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ロシア特殊作戦軍がグロックやHKを使う目的が酷い

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Photo by greydynamics.com

スペツナズおよび正規軍の中から選抜された志願兵たちは、極限状態を想定した訓練課程で徹底的にふるいにかけられる。

その試練を生き残った者のみが、ロシア軍が誇る戦略特殊作戦軍SSO(KSSO)の一員として任命される。

ロシア軍は通常、国産装備への依存が強い。しかしSSOは例外的に任務に最適な装備を選択できる裁量を持つと報じられており、結果として「ロシア軍の中の異端」と呼ばれることもある。

ロシア特殊作戦軍SSO(KSSO)とは何か

SSO(KSSO)は2013年に創設されたロシア国防省直属の特殊部隊で、対テロ、要人救出、海外工作、戦略拠点の奪取などを任務とする。なお、スペツナズは姉妹組織である。

構成はGRU(参謀本部情報総局)系統の精鋭であり、装備や訓練は他のロシア軍部隊よりも柔軟性と即応性を重視しているとされる。

新兵は、任務の性質に応じて五つの専門訓練学校へ送られる。そこでは、パラシュート降下、登山、潜水、市街地戦闘、要人警護といった多領域の訓練が課される。

これらの課程を修めた隊員は、クリミアやシリア、さらには北コーカサスの反乱鎮圧といった複雑な戦場に投入されてきた。

多様な環境で実戦任務を遂行してきた実績こそが、KSSOの高度な適応力を裏づけている。

西側製拳銃を携えるロシア特殊部隊兵士の写真が話題に

ウクライナ戦線の映像やSNS投稿から、Glock 17やHK USP、SIG P226など西側製拳銃を携帯したロシア兵の姿が確認されている。

実際の使用事例と報道例

  • 2016年以降のシリア作戦において、SSOの兵士がGlock 17を装備していたとする映像。

  • 2022年のウクライナ侵攻初期、マリウポリ周辺でHK USPを携行したSSO隊員が撮影され、SNSで話題となった。

  • 露国防省発表の映像でも、明らかに西側製アクセサリ(Aimpoint、EOTech、Crye Precision製プレートキャリアなど)が確認されている。

これらの装備は、通常のロシア陸軍や空挺軍の制式拳銃(MP443「グラッチ」やPMなど)とは明らかに異なり、西側装備の導入経緯に関心が集まっている

ジャーナリズム調査や軍需監視団体の報告では、EUの輸出禁止や対ロシア制裁があっても、2022年以降に数千丁単位のGlockがロシアに輸入あるいは流入した痕跡が確認されたとする報道・調査が複数ある。

参照:「制裁にもかかわらず、過去2年間にロシアに輸入されたオーストリアのグロック拳銃数千丁 インサイダー 2024年5月15日

これは正規流通(正規代理店経由)だけでなく、第三国経由やブローカー、闇市場を通した流通、あるいは一部の卸売業者経由の流入を示唆している。

西側製装備導入の理由

ではなぜ、彼らは西側諸国の武器を使うのか。

GREYdynamicsの記事や、複数のOSINT機関の分析によれば、SSOがGlockやH&Kなどの西側製拳銃を採用する背景には、意外な目的があるという。

それは「自らがロシア軍であることを秘匿するため」だ。

参照:The KSSO: Russia’s Special Operations Command by GREYdynamics.com 

銃だけではない。米軍の配備する迷彩服「マルチカム」を着用する場合もある。

単なる性能面だけでなく「所属の秘匿」という戦術的意図があるとされるのだ。

ロシア軍特有の装備を避けることで、現地での行動を第三者から識別されにくくする「所属の秘匿」という戦術的な狙いがあるという。

これにより、第三者からの視認・分析時に“どこの軍隊か”を即座に特定されにくくする狙いがある。

違法か?

無論、ロシア軍がグロックを使うこと自体が国際法に違法するということではない。ロシア軍が、米軍の迷彩服を着て、自国の所属を偽装する行為がグレーなのである。

結論から言うと、ジュネーヴ諸条約附属書第1追加議定書第37条(1977年)では、「敵を欺くために、戦闘時に敵の制服や標章を使用すること」は「背信行為(perfidy)」として禁止されているからだ。

リトルグリーンメン事件

2014年2月から3月にかけて、ウクライナ南部・クリミア半島において、識別章なし・国籍表示なしの緑の迷彩服を着用した多数の武装兵士が主要施設を迅速に制圧した。

ウクライナでの政変(いわゆるユーロマイダン)を受けて、ロシアはクリミア自治共和国の支配強化に動いた。ロシア連邦軍あるいはその関連部隊と考えられる武装集団が、地元親ロシア派の「自警団」を装い、空港、軍基地、自治議会などを次々と封鎖・掌握していった。

この兵士たちは、ウクライナ語で「リトル・グリーンメン(Little Green Men/小さな緑の人々)」と呼ばれ、やがて国際的にもその名称で定着した。

侵攻時点では「ロシア軍ではない」「地元の自警団が武器を奪っただけ」とロシア当局が主張していた。だが数週間後にロシア大統領がロシア軍の関与を認めた。

「リトル・グリーンメン」事件は、従来型の国際軍事紛争とは異なる「ハイブリッド戦争」「グレーゾーン戦略」の典型例と国際社会に分析された。

国家が直接正規軍介入を否認しつつ、実質的な軍事行動を行うことで、国際的な責任追及を回避しようとする戦略である。

この観点から、彼らの行動は「特殊部隊の正規戦闘行為」と「密接に関連しながら、形式上は否認可能な軍事介入」とのあいまいな領域に位置していると見られる。

特殊部隊であっても国際法は遵守しなければならない

しかし、特殊部隊は非公然活動が前提で秘匿性が高いとはいえ、敵国や第三国の軍服・装備を用いて「自軍の身元を偽装する」行為は、国際人道法(ジュネーヴ諸条約)において基本的に違法とされている

ただし、現実の特殊部隊の運用では「グレーゾーン領域」は当然存在しうるものであり、各国の解釈に差があるのが実情だ。

ロシア特殊部隊SSOも、装備の片隅に小さなロシア識別章を着用している様だが、とってつけたようなものである。

一方で、戦闘行為に入る前の段階(潜入・偵察など)で敵国の装備や服を使用すること自体は、諸国の特殊作戦で現実に行われてきたケースもあり、「違法とは断定できないが、捕まればスパイ扱い」とされる。

米軍の特殊部隊(例:Delta Force, SEAL Team Six, CIA/SADなど)も、過去に中東やアフガニスタンなどで現地の服装や敵勢力の装備を偽装に使用した事例がある。

しかし、米軍は「交戦時に米国の身分を明示すること」を厳格に義務づけており、戦闘に入る直前にはアメリカ軍の標識・装備に切り替えるというルールを持つ。

ロシア兵の士気にはどの様に影響するのか?

では、ロシア製ではない外国の武器を使うことで、ロシア特殊部隊員の士気にどの様に影響があるのだろうか。

ロシア製拳銃(MP443「グラッチ」など)は近代的かつ堅牢だが、作動の滑らかさや精度で西側製に劣るという声もある。

そのため、「トラブルの少ないグロックを持っている」という安心感は実戦で大きな心理的効果をもたらすといえる。

戦場心理的には「信頼性の高い装備」は士気を底上げするものだ

命を預ける装備への信頼感は、特に特殊部隊の士気に直結するものだ。この意味では、スイス製=高品質の象徴であり、戦場では士気に良い影響を与えると考えられる。

SSOやFSBアルファ、スペツナズなどの精鋭部隊は、装備選択の自由を許されるのが定説だ。そのような環境でスイス製SIGやオーストリア製Glockを携行することは、

  • 「自分たちは一般部隊とは違う」というエリート意識

  • 「世界水準の装備を持つプロフェッショナル」という誇り

につながる傾向がある。とくにSIGやGlockはNATO諸国の特殊部隊や法執行機関でも採用実績があるため、「敵側も使っている高品質な装備を自分たちも運用している」という対等・優越の感覚を得やすい。

これは明らかに士気を高める要素になりえるだろう。

逆に、一般兵士や伝統派の将校層にとっては「違和感」や「警戒」を招く可能性もある。

ロシア軍文化には「国産装備こそが国家の誇り」という思想が根強くあるためだ。特に旧ソ連以来の軍人にとって、西側製装備は「敵の技術に依存する」ことへの心理的抵抗「自国産を信頼しないのか」という批判的視線を呼ぶ場合も往々にしてある。

したがって、兵士個人の士気というより、組織文化との摩擦が生じるリスクがあり、上層部や保守派の士官には快く思われないこともあるだろう。

まとめ「偽装でした」

ロシア特殊作戦軍(SSO)がグロック17、HK USP、SIG P226など西側製拳銃を携行しているのは、単なる利便性や性能面の理由ではない。

OSINT分析や現地映像の比較検証によって浮かび上がったのは、国家としての関与を否認するための「意図的な偽装」であった。

西側の拳銃がロシア兵の腰に提げられている光景は所属を特定されにくくなり、作戦の責任を曖昧にすることが可能となる。

これは戦術や装備の多様化を示すのではなく、むしろ、情報戦の領域である。

―結論は明白である。ロシアが西側の武器を使うのは、偽装でした。


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