行う医官に付与。

  • 不発弾処理徽章:地上の危険物処理技能を有する者。

  • 航空管制徽章/兵器管制徽章/高射管制徽章:航空作戦における各種の管制業務を担当する隊員に付与。

  • 航空学生徽章:航空学生課程在学中、または修了者が着用。

海上自衛隊――海と空に生きるき章

海上自衛隊においても、艦艇勤務や航空任務に対応した徽章が整備されている。たとえば:

  • 水上艦艇徽章:護衛艦など水上艦に配属され、一定期間の勤務経験と教育を修了した者が対象。

  • 潜水員徽章:潜水艦乗員としての任務を担う専門教育課程修了者に授与。

  • 航空医官徽章/潜水医官徽章:航空・潜水環境での衛生支援に特化した医官。

  • 特別警備隊徽章:海自の対テロ特殊部隊である「特別警備隊(SBU)」の課程を修了した者が着用。

  • 航空管制徽章/航空学生徽章:空自と同様、空中管制や航空任務に関連する徽章が存在する。

まとめ

また、服務指導准尉や営内班長など、特定の職責を示すためのき章も存在する。

き章、技能き章、防衛記念章。陸自のMOS。これらの徽章は単なる外観のシンボルではなく、3自衛隊における任務の高度さと専門性の証明であり、制服の胸に誇らしく光る隊員一人ひとりの努力と歴史を物語っている。

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