航空自衛隊基地等の警備を担う『基地警備隊』および『基地警備教導隊』とは

航空自衛隊の基地警備隊と基地警備教導隊、彼らこそ空自ベースの“影の守護者”というところだろう。彼らの主な仕事は基地や施設の警備だが、陸自の特殊作戦群や海自の特別警備隊のように、高度に秘匿化された部隊というわけではない。

だが、この基地警備教導隊こそが実質的に特殊部隊に匹敵する部隊として認識されている。というのも、近年の軍事組織では、閉所戦闘技術が重要視されている中で、基地警備隊の教育訓練を担当する教導隊は、実質的に陸海の特殊部隊のような性質を持っているからだ。

この『基地警備隊』および『基地警備教導隊』を詳しく見ていこう。

航空自衛隊には、正式な特殊部隊は存在しないが……

陸海と違って、役割の違いから航空自衛隊に特殊部隊は編制されていない。しかし、空自基地の警備や教育訓練を担当する基地警備教導隊は、空自切っての陸戦精鋭部隊だ。

空自基地に配備されている基地警備隊は、平時の警備を担当し、いざという時には空自の重要施設を守る役割も担う即応部隊として運用されるのだ。もちろん、テロやゲリラ攻撃など、予測不能な事態に備えて訓練が行われている。

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を契機に、空自も自基地の警備強化を痛感。特に基地警備教導隊は、2014年には航空総隊直轄部隊から新たに編成され、航空戦術教導団の下に置かれることになった。このような背景からも、基地警備隊は単なる施設警備にとどまらず、空自の防衛における重要な役割を担っていると言える。

編成年度 所属部隊等 主な任務 備考
基地警備隊 2001年以前 各航空自衛隊基地 基地および関連施設の警備 各基地ごとに編制・配備
基地警備教導隊 2014年8月1日 航空戦術教導団 基地警備隊への教育、有事対応 航空自衛隊で最も高い陸戦能力を有する部隊と見られる

航空自衛隊の“重要施設”とは

基本的に、3自衛隊には数多くの重要施設が存在するが、航空自衛隊の中でも特に重要なのは「レーダーサイト」である。これらは防空識別圏を越えて侵入してくる敵機を監視し、早期警戒を行うほか、周辺諸国の無線通信をも傍受しているシギント施設であり、まさに日本の防空網の“目”と“耳”を担っている。

自衛隊さん、無線などからシギント (Signals Intelligence:SIGINT)してしまう

【極秘任務】航空自衛隊のレーダーサイト、“敵の無線”を黙って収集中

つまり、これらの施設は敵の特殊部隊に“真っ先に”狙われやすい。特に、レーダーサイトは人里離れた山頂や、場合によっては人口の少ない離島に設置されることが多い。これらの施設は、ゲリラ戦や不正規戦を行う特殊部隊にとって、まさに狙い目なのだ。

警備は万全か

では、こうしたレーダーサイトの警備は万全なのだろうか?実際、警備体制には一抹の不安が残る。現在、航空自衛隊の基地警備には専従の基地警備隊が配置されており、さらに通信や整備の要員も警備当番として参加している。

しかし、これは警備以外の任務を持つ者たちの“副任務”であり、本来の業務に支障をきたす恐れがある。

また、装備面でも課題がある。航空自衛隊には軽装甲機動車と呼ばれる陸自と同型の車両は存在するが、装甲や防弾ガラスが小銃程度の防御力しかなく、戦車のような、より強固な戦闘車両は配備されず、またそれを目的とした陸自部隊の常駐もない。こうした装備で本当に重要施設を守れるのか疑問の声もある。

ただし、レーダーサイトや分屯基地の警備には陸上自衛隊の普通科小銃一個小隊が警備にあたる場合もある。しかし、これが常態化しているわけではない。ましてや、ゲリラや特殊部隊の襲撃を想定した場合、警備体制が完全とは言い切れないのが現状だ。

陸自との「クロスサービス」とは

結局、航空自衛隊の基地警備は非常に重要な任務を担っているにも関わらず、装備面や人員配置には課題が多い。ここで近年登場したのが、陸自との「クロスサービス」である。

クロスサービスとは陸自、海自、空自の間で、必要な人員を他の部隊から補充するという、陸海空の垣根を超えた人員提供を意味するもので、現在防衛省で調整が進められている。

これは、陸自の部隊が空自や海自の地上施設警備に加わるというもので、今後、航空自衛隊のレーダーサイトやその他重要施設の警備体制は、これらの部隊がサポートする形で強化される予定だ。しかし、これもまだ検討段階に過ぎない。

特に、特殊部隊並みの警備を実現するためには、今後さらに強化が必要と見られる。ゲリラ戦や特殊部隊の襲撃に備えるため、これからの対応強化が期待されるところだ。

基地警備隊/基地警備教導隊に配備される装備品

基地警備隊や教導隊の装備品として、9mm拳銃9mm機関拳銃、64式小銃、MINIMI軽機関銃などが公表されている。

9mm機関けん銃が『ゴミ』と呼ばれる理由は?

だが、陸上自衛隊で主流となっており、海上自衛隊の陸警隊にも新規配備が進んでいる89式小銃は、航空自衛隊では実戦部隊への導入例がない。教導隊のような精鋭部隊でさえ89式の配備例は見られず、装備更新の面では後れを取っていると考えられていた。

しかし、近年では陸自が先行配備した「20式小銃」をついに空自でも導入。89式を飛び越え、待望の新型装備品の配備となった。

画像の引用元 航空自衛隊公式Xアカウント

以前の主流であった64式小銃にはドットサイトとフォアグリップが装着され、近接戦闘(CQB)に特化した仕様となっている。これは、従来の小銃運用とは異なり、建物突入や屋内制圧といった戦術行動を想定した装備構成と言える。20式小銃ではフォアグリップが元から標準化されており、各種オプションの取り付けが容易である。

基地警備隊の訓練は一般に公開されることもあり、その様子から彼らの即応性や戦闘能力の高さがうかがえる。

新型デジタル迷彩作業服を着用した隊員たちは、実戦的な突入訓練を行っており、警察特殊部隊SATなどでも採用されている器材『ドアブリーチャー』を用いて建物への突入を行う。

ただし、陸自で運用されているM24対人狙撃銃といった長距離射撃用の火器については配備されていない様子である。狙撃手に特化した装備体系は、航空自衛隊において未整備である可能性が高い。

陸上自衛隊のM24対人狙撃銃

防弾装備については、88式鉄帽(アラミド繊維製ヘルメット)を使用し、これに航空自衛隊独自の迷彩パターンが施された鉄板入り防弾チョッキが加わる。防弾盾はOD(オリーブドラブ)一色に塗装されたものが確認されており、主に突入時や近接戦闘において使用されている。

総じて、航空自衛隊の基地警備隊および教導隊は、外見上こそ他の自衛隊に比して控えめに見えるかもしれないが、その装備と訓練内容は近接戦闘に重きを置いたものであり、単なる施設警備にとどまらない実戦的な部隊編成であるといえる。一方で、小銃の近代化や狙撃火器の配備といった点に関しては、今後の装備更新が望まれる分野である。

また、不審者を取り押さえるために、主に警察官が使用している「さすまた」までもが航空自衛隊の基地警備隊に配備されている。非殺傷装備としての側面を持ち、緊急時の対人制圧において有効な手段とされている。

基地警備教導隊の隊員から指導を受ける基地警備隊員たちは、CQB(近接戦闘)のような狭隘空間における戦闘を想定して訓練されている。これに対応する装備として、小銃やけん銃に加え、防弾楯、ドア・ブリーチャー(ドア破壊器具)の一種であるバッテリングラムなどが配備され、このような戦術的背景に基づくものであり、極めて合理的である。

「エントリーツール」とも呼ばれるドア打破器具には多種多様なバリエーションが存在する。たとえば、アメリカの警察特殊部隊SWATでは、ショットガンを用いてドアの蝶番を破壊し、迅速に突入する方法が実施されている。

このように、基地警備隊の主武装は64式小銃、9mm拳銃、そして9mm機関拳銃であり、陸上自衛隊の普通科で運用されているような対戦車火器は装備されていない。これは、基地警備隊の主要任務が「セキュリティ」にあるためであり、建物内やその周辺といった限定された空間での戦闘を想定した装備体系となっている。

また、航空自衛隊には「警備犬」と呼ばれる警備用犬種が配備されている。すべての警備犬がドイツ・シェパードであり、これらは本来ドイツ国内で牧羊犬として用いられていた犬種である。忠実かつ素直である一方、警戒心も強く、人間の良きパートナーとして古くから信頼されてきた。軍用犬としても高い適性を持ち、現在では世界各国で救助活動や警備任務に従事している。

任務をともに遂行する、頼もしき“相棒”たち――自衛隊の警備犬の知られざる関係

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