陸上自衛隊高等工科学校と旧·少年工科学校の違い

陸上自衛隊高等工科学校について

陸上自衛隊には附設機関として、15歳以上の未成年男子を対象とした3年制の教育機関「陸上自衛隊高等工科学校」が設けられています。この学校は、神奈川県横須賀市にある陸上自衛隊武山駐屯地に所在しています。

陸上自衛隊高等工科学校の概要

同校では、一般的な普通科高校と同様の教育を行う「一般教育」、将来の自衛官として必要な専門的技術を学ぶ「専門教育」、そして陸曹候補者として必要な防衛教養や各種訓練を行う「防衛基礎学」の三つを柱とした教育を実施しています。

つまり、陸上自衛隊高等工科学校は「工学エンジニアの自衛官候補者」を養成するための学校であり、「将来の幹部自衛官」を直接養成するための学校ではありません。この点で、旧・陸軍幼年学校とは異なる性格を持っています。ただし、試験結果や本人の希望、適性および成績に応じて、ヘリコプターのパイロットや幹部自衛官への道が開かれる場合もあります。

項目 内容
所属 陸上自衛隊附設の教育機関
目的 エンジニア(技術者)養成
性別 女子生徒の募集なし
進路 卒業のみで幹部進学は不可

なお、現行制度では、自衛隊に18歳未満の女子が入隊することは認められていません。そのため、自衛官の身分を有さない高等工科学校生徒であっても、女子の入学は認められていない状況です。

前身であった陸上自衛隊少年工科学校と消えた階級「三士」について

陸上自衛隊高等工科学校の前身は「陸上自衛隊少年工科学校」でありました。当時の少年工科学校生徒は「自衛隊生徒」と呼ばれ、正規の自衛官として任用されていた点が、現在の高等工科学校生徒との大きな違いとなっています。

制服については、通常の陸士の制服に準じたデザインでありながら、えんじ色のネクタイを着用するのが特徴でした。また、両襟には陸曹候補者徽章(甲)を着用していた点も特筆されます。

彼らには正式な自衛官の証として、「三士」という階級が与えられていました。この三士階級は生徒のみに限定されたものではありませんでしたが、実質的には少年工科学校生徒にのみ与えられていたと言えます。

自衛隊生徒制度が消滅した背景

自衛隊生徒制度が廃止された背景には、国際的な動向が関係しています。2000年5月、国連総会で「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利条約の選択議定書」が採択され、日本も2004年5月に国会で承認・批准しました。これに伴い、18歳未満の自衛隊生徒の任用に関する規則改正が行われ、少年工科学校は「高等工科学校」へと名称変更されました。同時に、生徒の身分も「自衛官」から「防衛省職員」に改められたのです。

現在の男子高等工科学校生徒の日常

現在の高等工科学校生徒は自衛官ではなく、定数外の自衛隊員という扱いとなっています。階級も与えられていません。しかし、寮生活は厳しく、二段ベッドが三つ並んだ6人部屋で共同生活を送り、正規自衛官の部隊教育に匹敵する厳しい訓練と指導を受け、心身を鍛えています。

日課は、朝6時(休日は7時)に起床し、整列点呼を行った後、朝食を取り、授業や訓練に励みます。消灯は22時30分(休日前は23時)と定められており、その生活スタイルは自衛官候補生とほぼ同様です。もちろん、週休二日制が導入されています。

私物の持ち込みは最低限に制限されており、「趣味のもの」は原則持ち込むことができません。髪型にも自由はありませんが、校内の理髪店ではスポーツ刈りや角刈り、オシャレボウズなど複数のスタイルが選べるため、様々な坊主頭を楽しむことができます。

売店では菓子やアイスクリーム、飲み物などが販売されており、ドーナツの出張販売が行われることもあり、生徒たちに人気です。部隊のPX(売店)ほどではありませんが、厚生設備も充実していると言えます。

高等工科学校のメリットについて

高等工科学校は非常に厳しい教育環境で知られていますが、それ以上に多くのメリットも備えています。

  • 高卒資格が取得できる
    高等工科学校は、公立の通信制高校と提携しており、在学中に高校課程を修了することで高等学校卒業資格を得ることができます。

  • 安定した収入
    生徒手当として月額94,900円が支給され、さらに年2回のボーナスも支給されます。

  • 国家公務員としての身分保障
    高等工科学校生徒は、特別職国家公務員としての身分が与えられており、各種保障を受けることができます。

  • 生活費の負担が少ない
    宿舎、食費、被服類、寝具などは無料支給または貸与となり、経済的負担が非常に軽減されます。

  • 医療費も無料
    自衛隊病院を無料で利用できるため、健康面のサポートも万全です。

高等工科学校生徒の給与事情

過去の陸上自衛隊生徒(三等陸士)の初任給は152,100円でしたが、現在の高等工科学校生徒に支給される生徒手当は月額102,500円(令和元年1月1日現在)です。ただし、共済組合掛金(保険料)などが控除されるため、実際の手取り額は約90,000円程度になります。なお、生徒によるアルバイトは禁止されています。

高等工科学校の制服

かつての少年工科学校時代には、陸上自衛隊の91式制服に臙脂色のネクタイを着用していましたが、現在の高等工科学校では、紺色の詰襟型制服が採用されています。

銃器訓練について

第1学年では小銃訓練は行われず、第2学年から段階的に64式小銃を使用した訓練が始まります。

高等工科学校と高校野球

高等工科学校に入校すると、同時に神奈川県立横浜修悠館高校にも入学し、自衛隊員と高校生という二重の立場を持つことになります。この制度により、高等工科学校生徒も横浜修悠館高校の野球部員として、高校野球に出場することが可能です。限られた練習時間ながらも、2013年には第58回全国高校軟式野球選手権大会で横浜修悠館高校が初優勝を果たしました(横浜修悠館3―2新田)。

(出典:スポニチ記事

高等工科学校卒業後の進路

高等工科学校を卒業した生徒の進路は次のとおりです。

  • 陸上自衛隊への進路
    卒業生の約90%は、陸上自衛隊の陸士長に任用されます。彼らは陸曹候補者として、1年間の基礎教育を受けた後、3等陸曹に昇任します。その後、幹部候補への道や、操縦課程試験を経てパイロットとなる道も開かれています。

  • 他部隊・他機関への進路
    陸上自衛隊以外にも、防衛大学校や航空学生(航空・海上自衛隊)への進学・転属の機会も用意されています。

なお、高等工科学校を卒業しただけで、無試験で幹部候補生学校や防衛大学校へ進めるわけではありません。あくまで本人の努力と試験によって進路が決まります。

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