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89式小銃の後継、ついに登場──20式5.56mm小銃とは何か
1989年に導入された89式小銃から31年が経過した2020年、防衛省はその後継となる新たな主力小銃「20式5.56mm小銃」の存在を公式に発表しました。20式小銃は2014年に研究が開始され、2020年度には陸上自衛隊において制式化されました。
さらに、2021年より正式な調達が始まっています。開発と製造を担当したのは、89式と同様に豊和工業株式会社です。豊和工業では、20式小銃を自社の技術力を集約した世界最高水準の小銃であると位置づけており、国産装備品の象徴たる存在となることを期待して、「HOWA 5.56」という名称を愛称として用いています。
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20式小銃の開発背景と設計思想
画像の引用元 航空自衛隊公式Xアカウント
陸上自衛隊の開発実験団は、20式小銃の開発にあたって複数の外国製小銃を参考にしました。具体的には、ロシアのAK-47、ベルギーのFN SCAR、オーストリアのSteyr AUG、ドイツのHeckler & Koch G36およびHK416といった、各国の先進的な小火器を保有しており、それらの性能や機能を比較研究することで、次期主力小銃の要件を定めていったのです。
20式小銃は、特にベルギーのFNハースタル社が製造するSCAR-L(Special Operations Forces Combat Assault Rifle – Light)をはじめとする近代的な小銃の影響を色濃く受けており、軽量かつ耐久性に優れたポリマー素材のストックや、全体的なシルエットにもその特徴が現れています。
現代戦に適した拡張性とモジュール設計
20式小銃の外観において特に目を引くのは、アッパーフレームおよびハンドガードの上面に等間隔で設置されたレールと、全体のフラットな構造です。これは、「ピカティニー・レール(Picatinny rail)」と呼ばれる国際規格に準拠しており、ダットサイト、スコープ、ナイトビジョンなどの各種光学照準器を必要に応じて簡易に装着することができます。
さらに、20式小銃にはアメリカのマグプル社が2014年に開発した新規格のレールシステム「M-LOK(Modular Lock)」も搭載されています。M-LOKは、ハンドガードの下面および左右の両面に設けられており、フラッシュライトやIRレーザー(赤外線照準器)などの装備を装着することが可能です。
加えて、ブルッガー&トーメ社製のバイポッド兼用グリップの取り付けにも対応しており、射撃安定性の向上が図られています。また、20式の正式化と同時に新たに導入されたベレッタ社製のグレネードランチャー「GLX 160 A1」も、ハンドガード下面に装着することができます。
出典 https://www.hyperdouraku.com/colum/type20rifle/index.html
https://japan-indepth.jp/?p=52127
操作系統の進化と「ア・タ・レ」の継承
操作性に関しても、20式小銃は89式から大きな進化を遂げています。具体的には、セレクターレバー(発射モード切替レバー)が左右のどちらからでも操作可能な「アンビタイプ(Ambidextrous)」となっており、右利き・左利きの隊員を問わず迅速な操作が可能です。これは、右構えを前提としていた89式小銃とは対照的であり、現代の閉所戦闘や都市戦闘におけるニーズに対応したものです。
89式小銃は、右構えでの使用を前提に設計されており、左手親指を支えるためのサムレストがグリップ左側に設置され、頬付けしやすいように右側へ湾曲(キャストオフ)したストック、匍匐射撃時に地面との干渉を避けるため右側面に配置されたセレクターレバーなど、随所に右利き専用の設計思想が見て取れます。左側にもレバーが備えられてはいましたが、限られた状況での操作に留まっていました。
89式小銃は右構えで撃つことを前提としてデザインされている。グリップ左に付いたサムレスト、右構えで頬付けしやすいように湾曲(キャストオフ)したストック、そして匍匐した際に地面にこすれて切り替わらないように右面に付けられた切り替え軸などだ。左面セレクターこそ装備したものの、昨今の閉所戦闘や都市戦闘でのニーズから言えば両構え、両側操作が小銃の標準仕様になりつつある。
実際に、89式小銃は右構えが基本であることに起因して、イラク派遣の際には任務遂行に支障が出る可能性が懸念され、セレクターレバーを左右両側に設けた特別仕様が配備されたという経緯もあります。このような実戦経験や隊員の声を踏まえ、豊和工業は20式小銃においてこの問題点を克服したと考えられます。
また、89式に搭載されていた「3点制限点射(3発バースト)」機能は、構造を複雑にする要因ともなっていたため、20式では廃止されました。
ところで、セレクターレバーといえば、89式に刻まれていた「ア・タ・レ」という独特の表示も話題となっていました。この「ア・タ・レ」とは、それぞれ「安全(ア)」・「単発(タ)」・「連発(レ)」の頭文字をカタカナで表記したもので、命中祈願の意味が込められているとも言われています。自衛隊の装備品という厳格な文脈において、こうした遊び心ある刻印がなされているのは、64式小銃以来の伝統といえるでしょう。

画像の出典 USA Military Channel
報道によると、この「ア・タ・レ」は20式小銃にも引き継がれており、左右両側面にしっかりと刻まれていることが確認されています。
銃剣装着機能と互換性
20式小銃には、銃剣を装着するためのハードポイントである「バヨネットラグ」が装備されています。ただし、20式専用の新型銃剣は現時点で開発されておらず、89式小銃に使用されている「89式多用途銃剣」がそのまま使用される予定です。
調達計画と配備優先部隊について
20式小銃は、最終的に約15万丁の調達が計画されています。この数字は、かつての89式小銃の配備数とほぼ同等ですが、完全な配備完了にはやはりおよそ30年を要する見込みです。
出典 https://japan-indepth.jp/?p=52127
2020年度には約9億円の予算を用いておよそ3,000丁が調達され、2021年度から部隊配備が始まりました。特に注目すべきは、どの部隊に優先的に配備されるかという点です。

画像の出典 USA Military Channel
20式小銃は、当面は陸上自衛隊の精鋭部隊に優先的に配備される予定であり、とりわけ水陸機動団がその筆頭となっています。水機団は、敵に占拠された離島に対して水路から潜入し、奪還作戦を遂行することを任務とする部隊です。
20式小銃の設計思想は、当初からこのような「離島防衛」を想定しており、海水による腐食を防ぐための特殊処理や、高い排水性能を備えています。つまり、陸上自衛隊の中でも特に水陸両用作戦に対応する能力が求められる水陸機動団こそが、この新型小銃を真に必要とする部隊であるといえるでしょう。
なお、令和7年度(2025年度)の調達計画によれば、航空自衛隊は2,702丁、海上自衛隊は205丁の導入を予定しており、陸上自衛隊以外の部隊への配備も順次進められていく見通しです。
画像の出典 ANNnewsCH 陸自30年ぶり新型小銃 引き金近くに「ア・タ・レ」(20/05/18)