自衛隊体育学校――アスリートと体育指導者の育成機関

画像の引用元 自衛隊体育学校公式サイト

自衛隊体育学校は、陸海空の3自衛隊合同で運営される体育専門教育機関である。アスリートの育成と体育教官の養成を担い、体育に関する調査研究も併せて実施する重要な役割を果たしている。

体育に関する専門知識と技能の修得を目的とした教育訓練に加え、体育分野に関する調査・研究も重要な任務の一つである。

同校には専用のグラウンドや体育館、射撃場などが整備されており、競技環境は非常に充実している。また、近代五種競技に対応するため、馬術の訓練が行えるよう馬の飼育も行われている。

2007年にはスポーツ科学の観点から選手育成を支援するため、センサーなどの計測機器を用いた科学的トレーニングを導入する「スポーツ科学科」が新設された。

体育学校で教育が行われている種目は多岐にわたり、レスリング、ボクシング、射撃、競歩、競泳、ウエイトリフティング、近代五種などが含まれる。中でも、自衛官が特に強みを発揮しているのが「近代五種」である。

この競技は、射撃、フェンシング、水泳、馬術、ランニングの五種目を組み合わせた複合競技であり、軍事的な背景を色濃く持つことから「自衛隊のお家芸」とも称されている。

自衛隊体育学校には、この五種目すべてに対応した専用設備が整備されており、総合的かつ専門的な競技教育が可能となっている。馬術に関しても例外ではなく、校内で馬を飼育しながら実践的な訓練が日常的に行われている。

自衛隊体育学校 公式サイト https://www.mod.go.jp/gsdf/phy_s/pts02.html

1964年に開催された東京オリンピックにおいて、フェザー級ウェイトリフティングで三宅義信陸士長(当時3等陸曹)が金メダルを獲得し、自衛官として初のオリンピック金メダリストとなった。

選手としての競技人生を終えた者は、指導者として後進の育成に携わる道が用意されている。体育学校の教官や監督として活動するほか、一般部隊において勤務を継続することも可能である。

自衛隊体育学校の出身である小西ゆかり選手

自衛官は警察官と同様、職務上、銃器の扱いに精通しているため、ライフル射撃やピストル射撃においても高い実績を誇る選手を数多く輩出している。

警察で言うところの特練員である。

警察さんって射撃訓練で年間何十発くらい撃つんですかあ?

とくにライフル射撃競技は、アンシュッツ社製の高性能な競技用ライフルを使用し、スリングを用いて身体を厳密に固定したうえで、制限時間内にすべての弾を正確に撃ち込むという極めて精密かつ集中力を要求される種目である。

この競技は他者との競争というより、むしろ「自分自身との戦い」であり、心身の緊張と静寂の中でいかに平常心を保ち、技術を発揮できるかが問われる。自衛隊出身の射撃選手たちは、このような過酷な競技においても優れた成果を上げている。

MIL SPEC MAGAZINE(ミルスペック マガジン)vol.2 陸上自衛隊編 (ホビージャパンMOOK 283)

MIL SPEC MAGAZINE(ミルスペック マガジン)vol.2 陸上自衛隊編
(ホビージャパンMOOK 283) 4894258382 | ホビージャパン | 2009-03-31

自衛隊体育学校の出身である小西ゆかり選手は、2008年の全日本選手権女子25メートルピストル射撃において日本新記録を樹立し、優勝を果たした。その後、自衛隊を退官し、民間の道へ進んだが、待っていたのは極めて厳しい現実であった。

自衛官時代には、エアピストルの弾薬費はすべて税金でまかなわれており、本人の負担はなかった。だが、退官後は一発あたり約35円の弾丸をすべて自費で賄わねばならず、年間の活動費は150万円近くにのぼった。スポーツ関係の助成金や現役時代の貯蓄を切り崩しながら競技を続ける日々で、資金難から弾薬を節約するため「空撃ち」練習を取り入れざるをえなかった。

また、生計のため朝霞駐屯地近くのラーメン店でアルバイトを試みたが、海外遠征のため出勤できたのはわずか6回。極貧状態に陥ることもあったという。それでも彼女は競技を諦めず、射撃への情熱を持ち続けた。

その姿勢に心を打たれたのが、東京都内でタクシー業を営む飛鳥交通である。同社は小西選手を採用し、競技と仕事の両立が可能な環境を整えた。こうして彼女は再び、射撃に専念できる体制を手に入れることができた。

小西ゆかり選手の歩みは、逆境にあっても信念を捨てず、困難を乗り越えて夢に挑戦する姿の象徴である。その姿は、スポーツに限らず目標を追うすべての人にとって、大きな励ましとなっている。


体育学校の専用設備と競技種目

  • 施設:グラウンド、体育館、射撃場、馬術練習場。

  • 競技:レスリング、ボクシング、射撃、競歩、競泳、重量挙げ、近代五種などが教育対象。特に近代五種は、軍事技能が色濃く反映され、自衛隊の「お家芸」とも称されている。


スポーツ科学科の設立

2007年には、センサーや科学的計測機器を活用したトレーニングを行うスポーツ科学科が新設されており、科学的手法によるアスリート育成が進められている。


特別体育課程(特体生)制度

  • 採用経路:優秀な競技実績を持つ高校・大学卒業者は、体育特別技能者として採用試験を経て入校が可能。

  • 制度内容:「特体生」は競技に専念するため一般任務を免除され、一定成果が求められる。


歴史と功績

1962年開始以来、毎回オリンピック代表選手を輩出。2008年の東京オリンピックで三宅義信3曹が自衛隊所属で初めて金メダルを獲得した実績もある。


食事サポート(特体食)

自衛隊体育学校に所属する隊員のうち、特別体育課程に指定された「特体生」と呼ばれる者たちは、日常的に陸上自衛隊朝霞駐屯地内で食事をとっている。その食事には「特体食」と呼ばれる特別な献立が用意されており、競技活動に励むアスリートの身体づくりを支えるため、栄養バランスが綿密に考慮されている。

食事はセルフサービス形式となっており、一般の隊員向け食事と比べて一品多く提供される点も特徴である。これにより、トレーニングに必要なエネルギーと栄養素を十分に補える構成だ。

また、特体生専用の食堂「特体食堂」が設けられており、彼らの食生活を専門的に支える体制が整えられている。

特体生向けには高タンパク・低脂肪のセルフサービス食が提供され、通常メニューより品数が多く設定されている。栄養士監修の献立で競技パフォーマンス向上を図っているという。

【社食ニュース/動画】自衛隊体育学校を掲載開始しました


入校資格と見学案内

自衛隊体育学校への入校資格および課程について解説する。

同校では、将来的に国際大会やオリンピックを目指すアスリートの育成を目的としており、高卒者・大卒者それぞれに対応した入校ルートが設けられている。

高等学校卒業者の場合

まず、自衛隊への入隊が前提となる。入隊後は全員が新隊員教育を受けることとなり、その後、体育学校が実施する「特別体育課程集合訓練」に参加する機会が与えられる。この訓練において選考に通過すると、「特別体育課程学生」として4月から本格的なトレーニングを開始することができる。なお、入隊時に特別体育課程を志望する旨を明確に申し出る必要がある。

大学卒業者の場合

各種競技において顕著な実績を持つ者に対しては、「体育特別技能者」としての採用試験の受験資格が与えられる。この試験に合格すると、体育学校の特別体育課程に編入され、競技者としての訓練を受けることが可能となる。

また、特に優秀な競技者については、個別に自衛隊側からスカウトが行われるケースもあり、体育学校は常に将来有望な人材の発掘と育成に努めている。

見学が可能

また、自衛隊体育学校は事前予約制により施設見学を受け付けており、希望者は見学を通じて競技環境や選手育成の実情に触れることができる。見学可能な施設には、オリンピックで自衛隊選手が獲得したメダルなどを展示する広報展示室、レスリングおよびボクシング道場、射撃場、馬術訓練場などが含まれる。馬術場では実際に調教中のサラブレッドの姿を間近に見ることも可能である。

施設の所在地は東京都練馬区大泉学園町の自衛隊朝霞駐屯地内。見学時間は平日の午前10時から正午まで、または午後2時から4時までに限られている。

まとめ

体育学校は、単に競技者を育てる場であるのみならず、「体育を通じて平和な社会の推進に貢献する」という設立目的のもとで運営されている。

  • 自衛隊体育学校は競技力と体育指導力を両輪で磨く国家レベルの体育教育機関

  • オリンピック代表選手の輩出や、科学的トレーニング、高品質な食事サポートなど、多面的にアスリートを支える体制が整っている

  • 興味があれば、実際に施設を見学できる点も見逃せない。

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